ハサウェイがアムロやシャアに影響される前に機械オタクになった世界線のお話 作:陸奥九十九
はい、ナラティブ編は山も谷も無く1話で終わります。
書くべきかなあ?飛ばしてもいい気がするなあ?でもゾルタン様出したしヨナ君にせめてもの救いを与えたいなあ?
そんな感じで書きました。楽しんでいただけると嬉しいです。
ユニコーンにまつわる一連の事件の真相は、公にされることなく闇に葬られた。
反連邦勢力による騒動と、ジオン残党軍の武装蜂起、それらが運悪く連鎖的に発生した。ことの顛末はそのように位置づけられた。
0096の争乱、第二次ラプラス事件。宇宙世紀0001に起きたラプラス事件と紐づけるようにして、宇宙世紀0100を前にした騒動として世に流布された。
真実は、極一部の者たちだけに共有され、その落とし前もまた、秘密裏に処理された。
一連の騒動の原因であるビスト財団は、当主代理であったマーサ・ビスト・カーバインを罷免、新当主にアルベルト・ビストを据えて、ビスト財団は大部分の権力を剥奪された。
まずアナハイム役員としての席を没収、それに伴う地球連邦への窓口も無くなった。ビスト財団は、その掲げていた大義名分である、美術品の移送業務に従事することになった。
これによってアナハイムに存在していた裏帳簿も、その多くが明らかにされ、闇に回る予算も凍結、アナハイムを私的に活用していた大物たちも、その一部が摘発されることになった。
第二次ラプラス事件は、おおよそビスト財団の凋落と同義であると世界は認識した。
そんな中で、ビスト財団に新しい部署が設立された。秘密にされたものではないが、その存在は知る者は多くは無かった。センセーショナルなスキャンダルばかりに世間が注目した、という側面もあるのだろうが。
その部署の名は、ビスト技術開発研究所。
この部署はある種の独立部署であり、在籍人員もたった2人。割り当てられた予算は極めて少なく、さながら大学生のバイト代のような状況であった。
活動目的としては、新技術の開発、新商品の開発である。
在籍メンバーの名前は、バナージ・B・リンクス、そして、ハサウェイ・ノア。
※
サイコミュ技術と言う奴は、かれこれ20年近く研究されているはずなのに未だに未確認の事象が多く、さらに言えば軍事機密な部分も多いので、現段階でもっても実用的な技術では無いと思う。
ファンネル、サイコフレーム、ユニコーン、ネオジオング、全部さわってきて、ある程度の理解を持っているとは思うが、極まった部分に関してはなぜそうなるかの解明が殆ど済んでいない。いや、おおよその推論は立てられるのだが、それを検証できない。出来る環境が用意できないし、出来たとしても少なくとも僕はやりたくない。なぜなら面倒くさいから。少なくとも今回の件に関してはそう思った。
「本当に、訳の分からないマシンだったな……」
メガラニカには秘密工場のような場所がある。
それは当初ユニコーンを開発するにあたって使用されていた工場であり、モニタリング設備だった。
その工場で、黄金色のユニコーン3号機、フェネクスは、バラバラになって、今まさに解体保存されようとしていた。
ラプラス事件が終わってすぐ、僕もバナージも含め、事件に関わったメンバーが緊急招集された。
目的は、ユニコーン3号機フェネクス、その捕獲と、パイロットの保護だった。
当初は疑問が大きかった。何故僕とバナージ?しかもパイロットとして任務に参加してもらうかもしれない、との要請がフロンタルさんとガバナンさんから来たのだ。
正直、ユニコーンはかなり特殊なマシンだし、その性能は折り紙付きではある。が、2個小隊で問題なく対処できる性能だし、親衛隊が出張るのであればフロンタルさん込みの4機で問題なく処理できる。
にもかかわらず、団体での軍事行動の経験が極めて少ない、一応民間人の僕やバナージにまでお声が掛かった。
何かあるな、とはその時点で察していた。
ブリーフィングルームに行くと、見慣れた親衛隊やガランシェールの面々の他に、如何にもな雰囲気を漂わせた人たちがいた。
明らかに高そうな服に身を包んだ女性と、それを警護補佐するような雰囲気の男性、そして、連邦軍士官の制服に身を包んだ男性と、黒服の人たち。
アンジェロさんがブリーフィングをはじめ、この任務は彼らからの要請により、アナハイムからも委託を受けて遂行される特殊任務だと知らされた。
ルオ商会。彼らは地球の香港に拠点を置くシンジケートであり、またマフィアとしての一面も持つ裏社会の集団なのだと後で聞かされた。
彼らの欲することは、起動試験中に暴走、脱走した、ユニコーン3号機フェネクスの捕獲、またそのパイロット、リタ・ベルナルの保護である。
ルオ商会はサイコミュ技術にいたく感心があり、特にサイコフレーム関連での技術を手に入れたいと考えていた。そんな時にフェネクス暴走の事件を知り、未だ騒乱の最中にある連邦やアナハイムを助ける形をとって、今回の一件に嚙んで来たのだという。
予算やら装備やらをルオ商会が準備したこともあって、今回の任務はルオ商会が主導で行い、その補助としてフロンタルさんたちにお声が掛かった、ということらしい。
そして最重要として挙げられた点は、フェネクスはおよそ5か月の間、無補給で宇宙をさまよい続けている、という点だった。
思わず声が出た。
0095の12月末にフェネクスが暴走し逃亡、ルオ商会がその情報を掴んだのが0096の2月、0096の4月からラプラス事件に巻き込まれて解決したのが5月、そして今は5月の下旬だ。
フェネクスについて、連邦軍にもビスト財団にもアナハイムにも、表向きには詳細な情報は残っていなかったが、ルオ商会はフェネクスの詳細はユニコーン計画を主導したビスト財団、そして連邦との繋がりを独自に深めていた当主代理であるマーサ・ビスト・カーバインが把握していると推測した。
そしてマーサ・ビスト・カーバインがラプラス事件に掛かりきりになっている4月の内にビスト財団へハッキングを仕掛け、秘匿されたデータを入手し、フェネクスの所在を把握。捕獲のためにチームを編成し、今に至る、ということらしい。
マーサ・ビスト・カーバイン暗躍しすぎじゃない?どんだけ色んな事に首突っ込んでるんだ?というかビスト財団のデータを秘密裏に入手って、それってバナージの前で言って良いの?一応バナージも関係者なんだけど?まあ、本人気にして無さそうだからいいけども。
大前提として、モビルスーツに積載されている食料などは1週間どころか3日分も存在しない。そもそもノーマルスーツの排せつ物の処理機能などもそう大したものではないし、モビルスーツは母艦がある前提で運用されるものであって、モビルスーツ単独での長時間任務はあり得ないという思想で設計されている。
その為、5か月もの間、無補給で活動することは不可能だ。生存することだって難しい。
ユニコーンの暴走は確かに実体験として経験した。でも、それもパイロットであるバナージが意識を失った時点で暴走は収束したし、長時間任務でパイロットが気絶すればマシンの暴走も止まるはずだ。
その後目が覚めれば母艦か、最寄りのコロニーへ移動するはずだし、それさえ難しいのなら国際救難信号を発して救助を待つはずだ。
連邦がフェネクスの機動実験に際して、とうに閉鎖されたティターンズ時代のニュータイプ研究所の強化人間をパイロットに起用したことは聞いた。その結果なのかは知らないが、パイロットのリタ・ベルナルさんが極めて高いニュータイプ能力を保持していたことも。
だから連邦に戻っても真っ当な扱いはあり得ないと悟ったベルナルさんは、連邦の基地への帰還を避けて、どこか拠点となる反連邦勢力やらジオン残党軍やらに身を寄せているのかと思った。
しかし、アナハイムの情報網を駆使してさえ、フェネクスのようなモビルスーツが単独でもってコロニー、ないしはアナハイムが関わった宇宙施設へ立ち寄った記録は一つとして残っていなかった。
無論ネオジオンも、ジオン共和国も、そしてアデナウアーさんが確認できる範囲の連邦の情報にも記録は無かった。
そこで最初の疑問から推測が立った。
フェネクスは補給さえ必要とせずに、5か月もの間宇宙遊泳をし続けているのではないか、と。
「で、どうなんだ?」
「うーん……荒唐無稽なこと言っても良いですか?」
「サイコミュ関連は大体荒唐無稽だ。言ってみろ」
「推進剤なしにマシンを動かすのは、出来ないとは思いません。常にサイコフィールドを制御して一定方向に斥力を発生させ続けることが出来れば、宇宙空間なら移動は可能です。理論上は」
「お前やバナージなら、ユニコーンやバンシィで同じことが?」
「無理です。脳みそが焼き付きます。ネオジオングほどの出力があれば極短時間なら出来るかもしれませんけど、それも理論上は不可能じゃないというレベルの話です」
「パイロットに関してはどうだろう?何か想像できるか?」
「そう、ですね……例えば、ミノフスキー粒子は極小で、かつ斥力を発生させる特性を持つ特殊な物質です。旧世紀に不可能だった核融合での熱保存技術はミノフスキー粒子ありきのものですし、ミノフスキークラフトによる重力下で大質量の物体を浮遊させることができるのもミノフスキー粒子のおかげです。その、核融合の熱さえ通さない、その上斥力さえ発生させることができる物質なら……」
人体を、文字通りそのまま保存することもできるんじゃないでしょうか?
フッと、誰かが息を呑んだ。
「……人体を構成するすべての物質を、ミノフスキー粒子で保存して、か?……待て、だが補給はどうする?人形を保存するわけじゃない。モビルスーツを操縦するパイロットを保存したとしても、水や食料なしに長く続くとは思えない」
「例えば、本当に推論に推論を重ねてになりますけど、冬眠する動物は、ため込んだエネルギーを消費しながら長い冬を眠って乗り越えるらしいじゃないですか。同じように、自分の体を食いつぶしながら生きながらえてるんじゃないでしょうか?蓄えた脂肪とか筋肉を燃やしながら、その、自分の肉体を食いつぶすまで動けるようになってしまった、みたいな」
「しかし、人類は野生生物のように冬眠できる機構を持ってはない。極低温環境で絶食状態で睡眠についたとしても、1ヶ月もすれば腐敗を……ああ、なるほど、だからミノフスキー粒子なのか。ホルマリン漬けのようにして、人体をミノフスキー粒子で固めることで、肉体の劣化を遅らせたと」
「です。それに、ユニコーンの系譜は、パイロットのニュータイプ能力が高い程、マシンとパイロットの境界線が非常に曖昧になる傾向があります。マシンに呑まれるとか、サイコミュに呑まれるとか。そういう状況で、パイロットの意識がマシンの側に移って、パイロットの肉体が無用の存在だと誤認したときに、普通なら踏み込まない領域に踏み込んでしまうことも、あるんじゃないでしょうか?」
「……確かに、NT-Dが発動しているときは、ユニコーンが自分の肉体になったような感覚があった」
え?まってバナージ、それ聞いてない。こわ。
「……キュアロン中尉、成人女性の基礎代謝量はどの程度だったかな?」
「1,000kcal程度でしょうか?軍人ならもう少し高いかもしれませんが。」
「ざっくりと重量で換算して、120gくらいかな?」
「多めに見積もって150g程度でしょうか?リタ・ベルナルの体重記録は45kg程度なので、単純計算でジャスト半量、22.5kg程度でしょうか?」
「ええーっと、0.15kg×30日×5か月=22.5kgか。45kg-22.5kg=22.5kgだから……まずいですね」
「早急にフェネクスを捕獲し、パイロットを救助する必要がある。ハサウェイ、バナージ、捕獲後の救助策を考えておけ。サイコフィールドを張って人体を維持させる必要があるのかどうかも含めてだ。確か、サイコシェードで遊んでいただろう。準備しておけ」
「了解です。レウルーラに積み込んでおきます。バナージ、ユニコーンとのコネクターってどうなってる?」
「大丈夫、出来てるよ」
「流石」
「では諸君、そういうことだ。準備出来次第レウルーラを出す。ルオ商会が特殊装備でもって先行強襲、頭を抑えマリーダ中尉がクシャトリヤにて制圧。フェネクスの機動力を削るために私とアンジェロ、セルジ少尉で遊撃を務める。後詰めは格闘要員としてユニコーン、包囲網を敷くにあたってガランシェールのモビルスーツ部隊、基本の布陣はこれで当たる。ハサウェイ君はフェネクス回収後の対応を頼む。キュアロン中尉が手伝ってくれる。作戦は以上だが、何か質問は?……よし、では諸君、よろしく頼む」
作戦の戦闘行動自体は何事も無く終わった。と言うか過剰戦力過ぎた。
最初のひと当てでほぼ包囲網は完成し、クシャトリヤが頭を抑え、ルオ商会が持ち出したサイコキャプチャーによってフェネクスは動きを止め、速力に勝るシナンジュが動きを潰し、ユニコーンが発するサイコフィールドでもって、フェネクスの捕獲は完了した。
レウルーラに戻ってからはサイコシェードで作ったサイコフィールド内にフェネクスを封印し、サイコシェードをユニコーンで管理することによって、フェネクス内のサイコフィールドを補完したまま、パイロットの救助作業が行えるようになった。
あとはサイコフィールドの調整でもってパイロットの存在を固定しその後サイコフィールドを解除、残骸の中から回収してあったネオジオングのサイコミュジャック機構を使用してフェネクスからパイロットを解放、パイロット救助後は念のためにフェネクスを解体して任務は完了、の予定だった。
パイロットのサイコフィールドからの解放が全くと言っていいほど上手くいかず、結局この作業に2日もかかった。
結果としてパイロットは無事に救出できたしフェネクスの解体もつつがなく進んだので良かったが、本当に面倒だった。
どうして上手く行っていないのかよく分からなかったし、何より解放したはずのサイコフィールドをマシン側が戻そう戻そうと何重にもプロテクトをかけ続けたのだ。それを開放してフェネクスの機能をロックして、今度はこっちのサイコフィールドを中和しようとしたりして、最後の方は疲労からくるものなのか幻聴まで聞こえ始めてちょっと怖すぎた。
何だよ鳥になりたいって。動物でなりたいものは普通ヒグマやろがい。
それにしてもサイコミュは本当に面倒くさい。
フェネクス1機をどうこうするために、僕とバナージと、フロンタルさんにキュアロンさんが2日間解体作業に付きっ切りになって、サイコフィールドを維持させるためにユニコーンとバンシィとその他サイコフレームを搭載したモビルスーツをかき集めて、さらにサイコシェードを使ってマリーダさんとロニさんがサイコフィールドを発生させ続けて、やっとこさパイロットの解放が終わった。
うん、危険性に対してコストパフォーマンスが余りにも合ってない。なんでユニコーンを解体するのにユニコーンが2機以上必要になってるんだよ。
これが傑作機ジェガンを作り出したアナハイムの姿か?本当に?迷走しすぎじゃないのか?
変な怪物マシン作り出すより、エコーズが使ってたロトみたいに核融合炉の小型化とか、小型化した後で高出力化とか、いい加減全部のモビルスーツの操作系を統一規格化させるとか、古いモビルスーツの改修案とか、やることいっぱいあるんじゃないか?
「ああ、本当に疲れた……」
徹夜なんてやるべきじゃないと本当に思う。脳が軋むというか、キュッと締め付けられるというか、それでいてフワフワしていて覚束ないというか、本当に変な感じになってる。
フロンタルさんとキュアロンさんは全然大丈夫そうにしてたけど、軍人さんって超人すぎないか?同じ人類とは思えない。アンジェロさんとセルジさんは2人の仕事を全部肩代わりして働き続けてるらしいし、マリーダさんとロニさんも通常業務に戻るらしい。
おかしい、とても同じ人類とは思えない。軍人さんってやっぱ怖い……。
仮眠室で先に爆睡こいてるバナージが酷く愛おしく思える。そうだ、人間ってこういうものだよ。バナージ、バーンさんと結婚してもそのままの君でいて……ネオジオンの軍人さんはちょっと鉄人過ぎて怖い……。
ニュータイプ能力があったので一緒に手伝ってくれたヨナさんも疲労困憊で救出したベルナルさんの病室でうとうとしてるらしいし、連邦軍のパイロットの中にもこう、普通の人っているんだなと安心する。
いや、ヨナさんもヨナさんで一人でばちばちフェネクスのこと追い回して、捕獲後はサイコフィールドのプロテクションを破りまくってたから比較的普通じゃないんだけど。
ひと段落着いたし、シャワー浴びて寝ようかな?いや、終わるまで張り付いてた方が良いかな?……何か起きると怖いし、もうちょっと見ておくか。
袋に詰まったチョコを温くなったコーヒーで流し込んでると、ふとモニタールームのドアが開いた。
そこにいたのは、ルオ商会の方々だった。お嬢様と執事さんと、護衛の黒服さん、的な。
「少しいいかしら?」
「えっと、はい。何でしょう?」
確か、ミシェル・ルオさん、だっけ?
「フェネクスの解体お疲れ様。あなたが居なければ、きっとこの任務は遂行しえなかったでしょうね」
「はあ……」
話しの意図が掴めず、思わず生返事を返すと、ルオさんは目を細めて続けた。
「フェネクスのことについて、いえサイコミュについて、貴方に聞かせてほしい。リタを取り込んだフェネクスは、命という枠組みから解放されたと思う?」
「……はい?」
「……率直に聞きましょう。リタのあの状況は、ある種の不老不死に近しい状況だったと思っているわ。サイコミュなら、フェネクスなら、不老不死の存在を人工的に生み出すことはできると思う?」
「……あの、もしかしてだいぶお疲れです?」
いかん、もしかしたら彼女らは疲れすぎて変な思考回路になっているのかもしれない。
「お願い、教えて。私たちは、それを求めている」
「えぇ……?」
本気じゃないと思うけど、結構真剣な感じに見える。
いや、時の権力者は得てして不老不死を求めるものだ。秦の始皇帝とかそうだった気がする。もしかして、ルオ商会のお得意様の中で、メカとかサイコミュとか全然知らない偉い人が「あんなわけ分からん力なら不老不死行けんじゃね?」ってルオ商会に無理言ってるのかもしれない。
それを断り切れず、とりあえず聞いとこ、でもアナハイムとかの本職さんに聞いても鼻で笑われるし、ちょっと詳しい学生とかに聞いて「やっぱダメっぽいです」って結論だけ欲してるのかも。
うん、それなら納得できる。
それにしても、働くって大変だな……特に無茶な顧客とかがいると特にそうなんだろう……憐れルオさん、頑張って。
「まあ、無理ですよね。うん、不老不死は無理だと思います」
ルオさんたちが思わず息を呑んだように見えた。うん、まずは結論。大丈夫、ちゃんと無理な理由も話しますよ。
「知っての通りですけど、今回5か月間放浪したベルナルさんの肉体はかなり消耗してました。救出時で体重20キロ前半、生きているのが奇跡と言える程度には。1か月後だったら助からなかったと思います」
「でも、肉体そのものを失っても、マシンやサイコフレームに意識を残すことができるのなら、それは肉体からの脱却に他ならないのではなくて?」
「どうなんでしょう?でも、肉体が限界を迎えて、例えば魂や意識だけになって、それだけになっても生きていると認識できるんでしょうか?他ならぬ、自分自身が」
ニュータイプ能力の本質は感応力にあると思う。言わずとも分かる、なんとなく理解できる、そんなテレパシーのしょぼい版みたいな能力。サイコフレームはそれを分かりやすく現象化させるシステムだ。ファンネル、インテンションオートマチック、NT-D。それらはミノフスキー粒子に阻まれない無線誘導システムだ。そしてそれはニュータイプ能力が高ければ高い程、サイコフレームは現実にその能力を反映させる。
未だシステムとして完成されていないはずの、ミノフスキー粒子の斥力の推力転化さえ、サイコフレームは実現させた。
先のネオジオングもそうだし、もしかしたら僕がアクシズを砕いたときもそうだったのかもしれない。
でも、人間は所詮人間のままだ。機械でどれだけハードウェアを高性能化しても、人間のソフトウェアは数千年、いや数万年前から大きく変わっていない。
「今回のフェネクスの暴走も、あくまでパイロットのベルナルさんが、恐ろしい環境からの逃走を心で願って、それを感じ取ったNT-Dが勝手に実行してしまったんだと思います。そしてベルナルさんはNT-Dの感応現象に耐えきれず気絶、その後昏睡状態に陥って、NT-Dは最後のオーダーを実行し続けた。ヨナさんがフェネクスにベルナルさんの意識を感じたって言ってましたけど、多分それは感情や思念の残滓のようなものだと思います。もしもマシンの中でベルナルさんが死んでしまったとしても、NT-Dは変わらずマシンを動かし続けたんじゃないでしょうか?」
まあ、実証のしようがないので想像ですけど。
ミルクと砂糖がたっぷり入ったコーヒーを飲んで一息つく。
そうだ、死んだ人間の意識は、別にサイコフレームがなくても残り続ける。その死んだ人間が、強いニュータイプ能力を持っているなら尚更。
3年前、僕が感じたララァ・スンのイメージは、そしてシャア・アズナブルの記憶は、恐らく幻覚でも何でもなく事実なんだろう。確認したくもないが。
「それに、バナージ、ユニコーンのパイロットも相当強力なニュータイプ能力を持ってますけど、NT-Dが暴走したときにパイロットを気絶させたら、普通にNT-Dも止まりました。今回フェネクスがあれほど暴走し続けられたのは、間違いなくベルナルさんの桁外れのニュータイプ能力が原因だと思います。どの程度かは分かりませんけど、もしかしたらアムロさんとかシャア、総帥レベルの能力かもしれませんね」
「……彼女は子供の頃、シドニーに落ちるコロニーを予言したわ」
「ああーー……マジですか?」
もはやそれはニュータイプ能力じゃなく予知能力なんじゃないか?別次元なんじゃ?
シミュレーターとかで調子がいい時に数舜先が見えるとか、組み手の時に次の動きが読めるとかその程度はあるけど、何時間後とか何日後とかの未来は見たことないな。
「じゃあ、やっぱり無理じゃないですかね、不老不死。少なくともユニコーン系に乗れば誰もが意識を永遠にマシンに残しておけるとか、そんな便利な機能は無いですよ」
うん、間違いない、じゃあ、閉廷。
「……なら、貴方なら、その機能を作り出すことはできる?影の英雄、地球を救った、ハサウェイ・ノアなら」
チョコレートに手を伸ばすと、そんなことを言われた。
「……はい?」
影の英雄って何?あと地球も特に救ってないですけど?
「アナハイムから聞いたわ。現状最もサイコミュシステムに深い造詣を持つものは、他ならぬ貴方だと。そして、貴方もまた並外れたニュータイプ能力を持つと。あなたなら、サイコミュシステムを用いて、人類を新たなる領域に……」
「無理ですって」
言葉を遮りながらチョコを口に放り込む。あ、美味しい。中に砕いたナッツが入ってるやつだ。これ当たり。
「サイコミュシステムは、不可能を可能に変える奇跡の聖杯じゃなくて、普通の工業機械です。それも使い勝手が非常に悪くて、汎用化さえされていない欠陥が伴ったシステムです。その分高性能ですけど。何か凄そうな、それこそ理解しがたい現象が起こったとしても、それは将来全て理論を伴って解析される事象だと思います。そして、人の魂だとか精神だとか、そういうのをどうこうする機械じゃそもそもないですよ。サイコミュは」
口の中で溶けるチョコを、さらにコーヒーで溶かして流し込む。あぁ、チョコだけじゃなくてナッツの香りもして美味しい。これ大好き。というかこのチョコ美味しいな、どこのやつだろう?
「あと、これは完全にただの持論ですけど、人にはちょうどいい塩梅ってものがあると思いますよ」
「……塩梅?」
「はい、不老不死とか、奇跡とか、そういうのは人の領分を超えたものだと思います。そういうのじゃなくて、今日食べるご飯が美味しいとか、布団が温かくて心地いいとか、着てる服がカッコよくて快適だとか、そういう分かりやすい部分をより良くするのとかが、人の領分に相応しいんじゃないでしょうか?」
そんなあたりで納得して欲しい。とりあえず思いつく範囲で無理な理由も言い切ったし、これで見知らぬ誰かも納得してくれるんじゃないだろうか?
あ、今度はドライストロベリーが入ったやつだ。あっま。甘い分コーヒーも美味しい。
「そんなの……っ!」
「申し訳ないが、そういった話はあとにしてもらえないだろか?」
声に振り返ると、そこにはフロンタルさんとアンジェロさん、それにジンネマンさんとカークスさんもいた。
「あ、お疲れ様です。」
「ああ、ハサウェイ君もな。一人にしてすまなかった。あとのモニタリングはこちらで受け持とう。フェネクスに特に異変は?」
「無いです。サイコミュモニターの反応もどんどん弱まってるので、解体も順調だと思います」
「ありがとう。君も仮眠を取り給え。元気があるならシャワーもな」
「あ、了解です。じゃあ、お先に」
部屋を出ようとすると、アンジェロさんに脇を強めにつかれた。
もっと警戒心を持てとのこと、……なんで?
※
ヨナ・バシュタの人生は、失い続けるものだった。
親を失って、故郷を失って、幼馴染を失って、そして幼馴染に裏切られて。
良いことなんてひとつも無かった。ほんの少しの幸福は、覆しがたい程の大きな絶望で塗りつぶされた。
多くを望んだつもりはなかった。
望んだものは、平穏な生活と、優しい世界。ミシェルと、リタと一緒に、平和な世界で静かに生きたかった。
でも、その願いは叶わなかった。
ニュータイプの研究材料にされ、人とも思えない扱いを受け続けた。痛みと苦しみと、それに耐え続ける冷たい時間と。
死ぬことは恐ろしかった。苦痛の中で絶望して、人ではない何かに成り下がって朽ち果てる。最後は廃棄物として処分される。そんな未来が怖かった。
ミシェルとリタを失うことが怖かった。それは恐ろしい死よりも恐ろしかった。きっと、自分の命を犠牲に二人が助かるのなら、俺はその道を迷わずに選んだと思うほど、遺されるのが怖かった。
でも、連れていかれたのは俺じゃなかった。
あの笑顔を、あの悲愴を、忘れることなんてできなかった。
ニュータイプ研究所の、あの廊下で、慟哭しながらリタを見送った。あの時のリタの笑顔が、絶望が、ずっと脳裏に焼き付いていた。
思い出すのはいつだって悲しい記憶ばかりだった。
希望と絶望のバランスはいつだってとれてなくて、記憶のアルバムは苦痛と後悔で溢れていた。
何もかも取りこぼして生きてきた。何もかも失いながら生きてきた。
生きてきて、良いことなんてひとつも無かった。
でも、いま握るこの手のぬくもりは、間違いなんかじゃない。
やせ細って、骨と皮ばかりになった彼女の手は、それでも今ここに、確かに存在しているのだから。
無機質な機械音が病室に響く。メディカルマシンたちは、確かに彼女の生存を証明してくれていた。
ふと、彼女の手が、微かに俺の手を握り返した。
「っ!」
その掌を優しく、あらゆる思いを込めて、確かに握り返す。
彼女の目が微かに震え、その瞳が開かれる。
身を乗り出して、彼女を見つめる。
彼女と、視線が交錯する。
「……ョ……ナ……?」
「……リタ、リタ……っ!」
生まれてきて、良かったことなんてなかった。きっと、神様なんてこの世界にはいないと思ってた。
でも、今だけは感謝してやってもいい。今だけは信じてやってもいい。
悲しくも無いはずなのに溢れ出る涙が、この世に存在しているんだと、その時初めて知ることができた。
握る掌、その温かさ。
神はいる、そう思った。
読了ありがとうございました!
次回はいい加減バイクか車を書きたい。でも閃ハサに入る前に消化させたいフラグが多すぎてどうしたものかと悩んでます。
あと本編に全然関係ないけどブライトさんとかミライさんとかチェーミンとかも書きたい。無自覚ブラコンチェーミンさんの構想があるけども、書いた後何処かでつなげられるか?そんな技量ないぞ?と、イメージが纏まらずにいます。
とりあえず話を進めるための構想を練ります。頑張れよ、明日以降の私!
いつも誤字の報告ありがとうございます。
また感想、高評価もありがとうございます。ああ、私の書いたもので喜んでいただけてる、嬉しい……としみじみ噛みしめております。
引き続き感想、高評価いただけると嬉しいです。