ハサウェイがアムロやシャアに影響される前に機械オタクになった世界線のお話   作:陸奥九十九

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イエーイ、やっと車を出すことができたぜフゥーーー!
でも車走ってないぜフゥーーー!……なんでや?

ちょっと説明臭い回になってる気がします。何故だ?空白期を書くことをあれほど楽しみにしていたのに、ちょっと筆が鈍い自分がいる。

楽しんでいただければ嬉しいです。


美しき者たちへ ポルシェ935

地球の環境保全に際して、宇宙世紀0098に大いなるブレイクスルーが起こった。

 

ミノフスキーネットシステム。

アナハイム・エレクトロニクス、ヤシマ重工、ブッホ・コンツェルンがトリオを組んで開発した新技術である。

 

サイコミュシステムでもってミノフスキー粒子の網を作り、その網でもって海洋汚染の主たる原因の重金属、また海中に沈没したモビルスーツや戦艦、コロニーの残骸などを回収するシステム及び計画である。

 

実証実験が0096末にオーストラリアのシドニー湾で始まり、その際には特殊な回収船が用意された。武骨な白一色に塗られたその船は、不格好なモビルアーマーのような外見だったが、しかして凄まじい性能を誇っていた。

 

海中の汚染物質等を大量に回収した後でも、問題なく動けるようにと、最新鋭のミノフスキークラフトが搭載され、無人機かつ外部操作が可能なシステムが組み込まれ、さらに動力源には、旧式となったモビルスーツの核融合炉が複数搭載された。

 

1年戦争からグリプス戦役の間に作成されたモビルスーツたちは、その多くが完全な旧式となっていた。

ジム系統は改修に改修を重ねジムIIIとして前線で使用されていたが、アップデートプランを持たないジオン系統のモビルスーツや、改修するための費用が嵩むボロボロのジム系統のモビルスーツに関しては、スクラップ扱いで回収されることが殆どだった。

 

何よりもジオン系統でさえジオニックなのかツィマッドなのかで基礎設計からして違うし、無論ジオンと連邦とでの設計も違う。さらに言えば一年戦争以降も改修を重ね続けたジムは、年式によって内部構造が違うのだ。それらに対して細かくアップデートを考えるより、いっそスクラップにしてマテリアルに戻してから作り直した方が面倒がなかった。

 

そこに新たな視点を編み出したのが、海洋汚染物質回収用特殊船にも採用された、ジェネレーター改修計画である。

 

この計画によって、ジェネレーターそのものに後付けのアタッチメントユニットを接続することで、胴体部分のみを外付けのジェネレーター化することを可能にした。

 

これは、宇宙世紀0090以降には既に廃れていたコアブロック技術から再度着想を得て、とある研究者がガンダムタイプの試作モビルスーツを参考に、ジム系統にはマシン設計の時点では存在したが、その後量産に不向きとしてスポイルされたこの技術を再利用することから発明された。

 

このアタッチメントユニットの開発が、意外にも各分野にて重宝されることになった。

 

宇宙空間や被災地での簡易的なエネルギー補給拠点の作成、、輸送船の追加動力としての活用、地球においては、過疎化しエネルギーインフラが老朽化した地方での生活利用など、様々な面での注文が殺到した。

 

重量にしてわずか数トン、サイズにしても3メートル四方のスペースさえ確保できれば、小さな地方都市の数週間分のエネルギーを確保できる。しかも空輸が可能で、一緒に補充用のヘリウム3も輸送できれば、数か月分のエネルギーさえ賄うことができる。

しかもレンタルコストもそう高額ではない。アナハイム、ヤシマ、ブッホは、「これはある種のインフラ設備だと思っている」とコメントし、地球と宇宙に関係なく、特に貧困に近いカテゴリーほどこの技術を歓迎した。

 

また、3社は合同でもって、地球に残るモビルスーツの残骸回収事業、その残骸から核融合炉をリビルトする事業を始めることで、一年戦争以降の戦争からくる負の遺産を、新たなる産業事業として転換させた。

 

特に直接的な戦争被害にあった地域は、戦争によって破壊された地域復興もままならず、もはや朽ち果てるばかりか、テロリストや革命勢力といった、安かろう悪かろうの人間さえ受け入れなくては立ち行かない状況だったが、この事業によって、戦争痕跡を金銭に変えることができた。

 

そしてそこで直された核融合炉は、地球の環境保全やエネルギーインフラとしてまた活用されていくことになる。

 

また、3社はここで発生する雇用に関して、積極的に地球に住まう人々を優先して採用した。働き手を創出し、地域を復興させ、経済価値を産出させる。

復興によって地域は活性化し、かつて滅んだ地域の文化が蘇り、それを新たな観光資源として人を呼び込む。

 

地球復興という言葉が、宇宙世紀0100を目前にして流行し始めた。

 

 

 

では、それほどの核融合炉の活用によって、ただでさえ枯渇気味だったヘリウム3の備蓄量は問題無いのか?という疑問が浮上する。

 

ヘリウム3は月と木星でのみ発掘可能な核融合に必要不可欠なマテリアルで、その大部分は木星船団公社が木星で採掘するヘリウム3によって賄われている。

 

木星への航行は長期かつ過酷なものだ。

 

片道5億キロメートルの距離を2年かけて移動し、木星圏にてヘリウム3を採掘、その間地球圏ではありえない電磁場、重力、そして放射能汚染に耐え続けなければならない。そしてヘリウム3の採掘が完了しても、また2年の時間をかけて地球圏まで移動する必要があるのだ。

 

それ故に木星船団公社は連邦にもジオンにも独立した完全中立の存在であり、そしてどちらからも保護される存在となっている。

 

往復で4年。片道5億キロメートルの惑星間航行。これは覆しようのない時間であり、距離であり、そして事実として存在していた。

 

 

 

では、それを短縮できれば、世界はまた変革するのではないか?

 

 

 

モビルスーツの小型核融合炉へのアタッチメントとほぼ同時期に、連邦を通して極秘的に木星船団公社へ告知された3つの技術が存在する。

 

一つ目はビームバリアシステム。ヘリウム3採掘用の超大型船ジュピトリス、その船体の前方へ展開し、高速航行の際の加速及び障害物除去を助けるシステムである。

 

二つ目はアンチハザードフィールドシステム。サイコフィールドの転用技術で、放射能を始めとした有害物質を通さない非物理のフィールドを発生させるシステムである。これによって木星での作業の効率化や、ジュピトリスに何らかのダメージが発生した際は先のビームバリアと併用し修復作業を助けることができる。

 

三つ目は、新型ミノフスキークラフトシステム、仮称ミノフスキードライブシステム。それまで大質量を持ち上げる斥力発生装置として利用されていたミノフスキークラフトであるが、その斥力を任意の方向へ発生させることで、推進剤なしに推力を発生させることが可能となった。

ミノフスキードライブの最も優れる点は、発生させる斥力を任意の方向へ発生させ続けるため、理論上は無限に加速することができる、という点にある。

最もそれは理論上だけの話であり、なおかつジュピトリスのような大質量の船を押し出すにあたって、初期加速は未だ熱核ロケットエンジンの方が出足が速いため、そこは使い分けが必要となるわけであるが。

また、ミノフスキードライブが巨大かつエネルギー消費が大きいユニットであるため、ジュピトリスのジェネレーターに直結で使用するとその他機能に障害が出る可能性も考慮され、ミノフスキードライブ専用の追加ジェネレーターが用意されることになった。

 

 

 

しかし、これら技術、特にミノフスキードライブは革新的な技術であった。

 

結論から言えば、これら技術を搭載したジュピトリスは、往復4年の道のりを、その半分、往復2年にまで短縮することができた。

 

船が動きさえすれば、あとはビームバリアを展開し、ミノフスキードライブで加速を始め、あとはただのクルージングである。レーダーでとらえられるほどの大質量の隕石などは回避する必要があるが、それ以外はビームバリアによっておおよそ無視することができるようになった。

 

これは、ヘリウム3の供給安定に寄与したのもそうであるが、木星船団公社の作業員たちのメンタルケアにも役に立った。

 

行けば最後、生きて戻って来れないかもしれない。木星帰りの称号が何故こうも讃美されるかは、木星の過酷な環境を知れば誰もが納得できる。

最低4年の宇宙船暮らし、そして過酷な木星圏での仕事、途中で嫌になっても降りることは叶わないし、すべてが順調に行ったとしても精神には多大なストレスがかかる。

 

その移動に掛かる時間を、半分にまで短縮できた。

 

しかも、今後さらにミノフスキードライブが発展すれば、移動時間はさらに短縮されるかもしれない。木星船団の関係者の中には、もしかしたら往復で1年になるのではないか、などと浮足立つ者さえいた。

 

さらに言えば、同時に告知されたコアブロック技術から着想を得た作業用モビルスーツのパーツ交換機構もまた、現場での作業をさらに安全かつ効率的にするものだと喜ばれた。

 

 

 

航行時間の短縮によって、ヘリウム3の供給はさらに安定化し、核融合炉の存在は人類にとってさらに身近な存在になった。

 

 

 

さらに、この地球復興というワードが流行したことによって、多くのスペースノイドたちの地球への印象に変化が起こった。

 

それまであった地球=エリート階級の住まう場所、宇宙=それ以外の捨てられたものの住処、というイメージが、殆ど反転し始めたのだ。

 

地球は最早コロニー無くしては成り立たない上に、エネルギーさえ木星に依存しなければ立ち行かない。食料などはコロニーが賄っていたのは知っていたが、そうか、地球など、もはやさびれた辺境の地に成り下がったのだな、と。

 

これはネオジオンが移民を募ったことから始まり、プチモビを用いてのコロニーの修繕事業や、新コロニーの建設事業、コロニー内での産業事業などが莫大な利益をもたらしたことによって、コロニーや開発衛星の環境が、一般的な地球の住居環境と同等か、場所によってはそれを上回ったことにも依る。

 

未だ連邦政府や連邦議会のエリートたちは、地球こそ真なるエリートの住まう場所だと妄信しているが、それは既に世間一般の認識から大きく乖離しつつあった。

 

 

 

連邦とは、そういう枠組みであり、それ以上でもそれ以下でもない。

 

経済はアナハイムを始めとした大企業が回し、治安維持には連邦軍やロンドベルも動くが、一部地域に関してはそれらの役割をネオジオンやジオン共和国が完全に代替しているし、技術開発に関してはヤシマ重工が先陣を切り、環境保全やリサイクル事業に関してはブッホ・コンツェルンがその名を轟かせている。

 

 

 

宇宙世紀が始まって100年、世界はアースノイドとスペースノイドと言う呪いのような差別意識から解放され始めた。

 

 

 

そして、当然だがそれを面白くないものだと感じる者たちもいた。

 

 

 

 

 

 

「……ありましたねえ……」

「なあ、あるもんだなあ……」

 

その埃被ったマシンを見つめて、思わずトミナガさんと声を上げて笑ってしまった。

 

事の発端はこうだ。オーストラリアでミノフスキーネットシステムの試験をするので、バナージに先んじて地球に降りた。

バナージはバーンさんとのあれやこれやで地球に降りるまでちょっと時間がかかるとのことで、じゃあ先乗りして色々確認しておくよ、と返答。

 

そんなこんなで地球に降りる旨を祖父ちゃんに伝えると、シドニーでちょっとした噂話があると切り出した。

 

 

 

曰く、シドニーのとあるガレージから、旧時代の古いレースカーが見つかった。処分に困ってるし、亡くなったオーナーの家族が手放したいらしいのだが、興味はあるかと。

 

すぐに探し出してオーナーにコンタクトを取ると、埃まみれでどうにもし難いので、欲しい物かどうか確認して欲しいとのこと。価値も分からないし、処分するにも費用が掛かるから、もし何だったら持って行ってくれと。

 

埃にまみれた状態の写真を貰ったが、これはどうにものっぴきならないものだと思った。

 

フラットノーズにアクリルカバーが付いた大型のフォグライトのようなヘッドライト。

子供だったら座れるほど張り出したリアフェンダー。

極めつけに、車の後端のさらに後ろまで伸びる、バカでっかいウイングのようなリアスポイラー。

 

瞬間思った。これグループ5時代のシルエットフォーミュラじゃないかと。

さらに言えば、どの年代かまでは分からないけれど、ポルシェ935じゃないかと。

 

さすがにマジもんのレースカーはどこを見ればいいかもわからないので、助っ人として暇してたトミナガさんに声をかけて来てもらった。

 

本格的な整備は日本に持ち帰ってになるが、ちょっときれいにするとか、もし可能ならエンジンかけるまではオーストラリアで出来ればとも思った。

 

空冷ポルシェの良い点は、エンジンに余計なものがないゆえに、燃料系に大きな異常がなければオイルさえ入れ替えれば動く点にあると思う。

しかも935は1970年代に、当時として時代遅れになっていた空冷の水平対向6気筒にターボを2基掛けして600馬力叩き出し、これまた古臭いが耐久力ばっちりの4速MTで300km/hどころか400km/hに迫る速度を実測で出していた化け物マシンだ。怪物、というか、速すぎてグループ5というカテゴリーを破壊したマシンでもある。

 

本物でも偽物でも、それらしい面白い車が見れるならとトミナガさんも意気揚々とついて来てくれた。流石に仕事が忙しくて来れなかった祖父ちゃんは結構本気で悔しがってた。別に日本に持って帰るからその後で見れるのに、というと、そういう話じゃないしトミナガが一緒に行くのが腑に落ちないとよく分からないことを言っていた。

 

 

 

そして、現実は奇なりと改めて思い知ることになる。

 

「これって、935/78のモビーディック、じゃあないですよね?」

「これは多分935/77だな。プライベーターチームも沢山いたし、そのうちのどれかじゃねえかな?知らねえけど」

 

埃積もったボディを軽く叩くと、軽く返す音が響く。

 

「ボンネットは金属で……オーバーフェンダーとかのレーシングパーツが、FRPかな?良いですね、部材がまだ生きてる」

「基本は930だからな。あとはメインのモノコックの程度次第だが、まあポルシェだ。どうにでもなるだろ」

「ですね。それに前後はパイプですし、何だったらセンターモノコックもパイプで補強できますし」

 

リアのエンジンフードを開くと、そこには存在感を放つエアインダクションボックスに、強制空冷特有の巨大なファン、それらを囲う様に溶接されたパイプフレームと、補器類に隠されて見えないがその下に確実に存在する、水平対向6気筒の空冷エンジンが鎮座していた。

 

「完璧ですね」

「やっぱいいなあ、この存在感。時代遅れも甚だしい空冷エンジンのくせに、ポルシェは本当にその気にさせる」

「やめてくださいよ空冷ディス、ここに油冷エンジンのオーナーが居ますよ?」

「良いじゃねえか、この非合理さを覆すほどのクラフトマンシップがむしろ良さだろ?スズキの油冷もポルシェの空冷も、速さを競った上での選択肢なのが馬鹿げてていい。そうだろ?」

 

皮肉気に、しかし楽しそうに笑うトミナガさんに、つられて思わず笑う。

 

「何一つ合理性のないRRレイアウトを、頑強なボディとしなやかな足の緻密なセッティング、それに空力だけで300km/hオーバーの世界へもっていく。しかも使うエンジンは空冷で、トランスミッションは4速だ。70年後半の当時でさえ古臭い。日産もランチアもBMWもとっくに水冷になった時代で、それでも空冷エンジンにこだわった。ミッションだって930の4速で十分だと見切りをつけた。その自信、メカマンならわかるだろ?」

「技術さえあればエンジンは空冷のままで、ミッションも4速あれば十分。その自信、ですよね」

「そうだ。本田宗一郎がついぞ実現できなかったその自信を、ポルシェは莫大なコストを掛けることで達成させ続けた。70年代どころか80年代でもポルシェは空冷だ。グループBの959でさえシリンダーヘッドのみ水冷にした半水冷で乗り切った。しかもリアエンジンレイアウトのままな」

 

コンポーネントを根本から刷新せずとも、基礎設計が優秀なのだから改良を加えれば問題ない。そういう設計への自信の表れ。

事実ポルシェは、60年代に設計された911を改良し続けて、その基本設計のまま40年近く一線級のスポーツカー、いやスーパーカーとして911を売り続けた。

 

工業機械において、古いから良いというのは、設計が古典的で変なところが壊れないから良い、使い勝手が分かってるから良い、古典的ゆえに壊れる部分もある程度想定できるし、壊れても直しやすいから良い、という意味をざっくり内包している

古いものが何もかも素晴らしく、新しいものがダメだということは、工業分野においては基本的にあり得ない。事実キャブレターはインジェクションに置き換わったし、ラダーフレーム車はその多くがモノコックに置き換わった。

 

完全に枯れた技術であれば話は別だが、20世紀から21世紀の自動車産業では当てはまらない。事実60年代の自動車と2000年代の自動車で、どちらの方が優れてるかなんて論ずるまでもない。

 

しかし、古臭くてもなんとかできる。そこにポルシェの狂気が垣間見える。

 

機械的に優れた水冷FRポルシェでは無く、空冷RRの911をベースに、ターボ化と4WD化で闘い続けたのがまさにその狂気だ。

 

 

 

機能は形態に従う。

 

旧時代の化石のような、空冷水平対向6気筒ツインターボのポルシェ935は、埃にまみれてなお、オーストラリアの片田舎の納屋に眠ってなお、まばゆい程の輝きを放っていた。

 

 

 

 

 

 

935を運び出しレッカーを手配して、それなりの大仕事となったがやっと一息付けた。

うん十年放置されていた935は奇麗にブレーキが固着していて動かすのも一苦労だったが、埃まみれの935が日の光を浴びる光景は舞い散る埃も相まってちょっと感動までした。

 

「そうだハサウェイ、ガバナンから聞いたぞ。木星用のモビルスーツ開発、上手く行ったんだってな」

 

935をシドニー港近くのガレージに移送するレッカー車の中でトミナガさんがふとそう言った。

 

「あれ、トミナガさんってガバナンさんと……」

「同期だな。たまに連絡くるのよ」

「あ、そうなんですか?」

「そうそう。びっくりしたよ、課題の締め切りがやばいとか聞いてたのに、同じタイミングでガバナンがコアブロックシステムなんて古めかしい話を持ち出してきやがったからさ。で聞けば、ハサウェイが木星用の作業モビルスーツの改良案に、あるもので全部対応できるシステムを考案しやがったとか言ってきてよ」

「いや、聞いてくださいよ。結構酷かったんですから!最初今シドニー湾でやってるミノフスキーネットの草案出したら『アナハイムが早急にプロジェクトとして進めたいと言ってきた』って学校からストップ掛かって単位にできなくて、じゃあ木星圏での作業用モビルスーツの改善案を出そうって思ったら『これもアナハイムが』って言われて、じゃあミノフスキークラフトの拡張案をって出したら『これもアナハイムが』って、本当に大変だったんですから!」

「あはははははははっ!」

 

いやいや、全然まだ笑えない。

 

「笑い事じゃないですよ!出しては没収、出しては没収で、最後は結局モビルスーツのOSの改善案と伝達系のサイコミュ技術の使用例って、ありものででっち上げて何とかしたんですから!それで提出できたの期限の3時間前ですよ!?笑えませんって」

「それも聞いたよ、クククッ……で、年次課題を何とか出し切ったらビスト技研の立ち上げで学校から没にされたテーマでプロジェクト発足だろ?ヤシマの奴ハサウェイが帰ってきてくれない!って面白かったぜ?で、何だっけ?ビスト技研は基本的に立ち上げまでで、現場は全部アナハイムとヤシマとブッホがやってるんだっけ?」

「ですね。こうやって来て微調整はありますけど、基本は投げっぱ、の予定です」

「良いと思うぜ?人間出来ることには限度あるしな。それに、お前もビストの坊ちゃんも現場で汗かきながらどうこうするよりシステム作る方が上手いわけだし、良い役割分担だな。それに、本当に面倒な面倒ごとは大企業様がやってくれるわけだしな?」

「ですね。じゃなきゃこうして935の回収もできませんでしたし」

 

ちらりと振り返るとカバーしか見えないが、そこにモンスターがいる。それがどうしようもなく心躍る。

 

「で、実のところハサウェイはどこまで行きたいんだ?」

「えっと、どこまで、ですか?」

 

いや、それは935を倉庫まで運びたいだけですけど。

 

「ビスト技研も、アナハイムとの協業も、やりたい目標があってだろ?ガバナンが気にしてたよ。なんで縁もゆかりもない木星開発に注力するのか。プチモビ事業が軌道に乗って、なのにそれとは全然関係のない技術を開発し始めたってな」

「ああ、なるほど。」

 

うーん、どこまで話していいものか……。

 

「言っちゃダメなことが結構あるんでぼかしぼかしですけど、良いです?」

「良いぜ、言ってみろよ」

「……アクシズ事件もそうですけど、今回のラプラス事件でも、結構たくさんの人の死って奴を経験してきたんですよ。幸福なことに僕自身が手を掛けることは無かったけど、まあ、結構たくさんです」

 

ニュータイプ能力と言う奴は本当に厄介で、望もうとも望まずとも、強い感情というものを感じ取ってしまう。多分、僕は特にその気質が強い。

バナージもマリーダさんもロニさんも、あの戦場にあって絶望や死の慟哭はそれほど感じていなかったらしいが、僕は割と感じてた。ゼネラルレビルに乗っていたパイロットの死の感情、ゾルタンさんの部隊の人が死んでいった絶望、そして、ゾルタンさんの深い悲しみの感情。

 

フロンタルさんも同じように感じていたらしい、あの後味の悪さと何処までも引き寄せられる魂の光。あれは危ない光だ。3年前にも見たはずなのに、こうして改めてまざまざと見て、見させられて、些か以上に心が消耗したのを感じた。

 

あのフェネクスが発していた光もそうだった。命が宇宙へ溶けてゆく光は、心を何処か不安定にして恐ろしくさせてしまう。

 

戦争に参加すると、その無為さ加減と、その絶望の深さを感じてしまう。

 

「心がすり減るような感覚、命が散っていく様は、何とも表現しがたくて嫌なものでした。で、その原因ってやつは何なんだろうって自分なりに考えた時、やっぱ理不尽かなって思ったんですよ」

「理不尽?」

「です。宇宙に住む人が晒された連邦からの理不尽が、連邦や、さらに言えば地球への怒りを生んでしまった。その怒りが天秤を超えた時に、暴力として噴き出してしまった。3年前はそれがやっぱり地球に向いて、今回は、まあ色々あったらしいですけど、連邦政府に向いたのかなあ?」

 

マーサ・ビスト・カーバインは、カーディアス・ビストを憎んでいたのか?それともサイアム・ビストを憎んでいたのか?答えは分からない。

そしてそれに協力しようとした人間が何を思ったのかもわからない。けれど、元を正せば大体全部スペースノイドとアースノイドの格差か、ジオンと連邦の対立で説明ができる気もする。

 

どっちが悪いとも思わない。バナージやバーンさんには悪いけど、ザビ家だってまあまあやらかしてるわけだし、それ以上にシャアはもっとやらかしてるし。

でもその原因は連邦にあるわけだけど、じゃあ連邦を打倒して、その後は?ロンドベルとネオジオン、そこにアナハイムが力を貸せば連邦政府の打倒は不可能とは思わない。でも、その先に幸福な未来も、ちょっと想像できない。

 

「じゃあ何ができるか。とりあえず、お金を稼ごうかなって」

「ほう?」

「プチモビ市場がにぎわって、それで地球圏の経済もまあまあ盛り上がったじゃないですか。で、コロニーはもっと大盛況だったらしいって聞いたんですよ。なら、少なくとも身近な暮らしを便利に出来る、そこそこ安い機械ってやつは、今の時代需要があるもんだと思ったわけです」

「それで、旧式のモビルスーツを重機兼発電機として改造できるプランを考えたわけだ」

「そうです。そのために大規模改修なんて馬鹿らしいので、元々の図面から小改造でどうにかできるプランを考えたんですけど、そうしたら今度は融合炉を動かすためのヘリウム3が必要だなって」

「ああ、だから木星開発なのか」

「まあ、流れとしてはそんな感じです」

 

ふと視線を感じてトミナガさんを見ると、にんまりとした笑みを浮かべて僕を見ていた。

 

「良かったよ、お前は変わらずお前のままなわけだ」

「で、すかね?」

「ああ。ガバナンが気にしてたのは、お前が変な野望でも抱いてシャアの再来にでもなるんじゃないかってことだと思ったよ。金作ってヘリウム3も準備して、それこそ連邦打倒なんて掲げてな」

「テロリストじゃないですか。僕そんなヤバい奴に見えます?」

「いやあ、お前が優しくて温厚な奴だからじゃねえかな?ほらよく言うだろ?革命だのなんだの御大層な大義名分は、決まってインテリからしか出てこないって」

「いや、工専で課題に四苦八苦してる僕がインテリって、冗談でしょう?」

「クハハハッ、学歴どうこうじゃねえよ。若さと視座の高さじゃねえかな。まあ、ガバナンはそれだけお前を見込んでるってことさ。それに、あいつは俺らと違って大企業の社長様だからな。いろいろ考えてるんだろ。知らねえけど」

 

笑ってるけども、大変心外なんだが。

 

「それで働き口が兎にも角にも必要な事業を考えたわけだ。しかも自分は案だけ出して、アナハイムやヤシマやブッホが大儲けできるように仕向けた。アースノイドの貧民層に真っ当な働き口を与えて、地球で働き続けるか、高給取り目指して宇宙で働くかも選べる仕組みを作った。すげえな、まるで政府みたいだぜ」

「そういう風にしてくれたのは祖父ちゃん達ですけどね。流石って感じです。社長業とかやるとああいうふうに色々見えるものなんですかね?全然想像もつきませんけど」

「おいおい、お前ヤシマ重工継ぐんじゃねえのか?大丈夫かよ?」

「いやあ、僕じゃないと思いますよ。どっちかって言うと、チェーミンじゃないかなあ?」

「チェーミンって、妹さんか?」

「です。プチモビ関係と今回の木星関係とかで、特許だけでも結構なお金が入ってきたらしいんですけど、それの運用とかを母さんといっしょにやってくれてるんですよ。で、そっち方面で、結構すごいことになってるらしくて」

「ほう、妹さんには金を転がす才能があったわけか」

「みたいです。詳しくは全然分からないんですけど。そのおかげでまた雇用が生まれてとか、技術が発掘されてとか、なんか本当に色々あったみたいです。だから祖父ちゃんの跡は母さんが継いで、その後はチェーミンが継ぐ気がするんですよね。というか僕は気楽にバイク乗っていたいですし」

「ハハハハハッ!お前最後のそれが本音だろ?」

「そうですよ。僕が何か作って、祖父ちゃん達が仕事を作って経済回して、みんなでお金稼いでみんなで幸せになれば、ちょっとぐらい平和になりそうじゃありません?」

 

まあ、夢物語ですけど。

 

「いいなあ。そういう明るい未来。忘れちまってたかもしれねえよ」

「良いじゃないですか、今から思い出していけば。そうなったら嬉しい。その位の感覚で」

 

大仰に肩をすくめて見せると、トミナガさんもクシャっとした顔でわらっていた。

 

 

 

 

 

 

およそ10年ぶりに見たシドニーは、変わらず何もない海の底だった。

 

ミシェルと、リタと、ニュータイプ研究所から逃げ出して見た景色のまま。けれど、追われるように逃げ出したあの頃よりも、どこか明るく感じられた。

 

今は、コロニーが開けた大穴を、それによって汚れた海を、自分たちを救い出してくれた人たちと一緒に奇麗にしようとしている。そんな冗談のような明るい現実が、ヨナの足をふわふわと浮足立たせていた。

 

 

 

大きな試作モビルアーマー、のようなもの。武骨な鯨のようなその機械がシドニー湾を休まずに泳ぎ続け、そして汚染物質を回収する。

 

まずは漁業などにも影響の大きかった重金属系などの汚染物質を、次にモビルスーツなど比較的回収しやすい小型のオブジェクトを、そして最後には、墜ちてバラバラになったままシドニー湾海底に残るサイド2の8バンチコロニー、アイランド・イフィッシュの残骸を回収する運びとなっている。

最終目標達成まで、最短で20年はかかると見込まれるビッグプロジェクトだ。

 

アナハイムとヤシマ重工から派遣された技術者が中心となり、そして、ヨナはミノフスキーネットのテスト要因としてルオ商会からアナハイム出向となり、そのままシドニー湾近くに住めるように手配して貰えた。

 

勿論、リタと一緒に。

 

ミシェルは流石に仕事を放りだせないと香港にいるが、それでも様子を見に時々行く予定だと言っていた。

 

ヨナの仕事は、あるようでないようなものだった。

 

平日は毎日シドニー湾まで試作機の様子を見に行き、ミノフスキーネットが問題なく機能しているかを確認するが、それも午前中だけで終わる。

 

あとは自由に過ごしてくれて構わない。それに、リタさんはまだまだ療養が必要だろうから、近くにいてあげた方が良いと。

 

酷く優しい口調でそう説明され、これまで走り続けてきたんだから、ここらへんでしっかり休んでもいいじゃないかと。

 

ヨナは、初めて故郷へ戻れたような気がした。

 

 

 

 

 

 

「良いですね、問題なく汚染物質だけ優先的に拾えてるし、何より汚染された海洋生物も一緒に拾えてる。これはちょっと予想外でしたけど、生物濃縮されてしまった生物が拾えるなら、むしろ良いと思いますし」

「ミノフスキーネットのパターニングも良い感じですね。やはりニュータイプ能力者が一人いるとサイコミュ関連の技術はデータが揃いやすい」

「まあ、サイコミュは本当に使いづらいですから。とりあえずこれを完全自動で初期動作のみ設定すればどこでも使えるようにしたいので、オリヴァーさんも、お願いしますね」

「頑張らせてもらいますよ。それに、ヨナ君は優秀ですから。頼らせてもらいます」

「あんまり無茶させないでくださいね、戦場の傷ってやつは、意外なほど治りづらいものですから」

「心得ていますよ。ハサウェイ君も、あまり無茶しないように」

「あはは、了解です。じゃ、今日はここまでってことで。行きましょっか、ヨナさん」

 

ハサウェイの後ろについて、シドニー湾に設置された事務所から出る。

 

その道々ですれ違う作業員や技術者が、ハサウェイを見ると何となく会釈をしていく。それが何よりもハサウェイの凄さというものをヨナに感じさせていた。

 

だからこそ、疑問にも思った。

 

 

 

「あの、なんでここまでしてくれるんですか?」

 

歩きながら、ハサウェイがふと振り向く。

 

「なんで、ですか?」

「感謝してます。ここまで良くしてくれて、家も仕事も用意してくれて、リタとも一緒にいさせてくれて。強化人間の回復の為のお医者さんまで紹介してくれて。本当に感謝しています。感謝しても、しきれない……」

「僕はちょっと口出ししただけですよ。本当に色々したのはネオジオンとか連邦とかアナハイムの偉い人ですし、僕の影響力は、そんなにじゃないですかね」

「じゃあどうして、口出しをしようと思ったんですか?言ってしまえば、縁もゆかりも無く、何の得にもならない、俺たちに」

 

感謝してる。けれど、それ以上に疑問があった。何故ここまでしてくれるのか。

 

何か、俺たちにしてほしいことでもあるんじゃないかと。

 

いつだって踏みにじられてきた。裏切られて、痛めつけられて。だからこそ、ヨナは信じられなかった。まるで施しをするかのような、ハサウェイの姿勢が。

 

ハサウェイは、うーん、と少し悩むようにして続けた。

 

「得が無いわけじゃないですよ。ヨナさんがここでミノフスキーネットに付きっきりで対応してくれてるので、何よりデータが集まります。ミノフスキーネットは、実用化されればこれから海上で動くすべての船舶に装着される予定です。タンカー船だろうが輸送船だろうが、基本的にすべての船にです」

 

振り返ることなくハサウェイは続ける。

 

「最初はミノフスキーネットとミノフスキークラフトを搭載した民間用モビルアーマーを量産しようかとも思ったんですが、如何せんコストがかかりすぎるので没になったんですよ。地球の運送は海運がやはり多いですから、そこで行き来する船に海洋環境を改善できれば、一石二鳥だなと。そしてそれが早ければ早い程、人が住むための環境改善が整うわけで」

 

思い出すように、数えるように、ハサウェイは言葉を続ける。

 

「しかも回収したマテリアルは再利用できます。朽ち果ててどうしようもないものもあるでしょうが、希少金属系は再生産業の目玉になるかもしれません。墜ちたコロニーや朽ち果てた戦争の残骸がお金になれば、みんな躍起になって海洋環境の保全に努めてくれる、かもしれませんし」

 

あっ、と思い出した様にハサウェイは続ける。

 

「それに不法居住者。連邦は特に気にしてるみたいですけど、彼らが地球環境保全の仕事に従事してくれれば、順番は前後しますが、彼らは地球のために働く必要不可欠の人材になります。そんな彼らを理不尽に逮捕したりする事件も少なくなるんじゃないかなと。それに、地方産業が盛り上がれば、連邦は自ずと利益を享受します。その利益が、見て見ぬふりをしてきたこれまでの不法居住者への弾圧という連邦のお題目を上回ったなら、きっと不法居住者を積極的に見逃しにかかる、のではないかなと」

 

ヨナはそれを聞いて、どこか安心したような、どこかがっかりしたような、そんな気分になった。

 

ああ、ちゃんと俺たちは役に立っていて、その役割に応じた待遇を彼は与えてくれたんだ。ああ良かった、理由が知れて。無条件な厚遇なんて、むしろ変だと思っていたから。

 

ああ、やっぱり彼も俺たちを利用しようとしていたんだ。それは俺たちにとって難しいことでは無かったけれど、それでも彼も人を使う側なんだ。いや、当たり前じゃないか。でも良いだろう?あの頃に比べれば、ここは天国みたいなものなんだから。

 

発する言葉は無かった。ただ、ヨナは水平線を見つめ、自分の足元に視線を落とした。

 

「まあ、そんな感じの言い訳をフロンタルさんに考えてもらったんですよ」

 

ふと、ヨナは視線を上げた。

ハサウェイはこちらを振り返って、どこかバツの悪そうな顔をして肩をすくめた。

 

「何となくです。何となく、ヨナさんたちをそのまま軍隊勤めにしておきたくなかったんです」

「……それは、どうして?」

「うーん、何でですかね……」

 

ハサウェイは立ち止まって、空を見上げた。白い雲が所々かかった、しかし澄み渡るような蒼穹を。

 

「……3年前のアクシズ事件で、一人の強化人間を見送ったんですよ。いや、見殺しにしちゃったのかなあ……」

 

哀しそうな、寂しそうなハサウェイに、ヨナは思わず目を見開いた。

 

「この前のラプラス事件でもそうでした。一緒に来ませんかって誘ったけど、断られちゃって。自分で手に掛けたわけじゃないですけど、いや、言い訳だよなあ。うん、やっぱり、助けられなかったんですよ」

 

海の向こうを流れる雲が、悠々と近づいてくる。

 

「彼らは、とても強いパイロットでした。でも戦いたいと思って戦場を望んだ人たちじゃなかった。強化されて、戦えと命令されて、戦場へ出る以外の道がなくて。全部分かって戦って、けど、結局助けることはできなかった」

 

少し前までは鼻についた潮風も、今ではもう気にもならない。

 

「その人には、自惚れるなとも言われました。敵に同情なんかするなって。アンジェロさんにも、お前は神様でも何でも無いんだから仕方なかったと割り切れ、じゃなきゃ死人に足を引っ張られるぞって。理解はしてるつもりです。納得も、出来てると思ってました」

 

風が吹く。生暖かい風が、夏の到来を予感させるように。

 

「でも、納得できてなかったみたいなんです。だから、あれこれ理由を付けてヨナさんたちにお仕事を頼みこんだんです。そしたらほら、ヨナさんも軍人家業を続けたいわけじゃないって言ってて、じゃあ渡りに船だなと。あとはもう、勢いですね。バナージと必死になってミノフスキーネットを作って、ガバナンさん、アナハイムの偉い人とかにお願いしてこの環境を作って、ルオさんにもどうにかできないかってお願いして。それで気付いたら、まあこんな感じですね」

 

風に吹かれて靡く彼の髪が、どこか寂しそうに見えた。あれほど強く存在感を感じさせた彼が、今は迷子の子供のように切なく見える。

 

「だから、全部僕の我儘なんです。ごめんなさいヨナさん。あなたも、リタさんも巻き込んでしまって。本当にごめんなさい」

 

どこまでも真摯に頭を下げる彼が、見てられないほど悲しく見えて、思わず彼の肩を抱き支えていた。

 

「何も!何も謝ることなんてない。俺もリタも、地球に戻って来れて良かった。本当に、夢みたいだったんです。リタが居て、ミシェルも時折来てくれて、まるであの頃に戻れたみたいで。ただ、たくさん裏切られてきたから、信じられない自分もいて、だから、貴方のせいじゃない。本当に、感謝しているんです」

 

言葉はまとまらず、それでも何か伝えずにはいられなかった。

ありがとう。こんなにも良くしてくれて。でも、コロニーが墜ちた後の難民キャンプでも、その後連れていかれてニュータイプ研究所でも、研究所がつぶれた後に所属した連邦軍でも、ミシェルに連れられたルオ商会の私兵部隊でも、居場所なんて無かったから。

いつだって責め立てられて、いつだって逃げ出したくて、でも逃げたその先でも、やっぱり居場所なんて無かった。

 

死を考えたことだって数えきれないほどあった。それでも踏み切れなかったのは、恐怖と怯懦か、それともリタやミシェルへの心残りなのか、それさえも分からずにただ生き続けた。

 

リタを連れて、地球に降りて、初めて自分の居場所を認識できたような気がした。

 

だからこそ怖かった、この場所を失うことが。だから、知りたかったんだ。俺たちに何をさせたいのかを。この居場所に居続けるために、覚悟を決めるために。

 

 

 

なのに、彼は何も求めてなんていなかった。

 

ただ助けたかった。理由なんて無くて、助けた後に横槍をされないように言い訳まで作って、俺たちを助け出してくれた。

 

感情の奔流が伝わってくる。彼の優しさと温かさに満ちた感情が。この感覚がニュータイプだからなのか、そうじゃないのか、そんなことさえどうでもいいと思えた。

 

いや、最初から分かっていたのかもしれない。彼に悪意なんてなく、害意なんてなく、彼は初めから俺たちに何かを求めてなんていなかった。

 

でも怖かった。信じることが出来なかった。

 

無条件で何かを信じられるほど、これまで経験した絶望は安くなかったから。

 

 

 

泣きそうな彼の肩を抱いて、その温もりを知って、その瞬間に思った。

 

ああ、彼を信じよう。

 

この暖かさを持った彼だから、俺は信じようと決めることができた。

 

 

 

「……なんかすみません、変な空気にしちゃって」

「そんな、気にしないでください。俺の方こそ、ずけずけと申し訳なく……」

「いやいや、言われるまで話さなかった僕も悪いですし、何なら言わずに済んだらいいかなくらい思ってましたし、だからこう、自業自得な部分もあるので」

 

そんな腰の低いお互いの態度が何だかおかしくて、思わず笑っていた。

 

「あと、僕の方が全然年下ですから、ため口で大丈夫ですよ?」

「いや、そういうわけには……」

「本当に気にしないでください。僕はヨナさんたちの雇用主でもないし、アナハイムの事業の、アドバイザー?サポーター?的な役割なので、まあヨナさんと同じような立場ですから。ね?」

「まあ……そういうことなら」

 

何かが大きく変わったわけでは無い。でも、必要なものが揃った。そんな気分にはなっていた。

 

「そうだ。最近知り合ったウラキさんって方がこの近くに住んでらっしゃるんですけど、その方おすすめのレストランがあるんですよ。良かった昼食にどうです?リタさんも一緒に」

「いいね、行こうか。何がおすすめなの?」

「パスタらしいです。あとは日替わりのスープが美味しいとかで」

 

風が吹く。潮風が吹いて、雲を押し出す。

 

果てのない蒼穹が、水平線で海と重なる。

 

当たり前の景色が、酷く美しいものに感じられた。

 

それがとても、嬉しく思えた。

 




読了ありがとうございました。

何か今回長くね?と思った方へ。ヨナの深掘りが前回ほぼ出来ていなかったので、その分を書いたのでちょっと長いです。

強化人間には幸せになって欲しい。そんな私の願望がありありと表に出た回な気もします。

次回の構想はまだ未定ですが、バナージが地球に降りて一緒にバイクを乗るか、新たなおじさんが出てきてボディ補強について学ぶか、木星に行くかの3択で迷ってます。
具体的な構想は明日以降の私が頑張ってくれるはずです。

誤字報告いつもありがとうございます。見直せど見直せど誤字、恥じるばかりです。

感想、高評価もありがとうございます。頂ける感想が本当に嬉しいです。これが承認欲求!悪魔の力よ!

引き続き感想、高評価いただけると嬉しいです。
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