ハサウェイがアムロやシャアに影響される前に機械オタクになった世界線のお話   作:陸奥九十九

47 / 47
えー、まず謝罪を訂正をさせてください。木星関連について、完璧に勘違いしていました。

①木星船団公社はジュピトリスでヘリウム3を"運搬"する企業であって、後の木星帝国とは直接的には関係がない
②ドゥガチ様が所属しているのは木星公社で、木星公社は木星にコロニーを作るための会社で、木星船団公社にヘリウム3を卸している会社でもある
③木星公社が、後の木星帝国
④ジュピトリスで持ち込んだ食糧とか資材を、ヘリウム3を交換取引することで木星公社成り立っている

こんな感じの設定をバックボーンに木星関連の話を進めます。大体あってる、はず。



私本当にあほなのかと、木星はガス惑星なんだから火星みたいに地表なんてないのに、なぜか木星の地表(存在しない)にテラフォーミングしてドゥガチ様たちは住んでると思ってました。ばっかでー。前の話で採掘とか書いてるのはそのせいです。

しかも木星船団公社と木星公社も一緒くたにしてました。いや、ジュピトリスがドゥガチ様の持ち物なら地球との行き来も出来るし、あんなに地球圏に憎悪を抱かんやろ。カラス先生なんて自分たちを木星人って、地球とは別の惑星の人だと呼称してるんだから。途中で気づき給えよ私。

こんな感じであまりにもガンダムを雰囲気で楽しんでいたので、今回の話ツッコミどころが多いかもしれません。温かい目で見て頂ければ嬉しいです。

前回の話も修正すべき点はあるんですが、大筋に関わる部分じゃないのでそのまま行こうと思ってます。本当に申し訳ねえ……


アステロイドベルトの、その向こう

木星公社はその任務の過酷さから、常に危険に晒されてきた。

木星圏における人類の生存は、そもそも不可能だったのかもしれない。

 

地球圏の人類が持続的な生活を可能にするための新技術として発明された核融合炉、その燃料たるヘリウム3採取のための木星圏の定住。これは地球を中心とした開発コロニーでの居住などとは比べ物にならないほど過酷を極めていた。

 

水も無く、空気もない。木星に近づけば人どころか人工物が形状を保持できないほどの超重力に磁気嵐、さらにおびただしい量の放射線に晒され、その負荷は尋常なるものではない。

 

ヘリウムガスを採取する際にわずかに含まれる蒸気から水を生成するか、はたまた氷の地表と内部海を有する木星衛星に決死の覚悟で水の確保へ向うか、そこで何とか回収した水を電気分解することで、やっと空気を作り出すことができる。

 

木星コロニーは、木星圏で唯一人間が生存できる場所であり、しかし、人が住むに際して最低限の環境を整えるために、死に物狂いで環境と戦い続けなくてはならない場所でもある。

 

 

 

巨大ガス惑星である木星は、常に水素とヘリウムで攪拌され、月面や火星のように人間がその場所に居つけるような構造ではそもそもないのだ。

 

嵐の中で生き続ける。荒れ狂う嵐の中で、今にも吹き飛びそうなヨットに乗船して、決して過ぎ去ることのない嵐の中、帰ることは無いであろう母なる地球とやらの為に命を賭して働き続ける。

 

その報酬は、生存に必要な最低限の資源。

 

強烈な磁気嵐が吹けば、強烈な太陽フレアが起きれば、木星コロニーにいる人間はそのすべてが死に絶えるかもしれない。

 

そして死んだとしても、その死を確認するものはすぐにはやってこない。

 

どれほど仲間に支えられても、どれほど友情を深めても、死への恐怖は薄れない。心の片隅にいつも絶望が住み着いている。

 

 

 

木星開発が始まっておよそ40年。

 

木星公社代表クラックス・ドゥガチは、数えきれないほどの仲間を見送ってきた。

 

10代の終わりに木星開発に名乗りを上げ、どうにも儘ならぬ木星の過酷な環境に喘ぎながら、それでも戦い続けた。

 

磁気嵐で仲間が死に、水を確保するためのコロニー外活動で仲間が死に、病に罹った仲間が死に、環境に耐えきれなくなった仲間は自ら命を絶った。

 

それでも木星圏と言う地獄で闘い続けた。

 

そこには志があった。荒れ果てた地球環境を元に戻すための宇宙移民、その宇宙移民が、そして地球に残った人々が生存に必要な電力を生み出すために、木星公社は核融合に必要不可欠なヘリウム3を木星から地球へ届け続ける。それが使命であると。

 

ドゥガチそのように信じていた。

 

いずれ全人類が宇宙へ移住し、その移住した宇宙で不自由なく過ごすための核融合発電、それを支える木星公社。人類を支えるために、自分たちのような人間が必要なのだと。

 

 

 

だがその決意は、結局のところ無為にされてしまった。

 

 

 

宇宙世紀0079,一年戦争。0083、デラーズ紛争。0087、グリプス戦役。0088、ネオジオン抗争。

 

人類を生かすためのヘリウム3は、いつの間にか戦争の必需品となり、兵器開発の必需品に成り下がった。

 

木星船団公社のジュピトリスの乗組員は徐々に軍人が多くなり、一年戦争以降は連邦軍人の昇進のためのステップアップのような存在になっていった。

 

パプテマス・シロッコなどその最たる例だろう。

 

奴は木星の存在も、ヘリウム3を地球圏へ届ける使命もどうでもいいと思っていた。そこにあるのは地球圏での立身出世、そして傲慢なまでのエゴイズムとナルシズム。

 

ヘリウム3をジュピトリスに積み込むそのわずかな間だけ会話もしたが、その選民思想には辟易したが、その場で若さ故とは心の内に留めた。

 

シロッコが地球圏へ戻ってすぐに戦争に参加し戦死したと後から聞き、胸中には怒りも呆れも無かった。

 

ただ虚無だった。

 

ジュピトリスは轟沈し、その拍子にヘリウム3も全てが誘爆し宇宙の塵となった。

契機は、恐らくそこだった。連邦へのぬぐい切れぬ不信感。何よりも、自分たちの挺身が何一つとして労されない怒りと悲しみ。

 

 

 

命がけで働く仲間たち、その結果、悲しくも命を落としていった英霊たち。その犠牲の果てに、木星公社はヘリウム3を採取精製し、地球圏へ送り届ける準備をしている。屍の上に成り立った、文字通り血の結晶なのだ。

 

それを、矮小なるエリート意識にかぶれた俗物どもが、何の役にも立てず無に帰した。

 

この怒りを、どのようにして収めればいい?

 

食い物を切り詰め、水を切り詰め、空気さえ作り出さねば生きてゆけぬこの木星で、何もかもかけて戦い続けた成果が、何の意味も無く宇宙に捨てられた、この怒りを。

 

 

 

あの頃若く幼かったドゥガチは、年齢とともに絶望を重ねた。怒りを重ねた。

 

40年、この木星圏で生きてきた。齢60を目前にして、もはや連邦への期待など消失していた。

 

残ったものは、連邦への怒り、その連邦の巣くう地球への怒り。散って言った仲間への無念と、仲間の献身を無駄にした戦争への怒り。

 

最早この怒りを鎮めるためには地球を燃やすほか方法などない。ドゥガチはそこまで怒りをため込んでいた。

 

 

 

宇宙世紀0099に、転機が訪れるまでは。

 

 

 

 

 

 

「……なるほど、確かにこのマシンなら、木星衛星へ送り出して遠隔操縦で確実に氷塊を回収することができますね」

「実証実験は地球のシドニー湾で行いました。宇宙空間での実験も一通りはしましたが、如何せん環境が過酷な木星圏なので予期せぬ状況は起こると思います。そのためにジュピトリスにも採用したビームシールドを装備させましたが、そのせいで大型にもなってます。ビームシールドは取り外し可能なので、故障した際は取り換えが容易にできるようになってます」

「助かります。次にサイコミュシステムに関してですが、これの操作はどのように?」

「完全遠隔操縦は不安材料が無数に残るので途中途中における中継用ビットを用意しました。磁気嵐の中でもサイコミュは問題なく誘導出来ます。それに中継用のビット無しでも操作できるようになっているので、転ばぬ先の杖として認識いただければ」

 

 

 

彼は、ハサウェイ・ノアという青年は、我々に多くの物を齎した。

 

彼はあどけなさの残る、それこそローティーンと言われても信じられるような幼さの残る顔立ちで、19歳と言われても信じられないほどだった。

 

少年のような幼さを残しながら、しかし彼の齎したものは、我々が欲してやまないものばかりだった。

 

 

 

彼らの来訪は突然であり、また予期せぬものだった。

 

彼らは、木星船団公社の識別信号では無く、アナハイムの識別信号でもって、ジュピトリスなどよりはるかに小型の宇宙船にて木星コロニーへ来訪した。

 

通信が可能になったのも火星圏を超え、アステロイドベルトを通過してからだったと聞く。木星圏は地球圏からあまりに遠い故に通信も届かないので当然ではあるが、さらに言えばそこからも早かった。

 

火星圏から木星圏まで、惑星一つ分のように字面上は見えるが、すさまじいほどの距離がある。それも、地球-火星間の距離とは比べ物にならないほどに。

 

にもかかわらず、通信からおよそ1ヶ月足らずで彼らはやってきた。ジュピトリスで1年以上かかる道のりを、たった1ヶ月できたことになる。

 

サラミス級を2隻を横並びで連結させたような異様な艦で、見慣れぬ装備をいくつも装着して。非武装艦であることが確認できたゆえに大きな問題にはならなかったが、木星コロニーの管制室は酷く混乱したと聞く。

 

彼らは異質であり、異様だった。ともすれば、ストレスによって夢幻でも見たのではないかと思う程度には。

 

 

 

歓迎よりも以前に最大の警戒でもって対応したのも当然だった。

識別信号は確認した、アナハイム所属機と見えるが、何の目的でもって木星コロニーに来訪したのか。

通信から到着までの時間が短すぎる。どのような方法でもって木星コロニーまで来たのか。

木星コロニーの使者をモビルスーツでもってそちらの艦に送る。使者が帰還し、状況を精査した後、問題無ければ木星コロニーは貴艦を受け入れると。

 

細心の注意を払った。確実な対応ができるように、カラスとその部下2名を武装したモビルスーツで送り込み、乗り込んでからもモビルスーツからの降車はせずとも良い、何か異常を感知したら即座に迎撃、退避しろと。

 

この時点ではドゥガチは苛立ちの方が強かった。

面倒ごとを地球圏の奴らが持ち込んできた。地球連邦とは関係無いというが、それもどうだか。

 

しかし、それらの苛立ちは、カラスの帰還と共に完全に払拭されることになる。

 

 

 

カラスは言った。彼は紛れもない天才だと。彼らの技術は、木星にとって必ず良いように働く、また、彼も木星開発に尽力してくれる。そう確信したと。

 

ハサウェイ・ノアは、我々に光をもたらしてくれると。

 

 

 

カラスに連れられ、アナハイムの年若い技術者が二人、そしてそんな彼らよりさらに幼く見えた彼が、会議室に入室した。

 

その時に、確かに落胆した。あまりにも幼く見えたためだ。しかし、彼らは形式ばかりの挨拶を終わらせると、資料を配布し始めた。

 

『ミノフスキー粒子を活用した完全遠隔操縦での物資の採集と、その作業機械について』

 

サッと目を通し、その有用性に愕然とした。

 

思わずカラスに視線を向けると、隠しきれぬ笑みを浮かべながら頷いていた。

 

 

 

その段階になってようやく理解した。なぜカラスが彼らを、わざわざ自分の元まで連れてきたのかを。

 

 

 

「しかし完全遠隔操縦ですか……精度については理解しましたが、パイロットを乗せた方が手っ取り早いのではないですか?」

「仰る通りです。ただ、今回は基本的に稼働しっぱなしであることを前提に設計してあるので、中に人がいると機械より先に人に限界が来ちゃうので、その関係上無人機になってます。何より、木星衛星と言う未知の環境に、早々に人を送り込むのはリスクが大きいなと思いまして」

「なるほど……実証実験のほとんどが地球圏とのことですが、木星圏での運用について不安点などは?」

「分かりません。ジュピトリスで集まっていた木星環境のデータから、まず耐えられるだけの性能を持たせましたし、アステロイドベルトを超えて以降は艦の外に出してデータを取ってましたけど、何ともですね。現状は問題がないはず、としか」

「分かりました。もしも完全にコントロールできない状態に陥った場合の対策は?」

「1時間以上サイコミュによる外部操作が確認できない場合はホームポイントまで勝手に戻るように設定してあります。基本はミノフスキードライブで動きますが、故障した場合の対策でロケットエンジンも積んでありますので」

「至れり尽くせりですね」

 

カラスが酷く穏やかな声で彼と話している。

そしてその内容は、あまりにも我々にとって必要なものばかりだった。

 

「ミノフスキーネットシステム自体は合計3基持ってきました。普段使用されている採取艦や、一応モビルスーツにも搭載できるようにアタッチメントも用意してあるので、ヘリウム3の採取でも使えるかどうか試してほしいです」

「そうそう!あのサラミス級、モビルスーツが何機か搭載してあったようですが、あれは何でしょう?」

「ああ、あれも試してほしい、新型の作業用モビルスーツなんです」

「見たところ、特殊な装備をしたジムと見えましたが、そこも理由が?」

「はい。今回作業用として設計されたものは、上半身の作業用パーツと、下半身の移動用パーツ、オプション装備をバックパックに装備できる組み換え式のものになってます。ただ、基本パーツはジムをそのまま流用して、マニピュレーターを作業ツールに換装したものになります。移動用パーツは通常の2本脚、複雑な地形や外壁でも安定して作業可能な4本脚を持ってきました。地上で使用する無限履帯の仕様もあるんですけど、今回は適さないかなと持ってきませんでした。カタログもあるので、もし必要あれば言ってください」

「……なるほど。質問ですが、マニピュレーターを廃したことで、むしろ汎用性が落ちるのでは?」

「換装した腕部ですが、こちら工具と作業用のマシンアームが内蔵されたもので、持ち替えの必要が無くなったので効率は上がったと考えています」

「たくさんのツールが一度に使えるのはありがたいですが、操作性はどうなのでしょう?直感操作が難しくなるのであれば、むしろ効率が落ちてしまうかもしれませんが」

「ご懸念よく分かります。効率的な作業機械を謳うくせに、操作が効率的でなければ意味ないですから。それを解決すべく、今回は新開発のOSを搭載してきました」

 

 

 

カラスと彼の会話は、まるで舞台演劇のセリフ回しのようにするすると進んでいく。

 

カラスは、彼の言わんとすることの殆ど全てを資料を見ただけで理解しただろう。にも関わらずこれほど細かく確認を入れているということは、この技術を確実に木星に導入したいという意思表示でもある。

 

何よりも、彼の当意即妙な返しは資料を読み込んで覚えてきたものではないように感じた。

 

こういう不便が起こるのではないか?という問いに対し、そう思ってこのような対策をしたんだ、と会話が理解では無く共感によって進められていく。

 

ああ、彼は優秀な技術者なのだな。自然とそう思えた。

 

 

 

「……操作はより簡単に、かつイメージングによる操作の補助、ですか。素晴らしいですね、技術の発展というものは。これならば特殊な技能も必要なく、誰もが練習次第で問題なく習熟できそうだ」

「良かったです。ただ、このイメージによる操作の補助自体、最近確立された技術なので予期せぬトラブルも起こる可能性があります。インコムと言う、軍事にて使用されていた有線誘導システムの民生品なので、ある程度の粗は出ていると思いますが、何分民間での採用は初なので、ご迷惑をお掛けする点もあるかと思うのですが、何卒」

 

その言葉に、カラスは一瞬止まった。そして、それはドゥガチも同じだった。

 

「……初、ですか?木星での使用が」

「はい。メインボリュームは数か月前に地球圏を出発したジュピトリスに乗っているので、そちらを待つことになるとは思いますが。今回持ってきたものは練習機的に乗り回していただければと思います」

 

彼の言葉に、嘘はないように思った。雰囲気からも感じる、問題ないと思うが何分新型で新技術なので、という、自信と緊張。

 

既に地球圏で使う古されたものでは無く、木星が人類で初めて使うマシンたち。

 

確かにジムの改修機だ。しかも軍用機を作業用に改修された民生機だ。最先端技術ではあるが高級な特殊素材などは何一つとして使用されていない。唯一制御用OSと一部コントローラー、コクピットのコアモジュールなどはブラックボックスだが、それは企業秘密として当然の部分だけだ。それは彼の用意した資料からも理解できた。

 

しかし、これほど簡略化され、使い勝手を考えられた操作系統が、適当に作られたものであるわけがない。

これまで使用していたモビルスーツたちの操作系統が熟練のプロフェッショナルのみに許された精緻であるが複雑なコンピューターだとしたら、これは子供でも十分に扱えるゲーム機だ。

 

タブレットに用意された実際の操作風景と実機の稼働を見ても、不十分であるものは無い。これから使っていけば不満点なども出てくるのであろうが、現状これによって大きな問題が起こることは無いと思える程度に。

 

そんなものが、まず最初に我々の手に回ってきた。

 

ドゥガチは、その事実に得も言えぬ高揚感を抱いていた。

 

「OSのアップデートはこれから順次行っていく予定なので、まずはこの仕様で使っていただければ。次回お邪魔するタイミングで実際の使用状況からの不満点などを教えていただければ、その場で可能なものはその場で、持ち帰って改修案を出す場合は次々回にアップデート仕様をお持ちしますので」

「次回、ですか?となるとスケジュールとしては……」

「今は地球の公転周期的に木星と接近してるので、最短で2か月後くらいだとは思います」

「2かっ!?」

 

その言葉に、思わずカラスが言葉を失う。

 

「今回の航行で分かったことでもありますが、サラミス級2隻程度の質量であれば、現状のミノフスキードライブでも木星までの航行でも1ヶ月と少しで来れることが確認できました。ジュピトリス程の大質量だともっと全然かかる計算だったのですが、もしかしたら木星船団公社の方もスケジュールの見直しがかかるかもしれません」

 

結構優秀です、ミノフスキードライブ。

こともなげに言う彼に、常識が壊れていくような感覚を覚えた。

 

「アステロイドベルトを超えるのが大変だと思ってたんですが、今回の往路でビームバリアの有用性も確認できましたし、ミノフスキードライブでの長距離航行もデータが取れたので、両方とも木星船団公社の方にも共有しておきます。推測なのであんまり大層なこと言えませんけど、これからはもう少しジュピトリスでの物資搬入もペースが上がるかもしれません」

 

そうか、アステロイドベルトを超えてから連絡し、そこから1ヶ月足らずで木星圏まで来たのは、何ら偽りのない真実だったのだ。

 

5億キロメートル、片道2年の道のりを、変わることなどないと思っていた地球と木星との遥かなる道のりを、彼は変えたのだ。

 

彼は、世界を小さくした。

 

「木星船団公社にアナハイムからああしてこうしてとは意見できませんけど、連邦にも共有してデータ収集に協力してもらうよう働きかけてもらいます。ただ、現状のミノフスキードライブは大質量のものを動かすのが結構苦手で、サラミス級ほど足が速くなるとは思えませんが、そこらへんもデータが揃えば順次改善していけると思いますので」

 

あとは何だっけ、なんて小さく呟きながら彼は資料を確認する。

 

彼は、自分が為したであろう偉大なる功績を理解しているのだろうか?

 

彼は言う。まるで学校からの帰り道、早く帰れる裏道を見つけたかのような、そんな軽い口調で。

 

「試作品や新製品の紹介は、ざっくりそんな感じです。今回乗ってきたサラミス級の2番艦に乗ってますので、あとで切り離してお渡ししますね」

「……サラミス級ごと、ですか?」

「はい。その他に資材なんかも乗ってますので、そのままお納めください。あ!あと食料関係でお伝えしたいことがあります」

「食料関係で?」

「はい。最近ヤシマ重工とブッホ・コンツェルンが合同で作った、移動式の完全制御式植物工場についてです」

 

ドゥガチは、思わず身を乗り出しそうになった。

 

「今回乗ってきたサラミス級ですが、2番艦はサラミス級を改修した移動式の植物工場になっています。完全制御式かつ循環式のオートメーションなので、種まきから最終まで完全自動で稼働しています」

「では!あのサラミス級の中で、実際に植物が栽培されているということですか!?」

「です。単独で運用できるようにブリッジと機関室、それにその他の物資搬入のために格納庫はそのまま残ってますが、それ以外は壁を取っ払って、一部フロアぶち抜きで植物工場に改修されています」

 

言葉も無かった。あのカラスさえ唖然とした様子だった。

 

「今回用意した工場は、ジャガイモ、トマト、小松菜、大豆を栽培するものです。サラミス級で完結している工場なので、動力も核融合炉です。移動しない状態であれば最低出力で稼働し続けられますし、艦内に予備動力としてモビルスーツ用の核融合炉が2機搭載されています。ヘリウム3を充填する際も工場は予備動力で稼働し続けます」

 

生鮮食品だ。木星圏では希少品ゆえに口にする機会も少なかった生鮮食品が、その工場が、そこにある。その事実が信じられなかった。

 

「水に関しても補給なしで1年は稼働し続けられるようになっています。次回以降にお邪魔する際も同規格のサラミス級を持ってくる予定なので、その際に艦ごと交換するか、もし木星衛星から工場へ回せる水が確保ができるのであれば、勿論そのまま持続的に使用いただけます。今回お持ちしたミノフスキーネットが、木星衛星から採取した水の生成にも使用いただけますので、是非そちらも確認いただければ」

「……あのサラミス級1隻で、どれほどの量の野菜を生産できるのでしょうか?」

「栽培する品目にも依りますが、年間でおよそ200トン程度ですね」

 

200、トン。その数字を、カラスとドゥガチは反芻した。

 

その量は、木星圏の人口から鑑みれば微々たる量だ。誰もが口にすることが出来る程の量ではない。

ただ、木星で食品を栽培できる環境が新たに出来た。しかも、それは極めて容易に増やせるようにもなった。その仕組みが地球圏で確立された。

 

それは、木星にとって紛れもない福音であった。

 

「このサラミス級移動式植物工場は、被災地の復興に際して考案されたものなんです。一年戦争以降に大量に建造されて、大量に大破廃棄されたサラミス級を、ブッホ・コンツェルンが修理と改修を施して、ヤシマ重工傘下のヤシマ農園で開発された完全制御式の植物工場技術を圧縮して搭載させてあります。艦内で完結して食べ物を生産出来て、現地に負担を掛けずに生鮮食品を生育できる。地球の被災地や、地球圏の開発衛星などの使用を見込んでいます。大量生産も確定しているので、艦ごと手配してもコストはそれなりで済みますし、何より木星圏のコロニー外環境のデータを収集できれば、今後のアップデートにも役立ちますので、ぜひご活用いただけると嬉しいです」

 

この艦が、もしも彼の言う様に2か月や3か月ごとに増えていけば、一度に数隻分を持ってくることが出来れば、今後の木星圏の食糧事情は大きく変革する。

 

「……素晴らしい技術ですね」

「ありがとうございます。それに、植物の光合成によって二酸化炭素を回収してくれますので、プラントの一部をコロニー内に移したりするのも有りかもですね。それに、緑を見ると心が癒されますから。気持ち程度かもしれませんけど、長く宇宙にいると、植物の色味がありがたく感じるようになりますし」

 

僕はこの1ヶ月、観察日記を付けられるくらい2番艦でプチトマトを見てましたよ。

そんな風に、彼はおどけて笑った。

 

その笑みは、我々が望み続けて、しかしいつの間にか失ってしまったもののように思えた。

 

 

 

 

 

 

彼らは1週間ほど木星圏に滞在した。

 

その間に植物工場の切り離しと木星コロニーへの接続、作業用モビルスーツのレクチャー、遠隔操作型の無人採掘機の連続運用と最終セッティングを熟して、木星コロニーへの立ち入りは最小限に努めた。

 

木星圏は人の住める場所ではない。そんな場所に住むためには、水も食料も、空気さえも厳しく使用量を制限する必要がある。

 

彼らは、そんな状況でコロニーに長く滞在するのは申し訳ないと、艦の中でほとんどの時間を過ごし、結局コロニーへ立ち入ったのは、最初の説明の時と、最後に植物工場をコロニーに接続するときだけだった。仕方がないとはいえ、事前連絡も無しに急な訪問となってしまい申し訳なかったと。

 

無人採掘機は予想をはるかに上回り多くの収穫をもたらした。

木星衛星までミノフスキードライブでもって1日で到達し、固い氷の表殻をネットの出力をビームサーベルのように上げることでもって容易に切断し、また1日かけて戻ってきた。採取完了まで、都合2日と半日である。しかもその際に、オペレーターは時間ごとに交代しながら24時間付きっきりで、しかし大きな苦労も負担もなく任務を終えることが出来た。

 

一度の任務で、およそ9,000トンの氷塊を回収できることも確認できた。いや、最初の運用ということもあって、確実に確実を期した質量、体積での回収だったため、次回以降はさらに多くの氷塊を回収できる可能性も十分にある。

 

この状況であれば、少なくとも空気制限をする必要などなくなる。水の電気分解装置をフル稼働させ、それでも追いつかない状況になりつつあるのだから。

 

そんなことを伝えれば、「じゃあ次回はそちらもお持ちしますね」などと彼は言い放った。

 

またミノフスキーネットシステムは、氷塊を解凍し飲料水とする状況でも役に立った。核融合炉の熱で氷塊を解凍し、水蒸気の中から不純物をネットで回収する。大きな苦労を掛ける必要も無く、このシステムのみで水の入手が可能になったのである。

 

 

 

今日呼吸するための空気を心配せず、明日飲むための水を心配することない。

それがどれほど幸福であるのか、木星圏に住む者で理解できないものはいない。

 

 

 

新型の作業用モビルスーツも、コロニーを拡大するための作業機械として即戦力として使用することが可能だとも確認でき、また現行最新の、ジムの後継機であるジェガンともある程度互換性を持たせてある為、今後作業用モビルスーツのベース機を刷新する際も大きく苦労することは無いという。

 

 

 

我々は彼に質問した。これほど素晴らしいしマシンたちだ。どのようにして報酬を払えばいいと。

 

アナハイムと名乗って来たのだ。木星船団公社を差し置いてヘリウム3を融通しろとでもいうのか、そのように考えた。

 

しかし答えは違った。データが欲しい。次回来た時にミノフスキーネットや無人採掘機のデータを共有してもらえれば、それで十分だ。これは木星公社とアナハイムの合同試験のようなものだと捉えて頂ければと。

それらのデータが集まれば、地球環境の保全や、コロニー環境の整備、木星の今後の開発にも役立てるので、それが十分な利益を今後生み出すと。

 

それに、ヘリウム3は木星船団公社を通じて適正価格で取引するから問題ない。そしてフィードバックしてもらったデータをもとにマシンの精度を高めて、そのマシンを木星船団公社にアナハイムは販売する。木星公社はヘリウム3を木星船団公社へ販売し、対価としてそれら商品を購入する。そうすれば、三方良しの商売が成り立つと。

 

それでも腑に落ちなかった。それでは君たちに旨味が無さすぎると。その問いに、彼は答えた。

 

 

 

「木星開発は、地球圏に住むすべての人類を支える最重要なファクターだと思ってます。勿論これまでも極めて重要でしたけど。なので、その支援の為っていう部分はあります。それに……」

 

アステロイドベルトのさらに向こうで闘う、人類の最先端で最もタフな人たち、そんな人たちを応援するって、ちょっとカッコイイじゃないですか。

 

 

 

彼は子供のような笑顔を浮かべてそう言った。

 

 

 

彼らは嵐のように突然現れ、多くをもたらし、颯爽と去っていった。

 

まるで夢か幻のように。しかし、新たに増設された植物工場と、一面の緑と自然の香りが、それらが間違いのない現実であると証明してくれていた。

 

 

 

「……カラス」

「はっ」

「木星帝国の発足だが、どれほどかかると予想する?」

「……30年はかかるかと。いえ、彼の齎したこれらの装備があれば、20年で事足りるやもしれません」

「……20年か」

 

これまでの万難辛苦を鑑みれば、酷く長い。

 

しかし、これからの希望を思えば、そう長くもない。

 

「……40年だ。私は40年をかけて、この木星を人が住めるようにしてきた」

「はい」

「……その間、連邦は何をしてくれた?」

「……何も」

「そうだ。何も無かった。先達が死に、同輩が死に、後進が死に、多くの輩が命を落としてきた。それでもヘリウム3を採取し精製し、木星船団公社と取引することで何とか木星を人が住めるように大きくしてきたのだ」

 

ここは地獄だ。年若い頃は何度もそう思った。それでもこの場所で生きていくしかなかった。唯一往来するジュピトリスに、我々が乗れる場所などないのだから。

 

人類の為と、そう言い聞かせて必死に戦い続けて、いつしかそのお題目さえどうでもよくなっていった。

 

残るのは、連邦への怒りと、地球への怒り。いつしか思い描いていたのだ。木星圏を国家として地球連邦から独立させ、地球を燃やし、復讐を果たすと。そのための計画を立案すると。

 

その怒りが、フッと薄れた。

 

少年のようにあどけない彼は、誰よりも真摯に、何よりも丁寧に、我々に敬意を払って、必要であろう物を開発してまで、我々の元に来た。

 

気楽な口調で、また来ますなどと言って。

 

聞けば彼はまだ学生で、企業に所属しているがアナハイムの所属ではないと言った。

作業用モビルスーツや制御OS、ミノフスキーネットや無人採掘機を同い年の友人と二人で開発して、アナハイムなどの企業に協力をお願いして実用化させたのだと。

 

学生であることと、地球でもプロジェクトがあるから頻繁には来れないかもしれないが、それでも最初の訪問に関しては必ず行きたかった。自分が直接木星まで行って、説明したかった。それに何より、木星を見てみたかったと。

 

最後に彼は、お会い出来て光栄でした、握手してもらってもいいでしょうかなんて言って、まるでスター選手にでも会ったような調子で、私の手を取った。

 

それが、心を穏やかにしてくれた。それが信じられなかった。

 

「……40年は、長かったな……」

 

怒りと絶望をため込むには長かった。しかし、すべてを見限るには、まだ足りなかったらしい。

 

「20年、たった半分だ。カラス、木星帝国樹立のための準備は進めろ。私は、あと20年かけて見極める」

「畏まりました、ドゥガチ様」

 

志し高く木星に来たあの頃の私が、彼の面影と重なるように思えた。

 

今思い返せば面映ゆく、しかし輝かしい、青く幼い40年前の自分。あの時の心を、ほんの少しだけ思い出そう。

 

「なに、たった20年だ。すぐに来る」

 

手に触れる植物の青さが、その香りが、酷く懐かしいものだと思えた。

 

「そうだ、あの無人採掘機だが、無人採掘機や、彼らの言っていたコード番号やらでは味気ない。あれは木星圏の救世主となったのだ。相応しい呼び名が必要だとは思わんか?」

 

振り返ると、カラスはにんまりとした笑みを浮かべた。それに返すように、言葉を続ける。

 

「ジュピター・ノア。木星を救う方舟だ。そう名付けよう」

 

窓の向こうに映る、40年間見続けた木星が、酷く美しく、真新しく感じられた。

 




読了ありがとうございました。

これ小説になってるか?設定をだらだら書き連ねただけの作文じゃないか?書いて結構不安を覚えました。
木星関係をめっちゃ深く掘り下げることは無い、と思うんですが、どうしても話として挿入したかったので、「何やねんこの話、メインストーリー進めろや」と思う方が居たら申し訳ねえ。

バナージとミネバ関連をちょっと書いて、バナージをバイクに乗せて、ちょろっと日常パートを挟めば、多分最終章の閃光のハサウェイ編に入ると思います。

ただ構想は全然できてません。明日以降の私にご期待いただければ。頑張れよ、明日以降の私!



いつも誤字報告ありがとうございます。私は必ず誤字をする。見返せど見返せど誤字。
感想と高評価もありがとうございます。皆様の感想を楽しみに書いている私さえいます。承認欲求の怪物とは私のことです。

引き続き感想、高評価いただければ嬉しいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

≠ハサウェイ(作者:なべを)(原作:ガンダム)

「ハサウェイ・ノア」として生を受けてどう生きるかをつらつらと書き記したもの▼


総合評価:2540/評価:7.07/完結:39話/更新日時:2026年03月08日(日) 20:00 小説情報

地球連邦軍上層部はいつも多忙です。(作者:はにわはにわ)(原作:機動戦士ガンダム)

宇宙世紀0083年。核攻撃で観艦式が壊滅する中、地球連邦軍最高司令部の苦労人大将は、コロニー落とし阻止のため胃薬片手に奔走する。▼6/17 色々と事実誤認してしまい間違って消してしまった…\(^o^)/オワタ▼旧作は復旧出来ませんでした……▼現状の毎日投稿は、6月24日1時の番外編の投稿でストックが尽きるので、そこで一旦終わりになります。


総合評価:4051/評価:8.34/連載:15話/更新日時:2026年06月23日(火) 01:00 小説情報

逆襲のギュネイ(作者:黄金鉄塊騎士)(原作:ガンダム)

転生したらあっけなく天パにやられたギュネイ・ガス君だった件。▼原作とは違い、イキるのはやめて、▼スペックは結構高いこの体を使って宇宙世紀を謙虚に、命大事にの精神で生き延びます。▼逃げ回れば、死にはしないってシーブックニキも言ってたしね。▼ただ、宇宙世紀に転生したからには救える人は救っていきます。▼


総合評価:4824/評価:8.15/連載:9話/更新日時:2026年02月07日(土) 01:06 小説情報

人の心(の光)とかないんか?(作者:頑張っても駄無)(原作:ガンダム)

▼ あるけどない。それがガンダム世界である。▼ コレは2連続でガンダム世界に転生したチート転生者のダイジェストである。▼


総合評価:4095/評価:7.94/短編:7話/更新日時:2026年02月27日(金) 19:30 小説情報

旧型サラミスで生きる1年戦争(作者:カズkaz)(原作:機動戦士ガンダム)

ありきたりな転生ものです。機動戦士ガンダムをそこそこに知っている主人公が旧型のサラミスに乗り込み、なんとか1年戦争を生き抜こうと奮闘する物語。▼思い付きで投稿していますので続かないかもしれません。▼箸休めにご覧ください


総合評価:3087/評価:8.28/短編:21話/更新日時:2026年06月20日(土) 20:55 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>