ハサウェイがアムロやシャアに影響される前に機械オタクになった世界線のお話   作:陸奥九十九

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やっとバナージをバイクに乗せることが出来ました!やったー!
どうやって地球にバナージを降ろして、その上でバイクに乗せるかで結構悩みました。

お楽しみいただければ嬉しいです。


多彩なる強さ CB1300SB

アクセルと加速が直結している感覚。

一瞬の遅れも無くエンジンが呼応し、一瞬の遅れなく暴力的なトルクが車体を押し出す。

 

頭が置き去りになって体がつんのめり、両腕が伸び切って加速に耐えられなくなってアクセルを戻す。

 

一瞬、姿勢が乱れる。

まるでロケットの上にまたがっているかのような恐怖感。

 

加速が終わらない!

 

コーナーが迫る。すかさずブレーキを握れば、今度はタイヤがキュッと悲鳴を上げながらマシンが前へと沈み込む。

 

曲がれない!?

 

慌てるな!コーナーの先を見ろ!

 

恐怖でコーナーに視線を釘付けにすればそのまま突っ込んでしまう。視線は常にコーナーの先、クリアすべきコーナーの先、さらにその先まで見通せ。

 

スッと、さっきまでの挙動が嘘のようにマシンはコーナーを駆け抜ける。

 

大きく、重いはずのマシンは、しかしこれ以上なく従順に疾走する。

 

荒れた路面状況を、重い車重によってタイヤを接地させ、トルクで加速し、トルクで安定させる。

 

ほんの4,000rpmしか回していないのに、1,300ccという大排気量のエンジンは、300kg近い車重をものともせずに、振り回そうとする。

 

 

 

バナージは、その高揚感に興奮していた。

 

昔からハサウェイの言う「バイクは良いぞお。ガソリン車は良いぞお」をバナージはあまり共感できていなかった。

言ってしまえば、金のかかるクラシックカーのコレクション趣味と変わらないと思っていたからだ。

 

旧世紀のコレクション。それこそ芸術品や歴史的価値のあるものには、どれほど金を出しても欲しいと思うコレクターたちが山ほどいる。

兄アルベルトの仕事の手伝いとして、現在ビスト財団がメインで行っている芸術品の保護に少しでも触れるとそれがよく分かる。

 

パッと見て奇麗だな、美しいなと思う絵画から、一目見ただけでは何が何だか分からないような芸術作品まで、それはもうバカみたいな値段での問い合わせが来るのだ。

 

〇〇を是非とも売って欲しい。値段は言い値でいい、金で済まないのなら何なら対価にできる!?みたいな交渉さえたまに発生する。

無論ビスト財団は芸術品の保護が仕事なので売買はしないと断るのだが、それでもと食い下がるおじさまおばさま方は後を絶たない。

 

バナージは、理解はできずともそれらを否定するつもりは全くなかった。

 

欲しい物があって、それが希少で資産価値もある。タイミングがあった時しか購入できず、その可能性さえ低いともなれば、必死になるのは当然だ。

 

 

 

ただこうも思う。それなら株式や、相場が高値で安定している金や宝石とかで良いんじゃないか?と。

 

 

 

特にクラシックカーなどは分からない分野でもあった。車とは実用品で、走ってなんぼ、物を乗せてなんぼ、人を運んでなんぼの代物だろう?

走るわけでもなく、ただ飾るだけの車やバイクに、いったいどれほどの価値がある?それは、着れない服や、履けない靴と同じでは無いか?

 

バナージには一つの思想がある。実用品とは実用に耐えてこその実用品である。

 

戦場で動かないモビルスーツにモビルスーツとしての価値が無いように、かつて実用品であったにもかかわらず、時を経て構造的希少性から、例えば今はもう作られていないとか、同じようなものはあるがその時代にしか採用されなかった機構があるとかで、考えられないような値段が付く商品に対して懐疑的なものがあった。希少性は付加価値かもしれないが、それがその商品の性能を高めているわけでは無いだろうと。

 

だからこれまでハサウェイに誘われても、わざわざ内燃機関を搭載したレシプロエンジン車に乗ろうと思えなかった。それに、断ればハサウェイも無理強いはしなかった。

 

 

 

ただ、今回は少し状況が違った。

 

そもそもの話の始まりとしては、モビルスーツの開発コンセプトに関して、ハサウェイの意見を理解できなかったことから始まる。

 

ハサウェイは言った。

小型かつ軽量であることは、大出力かつ高性能であることを条件によっては凌駕すると。

それ故に、ガバナンCEOから依頼を受けた次世代量産機のコンペティションに関しては、小型モビルスーツの開発プランで企画を立ち上げたいと。

 

バナージはそれが理解できなかった。

 

高出力・高性能とは、すなわちポテンシャルの高いモビルスーツに他ならない。

これまでの歴史を鑑みてもそうだ。ジムがジェガンになり、ガンダムがニューガンダムになり、ザクがギラズールになった。

2メートル前後のサイズアップは確かにあったが、それでも確実に高性能化している。

 

確かにグスタフカールは大きすぎるし、ミノフスキーフライトを搭載するであろう次期ガンダムタイプは、それはもうバカみたいなサイズになるだろうし、あそこまで大きくする必要性は全くないと思うが、それでも高性能化は必須条件だ。であれば大型化も致し方なしとは思う。

 

ならば考えることは、ユニコーンやシナンジュの性能に近しい性能を発揮できる、それなりに安いモビルスーツの開発では無いか?

むしろ量産型ニューガンダムという前例があるのだから、量産型ニューガンダムを素体にして安価な次期主力モビルスーツを考える方が単純明快では無いか?

 

 

 

そのバナージの意見に対して、ハサウェイはやんわりと否定を示した。

 

量産型ニューガンダムは高価だし、高価なパーツを使っているゆえにニューガンダムは高性能なんだ。量産型ニューガンダムを廉価させると、それはただのジェガンになる。

 

ジェガンは高性能だし傑作機ではあるが、ほんの少し性能的に不安が残る。ハサウェイはそう言った。

 

バナージはその意見が理解できなかった。

 

いや、ジェガンの性能は足りているだろう。事実ジェガンは、条件を整えればシナンジュにもユニコーンにも勝てる。ハサウェイ自身がそれを証明している。それだけのマシンポテンシャルがあれば十分だろう。

それにアクシズ事件の折には、ロンドベルが性能で上回るギラドーガ相手に頭のおかしいキルレシオを叩き出したと聞いている。であればなおさら問題無いのでは?

 

ハサウェイはこう返した。

 

ロンドベルが勝てたのは、ロンドベルが頭がおかしいからで、普通の連邦のパイロットだとあのスコアは出せない。

 

今の連邦に必要な次世代機は、ボトムを引き上げるための、ジェガンの後に誰もが使う様になるマシンの基礎設計だ。

ジムIIでさえ地球では現役で使用されている。改修されて順次ジムIIIになっているらしいが、それでもまだジェガンさえ行きわたっていない。

恐らくジェガンが基準機になるのが5~10年後。今回設計するマシンが採用された場合でも、後方まで行きわたるのに20~30年かかるはず。

 

その未来に、ジェガンに毛が生えた程度のマシンがあっても多分物の数にもならない可能性がある。

であれば基礎設計から見直して、新技術を使ってコストを落として、その上で高性能かつ、誰でも扱える懐の広いマシンを生み出す必要がある。

ここで設計されたものがそのまま採用されるわけは無いけど、それでも+α程度じゃなくて、未来を見越したマシンコンセプトを企画したい。

 

その為にも、小型化と軽量化はマストになる。

 

ハサウェイは、確信をもってそう言っていた。

 

 

 

それでも納得が出来なかった。理解はしている。けれど、そのための手段が何故小型化と軽量化なのか?

何なら、あのミノフスキーフライト搭載機を20メートルサイズまでスケールダウンさせるか、もしくは超超高性能機を少数生産して、事が起こったらそのスペシャル機たちを超高速で現地に送り込む!なんて言われた方がまだ納得できた。

 

そんな様子を察してか、ハサウェイはバナージにこう言った。

 

明日、僕のガレージに来てください。究極の小型軽量マシンと言うものを見せてあげますよ、と。

 

 

 

そして、バナージはバイクに乗ることになった。

 

 

 

最後のBIG1。

CB1300シリーズは、1990年代のビッグネイキッドブームを、ブームが去った後でもコンセプトを貫き続け、都合30年以上販売し続けた異例のマシンである。

 

ダブルクレードルフレームにリアのツインサスペンション。その設計は1990年代当時としても古臭く、それ故に古き良きネイキッドスタイルとしてベストセラーになった。

 

ライバル車種であったGSF1200も、XJR1200も、ZRX1200も生産終了していく中、CB1300だけはマイナーチェンジを重ね続け、ライバルが消えた後も10年以上販売され続けた。

 

重く、大きく、しかし乗りやすい。

 

白バイにも採用されたCBは、極めてオーソドックスかつ乗りやすく、壊れない。唯一その重さがネックともいえるが、それだって走りだせば関係ない。

 

バナージの乗るCB1300SBは、ハーフカウルモデルだ。大型の風防のおかげで、ネイキッドバイク特有の高速域での風との戦いも存在しない為、重量級の大型戦艦が、風さえも切り裂いて前へと進んでいく。

 

CB1300は、オンロードの王者である。

 

 

 

その快感を、バナージは確かに感じ取っていた。

 

楽しい。バイクとは、これほど楽しいものだったのか?

 

ハサウェイはCBは乗りやすい車だといった。ピーキーなところが一切なく、しかしアクセルを開ければ暴力的なトルクで車体を前へ押し出してくれるし、その暴力性もアクセル開度によって調節できる。

 

ガバっと開ければこの車重でもってもフロントリフトするけれど、そっと開ければ従順そのもの。CB1300だけに使用された特別な技術、などと言うものは無いが、それは基礎設計が優秀であることの裏返しでもある。乗ればマシンの素性の良さと言うものが良く感じられる。そういう、角の取れた優等生だとハサウェイは言った。

 

では、この高揚感は、何だ?

 

100年以上昔の骨董品だ。ガソリンエンジン車なんて、太古の遺物だろう?

ハサウェイも言っていた。今の電気自動車に対して、内燃機関車が勝てる要素は殆ど無い。たとえ同じボディを使っても、エンジンとモーターでは重量が全く違うし、軽量小型化された高性能バッテリーは配置にも困らないゆえに自由な車両構成が可能だ。

 

エンジンはうるさいし、振動するし、ガソリン臭いしオイル臭い。多分人によっては、乗ってすぐに拒否反応でも起こすのかもね。

 

まあ、それが良いんだけどさ。

 

ハサウェイの言葉が、今になってやっと理解できた。

 

これは、良い。振動が、エンジン音が、全身を震わせてテンションをハイにさせる。

 

エンジンが発する熱が、走行風をたどって足にかかる。その熱感。

エンジンが唸る。さあ回転を上げるぞ、さあ前に進むぞと語り掛けてくるように。

ブレーキで車体が沈みこみ、タイヤまで潰れるような錯覚、しかし、体にかかる重力感が、マシンの接地感や安定感をより感じさせてくれる。

 

マシンの挙動、そのすべてが、分かる。

 

アクセルオンで荷重がリアに集中する。フロントサスペンションが伸び、体そのものが置き去りにされるような感覚。

ブレーキングで荷重がフロントに集中し、フロントサスペンションが縮み、リアサスペンションが伸びで、つんのめるような感覚。

 

この感動は、何だ?

骨董品のようなこのバイクが、こんな感動をくれるのか?

 

飾り気のない真っ白なCBが、官能的なエンジン音と、野太い排気音を奏でながら、スイスティロードを駆け抜ける。

 

速度計が150km/hを指し示す。しかし、まだまだエンジンは加速したがっている。

 

ユニコーンで地上戦闘をした時、音速までは出せなかったがそれなり以上の速度でストップアンドゴーをした。宇宙戦闘なら音速など優に超えて、超高速域で戦闘機動もした。

 

150km/hなど、止まっているような速度のはずだ。

 

されど、官能感と恐怖感が、背筋に冷たいものを感じさせる。

 

ヘルメットの内側が汗ばむ。緊張と興奮が入り混じる。

 

 

 

これはお遊びだ。クラシックバイクを、相当なコストを掛けて維持して、乗って楽しむお遊び。そこで得られるものは、自己満足の感動。

 

 

 

「最っ高だね」

 

自己満足上等である。このエクスペリエンスには、その価値がある。

 

EVバイクでも同じ体験はできるか?

……全く同じでは無いだろうな。エンジンのこの感覚、スイートスポットを美味しく使うために、ギアをガチャガチャと切り替える必要のあるこの不便さ。止まるためにブレーキディスクをパッドで挟み込んで、運動エネルギーを熱エネルギーに変換するこの原始的な仕組み。

そして、エンジン音、排気音、排気熱、振動、鼓動。

 

きっと何の意味も無いこれらの要素が、間違いなくこの感動を演出している。

 

 

 

やっとわかった。ハサウェイがガソリン車にこだわる理由。

そりゃ勿論資産価値はあるだろう。西暦時代の遺物、骨董品、文化財の保護として考えれば、それは崇高な趣味にも見える。

 

 

 

でも違う。そんなことを親友は求めていなかった。

 

楽しいから乗る。多分、それ以上の理由は無い。

 

単純で、明快で、馬鹿らしいほど子供っぽい、そんな理由。

バナージは、思わず笑みをこぼしていた。

 

 

 

 

 

 

ふと背後に、エンジン音が聞こえた。

サイドミラーには、ハロゲンのヘッドライトが2灯見える。

 

そのマシンは、ほんのひと呼吸でCBを抜き去って、先導車のように一定の距離で前についた。

 

見るからに、古い車。きっとレーシーではあるのだろうが、デザインと言うデザインが為されていないような、ラウンドノーズの銃弾のようなフロントカウルに、角ばったテールカウル。

そのマシンは、武骨で、シンプルで、しかしどこか原始的な美を醸し出していた。

 

 

 

GSX-R750。ハサウェイの言う、軽量コンパクトの究極系。

 

 

 

どこからどう見ても古いバイクにしか見えない。それも、このCBよりもずっと古いバイクに。

 

その直感は当たっていた。CBは1990年台の基礎設計だが、GSX、それも油冷エンジンモデルの基礎設計は1980年代だ。さらに言えば、CBは改良を重ねて2020年代まで販売されたが、GSXの油冷モデルは1990年代に姿を消している。最終モデルで比較しても、そこにはおよそ30年のひらきがあった。

行きつくところまで行きついたマシンの30年ではない。電子制御技術さえ搭載されていなかった1990年代と、インジェクション、ABS、トラクションコントロールが搭載されるようになった2020年代の差だ。そこには大きな隔絶がある。

 

しかし、ハサウェイはGSXを軽量コンパクトの究極と評した。

 

 

 

ハサウェイが、バナージを一瞥しハンドサインを送る。

 

ついておいで。

 

そこには余裕があった。

着座を直し、ハサウェイがマシンに伏せる。

 

それが合図だった。

 

GSXのエンジンが咆哮を上げる。

 

バアアアァァァーーーーーー……

 

そのテールランプが、一瞬で彼方へと遠ざかる。

 

バナージもCBのアクセルを煽る。

 

ブワアアァァーーーーー!!

 

マシンが一瞬リフトでもしたかのような加速でGSXへ迫る。

 

大丈夫、ついていける!

 

遠ざかったテールが近づき、そのテールランプが光る。ブレーキング。

バナージもそれに呼応するようにブレーキを握る。

 

減速、ターンイン、コーナーをクリアする、その途中でGSXは猛然と加速を始める。

 

今!?

 

まだコーナーは終わっていない。車体は正面さえ向いていない。こんなところで、アクセルを開けられるのか!?

 

 

 

バナージはバイクの運転に関しては歴は浅いが、素人と呼べるほどへたくそでもない。

峠道を走らせるにあたって、ハサウェイはバナージに講習を行った。いつも使っているガレージ前の空きスペースに、またいつものようにパイロンを置いて教習コースを作り、そのコースを小型のバイクで数時間追いかけっこしながら遊ばせたのだ。

 

幸いバナージは乗り物を運転するということに関しては十分以上に玄人であり、バイクの乗り方自体も早々に覚えた。基本となるリーンウィズも、ブレーキングも、タイヤマネジメントも、乱暴な言い方をすれば宇宙空間での超速格闘戦と比べればそう難しいものではない。

あとはバイクと言う乗り物自体が小さいため、ボディアクションで荷重移動を起こせばより曲がりやすいし、その荷重をアクセルとブレーキでもコントロールできればレーシングスピードでなければまず問題は無い。ハサウェイはそう伝えた。

 

 

 

峠道に入っても、そしてバナージを追い越しても、ハサウェイはテンポを上げ切らなかった。普段峠を流すスピードレンジから、一段から二段落としたスピード。気楽には乗れないけれど、神経質になるほどでもないスピード。

楽しめるけど、ちょっと頑張る必要があるそのスピードレンジで、伝えたいことは伝わると思った。

 

バナージは、ハサウェイとの編隊飛行にほんの少しの違和感を覚え始めた。

 

直線でもブレーキングでもターンインでもあっていた呼吸が、立ち上がりで明確に合わなくなる。

 

GSXがひと呼吸以上早く加速し、CBは明確に遅れ始めた。

 

しかしほんの少しの直線でまた追いつくのだ。当然だ、トルクが違う。

GSXの65N/mそこそこのトルクに対して、CBは120N/m近く出ているのだ。ハサウェイのGSXは吸排気系を軽くチューニングしてあるが、それでも出て70N/m程度。その差は、およそ1.7倍。明確に感じ取れるほどの差がそこにはある。

 

直線では追いつける。いや、ハサウェイが次のコーナーまで待っている。

 

待てるだけの余裕がそこにあるのだ。そしてそれは、ライダーの技量からくるものではない。

 

 

 

そして、次第にブレーキングでもタイミングがずれていく。

 

CBはGSXよりも早くブレーキングに入り、遅く立ち上がる。減速区間が長く、加速に移れないのだ。だからハサウェイが直線で待つことになる。

 

呼吸が合わないだけかとCBが先を行きGSXが後を追っても、それは変わらなかった。

 

GSXはCBの後ろを一定の距離で離れず、時折近づきすぎて距離を取るほどだった。深いコーナーに関してはコーナー途中でインをスパッと抜かれた。CBがコーナーで膨らむのに対して、GSXはどこまでも自由にラインを取っていた。

 

 

 

なるほど、これが言いたかったわけだ。バナージはようやくそれを体感した。

 

 

 

開けた直線で、スピードを上げずに体を起こし、もういいとハンドサインを送った。ハサウェイもそれに気付いて、ペースを落とす。

 

どう?とヘルメット越しにでも語り掛けてくるようだった。

 

もう十分、よく分かった、そう心の中で答えを返し、二人はガレージへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

「CBは、良くも悪くも古臭い設計を採用しているんだ。鉄のダブルクレードルフレームに、リアのツインショック。エンジンも耐久性重視で重く頑丈で、ただ排気量が排気量だから回さずともトルクでマシンが加速する設計で、多分スポーツツアラーとしてはこれ以上ないマシンだと思う。その代わり重いんだけど」

 

CBの周りをグルグルと回りながら、ハサウェイが解説をする。

 

「GSXはCBと比べても古いけど、技術的には新しいものが多い。フレームは鉄より軽いアルミを採用して、リアショックはモノサスに。エンジンも軽量な油冷エンジンを採用して、まあ油冷エンジンはCBの水冷よりも大分古臭いんだけど、まあ空冷と水冷の移行期だった当時、ハイパワーかつ軽量という異次元のパッケージングを提供できた」

「GSXの車重は?」

「乾燥重量で179kgで、車両重量なら200kgちょっとかな?」

「CBは?」

「車両重量で、270kgくらい」

 

それは重いなあ。バナージは思わず息を吐いた。

 

「うん、良く分かった。軽さは正義だ」

「なら良かった」

「でも、実際問題どうするの?フレーム、装甲、ジェネレーターで重量の大半は決まるわけで、スペックのボトムを現行のスペシャル機以上に設定するなら、現行機の延長線上じゃ達成できないでしょ?構造自体を抜本的に見直すってことだよね?」

 

マシンスペックと言うものは、パッケージングの結果であって、凄くひねくれた言い方をすれば、マシンを更生するすべての要素、その結果であり、それは多くの妥協から産出される代物だ。

コスト、加工難易度、整備性、耐久性。工業機械は性能維持のために多かれ少なかれランニングコストがかかる。商品価格が高ければそもそも買えないし、安くとも直せなければ長く使えない。スペシャルパーツを多用すれば在庫パーツが無くてすぐに直せなくなるし、かといって部品から何から何までコストをケチれば結果が伴わない。

 

そこら辺をいい塩梅で取り繕って、魅力的なパッケージを作る。それが工業製品の妙だ。

 

 

 

そして、突飛な構想を実現させるためには、莫大なコストを掛けるか、技術革新が必要になる。

少なくとも現行マシンのコンセプトの延長線上に、軽量コンパクトで、さらに高性能なマシンと言うものは連想できない。

 

ユニコーンはフルサイコフレームと言うスペシャル機であるし、クシャトリヤはサイコミュマシンとしての一つの完成系ではあるが乗り手を選ぶ。そしてこの2機ともそれなり以上にコストがかかる。

量産型ニューガンダムでさえ量産の視野に入らないのであれば、当然シナンジュも選択肢には入らないであろう。

ギラドーガ系列はジェガンに比べれば性能で勝るが、ニューガンダムと比べれば性能に劣る。

 

つまるところ、ニューガンダム以上のマシンをニューガンダム以下のコストで作るのは、現実問題不可能では無いか?という、一番最初の疑問に戻るのだ。

 

 

 

ハサウェイはその常葉に、にんまりと笑みを浮かべた。

 

「バナージ、僕がこの数年間、ただシドニー復興と木星開発だけに尽力してきたと思うかい?そして君が社交界で覚えなくちゃいけない要人の顔と名前の暗記に四苦八苦しているときに、ロトで遊んでいただけだと思うかい?」

「うん」

「てめえ表出ろ」

 

一瞬野郎二人の血で血を争う戦いが始まりかけたが、胸ぐらをつかむレベルで終わった。

 

「まあ、言いたいのはその技術の部分だよ。サイコフレームの、量産機への採用さ」

「え?……いや、無理じゃない?コスト的に」

 

そう無理だ。というかサイコフレームが量産できるのであれば次期主力機は適当に小型化したフルサイコフレームでいい。ユニコーンのデストロイモード、その80%程度の性能が発揮できればすべて解決するのだから。

 

しかし、それほど状況は簡単では無い。そもそもフルサイコフレーム機のポテンシャルを十分に発揮できるパイロットが少なすぎるからだ。ユニコーンはデストロイモードを使いこなして初めてスペシャル機の性能を発揮できる。ユニコーンモードだけでは量産型ニューガンダムのチューニング機程度だ。良い性能だが特筆すべきところは無い。

さらにユニコーンのポテンシャルをフルに活用できるパイロットは、ニュータイプかつエースパイロットレベルの技量があり、その上で耐G性能に優れたパイロットと言う、極めて狭き門をくぐれる者だけなのだ。

 

その上でフルサイコフレーム機はコストがかさむ。それ故に正式採用はまず不可能だと結論付けられた。

 

「いやいや、サイコフレームをそのまま使うわけじゃなくて、サイコフレームに使われた技術で、新しいフレーム構想をしたいなと思ったわけよ」

「新しい、構想?」

「これまでモビルスーツは、フレームはフレーム、コンピューターはコンピューターで独立してたわけでしょ?それを、フレームで一部代用させてみたいんだよね。例えば、フレームにコンピューターチップを内蔵させて、コンピューターとフレームを一体化させて小型化を図る、とか」

 

そこまで言われて、バナージはやっと得心がいった。

 

「……ああーー!なるほど!」

「ね!行けると思わない?」

「いける、ね。確かに。サイコフレームほどの性能は必要ないし、多機能化させる必要もない。それこそミノフスキーネットくらいの……」

 

そうだ、サイコフレームを使用しないミノフスキー粒子の活用に関しては、この数年でバカみたいな量のデータが集まっている。

 

しかも、木星圏という過酷な環境でのデータまで揃っている。

 

バナージは、背筋に電流が奔るような感覚を覚えた。

 

「……そうか、ミノフスキーネットの技術を活用すれば、フレーム強度自体をミノフスキー粒子で補うこともできるのか……」

 

さらに言えば、フレームそのものが情報伝達の回路になる。複雑な配線を引く必要も減るかもしれない。そうなれば、伝達系に関してもロスが減って、単純にレスポンスアップまで図れるんじゃないか?

 

ムーバブルフレームと同等、いやそれ以上の強度と柔軟性を、機械的では無く電子的に再現できるかもしれない。しかも、より安価に、より単純な構造で。

 

「……技術革新だ」

「でしょ?」

 

んふふー、としたり顔のハサウェイがにんまりと笑っている。

 

「基準機にはフレームオンリーで、エース機とかニュータイプ適性のある人向けにサイコフレームを採用させれば高級機の性能アップもある程度図れるし、何より基礎フレームさえしっかりと設計できればあとはかなり潰しがきくと思うんだよね。なにせ機械制御じゃなく電子制御のフレームだから」

「……うん、行けると思う。それに、何より軽量化が一気に進む。あとはジェネレーターは……ロトのがあるか」

「だね。流石にあのままだと出力的に不十分だろうけど、根本と言うか一番大変な小型化をサナリィがやってくれたから、あとはチューニングでどうにでもなると思う。凄いよサナリィ。今度工場見学とか行ってみたい」

 

フレームと、ジェネレーターはこれで当てがついた。

 

「じゃあ最後は、装甲か。でも、装甲はもう決まってるようなものでしょ?」

「だね。我らがヤシマ重工の新技術、マイクロハニカム構造でございます」

「流石ヤシマさんちのハサウェイ君、営業も上手いわけだ」

 

思わず二人で笑ってしまった。

 

そもそも今回バナージが地球に降りてこれたのは、ミネバのお忍びでの地球視察が関係している。

バナージはジオンのお姫様の入り婿で、若様で、そしてビスト財団の血縁者にして当主代行で、ビスト技研の代表なのだ。そうそう暇を作れる状況ではない。

 

今回の地球訪問は、地上の協力者へのミネバの陣中見舞い兼打ち合わせのための極秘行動でもある。

 

その一環でヤシマ重工への視察が企画され、休憩時間にハサウェイのガレージへと遊びに来れた状況である。

 

その視察の折に触れられたのが、ヤシマ重工が新開発したマイクロハニカム技術であった。

 

マイクロハニカム技術は、ミノフスキー粒子の立方格子に沿って異種結晶化結合を成長させる技術であり、これにより従来よりも強固なマテリアルを生成することが可能になった。恐らく次世代の惑星間航行艦やコロニー外壁、勿論モビルスーツや戦艦などに順次採用されていくはずだ。

 

より強固であるということは、従来の強度をより少ないマテリアルで担保できるということに他ならない。当然だがこれはコスト減と軽量化を助けるものになる。

 

「あ!マイクロハニカム技術でコンピューター内蔵のフレームを精製できれば、さらに軽量化もできるのか!」

「ね!構造そのものを強固にして、さらにそれをミノフスキー粒子の斥力で強化して強度と靭性を持たせる。もし上手く行けば、軽量コンパクトで、軽いが故の高性能を発揮できて、しかもお安いモビルスーツになると思わない?」

「あとは……配置くらいかな?小型化する以上はこれまで通りとはいかないだろうし、サイズにも依るだろうけど、胸部にコクピット、腰部にジェネレーターの従来の配置だと収まりきらないか?」

「あ、それに関してだけど、ジェネレーターを背中に移すのは如何?」

「背中?バックパックユニットがあるけど……」

「バックパックとジェネレーターを一体化させて、ボディはコクピットだけにしちゃうんだよ。ジェネレーターの整備って手間でしょ?それをバックパックと一緒に取り外しができるようにすれば、整備性も向上するし、一番装甲が多いボディをコクピットだけで占領できるから、安全性も増すんじゃないかって」

「……良い、ね。うん。ジェネレーターからの動線がちょっと悩ましい気もするけど、まあ何とかなるか。何よりジェネレーターの交換でいちいち胴体を割らなくていいのは確かに楽だし」

「でしょ?それに、もし新型のジェネレーターが登場しても、バックパックなら後からどうとでも形状変更できるし、腰部に搭載させるよりサイズ的にも自由度が高くなる。そうなれば、作業用として民間に販売するときも、ジェガンとかジムとかのジェネレーターとのスワップもやろうと思えばできるだろうし」

「ああーー、確かに!結構あるよね、ジェネレーター壊れたけど新品ASSYはコスト的に難しいからって全然別なジェネレーター付けてるやつ!何だったら、それの対応アタッチメントとかも需要あるかもね。ジェガン用とかジムIII用とかで」

「確かに!」

 

ガレージの前でバイクを囲みながら、2人は話す。

工専の頃と変わらないような駄弁り。その盛り上がりが留まるところを知らなかった。

 

 

 

 

 

 

ひとしきり意見が出きって、徐々に雑談が混じっていく中で、ふとバナージの端末からアラームが鳴る。

 

「ごめん出る……はいバナージです。……はい、わかりました。今から戻ります」

 

電話を切り視線を合わせるバナージは、まるで楽しい放課後に5時だから帰って来いと電話を受けた子供のようだった。

 

「お仕事?」

「だね。ちょっと予定外のお客様が来たみたい」

「大変だ。じゃあ、行ってらっしゃい」

「行ってきますよ。……そう言えばこういう時間結構久しぶりだったっけ?」

「えーっと、そう、かな?バナージ忙しいし、そうかも?」

「忙しい時もあるけどさ、時間作っていこう。こういう時間、結構大事だと思うから」

「確かに」

「そうだ。CB借りてって良い?急ぎみたいで」

「良いよー。乗ってきな……こかすなよ?」

「こかさないよ」

 

じゃあ、と言ってCBにまたがる。ふと思い立ったように、バナージがヘルメットのシールドを開けて振り返る。

 

「そう言えば、企画の名前はどうするの?早い気もするけど、何か決まってる?」

「ああーー……ジェガンIIとかジムIVでも良い気がしたんだけど……」

「けど?」

「新規格だしね。思い切ってカッコいい名前でも付けてみよっか?規格、フォーミュラー……だとちょっとストレートすぎるか。小さいけど中身は別物なんだし、スーパーシルエット?は、ちょっと古臭いか?なら……そうだ!」

 

シルエットフォーミュラー、なんてどうかな?

 




読了ありがとうございました!

多分多くの人がそんなに望んでないバイクとか車の話ですが、でも好きなんです!そんな思いで書きました。

メモ書き程度ですが、今回の話が宇宙世紀0102くらいの想定なので、次回あたりから閃光のハサウェイ編に入るかなと思います。

まだまだ構想も朧げな部分がありますが、多分明日以降の私がまとめてくれるはずです。明日以降の私、頑張って!

いつも誤字報告ありがとうございます。AIとかが誤字脱字指摘してくれるのとかあるらしいですが、古臭い人間の私は全て手作業です。ああ時の流れに置いてかれている。

感想と高評価もいつもありがとうございます。大変うれしいです。頂ける感想すべてが創作への活力になっております。本当にありがとうございます。

引き続き感想と高評価、頂けると幸いです。
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