ハサウェイがアムロやシャアに影響される前に機械オタクになった世界線のお話   作:陸奥九十九

59 / 63
お待たせいたしましたー!今回は宇宙サイドのお話でございます。

最近ZZを見返してますが、ジュドーが記憶より大分美少年でした。あと話が昏い。Zも大概だけど、ZZも大概だと思う。

楽しんでいただければ何よりです。


状況依然混迷せり

「うんっ?言葉が走った!?」

「急にお前は何を言っているんだ?」

 

急にそう叫ぶクェスに、マリーダは慣れたように、しかし呆れた声で返す。

 

「決まってるじゃない姉さん、ハサウェイがまた誰かひっかけたってことよ!つまり、どこぞの泥棒猫がやりやがったってことよ!」

「お前のニュータイプ能力の使い方はそれであっているのか?」

 

マリーダが着るスーツジャケットのフィッティングを進めながら、手は止まることなくクェスは懊悩する。

 

「それにハサウェイが誰彼構わず引っ掛けるのはいつものことだろう?木星から帰ってくれば木星の話ばかりするし、シドニーならシドニー、日本に帰ればバイクや車。やることの幅が広いんだから関わる人間も多いだろう」

「そう言う話じゃないのよ姉さん。この感覚、多分女よ」

「……尚更心配する必要ないんじゃないか?」

 

多分ハサウェイを好きになる女はそれなり以上にいるだろうが、お近づきになれるかどうかは別の問題だろう?

 

右往左往しながらも仕事だけは当然のように進めるクェスを尻目に、マリーダはハサウェイのことを特段心配していなかった。

 

「お前、初対面で総帥に話しかけようと思ったか?」

「え?なんであんなのに話しかけないといけないの?」

「……そうだな、お前はそう言う奴だった」

「ハサウェイに会いに行くと何故かいつもいてハサウェイにじゃれつくアラフィフおじさんのことを、どうして私が気にかけてあげないといけないの?どうして???」

「分かった。例えが悪かった。だからその顔で近づくな」

 

目を見開き、しかし据わった光の無い瞳のまま近づくクェスに、マリーダは思わずその顔を押しのけて遠ざけた。

 

「地球でもシドニーでも月でもサイド3でもサイド1でも、何故かハサウェイの近くに定期的にいてやたらとボディータッチも多くて、ハサウェイも鬱陶しい顔しながら流石に邪険に出来なくて、でもちゃんと偉い政治家だしやってることは多少尊敬しているから敬意を払ってて、そうしたら思いあがったかのようにさらにハサウェイにべたべたするあのおじさんのことを、どうして私が」

「悪かった!私が悪かったからその目をやめろ!」

 

マリーダが思わず身をよじって、ようやくクェスは身を引いた。

 

「発言には気を付けることね姉さん。ハサウェイがいない今、気を紛らわすために姉さんをめちゃくちゃにすることくらい、今の私には造作もないことよ」

「本当にやめろ」

 

マリーダの首筋に顔をよせて匂いを嗅ぐような仕草をするクェスの顔を、マリーダはすかさず押しのける。

 

「いや、行ける気がするの。他の誰でもダメな気がするけど、姉さんならいける気がする。チェーミン相手だと罪悪感が出ちゃうけど、姉さんだったら同じ穴の狢だし、滅茶苦茶にしても、いいかなって」

「本当にやめろ!ロニみたいなことをお前まで言うな!」

 

クェスは深く深呼吸をし、世の理をまさに悟ろうとしていた。マリーダは疲れたようにため息を吐いた。

 

「話を戻すわ。ハサウェイに近づく泥棒猫の話よ」

 

スン、と表情を落とし、クェスが言う。

 

「この感覚、多分女よ。それも若い女」

「いや、だから気にする必要はないと思うぞ?」

「そうかもしれない、でもそうじゃないかもしれない」

「いや、だってあいつ、基本的に女性の容姿が価値基準に入らないだろ?男はともかく」

「そうね、男はともかく。アンジェロさんのこともバナージ君のこともフロンタルさんのことも大好きだものねハサウェイ」

「そうだな。特にアンジェロ少佐のことはずっとカッコイイって言ってるもんな。外見もそうだが人間性もカッコイイって……」

 

いや、女よりもそっちの方が問題じゃないか?

 

マリーダは訝しんだ。

 

「でもね姉さん。夫に若い女が近づく、これは妻として憂慮すべき事態だと思わないの?」

「お前まだハサウェイと付き合ってすらいないだろ」

「心の中での話よ!それにアデレード会議さえ終わればどうにかするつもりだったの!それをっ……誰よ!?こんな時期にテロなんて起こした馬鹿どもは!?」

「ティターンズだぞ」

「知ってるわよそんなこと!そのさらに親玉にあたしは怒っているの!!くそっ、本当だったらアデレード会議が終わった後にハサウェイを押し倒して既成事実作って、火星征伐までの間に全部どうにかするつもりだったのにっ……プロポーズの為にヤマハのチャンピオンマシンまで準備したっていうのに、全部が台無しになりそうなのよ!?憤らずにはいられないわ!というか、姉さんだって同じ気持ちでしょう!?」

 

そう詰め寄るクェスに、思わずマリーダは視線を逸らす。

 

「いや、私はお前とハサウェイが上手く行けば嬉しいとは思うが……」

「そうじゃないわ姉さん。この話はすでに、ハサウェイと、私と、マリーダ姉さんの話なのよ。あの日誓ったじゃない姉さん、一緒にハサウェイをペロペロしようって!」

「そんな誓いをした覚えはないぞ!?」

「いいえ、したわ!あのえっろい首筋をペロペロして、えっろい腹筋もペロペロして、ハサウェイのハサウェイを一緒にべっろべろにしてやろうって、そう誓ったじゃない!?」

「言ってない!本当に言ってない!!」

「何を言っているの姉さん、何のための再生治療よ!?ハサウェイが姉さんにサイコミュを用いた再生治療を提案したのは、きっとこうして押し倒してもらうための誘い受けの一環よ!それを生かさずして、どうするというの!?」

「絶対違う!脳みそ茹だってるのかお前は!?」

 

殆ど叫ぶかのようにマリーダが否定する。

 

「ふう……まあいいわ。姉さんがむっつりなのは分かってるから」

「お前本当に一回ひっぱたくぞ?」

「じゃあサイズも測り終えたし、一回脱いで姉さん。ウエスト詰めるから」

「おい、聞いているのか?」

 

良く回る口と同様に、てきぱきとクェスがマリーダのジャケットを脱がす。

 

「本当に惜しいわ、姉さんのプロポーションならスーツじゃなくてドレスの方が絶対に似合うのに。しかもこのスーツ姿さえ限られた人にしか見せられないなんて……」

「私の衣装に気を掛けるのはお前くらいだろう?まあ、私はあくまで殿下の護衛だからな。それに、あくまでも表舞台に立つのは総帥だ。私も殿下と同じく裏方に徹するさ」

「それもそうね。でも姉さん、ちょっと痩せすぎじゃない?忙しいのも分かるけど、もうちょっと太った方が良いわよ?ラインが崩れる」

「それはお前も一緒だろう?殿下のドレスに掛かりきりだったとは聞いていたが……」

「ああ、ミネバのドレスはもう現地に送ってあるわ。あとは会場の雰囲気を見て、調整するかどうかね」

 

クェスがそう告げると、マリーダが少し押し黙った。

 

「……本当に一緒に来るのか?問題ないとは思うが、それでも先行便は小勢だし何が起きるか分からんぞ?確実を期すなら、総帥たちと一緒にロンドベルと合流してからの方が……」

「流石にそれはダメよ。もしもの時の時間が足りなくなる」

 

クェスはきっぱりとそう言った。

 

 

 

先にマリーダもクェスも聞いていた。地球の状況がどうにも面倒になっていると。

 

そして、ハサウェイの消息が分からなくなったと。

前日の昼頃まではブライトと連絡を取り合い、その時点で明朝にはシドニーと連絡を取り合う予定だったが、夜半に起こったとされるダバオの襲撃から一切連絡が取れていない。

 

テロによる襲撃、それにハサウェイは巻き込まれた。

 

襲撃犯はティターンズと推測され、その襲撃によって、ハサウェイが意図せず降り立ったダバオは廃墟となった。

シドニーのオリヴァー・マイがロンドベルとネオジオンに報告した内容はそんなものだった。

 

多分、いや間違いなく無事なはずだ。

オリヴァーはダバオでの状況が起きる直前に、ハサウェイの救出のために部隊を編成し、ダバオへ乗り込んだとの報告をガウマン・ノビルから受けていた。

 

ガウマンが向かったのなら、まあ無事だろう。何よりハサウェイもいるのだ。十把一絡げのテロ屋程度なら何とでもなる。

 

心配する心を押し殺し、皆そのように結論付けた。

 

あの子は全く、いつも心配をかけて……、そう言って不安を誤魔化すブライトをモニター越しに見た面々は、無事だと信じることこそ今すべき最善手だと、そう断じた。

 

 

 

何より、特にハサウェイの強さを間近で見ていた面々は本当に問題ないと信じていた。

 

だってあのハサウェイだぞ?と。

 

13歳でモビルスーツに乗り、そのまま戦場に出てシャアとの一騎打ちを演じ、アクシズさえ砕いて見事に生還したあのハサウェイが。

16歳で燃え盛るコロニーから避難し、そのまま戦闘をはじめ、やっつけ仕事の量産機で特機を打倒し、メカマンとしての仕事をしつつ世界初の大気圏突入&単独突破を成し遂げ、フロンタルとのツーマンセルで、たった2機で戦略級モビルアーマーを打破したあのハサウェイが。

木星に行く道中にアステロイドベルトで待ち構える海賊や推定火星ジオンの襲撃を幾度となく突破し、あらゆる状況での襲撃、トラブル、それらを予期して木星への航路を開き、結果木星にコロニー建設のための設備資材をたった5年で運びきったハサウェイが。

次期新型量産モビルスーツのパッケージングに対して、ロンドベルの凄腕たちのデータをすべて読み取り、過剰品質な程のデータとパフォーマンスを揃え、その上でプロトタイプのプロトタイプともいえる先行試作機をほぼ一人で作り上げ、マシンのスペック差が多分にあったとはいえ、それを用いて模擬戦でアムロ・レイを危なげなく撃墜した、あのハサウェイが。

 

早々簡単に死ぬことは無いだろう。

 

親心ゆえに、心配のあまり表情を曇らせるブライトを尻目に、単純にハサウェイの能力を信じる者は、心配はすれども焦燥は無かった。

 

 

 

そして、それはクェスも同じであった。

 

というよりも、クェスには確信があった。ハサウェイが生きているという、その確信が。

 

クェスは、アクシズ事件の折に、戦闘からくる死の恐怖から逃れるためにハサウェイの心を読み続けた。

ハサウェイが何を見てきたのか、何を感じてきたのか、そして何をしたいのか。

 

当時として13年、ハサウェイの記憶や感覚、生涯の全てを追体験した結果、クェスは一方的にではあるが、ハサウェイの存在そのものを常に感じ取れるようにさえなっていた。

 

アクシズ事件の時には距離を取れば分からなかったが、ラプラス事件以降ではその距離がより広がり、最近ではもっぱらハサウェイの存在そのものはいつでも感じ取れるようにさえなっていた。

 

そんなプライバシーもへったくれも無い能力を開花したせいもあり、クェスはハサウェイの無事を感覚として理解でき、またハサウェイに近づく推定若い女の気配も感じ取れるようになっていたのである。

 

 

 

その為クェスとしてはハサウェイの身の安全はすでに確認できていたため、心配すべきはミネバがアデレード会議後のパーティにおいて、ごくごく限られた社交の場でその存在を完全に明らかにする際、決して侮られぬよう、舐められぬよう、強く気高く美しい、女王としてのミネバ・ラオ・ザビを演出する、他ならぬドレスやシューズなどの衣装であったというわけである。

 

この感覚をクェスはハサウェイ以外のニュータイプ能力保持者にそれとなく聞いてみたが、同じ戦場のような近しい距離でならともかく、サイドさえ隔てて感じ取れるほどの気配は誰も経験が無かった。

 

クェスもその感覚をブライトには伝えているが、ブライト自身はそれを励まし以上には受け入れることが出来なかった。

 

 

 

「まあ、これでもファッションデザイナーですから、仕事には誠実でありたいわけよ。しかもミネバの一世一代の大舞台だからね。適当な仕事は許されない」

 

いつも適当にする仕事なんて無いけどさ、とクェスは笑う。

 

「……そうだな。なら、せいぜい安全な航行が出来るように、私も私で頑張らせてもらおうか」

 

まあ、道中で何かが起きるとも思えないが。マリーダはそう思っていた。

 

 

 

今回の先行部隊はガランシェールが務める。しかも状況が状況の為、試作ミノフスキードライブユニットをガランシェールに装着させ、かつアデレード会議に関する準備や必要な物資を、完全中立である特殊識別コードを使用して航行するのだ。

この特殊識別コードは連邦、ジオン、それぞれに認められた場合にしか使用できないものであり、基本的には木星船団公社しか普段使用していない。

それがアデレード会議に際して、ジオンにも条件付きではあるが使用が認められたものであった。

 

つまりまともな連中なら絶対に手出しできない存在だと、周知させながらの航行となる。

 

もしもティターンズがジオンの存在を嫌悪し、排除のために動こうとしていたとしても、連邦政府も認める完全中立の識別コード持ちを早々に撃つことは無いだろうとマリーダは考えていた。

ガランシェールは外見はただの貨物艦だ。もしこれを撃ち、中に連邦のお偉いさんでもいようものなら、ティターンズはその存在そのものを自らの手で否定することに繋がる。

 

そしてそれでも決行するどうしようもない愚か者がいたとして、そうであったとしてもミノフスキードライブがあるのだ。

ミノフスキードライブの超高速航行用に改良されたビームシールドは強力だ。たとえ戦艦の主砲であったとしても数発ならば耐えられるし、そもそも高速に過ぎて回避せずとも当たらない。

 

そう言う意味で、マリーダは道中をそれほどの心配をしていなかった。

 

 

 

「……何事も無ければそれに越したことは無いが……」

「大丈夫よ姉さん。私たちは当然大丈夫だし、ハサウェイも、まあ大丈夫よ。気にする必要は、無いとは思わないけど、必要以上に懸念する必要はないわ」

「……それもそうだな」

 

何の気負いも無くそう言うクェスに、マリーダも笑みをこぼした。

 

「気にすべきは一つだけよ」

「ん?」

「ハサウェイに近づく推定若い泥棒女の話を……」

「よし分かった、お前は疲れているんだ。さっさとガランシェールの仮眠室に行け」

 

意味深長な顔で色ボケをかますクェスの尻を蹴っ飛ばしながら、マリーダはガランシェールへと乗り込んだ。

 

 

 

※

 

 

 

「……成程、よく分かった。そちらも大変な時にすまない。……ああ、引き続き何かわかれば通信を頼む。もしも連中に何か言われるならば、連邦参謀本部の名前を使って構わないと言われている。アデナウアー参謀の名前を出して構わない。……ああ、よろしく頼む」

 

フロンタルはそう言って通信を切った。

 

「シドニーのオリヴァー君より報告が上がりました」

「地球の状況は、如何か?」

「依然としてティターンズの公式声明は無し。ただ、ビスト技研の実験場付近にも連中が張り込んでいるそうです。流石にオーストラリア政府や地場の連邦議員の意向を無視して押し入るほどの強硬さは無いようですが、それでも大分強引だと」

「それで、ハサウェイはどうなんです?何か報告は?」

「そちらは何ともだな。ダバオから暗号通信を受け取り、手筈通りにハサウェイ君を逃がすことはできたようだが、オーストラリア近辺の電波傍受があまりにも酷く、広域通信での状況確認は難しいと。恐らくハサウェイ君は無事だろうが、それ以上は何とも」

 

ミネバとバナージの質問にそれぞれ答えるが、しかしそれが曖昧さを多分に含んだものだと、答えたフロンタル自身もよく理解していた。

 

「ハサウェイを保護したという、マフティー・ナビーユ・エリンなる組織については?」

「そちらも依然。連邦が手配したダミーのテロ組織で、地上での諜報部隊の末端だとしか」

「そうか……」

 

シャアの質問も、また得たい情報は無かった。

 

「やはりガランシェールに任せるほかないか。ここにいてはこれ以上の情報も無いだろう」

「仰る通りかと。ミノフスキードライブは優秀です。予定通り出撃すれば、18時間後には地球に降りられるでしょう。そうすれば、シドニーとも旧アフリカ戦線の面々とも直接連絡が取れましょう。救出に際しても状況把握に際しても、如何様にも動けるかと」

「うむ、そこは大佐に任せる。よろしく頼んだ」

「仰せのままに」

 

フロンタルは頷く。

 

「では、こちらで良いように差配させていただきますので、総帥はガランシェールに乗り込み、私の名を利用して前線指揮を執る、などとふざけたことは考えず、ナナイ参謀と共にどっしりとレウルーラで構えて頂ければ幸いでございます」

 

フロンタルが一等優しい声でそう告げると、シャアは一瞬表情を固まらせた。

それを見たバナージとミネバは呆れたようなため息を吐いた。

 

「言うまでも無いことですが、此度のアデレード会議は極めて重要な会議でございます。それ故にイレギュラーは決して許されない。総帥閣下は、予定通りにロンドベルと合流し、予定通りに地球降下ポイントに入り、予定通りにアデレードに到着なさる必要がある。これを違えようものなら、それは条約締結によろしくない要素を加えることになる。まあ、そのような当然のことは、今更ながら言うまでもないことでございますが」

「……当然だ。フロンタル大佐は心配性に過ぎるな」

「申し訳ございません。性分でして」

 

冷や汗をわずかに滲ませるシャアに、フロンタルは柔らかい声色で、しかしバナージやハサウェイには決して向けることが無いであろう冷たい瞳で続けた。

 

「何分私が知らぬ任務に私が参加していた記録や、予定されていなかった任務にロンドベルのクワトロ大尉がなぜか参加されることなど、何故かは分かりませんが何度かございましたので、つい要らぬ心配をしてしまったようです」

 

目が笑っていない。バナージは自分は全く関係ないはずなのにフロンタルを直視できなかった。それほどのプレッシャーがそこにはあった。

 

「このような重要な会議でなければ、総帥がどのように現場視察へ赴かれても、我々としてそれを咎めることなど勿論あり得ません。しかし、今回は事が事です。5年前に翻意にされたジオン独立条約ですが、方々手を尽くしてようやくここまで漕ぎ着けたのです。そして、そのように漕ぎ着けた理由には、バナージ君とハサウェイ君、ビスト技研の多大なる助力があったことは、言うまでも無いことでございます」

 

そう、当初は宇宙世紀0100を契機に、ジオンの自治権返還では無く、ジオンの独立に関しての会議も開かれる予定だった。

しかし当時はまだ反ジオンの勢力も連邦内に大きく存在し、どれほどジオンが地球の復興、連邦政府への助力をしても、世論をジオンへの融和へ切り替えることは難しかった。少なくとも、連邦政府内部が受け取った印象はそう言ったものだった。

 

しかし、ジオンの自治権返還を、殆ど無期限延期に持ち込めたことで、ジオンには時間という制約が消失し、むしろ時間がジオンの味方となった。

 

 

 

ビスト技研は、バナージの意向がほぼ100%通る、言ってしまえば極めて親ジオン的な企業だ。そして、アナハイムやヤシマ、ブッホのような超巨大企業、木星船団公社やコロニー公社のような超巨大NGOを除けば、恐らく一番金持ちな企業でもある。

いや、会社の規模からいえば、世界有数の財力と技術力を持つ零細企業、それがビスト技研であった。

 

そして、社長であるバナージはミネバの夫であり、莫大な財力の殆ど全てをジオンという枠組みへ使用することも可能であった。

 

勿論そんなことをすればジオンを警戒する、連邦を始めとした勢力への不安を煽ることに繋がるため決してしないわけだが、何にしても使える実弾はいくらでもある状況だった。

 

 

 

そして、それらをビスト技研は地球の復興と木星開発、そして新技術の開発に割り当て、かねてよりハサウェイが開発していたプチモビや民生用モビルスーツのOSの特許をビスト技研へと移動させ、凄まじい額の予算を、間接的に連邦政府の政策へ投入した。

 

そしてそれらは、地球や宇宙に関係なく、貧困層への救済措置へと直接的に繋がり、結果として経済を発展させることにもつながった。

 

シドニーの復興が加速度的に進み、シドニーの環境改善がひと段落着けば、既に次なる拠点はダブリンにしようという話も数年前から持ち上がっている。

そしてそれは、他ならぬアイルランド政府からビスト技研へ直接陳情されたものであった。

 

また隕石が落ちたチベットのラサからも同じような陳情があった。こちらにも支援の手を回してほしいと。

 

 

 

ビスト技研は民意を得つつあった。

実情はどうあれ、莫大な利益こそ得ている新興企業が、その事業と利益の殆どを民衆の生活を押し上げることに寄与させ、復興事業で地球の貧困層を救い上げ、OSのパテント料をコロニー環境の改善に使用し、そして木星開発で更なる生活環境の改善に注力する。

 

莫大な予算を投じ続け、ビスト技研は連邦政府に対するアンチテーゼに近い存在にさえなりかけていた。

 

そして、そんな民衆に支持されるビスト技研は、極めて紳士的に、連邦政府に対し提案をするのだ。

 

 

 

連邦政府がジオンを警戒し、危惧することはよく分かる。

 

ジオンがかつて行った悲惨な戦争、その傷跡が未だ残る地球、一年戦争から30年もたっていないにもかかわらず、それらを過去として呑み込むなど不可能であろうことも。

 

しかし、コロニー無くして地球は無い。食料もそうであるし、資源もそうである。そしてそのコロニーの内、サイド3を守護するのは実質的にはジオンである。

 

当然、地球は宇宙に住む者にとっての心のよりどころでもある。その地球を守護する地球連邦政府のお歴々には畏敬の念さえ感じている。

 

そんな地球連邦とジオンが、今度こそ平和的に歩み寄ることが出来れば、これ以上なくビスト技研としては喜ばしいことである。

 

 

 

そんなことを、地球圏の世論さえ味方につけた、ジオンの姫を妻とする、地球にこれっぽちの未練も無いであろう宇宙生まれ宇宙育ちの青年が、含みたっぷりに言うのだ。

 

そして見えずとも、その後ろにいる史上稀に見るカリスマを持つネオジオンの総裁が透ける。

 

さらに事情を知る者ならば、彼の親友である英雄と、その父親である宇宙最強の軍隊を持つ父親も。

 

彼や彼らを守護するかのように振る舞う、3大企業の重鎮たちも。

 

 

 

そんなビスト技研が、しかし極めて従順に、極めて金払い良く、自分たちの生活環境を整えてくれる。上げ膳据え膳の左団扇で。

 

これは極めて甘美な毒だった。

 

サイド3の独立さえ認めれば、ジオンという存在さえ認めれば、自分たちの予算を割かずとも、自分たちが必死になって作ろうとしたリゾート地が完成するのだ。

そして、その為に必要された無限に近しい予算、それをほぼ確実に捻出できるであろう巨大な財布のあてもついた。

 

連邦は、苦渋を呑んだ演技をしつつ、ジオンの独立を認めた。

 

 

 

結果として、ビスト技研は決して安くない金を払うことになった。

それは、コロニーを数基新造してもまだ余るほどの、莫大な資金力を誇るビスト技研をもってしても一括では払い切れぬほどの、凄まじい予算。

 

しかし、ビスト技研はこれを景気良くポンと出した。

 

 

 

つまるところ、アデレード会議でのジオン独立は、殆どビスト技研が金で買い取ったものなのだ。

 

そして、金でどうにかできるのはただの一度だけだと、ミネバもシャアも、当然金を出したバナージも理解していた。

金で権利を買い取った、極めて汚く勝ち取った今回の約束を反故にされれば、次回以降も駄々をこねれば、もしくは予期せぬトラブルさえ起これば、金だけ出させて譲歩させられるかもしれない。そう連中に考えさせかねない。

 

連中は、文明的であっても倫理的ではない。そして俗世の為には文明程度は捨てられる。

 

ダブリンへのコロニー墜としを、地球の人口が減って丁度いい、むしろサイド3を最初から渡せば痛手さえなかったと、当時本当にそう吹聴していたのが連邦政府なのだ。

 

 

 

奇策が通じるのは一度だけ。その奇策を反故にされれば、その次からは交渉さえできなくなる。そうなれば、残る手段は戦争しかなくなる。

 

それ故に、アデレード会議はジオンにとっても、確実に成功させねばならないものであった。

 

 

 

「総帥閣下には引き続きナナイ参謀とアデレード会議でのお仕事の打ち合わせをお願いいたします。あとは良い様に進めさせていただきますので」

「……ああ、任せた」

 

諦めたように背もたれに体を預け、シャアがそう言う。

 

それでは、そう言ってフロンタルはバナージを伴って部屋から退出した。

 

 

 

「ユニコーンの準備はどうかね?」

「問題なく。奥の手も虎の子も準備してあります。いつでも使えます」

「ありがとう。使わない状況になれば嬉しいのだが、正直何が起きるか分からない。ロンドベルも同様に準備しているだろうが、やはりユニコーンが現状一番データが揃っているからな。頼りにさせてもらうよ」

「いくらでも。俺もどちらかと言えばこういう裏方仕事の方が好きですから」

「ふふっ、バナージ君も今やジオンの若君だからな。心中察するよ」

「そう言うフロンタルさんも、一時期は総帥の影武者みたいな真似をしていたじゃないですか。結構似た立場じゃありません?」

「似ているかもしれないが、重さの違いかな?私はいざとなれば総帥閣下に丸投げできるからな、君よりも大分気分は楽だよ」

「ああー、それはちょっと羨ましいです」

「もしもの時は、君も総帥閣下に丸投げすると良い。あの方もあの方で正当なジオンの後継者だからな。押し付ければ案外苦も無く熟す方だ。普段迷惑を掛けられているのだから、その位はしても罰は当たらんよ」

「ですかね」

「ああ。きっとナナイ参謀も疲れ果てた総帥を癒すことで得を得るだろう。あの方は投げ出し癖はあるが仕事はできるからな」

 

そのあんまりな言い分に、思わずバナージが噴き出し、そして言い出したフロンタルも笑った。

 

「……ハサウェイは無事です。俺はそう信じてます」

「私もだ。アンジェロも言っていたよ、彼が早々簡単に死ぬわけがない、とな」

 

出来ることならば今すぐにでも助けに行きたい。

けれど、それが出来る立場でも無ければ状況でもない。今すべきことは、準備すること、そして耐えること。

 

それ以上の言葉は必要なかった。覚悟など、とうの昔にできているのだから。

 

 

 

※

 

 

 

「はあ……」

「そう心配するな。ハサウェイならきっと無事だよ。クェスもそう言っていただろ?」

 

ため息が止まらぬ様子のブライトに、思わずアムロはそう声を掛けた。

 

「そう、だな。……いやしかし……」

「あれがニュータイプの直感なら、信じてもいい。俺はそう思うよ」

 

そう励ますアムロに、ブライトも顔を上げる。

 

「……つい昨日までは、普通に話していたんだ……それがこんな……」

「戦争はいつだって予期せぬものだ。そんなこと、お前が誰よりも分かっているだろう?ダバオならばシドニーともほど近い。状況は混迷しているが、それは相手にとってもそうだともいえる。連中、それほど統率が取れていないぞ」

「……そうだな。それは私も感じていた。なんと言うべきか、軍隊らしくない」

「俺もそう思う。かつてのティターンズだったら、もっと段取りよくやっただろう。政治闘争に関して言えば、連中は強引だったが剛腕でもあった。だが、今回はどうにも行き当たりばったりに見える」

 

連邦閣僚を取り逃がしているところなど特にな。アムロがそう言った。

 

「何よりも、らしくない」

「らしくない?」

「ああ、ティターンズらしくない。ティターンズを名乗っているくせにな。このやり方はむしろジオン残党軍にほど近い。ティターンズならば自ら大局を支配するための根回しにコストと時間をかける。ジャミトフ・ハイマンはそう言う男だった。しかしこれは、まあバスク・オム的だと言えばそうかもしれないが、流石に強引すぎる」

「確かに、閣僚を拉致しアデレード会議に反対の立場を取るよう恐喝して、会議をご破談にさせるか、もしくはティターンズを承認させるよう恐喝するのは、流石に横紙破りが過ぎるか……」

「連中は、ティターンズにシンパシーを感じているが、その実内部に元ティターンズのメンバーは多くないんじゃないか?というか、グリプス戦役だってもう20年近く昔なんだ。当時のメンバーが、それも処刑されたり戦死しなかった幹部でもない一般兵士が、これほどの事件を起こすとは考えづらい」

 

アムロの言葉に、ブライトも思案する。

 

「……これは噂話レベルだが、ジャミトフ・ハイマンの娘が、反ジオン運動に加担しているらしい」

「ジャミトフ・ハイマンの、娘?」

「ああ。当時から政争の只中にあったジャミトフは、自分の親族と絶縁し、危険が及ばぬようにその情報を秘匿させていた。しかし、父を殺された恨みからか、ジャミトフの思想を引き継いで、ジャミトフ同様、地球から人類を追い出し、腐敗した連邦を粛清すべきと」

「待て、ジャミトフ・ハイマンはグリプス戦役の時点で70近い老人だった。その娘ならば、今まさに70近いんじゃないのか?」

「ああ。恐らく彼女自身がテロ活動に参加しているのではなく、パトロンにほど近い立場なのかもしれないが、まあ所詮噂話だ。すまんな、ふと思い出しただけだ」

 

ブライトは話がまとまらなかったのかそうして話を切ったが、しかしブライトがその情報に何か引っかかりを覚えているということを、アムロは分かっていた。

 

 

 

戦力は確実にこちらに分がある。たとえ相手がサイコガンダムなどという旧時代の遺物を持ちだしてきたとしても。

 

今のロンドベルはティターンズと戦っていた当時のように、ディジェやジムIIで足りない戦力に喘ぐ状況では無い。

最新式にアップデートされたジェガンがボトムの戦力であり、その上に最新鋭のマシンと最新鋭の装備を持つ、安く見積もっても宇宙最強の軍集団となった。

 

勝てる戦争だ、それは間違いない。

 

 

 

そして、シドニーにはロンドベルの保有する最新式の兵器たちの、そのプロトタイプが無数にある。そして、それらを完全に操ることが出来る、ロンドベルに勝るとも劣らない精鋭たちも。

 

心配はしていない。この程度でどうにかなるほどハサウェイはやわな男ではない。

 

 

 

その確信の、皮一枚を隔てた向こう側の、正体の見えぬ敵に対して、何とも言えぬ不快感をアムロは感じていた。

 




読了ありがとうございました!

次回は久しぶりの戦闘パートかな?なんか、ずっと盤上を眺める話をしていて、これ大丈夫か?ガンダムってこんなのだっけか?と自分の書きものに疑問を持ち始めています。

逆シャアだとハサウェイとアムロの視点だけ、ユニコーンだとハサウェイとバナージの視点だけでしたが、閃ハサは色々入り乱れてて結構苦戦してます。お待たせしてしまい申し訳ない。



いつも誤字報告ありがとうございます!何故誤字をするか、それは私が雰囲気で作品を書いているからです。ご迷惑をお掛けしてます。

そして感想、高評価、お気に入り登録などありがとうございます。頂ける感想が本当に嬉しいです。
ただ雰囲気で書いている部分が多分にあるので、温かい目で見守っていただけると幸いです。

引き続き感想、高評価、お気に入り登録など頂けると嬉しいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。