ハサウェイがアムロやシャアに影響される前に機械オタクになった世界線のお話   作:陸奥九十九

55 / 60
今回の話は書くのに異様に詰まりました。スランプとか高尚なものじゃないんですが、絶妙に筆が進まなかったです。

どうでも良いけどアマプラにキルケ―の魔女追加されましたね!やった!

今回のお話もお楽しみいただければ幸いです。


暗転

ダバオの街が燃える。

 

燃えた炎が夜空へ昇り、灯となって街の惨状を目に映させる。

 

あれほどリゾート地然とした街並みは、モビルスーツの襲撃によって瓦礫の山となり、街路樹は燃え、車も燃え、家も燃えて、今はただ逃げ惑う人々の悲鳴と、今もなお襲撃を続けるモビルスーツの音、そして破壊される街の音、それらを止めるわけでもなく、ただただ流れ続ける空襲警報のサイレンが逃げる人々の不安を掻き立てて、ダバオはこの世の地獄となった。

 

燃える炎の熱が、肌に迫って、吸い込む息さえも熱くさせて、恐怖を煽ってくる。

 

そこら中から肉や脂が燃えるような嫌な臭いが鼻を突く。きっと燃えているのだ。逃げきれなかった人々が。押しつぶされた人々が。

 

地上の戦場は悲惨だ。何もかもがそこに留まってしまうから。

 

死体も、残骸も、悲劇も、絶望も、すべては地獄と化した戦場に留まり続ける。

 

 

 

それでも、まだ死んでいないのだから、死にたくなどないのだから、走れ。

 

 

 

ハサウェイは走る。ギギの手を引いて。

 

目指すべきは、大通りに出ればいるであろう警察。間違いなく避難誘導が始まっていて、戦時協定に基づいた仮設避難所が早々に作られており、住民避難のために警察が右往左往しているだろう。ハサウェイはそう状況を読んでいた。

 

しかし、状況はそうでは無かった。

 

 

 

「ま、っじか……」

 

見渡せども警察の姿は無く、あるのはただ空を悠然と舞いダバオの街を破壊する推定ティターンズのモビルスーツ。

 

そして何より、酷く見慣れた装甲車両によく似たモビルスーツで、街を蹂躙する機械化歩兵の集団だった。

 

 

 

警察がいない、というか、連中がロトを使ってる?

 

 

 

ティターンズ、いや、これはタカ派の連邦軍の反乱なのか?ハウンゼンから降りた穏健派の連邦政府関係者を拉致して、アデレード会議そのものを潰す目論見なのか?

 

……いや、今はそれはどうでもいい。

問題は、逃げる先が無くなったことと、状況を切り抜ける手段がなくなったことだ。

 

 

 

ハサウェイはようやく理解した。ホテルにビームを撃ち込んだのはなぜか、街をわざわざ燃やしたのはなぜか、ハウンゼンですべてを終わらせなかったのはなぜか。

 

見せしめだ。

 

ティターンズに逆らえばここまでされるぞ。俺たちはここまでやるんだぞという、単純明快な脅し。18年前の、グリプス戦役の時と何も変わらない手段を、連中はわざわざとってきた。

 

 

 

どうする?

 

ギギの手を引き建物の陰に隠れると、ようやく休めるのかといった風に、ギギは地面へと座り込み、もう一歩も動けないという風体で呼吸を荒げていた。

 

一旦落ち着こう。そして状況を整理しよう。

 

多分ティターンズによってダバオはほぼ完全に制圧されたんだろう。

警察に軍隊に対抗する力は無い。今なお飛んでいるモビルスーツがビーム兵装を装備している時点で、警察はティターンズに対して歯向かうことはできない。

 

それにしても国際条約で結ばれている非武装の民間人の保護まで完全に無視して状況を始めている。どう落とし前を付ける気だ?

ここまで事を大きくした時点で、国際社会で立場を認められる状況じゃないぞ?

 

 

 

ドオォーーーン……と大きな振動が響く。

 

即座に地面に座り込むギギを問答無用で肩に担いで、ビルの影からハサウェイが飛び出す。

 

「ええ!?」

「喋らないで、舌を噛みますよ!」

 

土嚢のようにギギを肩に担ぎ、逃げる。

すると衝撃の振動からか、先ほどまで隠れていたビルの影に、崩れたビルの残骸が土砂崩れのように打ち付けて、粉塵を周囲に振りまいていた。

 

ギギは恐怖から喉の奥が引き攣ったように、ヒッと変な音を出した。

 

「耳をふさいで口を開けて!」

 

思考することも無くギギは反射的にハサウェイの言葉に従っていた。

轟音、というより衝撃が走る。

 

撃ち込まれたビームが近くのビルに直撃し、轟音を鳴らしてビルを撃ち抜き、真っ二つになったビルの上半分が、目視できるような距離に落下していった。

 

ハサウェイは走って再びビルの陰に隠れる。

 

数瞬後、倒れたビルの残骸が石礫となって、周囲に散弾銃のように散乱する。

それが周囲の車や、建物や、そして逃げ惑う人々に当たり、当たったものすべてをかつて形を持っていた残骸へと変質させていく。

 

車は鉄くずに、建物は廃屋に、そして、人は肉塊に。

 

ハサウェイはその光景に顔をしかめて、ギギは絶叫した。

 

「い、いやあぁーーーー!?」

「……目を閉じて、深呼吸して。落ち着くまで続けて。空港の時と同じように」

 

腕の中で暴れるギギを抑え込むようにハサウェイは抱きとめる。

 

ハサウェイは顔をしかめたままだった。それは、道に広がる惨劇に心痛めたわけでもなく、暴れるギギに苛立ちを覚えたわけでもない。

 

ビームの明かりに照らされたせいか、一瞬見えた空の影に顔をしかめていた。

 

 

 

ハサウェイは考えていた。何故ここにロトがいるのかと。

 

そもそもロトは少量生産の、基本的にはエコーズ専用機だ。エコーズの部隊数はそもそもそれほど多くないし、ロト自体が作戦を選ぶためすべての部隊に配備されているわけでもない。

この作戦に投じられたロトもそう多くは無いだろう。1個小隊か2個小隊、多くても10機も無いだろうとは予想できた。

 

では、ロトをどうやってダバオまで運ぶ?

ダバオは海に面しているが、そもそもミンダナオ島まで海路を使ってモビルスーツ部隊を秘密裏に運ぶのはほぼ不可能だ。

 

連邦の定期巡回船は海のあちこちにいるし、アナハイムの貿易船はそれ以上にどこにでもいる。その包囲網を掻い潜るのはまず不可能だ。

では強行突破すれば?ダバオの街をこれほどまでにしてしまう連中だ。大義や正義を掲げて、理想の前の小事だ、などと連邦もアナハイムも攻撃してしまうのでは?

 

それは、まあ無いだろう。連邦の巡回船はともかく、アナハイムの船を墜とすということは、アナハイムを敵に回すということに他ならない。

そうなったらアナハイムは徹底的にやる。それこそ「地球で商売するのが怖くなったから1ヶ月程度流通網の一切が滞るかもしれない」などと連邦と地球の全企業、そして地球の権力者に呼び掛けて。

そうすれば大義も何もない。単純に世界が敵に回る。そんなへまをやらかすほど愚かとは思えない。

 

 

 

つまるところ、ロトを運び込むには空路しかないということだ。

 

そして、空に見慣れた超大型輸送船が見えた。ほんの一瞬見えたそれを、ハサウェイは見逃さなかった。

 

空に一瞬だけ映った、ぼってりと太った魚に翼を生やしたかのような超大型輸送機。

 

ガルダ級輸送機。

 

数年前に地球上の物資配送の為に数機新造されたと聞いたが、それじゃないよな?

 

確かにあれならばロトの5機や10機、楽々に運ぶことが出来る。それにガルダならば成層圏飛行も可能なはずだ。地上のレーダーに捕捉されずダバオに近づき、先行するモビルスーツ部隊がミノフスキー粒子を散布、その後に降下してロトを投下、その手順ならば確実にロトを地上に下せるだろう。

 

本当に手が込んでいる。見習いたくはない勤勉さだとハサウェイはつくづく思った。

 

 

 

警察は来ない。逃げる足は無い。ホテルで倒した連中からひったくった拳銃程度はあるが、正面戦闘が出来る程の火力も衝撃力も無い。

 

八方塞がりだな、さてどうしようものか。

 

 

 

ハサウェイがギギの背中をトントンと叩きながら思案していると、酷く特徴的な音が空に響いた。

 

怪獣の鳴き声のような、酷く特徴的な高音と、空気を切り裂く音。

 

 

 

「流石ケネス大佐、仕事が早い」

 

ペーネロペーが、戦場に到着した。それは、この戦場の終焉の合図でもあった。

 

 

 

ペーネロペーが空を泳ぐように飛翔する。ティターンズと思われるモビルスーツはペーネロペーへと攻撃をはじめ、それを迎撃するようにペーネロペーも戦闘を始めた。

 

 

 

やはりティターンズはタカ派、というか小派閥で、この作戦自体が連邦内で合意が取れて行われたものではない。少なくともケネス大佐との意思疎通はとれていない。

ホテルから逃げ出してそう時間は経っていない。となれば、ケネス大佐の部隊は、襲撃からほぼ最短で部隊を動かして、状況の鎮圧に動いたことになる。

 

いや、そもそも大佐はマフティーに言及する際に、清廉さだとかそういったことを言っていた。テロを肯定する気は無いが、どちらかと言えば正義に従う高潔な精神を持っているように思えた。

そんな人が、これほど惨たらしい作戦に同調するとは思えない。

 

 

 

なんにせよ状況は一気に良くなった。

ペーネロペーとレーン中尉ならば、30分もせずに状況を鎮圧できるだろう。大佐はレーン中尉の戦闘能力に不満を抱いていたが、あの練度での戦闘で不満を抱く程度には先任部隊の戦闘能力が高いのかもしれない。もしそうならばより早く状況は終わる。

 

となれば、あとは状況が終わるまで連中から逃げ隠れていればいい。

 

 

 

……まあそれはそれで難易度が高いわけだけれど。

 

ペーネロペーの到着で一気に戦場の気配が変わった。狩る側が狩られる側になったのだ。

連中にとって、この戦場は勝ち戦から負け戦に偏り始めた。連中がペーネロペーの性能を知らずとも、戦場での暴れっぷりさえ見れば早々に部隊を引かせるだろう。

 

早々に部隊を引かせてくれるならばそれで良し、遅れるならばレーン中尉が片づけてくれる。

 

状況の終焉は見えてきた。

ハサウェイはそう思った。

 

 

 

 

 

 

しかし、状況は依然としてハサウェイたちにとってクリティカルだった。

 

敵の数が予想よりも多い。このままでは戦闘状況が収まるまで逃げ続けるのも困難かもしれない。そう思った。

 

ハサウェイの戦闘能力はそれなり以上のものがある。幼き日より祖父ゲンイチロウに紹介された道場へ通い、そこで師匠アギト・カノウと出会い様々な武術を修めた。工専へ通うようになってからは護身術程度に銃の扱いを覚え、インダストリアル7襲撃以降はロンドベルとネオジオンから本格的な軍事訓練も受けてきた。

 

フロンタルから「親衛隊に今すぐ入ってもらっても何ら問題ない。むしろ姫様と若君の護衛として専門に雇いたい。総帥のお目付け役でも良い」とお墨付きをもらえる程度には戦闘能力は高い。

 

しかし、それはあくまでもハサウェイ単独で、万全に動ける状態での評価だ。

凄惨な戦場を見たせいか、脱力して声にもならぬ声を上げるギギを抱きかかえたままでは、その実力の半分も発揮することはできない。

 

その上、現状の装備はホテルで倒したティターンズ兵士から奪った拳銃とナイフ程度のものだ。走って逃げる都合上、そしてギギを守りながら逃走に重きを置くと判断した時点でアサルトライフルは、持っていきたいけど邪魔になるだろうから仕方ないけど置いていこう、と苦渋の判断の元ハサウェイは軽装を選んだ。

 

その判断は間違いではなかった。実際問題ギギを抱えて逃げているわけだし、いざとなれば右手はフリーに出来るが、エコーズのように片手でアサルトライフルを撃てるほど人間離れはしていない。拳銃と弾倉を2つ。この戦場だけに限れば十分すぎる、そう推測した。

 

何よりもハサウェイのニュータイプ能力によって、敵が迫っているのかどうかはある程度判断できる。

あちらから来るからこちらへ逃げよう、こちらから来るからあちらへ逃げよう。

敵に遭遇しない。戦闘を起こさずに、護衛対象に不要な危機感を与えずに、なんとか状況をしのぎ切る。

騒がしい戦場であることも幸いし、ハサウェイはほぼ完全に敵の捜索を欺いていた。

 

 

 

だが、状況はペーネロペー到着後も転がっていないように感じられた。

 

何故?ガルダを用意していたとしても、投入できるモビルスーツの数はたかが知れている。

洋上ないしは海中に艦を待機させられたとしても、大規模な艦隊を準備できるとは思えない。

せいぜい投入できる戦力は、モビルスーツ2,3小隊。3分、は無理にしても、5分あればペーネロペーならば駆逐できる程度の戦力だ。

 

にもかかわらず、空中では未だにペーネロペー以外の連邦機が、推定ティターンズのモビルスーツと戦闘を繰り広げており、未だ状況は収まりが付かない。

 

 

 

というかなんだあのモビルスーツ。ギラドーガ?……では無いな。それに所々ジェガンのようなパーツもある。何だあのマシン。まるで今使えるパーツでざっくり整合性合わせて突貫作業で作ったキメラみたいなモビルスーツじゃん。

 

まあ、流石にマラサイやらハイザックやらで現行型のジェガンと戦うのはだいぶ無理があるだろうから何らか用意しているとは思っていたけど、思ったよりも連中の懐事情は厳しいのかもしれない。

 

じゃあ、この襲撃は用意されていたものだけれど、意外にも破れかぶれで強行された作戦か?

 

……いや、さすがにそれは違うだろう。ハウンゼンの乗客やらフライト情報をリアルタイムで確認できるような情報戦が出来る敵ならば、ケネス大佐がペーネロペーを持ってくることも知っていておかしくない。であれば、現状ペーネロペーが市街地上空の戦場に介入できていないのは、ペーネロペーにメタを張った何かを用意しているから、ということか?

 

 

 

戦場の狂騒が徐々に高まっていく。

 

嫌なテンションの上がり方だ。そして、これは僕たちに味方しない。敵が状況を徐々にクリアしている、敗北の気配が死の足音を伴って徐々に近づいてくる感覚だ。

 

ハサウェイは不安がるギギの背中をトントンと叩きながら、尚も息をひそめる。

 

敵兵の数が増えてきた。ということは、先に攫った人質たちの収容が終わって、最後の人さらいに精を出し始めたということだろうか。

電撃戦をじりじりと長引かせるバカはいない。ペーネロペーの足止めもそう長くは持たないだろう。

ペーネロペーを足止めするにはモビルスーツでは不可能だ。しかも、戦場から離すということは、戦場で敵機を片付けるより先に、どうにかしなくてはならない目標を敵に認知させなくてはならない。

例えば敵艦隊がダバオのすぐ近くまで来ていて、艦砲射撃でダバオを更地にしようとしているとか、ペーネロペーを圧倒出来るようなモビルアーマー、例えばシャンブロのような特機が迫っているだとか、そういった状況を演出する必要がある。

 

その状況がどんなものなのかはハサウェイには想像できなかった。

ただ確信していることもあった。ケネスの部隊指揮とレーンの技量があれば、この程度の戦場はどうとでもなる、と。

他のモビルスーツやパイロットの能力は知らないが、その確信がハサウェイにはあった。

 

 

 

しかし、それでも戦況は悪化し続ける。

 

「貴様!止まれ!!」

 

見つかった。

 

まあ流石に仕方ないかとハサウェイは息を吐いたが、問題は敵の粗っぽさだった。

 

 

 

バララララララッ!!

 

 

 

当たり前のようにフルオートで発砲してくる。止まれという割に捕まえる気が無いような、殺すことは前提で生き残ったらとりあえず捕まえておこうかというような、虐殺同然の動きで襲ってくる。

 

「っ、い、いやぁーーーーっ!?」

「口を閉じて!舌を噛みますよ!!」

 

腕の中で絶叫するギギが、残念ながら敵の道しるべになってしまう。そしていくら軽いとはいえ女子一人を担いだ状態では敵を振り切ることはまず不可能だ。

 

 

 

まだだ、もう少し引き付けないと。

 

 

 

ライフルと違って拳銃の射程は短い。スタンディングでも完全停止で3秒もあれば100メートルの距離でも当てられるハサウェイだが、ギギを抱え、かつ片手で発砲する条件では、流石に50メートル前後でないと当たらない。そう判断した。

 

敵兵の練度は、幸いなことにそう高くない。接敵の瞬間に殺されていないのがその証明だ。

 

あとは距離を測りつつ、半身だけ後ろを向ける瞬間を見つけろ。

 

走りながら、射線を切って、パッと振り向ける瞬間。

 

 

 

建物、自動車、街灯、電柱、ジグザグに走りながら射線を切るが、人一人を腕に抱えるハサウェイと、重いが全身に重量が分散する軍事装備を纏うティターンズ兵士では、やはり後者に速力では分があるように見えた。

 

徐々に距離が詰まる。

 

ハサウェイが裏路地へと逃げる。それは敵にとっては望ましいことだった。

 

その裏路地は横道のない50メートルは続く一本道だ!逃げ場なんてない!

 

勝利への確信。予想よりもずっと長く続いた追いかけっこがようやく終わる、その安堵感。何の憂いも無く、緊張感をほんの少し欠いた状態で、裏路地へと飛び込んだ。

 

 

 

「お待たせ」

 

 

 

そこは、ハサウェイの狩場だった。

 

パン!パン!パン!

 

半身で立ち止まり、ハサウェイが撃つ。

撃ち抜いたのは、ライフルと両脛。視界不良、距離およそ60メートル、片手射撃。寸分のずれも無く、ハサウェイは対象を撃ち抜いた。

 

 

 

崩れ落ちる敵兵を見届けることも無く、半身をひるがえして再び逃走に戻る。

 

 

 

その時、ハサウェイの脳に危機感が走った。

 

 

 

なんだ?……包囲され始めている?

 

ハサウェイが感じたのは急速に移動を始めた人の動き。それはまるで、自分の周辺へと集まってくるかのようにさえ思えた。

 

何故?何かこの周辺に目標でもあるのか?それとも、運悪く合流ポイント近辺へ流れついてしまった?

 

巡る思考と共にハサウェイは走る。

 

人の動きは激しくなったが、しかし戦場は徐々に収束し始めている。

空を舞っていたティターンズ機はその数を少なくし、今やジェガンの方が数は多く見える。大げさな戦闘は殆どが終わったように思えた。

 

であれば、ここらが潮時だと連中も認識しているはずだ。にもかかわらず、敵兵は未だにダバオの街で野良仕事をするかのように動き続けている。

 

何故退かない?このままダバオの街で逮捕されるなんてへまはしたくないだろうに。

 

まとまらぬ思考、されど、戦場は今もなお転がり続ける。

 

 

 

バララララッ!バララララッ!

 

 

 

まるで最後の花火を上げるかのように、苛烈な銃声があたりに響く。

 

何処へ逃げる?……いや、まずいな。ほぼ完全に包囲されている。

 

土地勘の無さが祟ったか。ハサウェイは一人ほぞを嚙んだ。

 

敵の数は、5か、6か、いやもっといるな。見えないだけでロトもまだいるはずだ。

八方塞がりになってきたな。それに戦況がグダグダになってきた。

 

逃げるにしても難しい。隠れ続けるのも難しい。ペーネロペーが未だダバオ市街地へ戻って来れず、さらに言えばダバオ基地の全部隊が戦線に投入されたとも思えない。

このままでは遠からず敵に見つかる。そうなれば、間違いなく銃撃戦になる。投降したとして、彼らが戦時協定を守るとも思えない。最悪の状況を想定すれば、とてもじゃないが連中に身を差し出すことなどできない。

 

建物の陰に隠れ、周辺への警戒を怠らず、しかし大きく息をついた。

ハサウェイはギギを降ろし、そのまま中腰姿勢で身をかがめる。

 

 

 

ハサウェイは思考する。

 

安全に逃げられる場所は無い。むしろ上空での戦闘が終わった今、敵兵がはびこる市街地は空から何かが降ってこないという点においては比較的安全かもしれない。

振り切れるかどうかも分からない状況で逃げの一手を打って、例えば海へ逃げた場合、陸と海からの挟撃を受ける可能性もある。いや、なんなら艦砲射撃でバラバラになりかねない。海だとまだモビルスーツ戦闘が続いているかもしれないし、その可能性を考慮すればまだマンハント気取りの雑多な兵士と鬼ごっこをしている方が気持ちとしては楽だ。

 

だがそれもそう長くは続かないだろう。自分はまだしもギギの精神が持たない。ハサウェイはそう考えた。

 

ギギの心から恐怖の感情だけが伝わってくる。戦場に押しつぶされそうになった子供の頃のように、この状況を続ければ彼女の心は壊れてしまうかもしれない。

 

だが、状況を解決する手段が、現状の手札にはない。

 

ギギを抱き寄せ、かつてチェーミンやクェスにそうしたように頭を撫でるが、それが慰めにしかならないことをハサウェイはよく理解していた。

 

 

 

ハサウェイが今後の方針を脳内会議する中、ギギはただハサウェイの胸に埋もれ、恐怖を何とか押し殺そうとしていた。

 

温かい。ハサウェイの体温が、体を伝って恐怖を溶かしていく。けれど、その程度では収まらないほどの恐怖がすぐに迫り、身を震わせる。

 

 

 

酷い、こんなの、ひどすぎる……

 

 

 

ギギとて世の苦しさというものはこれまで幾度も経験してきた。生きるために、生き抜くために。そのために多くの犠牲を捧げて、今の自分の地位を得た。その努力は、その苦痛は、筆舌に尽くし難く、しかしその苦痛こそが、ギギを構成する自信の一つにもなっていた。

 

しかし、この地獄は違う。

 

人の命が、まるで風に舞う埃のように意味も無く散っていく。閃光が奔り、硝煙と粉塵が舞い、血煙が起こり、人の命が失われていく。

 

それは穏やかなものでなく、尊いものでもなく、ただただ命が浪費されていく地獄の業火だ。こんな絶望は知らない、こんな地獄は知らない!

 

ギギは戦場に恐怖し、戦慄し、恐慌していた。

 

それでも正気を保てていたのはハサウェイという絶対的存在の加護があったからだろう。

 

それはギギが求め続けていた父性によく似たもので、しかしそれ以上に荘厳かつ雄大なものであった。それこそ、神の力を思い浮かべるかのような。

 

 

 

ハウンゼンでハサウェイを見た時から、ギギはその存在感に惹かれていた。樹齢数百年を超える大樹の傍にいるような、圧倒的な存在感と、安心感。

社交の場に出ればオーラを纏った人間などいくらでもいる。ただ、そこにはぎらつく野心と、可視化されるほどのどす黒いオーラも付きまとうのだ。

ギギは自身のパトロンであり、シュガーダディであるバウンデンウッデンからよく教育されていた。人の見方、関わり方、立ち振る舞い、言葉遣い。19歳の少女にしては堂に入った立ち振る舞いが出来るのはその教育の賜物であり、またギギ自身の適応能力からくる才能でもあった。

 

そんなギギでさえ、ハサウェイからは非凡なる、それこそこれまで見たことない程の圧倒的な存在感を感じ取った。

それは、バウンデンウッデンを優に凌駕し、かつて遠目に拝見したシャア・アズナブルのそれに近しいレベルでさえあったと感じた。

 

だからこそギギはハサウェイに近づこうとした。それは本能にほど近かった。

あの凄まじい人に近づきたい、あの美しい人に近づきたい。容姿こそ凡庸なはずのハサウェイの相貌さえも、ギギには特別に思えた。

 

酸いも甘いも、人の醜さも、一通りは経験したと思っていたギギが、まるでませたローティーンの少女のようにハサウェイに惹かれていた。

それこそ、容姿ならばハサウェイよりも整い、ギギの好みである年上の頼れる大人を感じさせるケネスなど目に映らぬほどに、彼を当て馬にして自分の存在をハサウェイにアピールしようと思えるほどに。

 

ハウンゼンで、空港で、そしてホテルのロビーで、浮つく心を何とか押し殺してアプローチをして、その結果に一喜一憂して、まるで初恋を覚えた少女のように、必死になってハサウェイに接近した。

その多くは無為に帰したが、それでもハサウェイと会話をすること自体が楽しく、ただただ近くにいたいと、それ以上の気持ちは無かった。

 

 

 

それは、この恐怖の修羅場においても変わらなかった。

命が儚く散る戦場で、ハサウェイの腕の中は温かく、触れ合う身体は温かく、それが心をときめかせ、それが心を穏やかにさせていた。

 

闇の中の街は暗く、渦巻く炎が時折街を照らし、空を撃ち抜く一条のビームの光が、またそこから発せられるオゾン臭が、何もかもが散乱した地獄を時折視界に映させて、たまらず悲鳴を上げさせた。

 

それでもギギは心の平穏を何とか保てていた。

天秤が幾度も傾き、恐怖が重りを増やす中、ハサウェイという絶対の存在の腕の中にあることで、その天秤にバランスを保たせていた。

 

それでも、確実に何かが消耗していた。

 

ハサウェイのように走り続けたわけでも、銃を撃ったわけでもないが、修羅場にいるということは、それだけで人から多くのものを吸い取っていくのだ。

 

ハサウェイの腕から降ろされ、ふと一息吐けた建物の影の片隅で、ギギはそれまで張りつめていた緊張の糸が、ほんの少し緩んでいくのを感じた。

 

 

 

その時、地面についた手に何か生暖かいものが触れるのを感じた。

 

やだ、水たまり?

 

パッと手を放し、何度か手を払うが、その生暖かい液体はサッと払えなかった。

 

その時、風にあおられた炎が宙へと舞い上がり、ほんの一瞬だけ、周囲を明るく照らした。

 

 

 

ギギは見た。その液体が赤黒くぬめりを帯びた液体であることを。

 

その液体が、ボールのように道に転がる、虚空を見つめる生首から、滴り流れた血液であることを。

 

 

 

「い、いやああぁぁーーーー!?」

 

 

 

 

 

 

その悲鳴を、誰が非難できるだろう。

戦場を知らぬ少女が、その惨たらしい死を目の当たりにして、平静を保てるなどあり得ない。

 

しかし不幸は重なるもので、ほんの一瞬、戦場における余白のように、静まり返ったその一瞬にあげられた、絹を割くようなギギの悲鳴は、その居場所を周辺すべての存在に知らしめてしまった。

 

 

 

その瞬間、半狂乱同然のギギを抱え上げてハサウェイは走り始めていた。

 

「いやっ、いやあぁーーーんぐっ!?」

「失礼します」

 

ハサウェイはジャケットからポケットチーフを取り出し、問答無用でギギの口に放り込んだ。

 

そして走る。後先のことなど考えぬ常軌を逸した速さで。

 

速度にして、およそ20km/h。並の兵隊ではとてもではないが追いつけぬ速度でハサウェイは走り始めた。

 

 

 

今この瞬間に、敵に包囲されることこそ一番の悪手。出し惜しみできる状況ではない。ハサウェイはそう判断した。

 

後ろから、前から、横から、敵が迫るのが分かる。

逃げろ。せめて迎撃しやすい場所へ。敵の方向をある程度限定できる場所へ。

 

 

 

されど、ハサウェイはダバオの街の詳細な地形も知らなければ、当然ながら土地勘も無い。

逆に、敵は軍事作戦をするバトルフィールドとしてこのダバオの街を大通りから裏路地から、すべて把握しているはずだ。

 

この瞬間だけ連中を振り切っても、自分たちの存在が知られた今、袋のねずみになるのは最早時間の問題だった。

 

どうする?

 

その思考におおよそ意味が無いことをハサウェイは理解していた。状況は完全には八方塞がりだ。延命は出来ても完治できない。それを事実としてハサウェイは認識していた。

 

どうする?

 

何かがあれば、あと一枚なにか手札があれば、この状況を覆すことが出来る。

 

飛車も角も、金も銀も無いこの番面で、それでも何か一つのきっかけがあれば。

 

 

 

ハサウェイは、遠くに聞きなれた声を拾った。

 

 

 

自分を呼ぶ声、必死になって叫ぶ、低く重い聴きなれた声。

 

 

 

「こっちだ、ハサ!!」

「ガウマン!?」

 

 

 

ガウマンは戦闘服に身を包み、アサルトライフルを片手にハサウェイを呼んだ。

 

何故、どうしてガウマンがダバオにいる?ハサウェイの脳裏には疑問が浮かぶが、この状況においてそれは些細なことだった。

 

足りなかったピースが埋まった。

 

ツーカーの戦友、そして、ゲリラ戦のできるプロフェッショナル。

 

「状況は結構複雑。敵は推定ティターンズ。ペーネロペー、戦術兵器クラスのモビルスーツが戦場に投入されたけど、それが戦闘に出た切り戻ってこない。敵さん何かとんでもない戦力を用意してるかも。市街地戦闘もある程度収まってるのに、敵兵が撤退しないしダバオの連邦軍も出張ってこない。僕たちはホテルから逃走して、今ココ!」

「そっちのお嬢さんは!?」

「成り行きで一緒になった、多分貴族のお嬢さん、か、お身内さん!」

「そりゃまた大層なこって!」

 

走りながら最低限の情報を交換し始める。

 

「逃走経路を案内する!」

 

ガウマンはペーパー端末でダバオの街を表示させ、作戦を説明する。

 

「連中の切り札までは分かっていないが、おおよその戦力は把握できた。ただ、ダバオ基地にもハラスメント攻撃を仕掛けて遅滞戦闘に打って出ている。ケネス・スレッグが先行部隊を寄こしたようだが、状況次第ではダバオ基地は完全に停滞する」

「だから連中は、こうものうのうと市街地で戦闘をしている?」

「それもあるはずだ。逃走経路は市街地から港方向へ、高速艇を用意した。沖には艦を泊めてある、それに乗ってシドニーまで逃げる」

「シドニーまで?」

「ああ、確実な場所まで一気に逃げる。敵はそういう規模で部隊を用意しているはずだ」

「詳しいね。何処でそんな情報を?」

 

何気なく聞き返すハサウェイの言葉に、しかしガウマンは痛みを覚えた。

その情報の出所を話すということは、すなわち自分の出自を開示することに他ならない。それを伝えた時、ハサウェイはどう反応するのだろう?

 

笑って水に流してくれる、かもしれない。

 

いや、それは自分にとって都合のいいだけの妄想であり、本当にそうなったとき、自分はどうやって彼に償えばいいのか、ガウマンは未だ分からずにいた。

 

それでも、ここ以外で話すことは、出来ないだろう。

 

 

 

「……ハサウェイ」

「なに?」

「俺は、俺は連邦のエージェントだ。俺はスパイだ。ごめんな、ハサウェイ」

「え、そうなの?気付かなかった」

 

マジかあ……と事実を噛みしめるハサウェイの顔に、負の感情は無かった。

 

「ビスト技研の情報とか、アナハイムの情報を無断で外部に流出させた?」

「いや、俺の仕事はお前の動向の把握と、観察だけだ。技術系と技研のアイディアを外に持ち出したりはしていない」

「ハウンゼンの情報や、ホテルの情報をティターンズに横流しでもした」

「そんなことするわけがない」

「なら良いよ。今度ステーキ奢りね。それで許してあげる」

 

僕は食べるよ?1ポンドくらいは余裕だからね。超高い肉を奢らせてやるよ?

 

 

 

そうニヤリと笑う顔が、どうしようもなくガウマンの心を慰めた。

 

「……ああ、存分に食ってくれ」

「楽しみにしてるね」

 

 

 

二人は駆ける。荒れ果てた道を。

 

ハサウェイは言うまでも無いが、ガウマンも潜入作戦のプロだ。当然逃げ足もかなり上等なもので、逃げ足も含め生存能力の高さを評価された。

 

しかし、それでも多勢に無勢である状況に変わりは無かった。

 

 

 

ガウマンとてティターンズの作戦の全貌は把握できていない。投入されたであろう戦力、ダバオの地形、確認できる範囲の戦力、それらから最善と思える逃走経路を割り出し、あとは自身の直感でもってルートを策定した。

 

そのルートは間違いなく最適なルートだった。その事実を疑うことは無い。

 

しかし、基本的に戦争は、数の多い方が勝つのだ。

実力だ戦術だ戦略だというものは、戦力が拮抗している時以外では基本的に役に立たない。

 

そして、この大隊規模まではいかずとも、それに近しい戦力を有するティターンズと、ハサウェイとガウマンという、たった2人の戦力比というものは、論ずるまでも無くティターンズに優勢であった。

 

 

 

剣林弾雨の中を、二人は疾走する。

 

燃え盛る炎、炎を巻き上げ風に乗って降り注ぐ火の粉、そして銃から放たれる閃光。それらが闇夜を時折照らし、状況の切迫を二人に確実に伝えていた。

 

「どうでもいいけどモビルスーツは持ってこれなかったの!?」

「無茶いうな!この混沌とした戦場で敵とも味方ともつかぬモビルスーツが現れればそれだけで大惨事だろ!背中から撃たれちまう!」

「え!?ガウマンが動かせるモビルスーツって特別な装備とか特別な識別コードを有してるとかじゃないの!?それこそ一般の連邦軍人がそれを見ると『これは!?』ってなるみたいな!スパイなんでしょ!?」

「お前が思ってるほどスパイ稼業は華々しくねえよ!敵にも味方にもどっちつかずに見える俺らは、よく言っても高級な消耗品でしかない!ジェームズ・ボンドみたいに特殊仕様のマシンと美女があてがわれるわけじゃねえよ!」

「じゃあいつもこんなダイハードなことしてるの!?それとももっと過激にエクスペンダブルズしてるとか!?」

「夢見すぎだ!国家が保証してる泥棒稼業だよ要するに!」

 

遠くで銃声や爆発音に交じって怒号が聞こえる。それは敵の接近を知らせるものに他ならなかった。

 

ガウマンは考える。このまま逃げ切れないという可能性を。

 

敵の動きが予想以上に早い。クワック・サルヴァー、あの狸ジジイめ、絶対に情報を出し渋りやがったなと心の中で舌打ちをした。

何よりも敵が事この状況に至ってなお軍事行動を続行していることに懸念が生まれる。連中は一体何を持ってきたんだ?

ペーネロペーは、現存するモビルスーツの中で単体性能だけを考えれば最強にほど近いだろう。たとえパイロットが年若いテストパイロット上がりだとしても、その性能は折り紙付きだ。

資金を横流しされて、あまりものをかき集めて格安で調達できたジェガンに毛が生えた程度の性能の急造品で戦える相手じゃない。

 

にもかかわらず、ペーネロペーは市街地戦闘に一度として参加できていない。それほど強力な兵器を用意できたのか、もしくはそれほど危険な用意できる伝手を、落ちぶれたティターンズ派閥が用意できるものか?

 

ミノフスキー粒子が散布されていなければ、外部と連絡を取って詳細な情報を掴めるのに、とガウマンは苦虫をかみつぶす。

 

疑問は絶えない。されど、状況は切迫し続ける。

 

 

 

選択の時だ。ガウマンはそのように判断した。

 

打開の策を外部に、しかも確実でない可能性に賭けるのは、もはや破れかぶれ以外の何物でもない。賭けるならば、やはり自分の持ち得るものだけだろう。

 

お前は、何を守るためにこの戦場に身を置いたのか。

 

ガウマンは、自身にそう問いかけ、覚悟を決めた。

 

「ハサウェイ!」

「なに!?」

「俺が殿を務める、お前は先に行け!」

 

その言葉に、ハサウェイの瞳はほんの一瞬だけ揺れた。

 

「……死ぬ気じゃないよね?」

「当たり前だろ!」

「ならば良し!背中は任せた!死ぬなよ、ガウマン!!」

「おおよ!!」

 

逡巡なくハサウェイは走る。逡巡なくガウマンは振り返り、戦場へと焦点を合わせる。

 

「来いよ旧時代の亡霊ども。てめえらなんぞにハサウェイはやらせねえ」

 

 

 

 

 

 

ハサウェイは走る。ガウマンが選定した逃走経路を、振り返ることも無く走り続ける。

 

全身が粉塵と土煙で汚れ、全身から噴き出すような汗がシャツとパンツを肌にまとわりつかせる。普段履くときは足の延長線上に感じられた履きなれたレザーシューズも、今はただの重りに過ぎない。

ホテルを脱出してからどれほど時間が経っただろうか、ハサウェイはその間ほとんど走り続けた。

恐怖のあまり既に気絶したのか一言も発さず完全に脱力したギギが肩にのしかかる。なんてことないはずの重量さえも重さに感じてきた。

 

ハサウェイは走る。

 

じきに海へ出る。ガウマンのルート通りならば、そこまで行けばガウマンの仲間が高速艇で待ち構えているはずだ。走れ、あと少しだ。

 

言葉も無く走り続ける。

 

しかし、脳裏に浮かぶのは戦場の景色。

あの美しかったダバオの街は、きっとただの廃墟になった。

あのタクシーの運転手は無事だろうか。家族が、子供もいるはずだ。皆無事に避難できただろうか。

下町と港町は、今まさに都市開発の只中にあって、きっとこれから美しい街へと生まれ変わるはずだった。

あのホテルだって、リゾート地としていい場所だったはずだ。ブルジョワな人たちがお金を落としてリゾートを満喫し、落とされたお金で街は開発されて、そして街の子供たちが教育を受けていけるような、そういう未来が見えたはずだ。

 

なのに、こんなことになって。

 

たくさんの人が死んだ。たくさんの不幸が生まれた。

 

戦場に慣れて、人の死に慣れて、地獄に慣れて、それでもこの脳の瞳は、人の絶望をありありと鮮明に見せ続ける。

この感応力がニュータイプのものだというのであれば、今この瞬間はその瞳を閉ざしたい。そう思うのは傲慢なことでは無いはずだ。ハサウェイはそう思いたかった。

 

だってこんなの、悲しすぎる。

 

訳もなく涙が流れる。それは人の反射からくる生理現象に過ぎない。けれど、涙が流れるこの現状は、あっていいわけがない。

 

 

 

ハサウェイは走る。

 

走って走って、市街地を抜け、林を抜け、そしてようやく海を見た。

 

地獄を抜けて、やっとポイントへ至った。

 

そこでようやく、ハサウェイはこの惨劇の原因を悟った。

 

 

 

「ああ……そういうことか……」

 

 

 

視界に映るのは、海の上にそびえる黒い大きな箱。

 

その箱が放つメガ粒子砲とビームの光。

 

そして、ペーネロペーが必死になって攻撃するも、その攻撃が弾かれるエネルギーフィールド。

 

 

 

「サイコガンダムに、サイコフレームを搭載させたのか……」

 

子供の頃、何度見たか分からない、大きなティターンズのモビルスーツが香港の街を焼く映像。

その映像が、今まさに眼前で再現されいた。

 

「サイコフレームで出力を補って、NT-Dでマシンを動かしている……」

 

攻撃を弾くフィールドは、Iフィールドではない。あれはサイコフィールドだ。そして、NT-D特有の人間的でない機動は、かつてユニコーンで見られた初期状態での機動そのものだった。

 

ハサウェイは、体から力が抜けていくのを感じた。

 

それは恐怖では無く、紛れもない怒りだった。

 

自分の関わった技術が、自分が守れたと思った街を焼き払っている。

 

その事実に、ハサウェイは感情の落としどころを付けることが出来なかった。

 

「っ、ふざけるなああぁぁーーーーっ!!」

 

 

 

そして、一条の光が自分たちへと向かって放たれた。

 

光に呑まれ、ハサウェイの意識は、そこで途絶えた。

 

 

 

※

 

 

 

……見つけた!見つけたぞ!

 

……奇跡的だ、風圧でいい具合に吹き飛ばされたのか。

 

……ガウマンはどうする?もう時間がないぞ!

 

……仕方ないだろ、指令通り、ハサウェイ・ノアを回収して撤退するよ!

 

……このお嬢さんは?

 

……一緒に回収していけ、捨てておけないだろ!

 

 

 

マフティーは、こういう人たちを守るために作られたんだから!

 




読了ありがとうございました!

ユニコーンの時もそうでしたが、原作から大きく乖離させるときに結構行き詰まるんですよね。書くものは決まってるはずなのに、なぜか書き進められない、みたいな。

当初はダバオでなんらか車を見つけるような話も書こうかなとか思ってたんですが、マフティー動乱のスケジュールがタイトすぎて諦めました。



いつも誤字報告ありがとうございます。本当に誤字が多いぜこの作品。温かい目で見守っていただけると嬉しいです。

そして感想と高評価もありがとうございます!
全然関係ないですが、お気に入り登録もランキングとかにのるときは重要らしいと最近知りました。

良ければお気に入り登録もお願いいたします!

引き続き感想と高評価も頂けると嬉しいです!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。