ハサウェイがアムロやシャアに影響される前に機械オタクになった世界線のお話 作:陸奥九十九
それはそうと本作100万UAを達成しました!何かよく分からないけど、多分すごい数字じゃないでしょうか!?
本当にありがとうございます!
そしてお詫びを一つ。
感想でいただいた「逆シャアの時、アルパ戦でハサウェイのジェガンの左腕無くなったはずだけど、その後ラー・カイラムに収容されて再出撃の時普通に生えてない?」という疑問についてです。
これ普通に私の描写ミスです。左腕無くなってたの忘れてました。
で、これ以前にも指摘されて「ああ、あとで直さなきゃ」と思ってたのに、普通に忘れてました。
本当に申し訳ない。
苦し紛れですが、ラー・カイラムに収容されて、アクシズを破壊するために出撃するときに、武装と一緒に腕もくっつけた、で脳内補完いただければ。
色々見苦しい箇所のある本作ですが、何卒生暖かい目で見守っていただければ嬉しいです!
引き続きよろしくお願いいたします!!
ダバオの騒動が収まったのは、殆ど夜明けと同時だった。
レーンの駆るペーネロペーがサイコガンダムとの消耗戦を演じ、サイコガンダムが海中へと撤退したことで状況は一気に傾いた。
自身の消耗も著しい中、レーンは即座にダバオ市内へと転進し、残ったティターンズ勢力を10分足らずで掃討しきった。
それと同時にケネス・スレッグは現場へと赴き、自ら陣頭指揮を執って状況の整理を始めた。
ダバオの街は、現世に再現された地獄となっていた。
宇宙世紀0087ごろまで行われた、地球でのティターンズによるジオン残党軍の掃討作戦。かつての忌まわしい記憶となり果てた地獄が、20年近い時を経て地上に再現された。
血の匂いが鼻につく。そして温暖なダバオの気候が仇となって、既にすえた腐敗臭が風に乗って感じられた。
朝日が水平線から登りくると、その凄惨な様相はより詳らかにされてゆく。
廃墟の街、戦禍の跡、そして、そこら中に散らばる数時間前まで人だった肉塊たち。
これが、人間のやることかよ。
ケネスは眉間にしわを寄せ、心の中で毒づいた。
戦争の後はいつだってこんな気分になる。ただ今回は勝ち戦だっただけ幾分かマシだ。自分の部下たちに負傷者はいても死者は無く、街に散らばるこれ見よがしな黒い軍服の連邦兵士のようにも見える連中はすべて敵対していた賊軍だ。
だからマシだ。よくやった。これ以上望むのは傲慢というものだろう。
そう何度も心の中で自分を宥め、冷静さを顔に張り付けて、部下にそれを悟られぬよう事後処理に没頭していた。
ケネスがその異変に気付いたのは街を一通り確認し終え、海岸防災林へと足を運んだ時だった。
最早森にほど近い程育った林の確認と、最後に海岸の確認が終われば一通りの状況確認が終わるという時になって、その林の付近から、明らかに死体の数が増えていった。
そして、その死体の全てが賊軍のものであった。
喉を横一文字に掻き切られ、こめかみを銃で撃ち抜かれ、延髄にナイフを突き立てられ、どの死体も、どう見てもプロの手によって暗殺された死体の群れであった。
何よりも戦闘らしい戦闘の痕跡も無く、賊軍と戦った、恐らく軍集団であろう死体は一つとして確認できなかった。
まるで、死の森に踏み入った愚か者どもが、死神に一方的に命を刈り取られたかのような、そんな光景。
ケネスは部下を連れて林へと立ち入った。
ダバオ市外とは比べ物にならないほどの血の匂い。そこに本来混ざるはずの、発砲後の硝煙の匂いや、銃弾を受けて爆ぜた腹からまろび出る排せつ物の匂い、そして死体から匂う腐敗臭などは殆ど感じられず、ただただそれ以上にむせかえるほどの血の匂いがあたり一面に立ち込めていた。
まるで吸血鬼に蹂躙されたかのような惨劇。血に飢え、血に酔った怪物が、そこにいたのではないかと錯覚するほどに。
「ケネス・スレッグ大佐、で間違いないか?」
ふとかけられた声に、ケネスはハッと腰の拳銃を引き放ち、声のする方向へと思わず構えた。
一切の気配がしなかった。
ケネスが緊張のあまり息を切らす。フッ、フッ、フッ、と小さく呼吸を重ねながら、何一つ人の気配を感じられない朝焼けの光差し込む林で、間違いなくいるはずの声の主に向けて銃を構え続けた。
これほど緊張し、警戒し、残敵からの奇襲を警戒していた中で、ケネスも、またケネスの部下たちも、しかしその声の持ち主の気配を一切感じ取れていなかった。
ザリ、ザリ、とわざとらしく立てられた足音が、ケネスが銃を構えた方向とは全く異なる方向から聞こえてくる。
「っ、そうだ!私がケネス・スレッグである!貴様は誰だ!?」
声をかけてきた。それはある種の意思表示でもあるとケネスは理解していた。
もしもこの惨劇を生み出した怪物が声の主ならば、つまるところ我々をこのような亡骸にするのにもそう手間であるわけでは無いのだ。
事実ケネス達は声を掛けられるまで声の持ち主の存在を感知することさえできなかったのだから。
ザリ、ザリ、と、やはり足音を立てて、自分はここにいると教えるかのように、彼は現れた。
連邦軍の、特殊部隊が身にまとう戦闘服に身を包み、わずかばかりの返り血と、恐らく作戦行動によって付着したであろう泥汚れなどで身を汚していたが、目に見えるような負傷は何一つとして負っていなかった。
赤みがかった茶髪、左目に残る大きな傷跡、何よりも、その全身にまとう寒気さえ感じさせるほどの殺気、その残滓。
その気配に、歴戦のケネスでさえも圧倒されていた。
この殺気を向けられれば、どれほど恐ろしいか。
そしてこの殺気を向けられ、視界さえままならぬ闇夜で、そして遮蔽物ばかりで先も見えぬ林で、ここに踏み入った兵士たちは、間違いなくこの男に蹂躙されたのだと、そう確信できた。
ケネスは思わず唾をのんだ。
「連邦軍統合情報局、特殊諜報部別班、ガウマン・ノビル特務大尉であります。大佐殿に、お伝えしたい事項がございます」
それが、ケネス・スレッグとガウマン・ノビルの邂逅であった。
※
「つまり、この襲撃は予想されていたものだということか?」
「ああ。軍か政府か、もしくはその両方か、そこまでの情報は俺レベルには開示されなかったが、言ってしまえばここまでは既定路線だと」
「だが、ハサウェイ・ノアを巻き込むと決定したのは直前なのだろう?この作戦はどこまでが計画通りなんだ?」
「分からない。恐らく、俺はもうクワック・サルヴァーの管理下から外されているはずだ。これ以上の情報は上からは降りてこないだろう」
ダバオ基地に戻ると、ケネスはガウマンを連れ早々に執務室へと引きこもった。
それは情報の確認の為でもあり、ケネスの想像以上に混迷している事態の収拾を図るための、今後の作戦会議の為でもあった。
「ハサウェイは、無事なのか?」
「分からない。だが手筈通りに進んでいれば問題なく保護できたはずだ。ペーネロペーがサイコをひきつけてくれたおかげでな」
「だが、そのサイコガンダムは取り逃がした」
「パッと見ただけだが、あれには多分宇宙世紀0095以降のサイコミュ技術が惜しげも無く投入されている。ハサウェイが遠慮なしに開発しまくった技術群だ。しかも、あれは恐らく拠点攻略に重きを置いた防御偏重の固定砲台として調整されたと見える。いくらペーネロペーが優秀でも、あれは地上での高速戦と奇襲に重きを置いたコンセプト機だろ?流石に分が悪い。素直にパイロットを褒めてやれ」
「……そうだな。些か焦り過ぎているか」
「ああ。あの状況で墜とされてないだけ、パイロットは優秀だ」
レーンを擁護するガウマンだったが、ケネスの考えもよく理解できた。
一晩でダバオの街は廃墟同然の有様になった。そして、敵部隊は意外にも優秀な足を持っていて、展開力もあり、サイコガンダムという鬼札も持っていた。
可能ならサイコだけは墜としておきたかった。今後の作戦を組み立てる司令官としてのケネスの考えが、程度は違えど単独での奇襲部隊を率いた隊長のガウマンとしては痛いほど理解できた。
何よりも、ダバオの街には未だ多くの課題があった。
「早々に連中をどうにかしたいと思っているが……」
「分かってるよ。お偉方がうるさいんだろ?」
「ああ。ティターンズめ、こんなことなら全員律義に連れ去ってくれればいいものを……」
「そう言うな。そうなったらそうなったで責任問題を追究されていただろうぜ」
連邦政府閣僚の内、ティターンズに誘拐された者もいるが、先んじてケネスの部隊や警察が保護した者もいる。
そして、そんな彼らは口々に不安と現状への不満を口にして、ああせいこうせいと整合性も無くケネスへと意見を浴びせかけるのだ。
「兎にも角にもダバオの後処理をせねば始まらん。当然だが手伝ってもらうぞ」
「分かってる。それに、この状況を俺たちより把握できているであろう奴がダバオにはいる」
「何?」
「それは、私のことかな?」
ふとかけられた声に、ケネスは振り向き、ガウマンは振り返ることさえなく、訪れたその人物が誰なのかを理解していた。
「……ハンドリー・ヨクサン長官?」
ケネスが思わず名前を呼ぶ。
「突然の訪問について謝罪しよう、ケネス・スレッグ大佐。そして……こうして顔を合わせるのは初めてかな?情報局の死神くん?」
「……なるほど、やっぱりあんたはクワック・サルヴァーと繋がっていたわけだ」
ヨクサンは極めて無表情にガウマンからの問いかけを受け流し、ソファーへと腰かけた。
「で?ハサウェイを見殺しにした警察のトップが今更何の用だ?」
「決まっている。この状況をどうにかするために、協力しに来たのだよ」
「クワック・サルヴァーにハサウェイの情報を流して、ティターンズに襲撃させることを黙認させた、あんたがか?」
ガウマンは既に殺気を奔らせていた。
そこには、返答によってはどうとでもしてやるぞという覚悟があった。
ヨクサンはそんなガウマンの殺気を柳のように受け流し、ソファー前のローテーブルに資料を並べた。
「私の方で確認できているティターンズの情報と、今後展開されるであろう作戦に関してのデータだ」
「……これは」
ケネスが手に取り確認すると、その情報にはガウマンから共有された以上の詳細なデータが記載されていた。
「君たちの言いたいことは理解している。私が協力せざるを得なかった奴の傲慢さもな。だが、組織と立場というものは、得てして都合のいいようにのみ利用できるものでは無いのだよ」
粛々と、しかしどこか悔しさを滲ませるようにしてヨクサンは話す。
「状況が終われば、どのみち私は今の席を追われるか、それ以上の責任を取らされるかするだろう。クワック・サルヴァーは、そういう捨て身の覚悟で、ちゃぶ台をひっくり返した。私はひっくり返された側だが、そもそも私程度の立場では、彼を止めることはできなかった」
「……長官ほどの立場をもってしても、ですか?」
「警察の長官などいくらでも替えが効く。そういうレベルの話になっているだけだよ。何よりも、私は君のようにただ巻き込まれた立場では無いからな」
まあ、そんなことはどうでも良い。
ヨクサンは自身の言葉を切って説明を続けた。
「ダバオの警察には幸いジェガンが配備されている。色々問題を指摘された特別車両科だったが、今は役に立つ。特殊テロ対策特例が適応される現在ならば、警察も完全武装でダバオに残るティターンズの対応に参加できる。そして、これから湧いてくるであろうジオン残党軍の対応もな」
「ティターンズとして認め、かつその武力制圧に警察が協力されると?」
「今の連中に正当性は無い。何よりも、連邦政府が公式に声明を出していない以上、奴らはティターンズを騙るテロリストだ。それ以上でもそれ以下でもない」
「……成程、協力いただける、ということならば、我々は目立った残敵処理と、お偉方の護送に注力できると」
「機械化歩兵や小型モビルスーツまではこちらで処理できるだろう。同時に街に残る被災者の救助もこちらで受け持つ」
「ガウマン、君には特殊仕様のスペシャル機を渡す。ペーネロペーの練習機だが、性能は折り紙付きだ。パイロット能力からみても問題ないと判断したが、行けるな?」
「おかしなマシンのテストパイロットはハサウェイの下で嫌というほどやった。任せろよ」
「では、ガウマンはレーンと共に目立った敵の排除でダバオを飛び回れ。その間に閣僚の護送の準備を整え、残った部隊には警察と共同で街の掃除に奔走してもらう。よろしいですね?」
「ああ。前線指揮は君に任せる。閣僚の対応は私が受け持とう」
思う所は皆いくらでもあった。
ケネスも、ガウマンも、無論ヨクサンも、ここに集まったのはそれぞれの都合があったからだ。
そこに信頼関係は無い。しかし、互いに乗り合わせた船だという共同感覚はあった。
そして、幸いなことに向く方向は一致していた。
「ハンドリー・ヨクサン、俺は、俺たち情報局を信用していない。勿論それに協力していたあんたもだ。今回の作戦は、明らかに合理性を欠いている。その作戦に協力していたあんたにも不信感がある。だが、今は信用するぞ」
「ガウマン・ノビル。勘違いして欲しくないが、私も今回の作戦行動には疑問もあれば不信もある。ハサウェイ・ノアを意図して巻き込んだことなど特に」
「なら、どうしてクワック・サルヴァーに協力する?」
「私が拒否しても、別の誰かが私になる。その別の誰かが、私よりましである保証はない。それだけだ」
視線が交錯する。そこに偽りはない、歴戦のスパイであるガウマンはそう判断した。また、誰よりも人を見続けてきた警察の長であるヨクサンも。
「あえて言うが、ハサウェイ・ノアに感謝していない人類は地球上にいない。彼を知らない、ということはあってもね」
「……そうかよ」
そのダメ押しで、ガウマンは話を切り上げた。
「……よろしいかな?」
ケネスがそう聞き、二人が頷く。
「我々の間のわだかまりがすべて解消されることは、少なくとも状況が収拾するまで無いだろう。だが、現状我々は運命共同体だ。そういう意味で、よろしく頼む」
「ああ」
「よろしく」
では、掛かろう。
軍と、警察と、スパイ。いびつな共同戦線がダバオの地で発足した。
※
「どう思う?」
「いやぁーー……分かりませんね」
ブリンクスからそう聞かれ、ハサウェイは珍しく何とも煮え切らない返事を返した。
「ハサでも読み切れないのか?」
「いや、僕も全然本職じゃないからなあ。敵がいる場所を突っ切るのは何度もやってきたけど、いるかも分からない敵がどこにいるか、しかもそれに備えて、かつ可能な限り交戦を避けて船を運ぶ、なんていうのは中々ね」
マフティーは最初の正念場を迎えようとしていた。
それは、トレス海峡諸島での進路と、そこにいるかもしれない敵部隊の予測であった。
イラムがさらに問う。
「ハサウェイとしては、そもそも襲撃はあると踏んでいるのか?」
「うーん、そこも微妙なんだよね。僕だったら、まあ絶対に踏み込まないし、こんな場所で戦闘はしない」
「それは、どうして?トレス海峡は、大昔は軍事拠点にも利用されていたんだろう?仕掛けてくるならここかと思ったが……」
「そもそも論として、ティターンズがどれほど僕に食いついてくるかもわからないからね。それに、もしもティターンズが連邦政府の原理主義者的な側面を持っているなら、なおさらここでは仕掛けてこないとは思う」
「それは、何故?」
「だって、ここ……」
「グレートバリアリーフに影響が及ぶ可能性があるから、だろ?」
ハサウェイに先んじて、ブリンクスが答える。
「地球環境の保全も掲げる地球連邦の、そのトップになろうとするエリート集団を自称するティターンズが、その理念を捻じ曲げちまったら正当性もクソもねえ」
「ですね」
ハサウェイもそれに同意する。
「その前提を考えれば、基本的にとれる海路も決まってるんだ。パプアニューギニアをなぞるようにしてグレートバリアリーフを迂回し、ブランブル・ケイの北を通って珊瑚海へ、その後南下。オーストラリア大陸から見えない程度の距離を保ちつつシドニーへ。取れる航路はこれだけだと思う」
ハサウェイの説明にブリンクスも頷いた。
「コロニー落としで壊滅的な被害を被ったオーストラリアだけど、死滅した珊瑚礁の復活も徐々に進んできてる。一時はその大部分が白化しちゃったけど、復興で観光資源としても活用できる状況になってきてるからね」
「なるほど……それを考えれば、襲撃はあり得ない。少なくともハサならしない。そういうことか」
ハサウェイは頷く。
「問題は、連中が尋常ならざる連中だということか」
「そう。本当に悩ましいのはその一点だけなんだ。もしも仕掛けてくるなら、船の歩調も考えなきゃいけないし、戦闘ポイントも考えなきゃいけない」
「しかし、それらを考慮して最短路を進めなくなれば、追いつかれて墓穴を掘ることさえありうる」
「かといって、無策で悠長に突っ込んで行って、敵の罠にはまれば元も子もない、か……」
うーん……、と悩まし気にため息を吐く。3人は情報不足から息詰まっていた。
ハサウェイはこれまで何度か暗殺未遂を経験している。
どれも未遂であったし、結果としてハサウェイは何一つダメージを負っていないが、それでも連邦上層部は、自分に執着している。そこがハサウェイの気がかりであり、未だに理解できないポイントでもあった。
自分を殺して、得をすることは殆ど無い。
それは10年前からもそうであったし、ここ5年はさらにその色が濃くなった。
ハサウェイは無数の政治的、経済的防波堤を幾重にも構築してきた。
以前は自分に何かがあれば、父が司令を務めるロンドベルが優先的に対処に回る可能性が高まり、実家であり祖父が運営するヤシマ重工、共同事業を行うアナハイムとブッホが、対外的には経済的損失から敵に回る。その程度であった。
しかし、ビスト技研での木星開発への協力と、シドニーでの復興事業と技術開発を始めてからは、そこに木星船団公社とコロニー公社、そして木星公社も関わるようになった。
木星への航行で培ったノウハウと蓄積された技術を体系化し木星船団公社との契約を結び、また木星でのコロニー開発で得た技術とデータをコロニー公社へ提供し、シドニー復興や、シドニーでの実験で開発した技術でもって木星公社に協力し、木星圏での開発事業にも技術提供してきた。
契約はあくまでビスト技研が結び、さらにその運営母体であるビスト財団が管理しているが、現状、窓口は全てハサウェイであり、ハサウェイがビスト技研やバナージを紹介することで、3公社との協力は成立していた。
その為、もしもハサウェイが死んだ場合、宇宙最大級のNGOである木星船団公社、そしてコロニー公社が被害を被ることになり、ヘリウム3の採取販売を手掛ける最大手である木星公社も被害を被ることになる。
無論自分一人の死がそれらすべてに多大な被害をもたらすなどと自惚れてはいなかったが、単純な理論として、そこまで面倒を起こしてまで自身を殺すメリットを、ハサウェイ自身見つけることが出来ずにいた。
「ねえイラム」
「ん?なんだ?」
「手を出しても何も得の無い、むしろ損するだけの相手だったとしても、どうしても手を出してしまう、出さざるを得なくなる。そういう状況って、公的な機関や組織であったとしても、起こったりするものかな?」
「いや、むしろ公的な機関の方が多いんじゃないか?」
え?と思わずハサウェイは呆けた声を出した。
「組織が大きくて、しかも公的な、それこそ国家規模の組織になると、どうしても縦割りかつ役人仕事にならざるを得なくなる。そうすると、肥大化した組織は失敗を失敗だと是認できなくなる状況が起こりうる」
「それは、どうして?」
「失敗の、その原因の所在が不明瞭になるからだ。失敗したけど、これは自分の責任じゃない。自分はそれほど悪くない。なら、自分たちの仕事をのやり方を変える必要はない、ってな。しかも失敗しても自分の財布は傷まない。だから学習もしない。その結果同じようなミスを繰り返す」
イラムの言葉に、ハサウェイは背中に冷たいものを感じた。
「組織が大きくなれば権威主義も台頭する。権威主義が蔓延すれば、意思決定に際して下位存在は上位存在にゴマすりを始める。そこで組織を内部浄化できないようであれば、組織は硬直化して、自分たちを失敗しない神の如き存在だと勘違いすることさえある」
よくある官僚国家の行く末だろ?と、イラムは何の気なしにそう言った。
ハサウェイが連邦上層部に目を付けられたのは、既に遥か彼方の12年前だ。いや、この場合は、たった12年前なのか?ハサウェイは自問自答を始めた。
自分を殺しても、メリットは何一つとして無い。ハサウェイ・ノアが持つ権力などたかが知れているし、ハサウェイ・ノアの持つ財産もたかが知れている。
何より、本当に重要な技術や特許は全てビスト技研が管理しているし、資産に関してはヤシマ重工を通じてほとんどが株式など現金化できないものに変換され、その上ハサウェイ自身では無く、妹のチェーミンと、母ミライによって管理されている。
自分がすぐに動かせる資金は、一般人目線で考えればそれなりの額だが、それでも連邦市民の平均年収の数倍程度のものだ。
その程度の資金を得るために自分を殺すのは、どう考えても割に合わない。ハサウェイはそう考えていた。
にもかかわらず、実際にはこのような状況に陥っている。
イラムは以前言った。ティターンズは、連邦上層部のかつての意思決定を反故にされた痛みを掘り返して、ハサウェイ・ノアを殺すことで、ある種の留飲を下げ、かつ上層部への心理的工作へつなげたがっているのかもしれない、と。
いやありえないでしょ、ハサウェイはその時条件反射的に切り捨てた。リスクに対してリターンがあっていないと。
しかし、合理性から切って捨てたはずの選択肢が、急に現実味を帯びてきた。
「……まじかぁ……」
人の愚かさというものは、思った以上に突き抜ける場合がある。
例えば、隕石墜としをしたテロリスト相手に、隕石を売り渡すとか。
「……ごめん撤回する。襲撃は、多分ある。確実にある。その前提で予定を組もう」
方針は固まった。しかし、依然として結論は出ていなかった。
なにせ何でもありうるのだ。理屈抜きで感情で敵が攻めてくると仮定すれば、本当に何でもしてくると想定できる。
そうなれば、現実的な落としどころも何もない。
天が墜ちてくるなんて想定しても、当然だが対処は出来ない。だが、何もかもを想定するとはそういうことでもある。
何よりも敵の戦力が不明なのだ。
ギラズールともジェガンともつかない推定新型量産機(メッサーというらしい)を連中がどれほど所有しているのか、どれほどの展開力を持った部隊なのか、サイコガンダムは1機だけなのか。もし複数機いるとして、そのすべてがあれほどの性能を誇るのか。
すべてが分からない現状、では想定されうるそのすべてに対策が出来るのか?という問題が発生するが、戦力に限りがある以上そんなものは不可能なのだ。
であれば、あたりを付けてヤマをはり、妥協点を見つける必要が出てくる。
だが、その妥協点というものが中々どうして難しかった。
そもそも、マフティーにいるメンバーで本格的な艦隊戦を経験したものが誰一人いなかったのだ。
ハサウェイは木星までの道のりを幾度となくサラミス級のカスタム艦で踏破しているが、速力も火力も戦力も十分以上に備えて、かつミノフスキードライブという抜群の足がある前提で作戦を展開していたのだ。
追いつかれる、などという心配をしなくていい状況でしか艦隊戦をしたことが無いし、その上経験してきた戦闘もその多くが敵の包囲網を強引に食い破る、という荒っぽい物だけだった。
イラムはそもそも警察組織の出身で、本業はデスクワークの情報処理に特化した事務屋のスパイだ。フィールドワークは得意ではないし、部隊指揮などの経験も当然無い。それらは軍人かつ荒事も出来るガウマンの仕事だったため、マフティーで新たに得た知見も当然ない。
ブリンクスに関してはかつて徴兵されての軍稼業は経験はあったが、そもそもが交易船と海洋調査船での操艦経験を理由に、海洋環境調査のスペシャリストとして、その上で荒事にも慣れているとしてマフティーにヘッドハントされた身だ。艦隊戦の経験もそうだが、本格的な艦同士の衝突もそう経験はない。
それでも航路までは決まりつつあった。
アラフラ海からパプアニューギニア沿岸を辿るように進路を取り、マリとデリバランス島の中間、ターナゲイン島の北洋、サイバイ島の南洋を抜けてグレートバリアリーフに突入。
ウガー島北洋を抜けて東征、グレートバリアリーフを抜けて珊瑚海へ出る。ポートモレスビーを警戒しつつひたすら南下。
ニューカレドニアとブリスベンを警戒しつつシドニーへと向かう。
都合3日と18時間の航海の予定である。
唯一グレートバリアリーフを横切るのだけはブリンクスが懸念を示した。
それも当然であり、壊滅的被害を被ったグレートバリアリーフの復元作業に際して、連邦が莫大な予算を投じたのを知っていたためだ。
ここを抜けるということは、すなわち連邦の政策に対して敵対的な行動につながるのではないか?という懸念だ。
「そこらへんは、どうなんだ?」
「ああ、それは大丈夫ですよ」
「?……なんでそんな風に言い切れる?」
「だって、あの予算の8割強はビスト技研の予算から出てますから」
「……は?」
さらに言えば、その内の9割近くがハサウェイの取得した特許のパテント料から出ている。
ビスト技研が大規模な実験場をシドニーに建設するに際して、反対運動、というほどでは無かったが、様々な意見交換の会が開かれた。
表向きは悲惨な戦争跡地なので配慮が欲しい、というものだったが、実際のところは地球で商売するのならショバ代を払って、その上で地元に金を落とせ、というかなり強気なお願いであった。
元々その気だったハサウェイはこれをほぼ言い値で快諾し、連邦がオーストラリアに投じる年間予算の3倍近い額を初年度に投資し、それ以降も実験で得た結果や、実験のために必要な人材は殆どオーストラリアやその近郊で募集をかけ、得られた利益もオーストラリアに落とし続けた。
挺身やボランティアに近いとさえ見えたこれらの行動から、オーストラリアの地方議員や役人たちは早々に態度を軟化し、可能な限りの協力を申し出た。
落ち目となったビスト財団が、何とか資産を作ろうと地球での新拠点に地価代の安いオーストラリアを選んだのでは、と懐疑的な視線も、投じられる予算の莫大さから全くの見当違いだったと気付き、そこからはビスト財団、というよりビスト技研とハサウェイに対してかなりの優遇措置を講じようと動き始めた。
しかし、他ならぬハサウェイがそれに待ったをかけた。
ビスト技研は良くも悪くも技術開発が本業で、それらの実験には先行投資的な色が強い。結果が出るかもわからないし、ご迷惑をお掛けすることも多々あると思う。
その為、特別な優遇はいらないので、これからビスト技研がすることを見守って欲しい。その上で、歩調を合わせられる部分があれば都度話し合っていきましょう、と。
弱腰ともいえる態度であったが、誰もそこに付け入ろうなどとは考えなかった。
彼は本気だ、本気で、オーストラリアに根を下ろし、オーストラリアの為に力を尽くそうとしてくれているのだ。
オーストラリアの政府関係者はそう確信し、そして、ハサウェイはその期待を一切裏切らなかった。
オーストラリアに莫大な資金を投じ、かつて地球上で最下位争いが出来る程深刻だった海洋汚染は徐々に改善され、その環境は、コロニー墜とし前とさほど変わらないレベルにまで改善されつつあった。
そして海洋環境の改善から大規模な観光業は再開され、その折にコロニー墜としで壊滅したグレートバリアリーフの回復作業を始めようと議論が始まった。
元々オーストラリアはこれを、向こう10年、20年をかけて、長期スパンでの事業として考えていたが、せっかく声をかけてもらったのだからとハサウェイが寄付にほど近い形で莫大な私財を投じ、その額が余りにも莫大だったため、連邦政府も顔を立てるためにそれなりの予算を投じることと相成ったのだ。
ただ、そのようにハサウェイが資金を投じた理由は、ハサウェイが金を貯め過ぎたことに由来する。
チェーミンは度々言っていた。もはや警告していた。お金をちゃんと使いなさいと。
ハサウェイは言った。分かった!と。
しかしその頃のハサウェイは、木星圏への設備投資と航路開拓で忙しく、自分がどれほどパテントで儲けているかなど確認さえしていなかったのである。
そもそもハサウェイの仕事は、金を投じればどうにかなるものではない。
いや、資金はあって当然という前提だが、それ以上にどれほど新技術を投じられるかに掛かっている部分が大きかった。そして、それら新技術は、ハサウェイとバナージの個人技でほとんど賄われていたのである。つまるところ、元手らしい元手が必要なかったのだ。
ハサウェイは金の生る木を作り続け、作った後はビスト技研に放り投げて、また新たなる金の生る木を作った。作り続けた。
結果、仕事をし続けているはずなのに、その仕事に割合莫大な予算を投じているはずなのに、ハサウェイの資産は指数関数的に増え続けた。
節税の観点からも経済への悪影響を考えても、早々に金を使え、可能なら技術では無くリターンの無い分野で散財しろとせっつかれ、丁度そこにグレートバリアリーフの案件を聞いたため、躊躇なく資金を投じたのである。
当然これをオーストラリア政府は歓迎した。
その折に、リターンというにはあまりにもささやかだが、海洋環境保全の観点からも、ビスト技研の調査船にはグレートバリアリーフへの無制限の許可証と、その為の特殊な識別コードが配布されることとなったのだ。
「だから、入る分には何も問題ないんですよ」
「……お前、本当にブルジョワなんだな……」
ハサウェイの説明に、ブリンクスもイラムも疲れたようにため息を吐いた。
「ただ、やっぱり問題は、どこで、どうやって敵が待ち構えているか、ですね」
「いや、それだけの特権を持ったビスト技研の識別コードなら、そもそも襲撃なんぞ……」
「いや艦長、それこそ逆じゃないか?オーストラリア政府が発行した公式の識別コードなら、連邦も当然その存在を認識しているはずだ。であれば、むしろあたりを付けられる可能性も高い」
「かといって通常のアナハイムの識別コードで入っても、環境保全を理由に襲い掛かる口実を作ってきそうだから、使わないこともリスクなんですよね……」
うーん、とやはり唸る。
つくづく思う。まともなパイロットが1個小隊、いやもう1人か2人でもいれば、ここまで悩まずに済んだのに、と。
ヴァリアントとシーラック、この2隻を素人同然のマフティー2個小隊と、ハサウェイ1人で守り切るのには、不可能ではないが面倒が多い。
万全を期すには手が足りないゆえ、結局どこかでリスクを取らざるを得ない。
だが、もう一人でもエースクラスが居れば状況は変わる。
アムロやシャアのような人間をやめている怪物クラスでなく、勿論ロンドベルやネオジオン親衛隊のような人間の枠組みでの上限クラスでもなく、そこそこで良いのだ。
それこそバナージや自分クラスで良い。そのレベルがあと1人でもいれば取れる作戦の幅は一気に広がる。
さらに言えば、そのレベルの人間がシドニーならば何人かいるのだから、尚更惜しいと思ってしまう。
しかし、それが現状どうにもならないことを、ハサウェイはよく理解していた。
うーん、とやはり頭を抱える。
博打を打つか、一歩遅れても良いから歩調を緩めるか。どちらにしてもリスクは大きい。それが、最後の決断を躊躇させていた。
「ハサウェイ……?」
ふと不安そうな声で呼びかけられ、3人は振り返った。
「あれ、ギギさん?どうしました?」
「いえ、食事の時間だったから……」
そう言われて時計を見ると、既に会議を始めてから2時間近く経っていたことに気が付いた。
「ああ本当だ……どうしましょう?一旦切り上げる?」
「その方が良いかもな。煮詰まってきていたし、おおよその予定もたった。とりあえず飯にしよう」
ハサウェイの言葉にイラムが同意し、席を離れようとしたところで、ギギがそれまで3人が囲んでいた地図を見て言った。
「ああ、こことここ、あとここに敵がいるのね」
大変ね、そう何気なくギギはハサウェイに言い放った。
ギギが指さしたのは、木曜島とホーン島、ダルと、ココナッツ島だった。
それらの島は、確かにかつて軍事拠点を有していたか、もしくは飛行場を有しているがゆえに敵の拠点として有力視されていた場所であった。
ギギは、超望遠の衛星地図から、勿論目視で飛行場や街の様相など見えない状況で、当然のようにそう言った。
ハサウェイは一瞬だけ硬直し、ゆっくりと状況を咀嚼しながらギギに問いかけた。
「……どうして、ギギさんはそう思ったんです?」
「え?だって、そう思ったから」
「飛行場があるのを、知ってたとか?」
「え?ああ、確かに飛行場はありそうね。リゾート地でしょうし、船だと移動も大変そうだし」
ハサウェイは、ギギにマフティーの詳細を説明していなかった。
ダバオを襲撃したから敵から逃げる最中で、この船は自分たちを助けてくれているビスト財団やアナハイムと関係のある船であると。伝えたのはその程度である。
それは、もしもマフティーがティターンズの手に落ちた場合、多くを知らない方が安全だと判断したためでもあった。
つまりギギは、飛行場の有無でもなく、恐らく歴史的な過去の状況からの推測でもなく、本当に直感から、敵の状況をそのように判断したのだ。
ハサウェイは、その直感がとあるニュータイプとかぶった。
リタ・ベルナルである。
ヨナ・バシュタ、ミシェル・ルオと共に、シドニーへのコロニーの落下を予見した、奇跡の子供たちと呼ばれたニュータイプ。ヨナとミシェルをして、あそこまでの未来予知が出来たのはリタの力があってこそと言われ、ユニコーン3号機フェネクスでおよそ6か月もの間、単独で宇宙遊泳を続けた、桁違いのニュータイプ能力保持者。
リタほどの能力をギギが保有しているとはハサウェイも思わなかった。
ただ、言ってしまえば当てずっぽうのようなギギの言葉が、しかし聞き流していいものだとも思えなかった。
一度立った席に座り直し、ハサウェイは考える。
木曜島、ココナッツ島、そしてダル。確かにこの3か所を抑えていれば、トラス海峡に入ってきた目標は確実に海峡内で捕捉できる。
更にトラス海峡は小さな島がいくつも点在し、また珊瑚礁の名所でもあり深度もそれほど深くない海域が多い。珊瑚礁は、日光の届かぬ海の底ではそもそも生息できないためだ。
つまり、ヴァリアントのような大型船の取れる航路はそもそも限られている。
その上で、狭いトラス海峡に網を張っていれば、欲しい目標は必ず自分たちの前に現れるし、もしも足早に駆け抜けようとする船があれば、もはや問答無しにそれが目標だとも推定できる。
「木曜島、ココナッツ島、ダル……うん、妥当だな」
「いや、ハサ、まさか彼女の言葉を信じるのか?いや、別に彼女を否定するわけでは無いが……」
「まさか、無条件で信じるわけではないよ。そもそもそんな風に責任を負わせる真似はしたくないし」
「まあ、ただ妥当ではあるな」
「そうなんですよ。本当に妥当。というか順当ですよね。僕たちが警戒していた場所ともほぼ重なるし」
妥当であるし、何よりもそうと仮定すれば取れる選択肢もそれなりにあるのだ。
むしろ幅の狭い奇策をわざわざ用いて、自分たちの首を絞める方が問題がある。
当初木曜島の北洋から、無数に点在するサンゴ礁地帯を、衛星データと照合しながら、八艘跳びの要領で、しかもブリンクスの技量ありきで駆け抜け、グレートバリアリーフの、ヴァリアントが通れる恐らくぎりぎりの航路で敵を撒こう、なんて突飛な意見さえ出ていたのだ。
勿論、早々に航路的にも政治的にもリスクが高すぎると棄却したが、その程度には煮詰まり始めていた議論でもあった。
逆にギギの言った拠点で敵が待ち構えているならば、パプアニューギニアの地形に沿って順調な航路で戦闘状況を取れる。
何よりも、船の心配もその他政治的配慮もせずに済む。
「展開力は分からないけど、この環境下で艦隊戦は無理だと思う。地形が狭隘すぎて、敵も艦を散らして、広域に対応する他ない。それに、完全にヤマ張って一か所に戦力を集中されるより、薄く戦力を割り振られた方がこちらとしては対応が楽だしね」
「そう言うものか?むしろ警戒網が広がっているようにも見えるが……」
「勿論、敵が艦隊戦のプロなら話は別だよ?それこそ父さん、ブライト・ノアみたいな神業を持っているならどうにもならないと思う。天才的な嗅覚と、一糸乱れぬ運動と陣形、針の穴を通す艦砲射、そういう、類を見ぬ程の海戦のプロがいるのであれば、そもそもこの戦力じゃどうにもならない」
「……ブライト・ノアは、それほどなのか」
「多分、宇宙世紀で現役最強の艦隊司令は父さんだよ。身内びいきかもだけど、父さんは本当に天才だと思う。僕も単艦での戦闘はそれなりに経験あるけど、それでも、あと10年経験を積めば父さんの領域に至れるかと言われると、まあ無理だと思う。経験どうこうで追いつけるようなレベルじゃない」
その言葉には、もはや畏怖が詰まっていた。
「モビルスーツ戦闘の頂点がアムロさんなら、艦隊戦の頂点は父さんだと思ってる。勿論強引な戦いもあったけどさ。だから、父さんクラスの艦隊総督が居たなら多分どうにもならない。間違いなく一方的にやられるよ」
「……なるほど」
「だから、その最悪の事態は考えなくていい。考えてもどうにもならないから」
戦場にアムロ・レイが要る前提で作戦を考えても意味が無い。その場合敵の10倍以上の戦力を用意する必要が出てくるからだ。
現実的にそのような対応は不可能なのだから、考えても仕方ない。ある種の諦観がそこにはあった。
「航路はAルート。パプアニューギニアの地形にそって東征。グレートバリアリーフを横切って珊瑚海へ。その後はひたすら南下。これで行こう」
「敵モビルスーツ部隊への対応はどうする?」
「モビルスーツが出て来たら対応するけど、基本的には戦闘状況になったら国際救難信号を出して、被害者を装う。大丈夫、正当性はこちらにある。強制捜査だと乗り込んでくるようなら、それこそ撃ち墜としちゃっても良くなるし」
「ああ、ビスト技研はアナハイムの技術開発部と同格の秘匿レベル持ちだもんな」
「そういうこと。ティターンズだろうが連邦軍参謀本部だろうが、それこそアナハイムだろうが関係ない。強制捜査するなら連邦司法裁判所の特殊捜査令状が必須だからね。発行するのに議会の承認が必要だし、そもそも発行するのに手続きだけで数か月かかるし」
「現実的に、それでも襲ってきた場合は?多分多勢に無勢だぞ?」
「出鼻をくじきます。もしもミノフスキー粒子を散布するならスナイパー装備のこちらの方が武器の足が長い。ミノフスキー粒子を散布せずに艦隊射撃をする気ならレーダー装備かつ、スナイパーの特殊兵装を準備できたこちらの方が一撃が重い。多分有利に運べます」
「サイコガンダムはどうする?今の戦力でどうにかできるか?」
「サイコが出て来たら僕が受け持つよ。その間船を先に進めて。どうにかするから。まあ、地形もそうだし状況的にも多分出てこないと思うよ。出てくるなら、グレートバリアリーフを抜けた後の珊瑚海かな?」
「戦闘時間はどうだ?多分、サイコどうこうに関わらず、連中噛みついてきたら離さないぞ」
「マフティーのパイロットチームでも短時間の直衛なら問題ないと思うので、とりあえず耐えてもらいます。マフティーチームだけでクリアできるなら良いし、ダメでも時間稼ぎはいけるはずだから。その間にサイコが居ればどうにかするし、いないならいないで僕がどうにかする」
「凄いな、あいつらをもうそのレベルまで仕上げたのか?」
「予定だけどね。そこまで仕上げられるかは、五分五分かな?でも、命大事にで回避と守備のレベリングを体に叩き込んでるから、短時間かつ集中力切らさないようにローテを組めれば、多分大丈夫」
「よし、なら決まりだな」
Aルートで航路を取って、敵は襲ってこなければ無視、襲ってくるなら船を逃がす方向で、船が行ったらハサウェイが暴れて敵を蹴散らす。
戦術ハサウェイとでも言うべき、極めて乱暴かつ個人のマンパワーに頼り切った作戦が決まった瞬間でもあった。
「よし!じゃあご飯食べましょう。流石に疲れたし」
「だな」
すみませんギギさん、お待たせしてしまって。ハサウェイがそうギギに謝ると、ギギは何処か頬を紅潮させて、輝いたような瞳でハサウェイを見ていた。
それは、戦う男というものを初めて間近で見た、ときめきを覚えた少女の視線のそれであった。
読了ありがとうございました。
始めて色んな視点から作品を進めていますが、これがめっきり難しい。
ハサウェイ視点、ケネス視点、次回以降でネオジオンやロンドベルの視点も出す、予定ですが、本当に難しい。
じっくり書けば話が進まないし、かといって描写無しじゃあ何ともな気がして。
ただ設定を作り込めば、あとで何か設定ミスしたときに整合性取れなくなるし、本当に作品作りって難しいと感じる今日この頃です。
頑張れ私!ファイトだ私!とりあえず完結目指して走り切れ!
どうでも良いけどバイクの話を書きたい!
いつも誤字報告ありがとうございます。
世はAI活用だどうだと言われる中、何一つ活用できずすべて人力で書いて人力で見直している、完全に世の流れに乗れていない作者です。笑ってやってください。でももうちょっと誤字は直せよ私。流石に恥ずかしいって。
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