ハサウェイがアムロやシャアに影響される前に機械オタクになった世界線のお話   作:陸奥九十九

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いえーい、全然話がまとまらなかったぜ!というか戦闘描写がめっちゃ苦手になってるかもしれない!

キリの良いところまで書こうと思ったんですが、あんまりいいキリのシーンが無くてちょっと長いです。

お楽しみいただけると嬉しいです。


トレス海峡戦闘

ハーラ・モーリーにとって、それは青天の霹靂だった。

 

いざトレス海峡が迫ろうという状況でのブリーフィングで、モビルスーツ隊にも作戦が伝えられた。

 

作戦はあくまでも最短でのトレス海峡の突破、そしてグレートバリアリーフを抜けて、珊瑚海へと出ることだった。

その為戦闘はあくまでも主目的ではないし、基本的には艦の防衛が主目的となる。

 

それは、これまでマフティーが経験してこなかった類の作戦であった。

 

ハサウェイは続ける。

 

艦の護衛を確実に期するためにも、マフティーのモビルスーツ部隊は全機で護衛に当たってもらう、と。

 

一瞬ざわつきもしたが、続くハサウェイの言葉でまた静かになった。

 

襲撃してくるであろう敵モビルスーツ部隊は、基本的には僕が頭を押さえて動きを封じる。みんなには、僕が墜とし切れずに漏れた敵機の迎撃と、それに伴う艦の護衛をお願いしたい、と。

 

その言葉に、皆絶句するかのように静かになった。

 

 

 

敵が拠点とするであろう予測ポイントは3か所、推定される敵の部隊規模は最低でも中隊規模。最大値は大隊に迫るかもしれない。

ただ、数が多ければ早々にレーダーに引っかかるか、戦闘レベルのミノフスキー粒子を散布するはずなので全く不利というわけでは無い。こちらは身軽なゆえに敵の出足をくじけるし、数で攻めてこないなら速さで踏み潰せる。どちらにしても多勢に無勢の力押しにはならない。

 

護衛任務は性質上、打って出る作戦よりも遥かに難易度が高い。守るべき艦に張り付いててもしょうがないし、かといって離れすぎても本末転倒になる。

忘れないで欲しいのは、艦は帰るべき場所だ。それ故に慎重かつ大胆に動く必要がある。

 

失敗は、すなわち仲間の死へと直結する。そのことを忘れないで。

 

 

 

ハサウェイは普段通りの、さながら平坦な口調でそう言った。

その言葉が、しかし確実な重みとなって皆の体にへばりついた。

 

護衛任務のシミュレーションを追加したので基礎訓練の後、任務開始までに最低5時間は習熟するように。作戦開始予定時刻は約12時間後。では、よろしく。

 

 

 

そう言って軽い調子でブリーフィングは終わった。

 

ゴルフやエメラルダ、フェンサーは熱に充てられたようにデッキへと向かった。言われた通りにシミュレーションを熟すためだろう。

実力不足は誰しもが痛感した。そして、それを払拭するためには兎にも角にも訓練するしかない。そこにはやはり熱があった。任務をこなすために、実力をつける。実力さえつければ、分かりやすく壁として存在するハサウェイの高みに近づくことが出来る。

 

それは、言ってしまえばゲームのようでもあり、また自分を高めていくという充実感があった。さらにこれまで熟してきた任務よりも幾分も分かりやすく、また楽しくもあった。

 

 

 

そんな中で、しかしハーラは高揚感より緊張が勝っていた。

 

ハーラは、良くも悪くも現実が見えていた。冷静で、シニカルで、逆を返せば悲観主義者的な側面もあった。

 

これまでのような、勝機しかない戦場へ打って出るわけでもなく、どれほどの敵が待つかもわからない、いわば敵の狩場へ、勝てる策は用意するが結果は分からない博打を打ちに行く。

その事実に、これ以上ない程の畏れを抱いていた。

 

ハサウェイは、マフティーのモビルスーツ隊を革命家のような傲慢さから解き放ち、紛れもない現実を呼び寄せてくれた。しかし、戦場への酔いも覚ませてしまった。

 

ハーラは思った。いっそ酔っ払ったままなら、こんな畏れも抱かずに済んだのにと。

 

これまでだったら彼我の戦力差も作戦も、何も考えずに、子供のような万能感と、溢れ出る蛮勇で命を掛けられていたはずだった。その愚かささえも理解できずに。

 

いや、自分はそれほど子供では無いな。多分、どこか破滅も求めていたんだろう。革命に殉教する、さながら英雄のような儚さとナルシズムを胸に抱いて。

 

 

 

しかし、それがハサウェイによって、キッチリとした軍事作戦にパッケージングされてしまった。

 

そしてそれは、これまで見ようとしてこなかった現実と、向き合うことに他ならなかった。

 

 

 

他の皆がブリーフィングルームから去っていこうとする中、しかしハーラは動けなかった。

怖いのか、恐ろしいのか、そう言った心もあるのだろうが、しかしそれ以上に、単純に見えた現実に尻込みしていたのだ。

それは、モラトリアムの終わりを嘆く、青春の只中にいる学生のような、愚かさを多分に含んだ停滞に他ならなかった。

 

 

 

革命家を気取ってテロ屋をしていたが、しかし本質は小市民でしかなかったのだろう。だからこうして、現実が見えると途端に尻込みする。

その自らの小物ぶりに、ハーラは苛立ちを覚えていた。

 

 

 

「ハーラ」

「え?」

 

うなだれるハーラに声を掛けたのは、他ならぬハサウェイだった。

 

「僕のバディとしてEWACに乗って欲しいんだけど、行けそう?」

「……え?」

 

それは、ハーラにとって思いもよらぬ言葉であったのは言うまでも無かった。

 

 

 

※

 

 

 

「……なんで私なの?」

「あのメンバーの中で一番視野が広かったから。あと耐G適性がそこそこ高かったから。……あれ、言わなかったっけ?」

「それは聞いた。そうじゃなくて……」

 

EWACのサブシートに座り最終調整を進めるハサウェイを横目に、ハーラは未だ困惑を隠せずに言葉を続ける。

 

「……ハサウェイ一人で何とかなるんじゃないの?こんな状況も」

「まさか。そんなに安い状況じゃないよ」

 

それは最早卑屈ささえ含んだ言葉だったが、ハサウェイは手を止めることなく否定した。

 

「まあ、僕一人で大立ち回りをするつもりなのは否定しない。マフティーチームには母艦の防衛を任せたのも、僕一人で前に出た方がやりやすいと思ったからだし」

「じゃあ……」

「というか、みんな援護射撃下手でしょ?流石に怖くて背中を任せられないよ。できる?乱戦でピンポイントに援護射撃。射撃スコアAが足きりラインだけど、行けそう?」

「……ぐう」

 

何ともなハサウェイの言葉に、しかしハーラは唸ることしかできなかった。

 

「……じゃあ、耐G適性は?所詮ジェガンとSFSでしょう?私じゃなくても……」

「そっちは保険、かな?最悪の事態が訪れた時、多分周りに気を配る余裕がなくなる。その時に前線で、同じ視点で切った張ったが出来る人が良かったから、耐G適性はその指標の一つ」

「最悪の事態って?」

「サイコガンダムがフル稼働で出てきたとき」

 

サイコガンダム。ハーラは過去の映像やブリーフィングで想定されるマシンスペックからその脅威を説明されたが、どうにもしっくり来ていなかった。

 

「そんなにヤバいの?サイコガンダム」

「ヤバいよ?万全に処理するならロンドベルレベルが必須だからね」

「ハサウェイでも、万全じゃない?」

「勿論。遅滞戦闘で何とかヴァリアントとシーラックが逃げ切る時間は稼ぐ、つもりだけど、まあ大分ぎりぎりだね。ワンチャン普通に死ぬだろうし」

 

せめてニューガンダムでもあればなあ……いや地上じゃファンネル使えないし意味ないか。

何と無しにハサウェイは言う。しかし、ハーラは改めてハサウェイの口からそう説明され、呆然とした。

 

「……そう言うレベルなの?」

「そう言うレベルだよ?ブリーフィングでも言ったでしょ?」

 

ハサウェイのキーボードを叩く音だけがコクピット内に響く。

どこかでハーラは、戦況というものを甘く見積もっていたのかもしれない。

あれほど強いハサウェイが、一人でほとんどの敵部隊を相手取ると言った。自分たちには護衛に専念させて。

 

それは、状況はそれほど切羽詰まっている訳でなく、ハサウェイ一人で十分な戦場で、だからこうして前に出ているのだと、ハーラだけでなく、恐らく他のモビルスーツ隊のメンバーも、そう誤認していた。

 

だってハサウェイは、自分たちが束になっても全くかなわないほどの凄腕で、なんでもできてしまう超人のような人なんだから、と。

 

「敵の攻撃を避けることに関しては、僕は結構自信がある。周りにいた教官たちがみんなスパルタだったから、生き残る技術を叩き込まれてきたのもあってね。でも、サイコレベルの弾幕を目視可能な至近距離でやられると、手が足りなくなる。サイコはともかくそれ以外の敵がね。だからハーラには、その足りない攻撃をやって欲しい」

 

改めてコクピットの中でそう言われ、ハーラは震えた。

 

出来るのか?私に。ハサウェイでさえ生き残るのに必死な戦場に出て、マシンの操作はともかくとして、照準を合わせて、確実に敵を撃ち抜き、ハサウェイを助けることが。

 

いや、出来なければ、ハサウェイは死に、ハサウェイが死ねばヴァリアントもシーラックも沈む。出来なければ、マフティーは死ぬ。

 

 

 

当たり前の現実が、見えていたはずの、しかし見ようとしてこなかった現実が、ハーラの前に降り立った。

 

 

 

ふと、肩を軽く叩かれた。

 

「大丈夫、僕は、結構みんなのことをぼろくそに言うし、まあ実際足りないところが多いから、これからもぼろくそに言うだろうけど、ハーラなら出来るよ。出来ると思ったから呼んだ。無理なことなら、そもそも頼まない」

 

フッと、ハサウェイが微笑む。

ハーラは、柔らかくあたたかな、花のような優しい香りを感じた。

 

「乗ってもらうEWACのレーダーと照準器はかなり優秀だし、サブで使うジェガンスナイパーの照準装置なんて、元々は特殊部隊が狙撃用に使っていたものなんだ。もう大分高性能だよ。あとは冷静に、タイミングを見計らって、確実にトリガーを押すだけだよ。それに装備させる短距離ミサイルは誘導機能も優秀だから、多少ズレても、まあ問題ないし」

 

弾数はちょっとシビアかもだけどね。ハサウェイが肩をすくめながら大仰にポーズをとる。

 

「出来ると踏んだから頼んだ。その実力はちゃんとあるよ。だから、僕のバディとして、前線での槍働き、お願いできる?ハーラ」

 

真っ直ぐに向けられたハサウェイの視線を、ハーラもまた、逸らすことなく見つめ返した。

 

「はいっ!」

「よし、じゃあ頼んだ」

 

屈託なく微笑むハサウェイの笑顔が、どうにも爛漫に過ぎて、ハーラは思わず視線をそらした。

 

 

 

※

 

 

 

トレス海峡に差し掛かったのは22日の明け方だった。

 

日が水平線から登り始め、夜は完全に明け始めていた。

 

「完全な有視界戦闘か……」

「仕方ない、スケジュールがスケジュールだからね」

 

思わず息を吐くイラムに、励ますようにしてハサウェイが声をかける。

 

「さて、じきにトレス海峡に入る。現時点では戦闘レベルでのミノフスキー粒子は散布されていないようだけれど、日が昇った。イラムの言う通り、本番は完全な有視界戦闘になる」

 

ミーティングルームに集まったパイロットたちにハサウェイが声をかける。

顔色は、皆悪くない。全員それなりに眠れたのだろうとほんの少し安堵する。

 

「ブリーフィング終了後に即応体制に移行。何事も無ければ10時間程度で抜け切るけど、状況次第で20時間くらいはぶっ通しになるかもだから、まあ頑張ろう」

 

何とも締まりのない言葉を言うハサウェイに、皆少しおどける。

 

「時間のない中でシミュレーションもよくやってくれた。ジェガンのシールドは優秀だ。でも過信はしすぎないように。もしもの時は海に向かってビームを撃って波しぶきを立てても構わない。海水でいくらかビームも減衰するだろう。勿論波風を立て過ぎればヴァリアントやシーラックがバランスを崩す。艦長は凄腕だけれど、あまり頼りすぎないように」

 

ムンと顎を突き出すようにするブリンクスにまた少し笑う。

 

「何か質問は?……良し、じゃあ、ここが正念場だ。気張って行こう」

 

いよおぉーーーし!とゴルフが雄たけびを上げると、それに呼応するように皆声を上げた。

 

 

 

白い朝日が昇る美しい凪の海で、新たなる戦争が今まさに始まろうとしていた。

 

 

 

※

 

 

 

輝けるエメラルドグリーンの海に、水底に時折除く白く輝く珊瑚礁に、それらの美しさに目を奪われる暇などなく、マシンが空を駆ける。

 

 

 

「ぐっ……!」

 

 

 

歯を食いしばりながら全身に掛かるGにハーラは耐える。耐えながらも、マシンはどこまでも縦横無尽に飛び回る。

 

 

 

そして閃光が走る。

 

ズギュウゥゥーーン!……と明らかに通常のビームライフルとは違う太く長い射撃音を轟かせながら、また1機ハサウェイが両足を照射時間の長いビームライフルで切り落とす。

 

『上がるよ』

「うぅ……っ!」

 

その言葉に一瞬の遅れも無くマシンが追随する。

 

 

 

そして、必死に握る操縦感と、目を細めながら、しがみつくようにしてモニターに映る敵機に照準を合わせ、タイミングを合わせてトリガーを引く。

 

直後にミサイルがSFSから発射され、虚をつかれたのか一瞬で遅れた敵機のメッサ―にミサイルが早々に追いつき、逃げようとする足にくらいついて爆発した。

 

『いいね、その調子』

 

事も無げにそう言うハサウェイに最早怒りさえ覚えるハーラだったが、悪態を吐く余裕など当然ない。

 

 

 

『次、ヴァリアントの進行方向だね。行くよ』

 

 

 

敵機を沈めても息つく暇もない。当然だ、これは敵を倒す任務では無く、どれほど湧いてくるのか分からない敵を倒しつつ、艦を進めるための護衛任務なのだから。

 

 

 

 

 

 

任務の始まりは、予期していたにもかかわらず唐突でもあった。

 

レーダーに感があったわけでもなく、また敵からの砲撃を受けたわけでもなかった。

 

しかしハサウェイは言った。

 

『来たね』

 

その言葉は思わず出たようなものだった。そしてハサウェイがマシンを動かす。

 

「来たって、まだ何も……」

『いや来たよ。A班出ます』

 

応答も何もなく、もともとオープンになっていたヴァリアントの格納庫から出撃する。

 

 

 

そして、最大加速でハサウェイは吶喊する。

 

「あぐっ……」

 

ハーラはその加速感に思わずうめき声を上げた。

 

 

 

ハーラは、短い時間であったことは確かだが、シミュレーションで耐G訓練も受けていた。

ハーラにとって辛く厳しい訓練であったことは間違いないが、それに実際耐えて見せた。そして、ハサウェイは言った。「実戦闘に際しても可能な限り優しい戦闘機動を心掛けるから」と。

 

そこには達成感と安心感が確かにあった。

それは、これほどの訓練でも私は耐えられた、だから本番でも大丈夫だろう、という達成感。そして、ハサウェイは無茶な機動を取らないといった、ならばきっと大丈夫だろう、という安心感。

 

 

 

それらは、戦闘が始まる前に両方とも消え失せた。

 

 

 

『正面2機、その後方に、もう2機。1個小隊規模』

 

ハサウェイが回線を開き告げる。

 

『こちらはビスト技研の海洋調査艦護衛機です!本海域での武装に対しては連邦政府より制限がかかっております。あなた方の所属と武装許可コードをご提示ください!出来ない場合、こちらは自衛行動に入ります!繰り返しま……』

 

そしてその通信の最中に、敵機は返答も無く発砲を始めた。

 

放たれるビームをローリングで回避し、ハサウェイは小さく息を吐いた。

 

『まあ、そうなるか』

 

 

 

即座に体勢を立て直し、戦闘に入る。

 

そして、巨大なスナイパーライフルを槍を構えるように腰にためて、まるで狙ってもいないかのように間を置かずに2連射する。

 

ズギュウゥゥーーン!ズギュウゥゥーーン!

 

 

 

2射はどちらも外れることなく、先行する2機の脚部を焼き切る。

 

 

 

『これに当たってくれるのなら……』

 

ハサウェイは即座に上昇をはじめこれ見よがしに高所を取りに行く。

 

『ハーラ、牽制でいい。ミサイルを撃って』

「了、解っ」

 

上昇のGに耐えながらもハーラもなんとか返答を返す。

EWACの優秀なシステムと、そしてそれを十全に使いこなすためのハサウェイの狙撃用のプログラミングは、攻撃に必要な要素の、その大部分をマシン側で完結させてくれる。

 

どの敵を狙うかを選択し、コンピューターに情報を処理させ、発射可能になったらトリガーを押す。これだけだ。

 

その代わり細かい制御はできない仕様でもあった。牽制代わりに着弾前に誘爆させることも、敵の動きを制限させるために中空で爆発させることも。

 

それでも、今のハーラにとってはその簡易さが何よりも助けになった。

 

「ぐぅっ……」

 

ハサウェイの戦闘は、それまでマフティーが経験していた、言ってしまえば掃討戦にほど近い電撃戦とは違う。

 

真の意味での戦闘機動というものを、ハーラは初めて体験していた。

そして、その過酷さも。それ故に単純明快に簡略化されたロックオンシステムは何よりも楽だったし、恐らくこれ以上の仕事は無理だとハーラも理解できた。

 

 

 

敢えて言うまでもないが、ハサウェイはハーラに気を遣って、可能な限り急激な機動を取らないようにはしていた。

 

急加速、急減速、急転換。急とつく動作は可能な限り取らず、本当に優しい機動での戦闘を心掛けていた。

 

しかし、誤算があるとすれば、それらはあくまでハサウェイにとっての優しい戦闘機動でしかなかった、ということである。

 

より丁寧に、より確実に、ミスなくマシンを前に進める。

 

マシンにとっても負担の少ない優しい戦闘機動であったそれは、結果、無駄な横Gは確実に減ったが、加速に際しての縦Gはより強力になってしまったことに、ハサウェイは気付けずにいた。

 

 

 

ハーラの放ったミサイルは後方部隊へと飛翔し、固まっていた2機をバラバラの方向へと散らせた。

そして、内1機に被弾した。シールドに防がれたが、爆発によって腕ごとシールドを破壊せしめた。

 

 

 

『うん、やっぱそれなりだね』

 

上昇から一瞬静止、瞬時に狙撃姿勢を取り、その直後にやはり溜めることなく連続して2射放つ。

 

ズギュウゥゥーーン!ズギュウゥゥーーン!

 

2射はやはり後方部隊であったメッサ―2機の脚部を正確に撃ち抜き、先の2機と併せて敵部隊は全て海へと沈んでいった。

 

『帰るよ。多分これで敵さんも本腰を入れてくる』

「っ、はい!」

 

 

 

 

 

 

 

ヴァリアントへ戻ると即座に通信を開く。

 

『まずは4機墜とした。南から来てたから、多分木曜島あたりに陣取ってた連中だと思う。警告に対し返答無しで撃ってきた。こっちの身元はバレてるでいいと思う』

『了解した。船速を上げる』

『頼みます。モビルスーツ隊各員へ。ここから敵も本腰を入れてくると思うから、レーダー圏内に敵が入ったら各自応戦。ミノフスキー粒子が戦闘レベルで散布されたら母艦との距離を気を付けて』

 

疲れた様子など欠片も無いハサウェイに対して、ハーラは既に息を切らしていた。

戦闘そのものは大したことは無くとも、戦闘機動そのものに慣れていないハーラにとって、この一戦は精神的にも肉体的にもそれなりの負荷になっていた。

 

『潰したのは威力偵察だろうから、ここから本腰入れてくると思うよ。みんな、気合入れていこう』

 

おおよ!!了解、などと通信でそれぞれに声が入る。

 

『ハーラ、大丈夫?』

「っ、平気、です!」

『OK。多分先行部隊を早々に潰したから、敵も次は何らか策を講じてくると思う。多少休めるから、今のうちに休んで』

「了解……」

 

ハーラはおもむろにヘルメットを脱いで、喘ぐ呼吸を必死になって宥めつけた。

 

これが、戦争……

 

トレス海峡を抜けるまでおよそ10時間。先は長く、また状況によってはもっと長引く。

 

先の見えない地獄に、ハーラはしかし覚悟を決めた。

 

 

 

※

 

 

 

その後も戦闘は断続的に発生し続けた。

 

トレス海峡の小島を遮蔽物に用いての射撃戦、時にはチーム単位での囮と援護、さらには長距離射撃。

 

 

 

「ハーラ、ミノフスキー粒子の濃度が濃くなってきている。OSを切り替えて」

『はいっ!』

 

しかし、それらは全ては、言ってしまえば殺る気のない戦闘だった。

 

 

 

まずいな、ハサウェイは状況の悪化をひしひしと感じていた。

 

連中、思った以上にいやらしい。正面戦闘で勝てないと踏んで、即座にストレス性の遅滞戦闘へと切り替えてきた。

殺る気は無いけど、休ませる気も無い。そして何より、捨て身で僕たちを墜とそう、なんて蛮勇も無い。そののっそりとした動きは老獪であり、戦場に慣れた動きそのものであった。

 

 

 

「どうしたものかな……」

 

ミノフスキー粒子は戦闘レベルまで引き上がっている。

恐らく当初はこちらの戦力を大したものでは無いと想定していたのだろう。だからミノフスキー粒子の散布もおざなりだった。

 

けれど。小隊程度なら容易に蹴散らされると理解出来て、即座にストレス攻撃へと戦法を切り替えてきた。

現に分かりやすく本隊が身を晒してくれない。多少の危険を冒してでも艦隊を集結させ、艦砲射撃での撃ち合いに持ち込めば状況は優に片付くだろうに、そう言った動きは見えない。

 

そうしないのは恐らく、本隊や母艦の位置を敵に晒すというリスクを嫌ってのことか。

 

そしてそれはこちらとしてもありがたいことではあった。

 

ヴァリアントもシーラックも所詮は貨物船だ。対空兵装も無ければ対艦兵装も無い。力押しでこられたら、一か八かで勝負に出るしかない。それには多大なるリスクが伴う。ハサウェイとしても、またイラムやブリンクスとしても、それは避けたい状況であった。

 

 

 

そう思考を進めて、しかし一瞬引っかかった。

 

……いや、本当にそうか?連中は、本当にリスクだけを嫌ってモビルスーツ隊での遅滞戦闘なんてハラスメント攻撃しかしてこないのか?

 

艦隊に、それこそ山のようなミサイルがあれば状況はすぐに片付いてしまう。

 

たとえ僕たちが必死になってモビルスーツという小戦力で状況を追い立てたとしても、一手か二手こちらが出遅れるのは間違いないんだ。それは、連中も分かっているはず。

 

にもかかわらず、最低限のリスクさえ冒さないのは、何故か?

 

 

 

雲さえ少なく、洋上には強い風が吹いていた。その蒼穹にあって、ハサウェイは空に狙撃スポットを置いていた。

 

 

 

レーダーの利かぬ戦況の中、その身を敵の射線に晒し、有視界という限られた情報の中で、微かに視界に映る、米粒よりもさらに小さい敵機を撃ち抜きながらも、考える。

 

 

 

ロックオン警告に微動だにすることなく、撃つ。そして直後迫るビームを紙一重でかわす。

僅かにビームの熱で溶ける装甲をハーラはメインモニターでありありと確認し、その薄すぎる紙一重に恐怖を超えて畏敬さえ抱き始めていた。

 

 

 

これほど身を晒して、これほど状況を見渡しても、敵の本隊が見えない。

ミノフスキー粒子を散布した時点で、有視界戦闘以外では、もはやこちらを沈めることは無理筋だ。事実視界に映るヴァリアントとは、中距離通信では繋がらない。

 

進路を進めば進むほど、敵のトラップが待ち受けるかと思っていたが、現状そう言うわけでもない。濃くなっていくのはミノフスキー粒子程度のものだ。

 

敵機はいるが、敵の陣地は無い。事実、予想よりもずっとスムーズに航路を進行で来ている。

 

 

 

……まさか、敵の艦隊は、ここにはいない、のか?

 

 

 

ハサウェイは大前提に過誤があったのやもしれぬと思った。

 

どこぞの陰に本隊を隠して、分かりやすく展開するモビルスーツ隊と航空戦力のために滑走路のある拠点を利用していると踏んでいたけど、まさか、母艦さえなくてモビルスーツとSFS、あとは輸送機のみで展開させるにあたって、使いやすい拠点として滑走路のある拠点を選んだのか?

 

だとすれば、このハラスメント攻撃は、遅滞戦闘でなく、本当にただの苦し紛れ……?

 

分からない。その分からないという状況が、ハサウェイに得も言えぬ気持ち悪さを与えていた。

 

 

 

「ハーラ、砲身を休ませたい。敵機の捕捉はこちらでやるから、ミサイルで牽制して」

『了解っ!』

 

迫る攻撃を避けつつ、そして散開し戦術的ダメージを与えようと動き回る敵機を捕捉しつつ、ハサウェイは尚も考える。

 

既に戦闘状況が開始してから4時間は経った。

艦は順調に航路を進み、このままなら問題なく進めてしまえる。トレス海峡も、このペースならあと4時間もあれば抜けてしまえる。10時間で珊瑚海まで問題なく出れるスケジュールだ。

 

連中も試行錯誤はしているが、それがこちらの足を止めるほどの効果がないことは痛感しているだろう。

 

4時間で、ハサウェイとハーラだけで8機、マフティーチームが墜とした数も合わせれば12機は行ったか。ここまでで既に1個中隊規模のモビルスーツを損失しているのだ。

とてもじゃないが安い出費では無い。部隊規模によっては全滅と言って差し支えないほどの損耗だ。普通であれば、こんな状況になる前に打開策を打つ。

艦隊での砲撃戦に持ち込むか、部隊を集結させて電撃戦に走るか、はたまたトレス海峡はおとなしく進ませ、珊瑚海へ出てから総力戦をかけるか。

 

取れる手段はいくらでもある。そしてそれは、戦闘が始まった直後から連中も理解できたはずだ。

 

にもかかわらず、未だに戦力の逐次投入などという愚を続けている。

 

そうだ、これは小戦力によるハラスメント攻撃などでは無い。ただの戦力の逐次投入だ。元々足並みがそろっていないように思えていたが、連中はどういった作戦を敷くつもりだったんだ?

 

 

 

ハサウェイが抱いていた気持ち悪さとはまさにそこだった。

敵の意図が読めない。現状勝てているが、なぜ勝てているかが理論的に説明できない。すべて敵の失策で成立している戦況だからだ。そして、今後敵が取りうる行動も絞り切れない。

 

少なくとも敵がこれからも失態を続けるなどとは思えない。

 

トレス海峡に入ってから4時間経った。

しかし、これはあくまでも船の足の速さに合わせているためだ。もしも連中が、艦隊の合流は無理でも、こちらを打破しうるモビルスーツ隊を呼び込むために足止めをしているとしたら。

 

このやる気のなさにも、ある程度は得心が行く。

 

 

 

「だとしたら面倒だな……」

『え?』

「何でもない。銃身の冷却も大丈夫。あとは……」

 

そう言葉を続けようとして、敵部隊の動きが嫌に目についた。

 

これまでと違って、こちらに掛かり気味になっている。まるで、勝機を得たかのような動きと取り方だった。

 

 

 

瞬間、脳の瞳は、迫りくる脅威に宇宙を見た。

 

 

 

「マジか」

 

脳裏に映ったのは、ほんの数日前に空で見た、あまり良い記憶の無い可変モビルアーマーだった。

 

「ギャプランか」

『ハサウェイ!?』

 

ハサウェイは転進し、ヴァリアントへと接近、通信が届く範囲まで降り立つ。

 

「東からギャプランとその部隊が来ている!多分これが本命だ!僕とハーラはその対応に離れる!その間艦の護衛をお願い!艦長、イラム、そう言うわけだから、あとはよろしく!」

『っ、了解した!頼んだぞ!』

「みんな、この4時間でこっちの戦力は敵に知られている。つまり勝てる算段を付けたから本命を投入してきたはずだ。敵は確実に大攻勢をかけてくる。母艦を、僕たちが帰るべき場所を守り切れ!頼んだよ!!」

 

返答を聞くまでも無くハサウェイは転進し、最大加速でグレートバリアリーフ方面へと飛翔する。

 

 

 

多分ここが最初の正念場になる。そんな確信をハサウェイは抱いていた。

 

そして、未だ見えもしないが、しかし向かう先に確実に待ち受ける強敵に、思わずハサウェイは臍を噛んだ。

 

 

 

「ハーラ先に謝っておくけど、多分結構機体を振り回すと思うから、ノーマルスーツの脚部を加圧してブラックアウトに備えて。あと強制酸素吸入の設定も入れて」

『そんなに、ヤバい敵なの……?』

「ヤバいよ。あとミサイルの発射設定をモード3に変えておいて。発射タイミングはこっちで指示するから、照準とかはよろしく」

 

ハーラはハサウェイの言葉に困惑を隠せずにいた。

それもそのはずで、ハーラはギャプランと言われてもどういったマシンなのか全く見当がついていなかったのだ。

 

ティターンズの、つまるところ20年近く昔に、ほんの数機だけ作られた極めて特殊な部隊の、しかも使い手を選びすぎる特殊な可変モビルアーマー。知らない方が当然ではある。

 

ハサウェイも迫りくる敵機に気を取られ過ぎていたとようやく気付き、ほんの少し肩の力を抜いた。

 

「えーっと、ギャプランは、ティターンズが作ってた可変機なんだよ。ティターンズの、Zガンダムみたいなやつ。可変機で、単独飛行可能で、大気圏突破とかが出来て、当然すごく速い。その代わり乗り手を選ぶ、そういう凄いマシン」

『そう、なんだ……あの、ハサウェイは、勝てるの?』

「微妙」

 

不安そうなハーラの声を、ハサウェイはバッサリと切り捨てた。

 

「パイロット次第ではあるけど、僕と同じようなパイロット技量なら正面戦闘じゃ勝てないと思う。僕以上の技量なら、そもそも戦闘にもならないかもしれない」

『えっ、じゃあ……』

「大丈夫、勝機はある。というか作る。こういう状況は、結構経験してきたから」

 

 

 

マシンスペックで勝てない上に、パイロット技量でも敵わない敵と相対した時、勝機など一切なく、敗北は必然か?

 

答えは否。やりようによっては汚く意表を突いて勝てる時もある。

 

ハサウェイのパイロット能力で、アムロ・レイに勝てる能力値は何一つとして存在しない。

 

射撃能力、機動能力、マルチタスク能力、状況適応能力、援護能力、支援能力、指揮能力、そしてニュータイプ能力。

それらすべてが劣ったハサウェイが、では同じジェガンに乗って模擬戦をすれば、必ず全敗するのか?

 

答えはやはり否。マシンを同条件にした際のハサウェイとアムロとの通算戦績は、4勝46敗である。負け越しこそすれ全敗では無い。

 

この4勝は、すべて1発限りの奇策を用い、完全な意表を突いて、一発芸的に勝ち取った勝利であった。

地力で負ける敵に対して、戦力で負ける相手に対して、どうにかして勝機を見出す。

それこそがエースの資質だとアムロはハサウェイに言った。

 

 

 

更に付け加えるのであれば、基礎能力と戦闘成績もまた完全には結び付かない。

 

アムロ・レイとシャア・アズナブルの間に、隔絶するほどの技量の差は無い。

データ上は、少なくとも訓練で取れる単純なデータの比較では、二人は全くの同格と言える。

 

しかし実戦闘においてはそうではない。アムロ・レイは明確にシャア・アズナブルを上回っていた。

 

 

 

それは、ハサウェイとの模擬戦の成績でも表れていた。

対アムロ・レイでは、4勝46敗。勝率8%

対クワトロ・バジーナ(シャア・アズナブル)では、18勝64敗。勝率22%。

 

そこには、「確実に相手を殺すための能力」とでも言おうか、「ここ一番の状況で確実に勝利を掴み切る能力」とでも言おうか、もっと単純に「生存能力」で良いのか、そう言った目に見えぬ能力による、明確なる差がそこにはあった。

 

 

 

そして、ハサウェイもまた「その能力」を持っている側であった。

 

アクシズ事件で、ラプラス事件で、圧倒的不利な状況に際して、しかしか細い勝利の糸を幾度となく掴み切ってきた。

 

ハサウェイの強さは、射撃能力でも、格闘能力でも、ニュータイプ能力でもなく、数値化することが難しい、まさにそこにあった。

 

 

 

だからこそ、緊張はあれども恐怖は無かった。

 

ひと当てすればおおよそが分かる。もしもアムロ・レイほど強ければどうしようもないし、自分と同程度の実力であれば奇策を弄すれば初見殺しで勝ち逃げできるかもしれない。それ以下なら力押しでもどうにかなる。

 

 

 

問題は、ギャプランを地上運用する、などという、強化人間レベルの耐G性能が無ければできない策を取ってきた、という点にある。

 

恐らくギャプランに乗ってその性能を十全に発揮できるのは、ハサウェイの知るパイロットにはバナージとマリーダしかいない。当然ハサウェイ自身も乗りこなすことは出来ない。

 

つまるところ、敵は少なくとも自分と同格か、もしくはよりは強いだろうということがこの時点で分かってしまっているのだ。

だが、それを態々ハーラに伝えて不安を煽っても意味は無いと思い、ハサウェイは口をつぐんだ。

 

 

 

そして、ハサウェイは未だ見えぬ敵機を視た。

 

「……速いな」

 

超高速で接近するその存在を、ハサウェイの脳が捉えた。

ギャプランはブースターオプションを装備すれば単独での大気圏突破が可能なマシンだ。地上での巡行という低中速度でも、音速は優に超える。

 

球形の地球は、宇宙と違って視界が限られる。狙撃しようにもレーダーが無い状況ではどうしようもなく、ましてやビームでは待ち構えるしかない。

 

ビームは、ミサイルや実弾と違って、水平線の彼方から迫る敵に当てることが、性質上ほとんど不可能である。弾速によって空へ行ってしまうし、何より大気で減衰するからだ。

そしてミサイルはミノフスキー粒子によって超長距離爆撃が事実上不可能になっている。

 

実弾での砲撃であればまた話は違うが、昨今のモビルスーツに実弾で有効なダメージを与えるのは、不可能ではないが難易度が高い。

現代のモビルスーツに対して、単純に威力が足りないためだ。近接格闘でならバルカンやバズーカは有用だが、長距離では基本的には役に立たない。そして、距離が開けば開くほど、当然だが回避も容易になってしまう。

 

 

 

「エネルギー充填はじめ、粒子加速をマイナス方向へシフト、バレル形成、簡易Iフィールド構築」

 

 

 

そこでハサウェイは考えた。地上でビームを有用に使用するシステムを。割と昔に、一晩くらい。

 

大気で減衰するのなら、減衰しても問題ない程のエネルギーを込めればいい。

速度によって重力の影響を受けず宇宙へ飛んで行ってしまうのなら、弾速を下げればいい。

 

そしてハサウェイはでっち上げた。通常のビームよりも弾速が遅く、重力の影響を受けて水平線の彼方へと落ちていく、球形で撃ち出されるビームを。

 

Iフィールドを用いた、実弾のように使用できるビーム砲を。

 

 

 

ただし欠点も多い。

 

まず弾速が通常のビームより遅いのだ。正面戦闘ではまず避けられるだろう。

 

次に当たらない。レーダーがミノフスキー粒子で潰されているのに、どうやって水平線の彼方にいる、目視出来ない敵に当てられるというのか。

 

最後に威力が低い。ここまで手間をかけても、地上では結局威力減衰が起きるのだ。だったら近寄ってビームを撃った方がコストパフォーマンスが良い。手間も少ない。

 

流行らなかったシステムには、当然だが欠陥がある。

ハサウェイもシステムを構築しきって良い気になって、一晩経って見直した時にこう思った。「普通に撃った方が良くない?」と。

 

 

 

しかし、こういった戦力的に不安が残る戦場で、手間をかけるだけで敵のエース機の意表を突けるのなら、悪くない。

 

何より、当たるも八卦、当たらぬも八卦、いや、多分当たらないけど当たったら嬉しい程度の気分で撃つ嚆矢のようなものだ。意表を突ければ万々歳、当たらなくて当然。

何より、本命は別にあるのだ。そう言う状況ならば悪くないと、記憶の片隅にあったシステムを呼び起こしてインストールさせた。

 

 

 

「視える、かな?……うん、視えるな」

 

何より、長距離射撃の妙を、ハサウェイはフロンタルから学んでいる。

当たらずとも、当てるための能力は、既に十全に備わっていた。

 

 

 

「当たれよ?」

 

ドオオォォーーーーーン!!!

 

大気を焼き切りながら、通常のビームとは明らかに違う、炸裂音のような音を轟かせ、その一射は放たれた。

 

 

 

そして、水平線の彼方で爆発が起こる。

 

『当たった!?』

「……いや、かすっただけかな?」

 

 

 

バレルにダメージを残したくない。撃てて後2発程度、かな?

 

ハサウェイは、未だ何も映らない水平線を視る。

 

 

 

最初の一発、多分本命に当たってない。避けられたかな?まあ弾速が弾速だしな。

 

だったら、避けた先にも、攻撃を置かないと。

 

 

 

ハサウェイは視る。目に見えぬ何かを。直感が感じ取る何かを。そして、脳の瞳が映す宇宙を。

 

 

 

まだだ、まだ待て。まだ、まだ、まだ……

 

「今」

 

ドオオォォーーーーーン!!!ドオオォォーーーーーン!!!

 

 

 

爆音轟く。

 

数秒後、同じように水平線の爆発が起きる。起きた爆発は、3つ。

 

 

 

しかし、いずれも手ごたえが無かった。

 

「外したか」

『えっ!?』

 

ハサウェイはSFSに予備として置かせた通常のビームライフルに持ち替え、狙撃姿勢で停止させていたマシンを戦闘機動へと移す。

 

 

 

随伴する直掩の足は潰せたかもしれないけど、本命は生き残っている。ハサウェイはそう判断した。

 

そして、敵のパイロットは自分と同じレベルか、それ以上でもあると。

 

しかし、全くダメージが無いとも思わなかった。

 

 

 

水平線から影が見える。それは、見えずとも視えていた、他ならぬギャプランだった。

 

そして、わずかに融解した装甲と、それによって誘爆したのか、オプションブースターはパージされていた。

 

 

 

とりあえず、足は潰せた。

 

「まあ上々か」

 

随伴部隊は見えない。いや、遠くに気配だけは感じる。恐らく狙撃でSFSまでは墜とせたんだろう。

 

メッサ―か、それとも今どきマラサイでも使ってるのかは知らないが、追いすがってくるまでにギャプランをどうにかしないと面倒になる。

 

 

 

「近接戦になるよ。ミサイルの準備して、合図したら空に向けて1ダースだけ撃って」

『っ、了解!』

 

行くか。

 

 

 

視界の彼方に微かに映るギャプランに向けて、ビームライフルを砲身をふらふらとわずかに揺らしながら、ハサウェイは狙う。

 

当たるも八卦、当たらぬも八卦。

 

それは、フロンタルが良く使用する、ロックオンサイトを用いずに狙撃する、宇宙空間での超長距離射撃の真似事だった。

 

 

 

当たれ。

 

 

 

放たれたのは2射。1発は動かすための陽動、2発目は仕留めるための本命。

 

ハサウェイは見た。

1射目を想定通りに回避するギャプランの姿を。

 

ハサウェイは見た。

想定通りに置かれた2射目を、当然のように回避するギャプランの姿を。

 

 

 

「マジかよ」

 

思わずこぼれた言葉。そして、仕返しと言わんばかりに、ロックオン警告なしに正確無比なビームが飛んでくる。

 

 

 

SFSをバレルロールさせ回避する。

 

 

 

この距離じゃあ埒が明かないか。

 

ハサウェイは吶喊する。そして、それはギャプランのパイロットも同じだった。

 

ハサウェイは、ギャプランのパイロットと、思惑がお互い伝わったように感じた。

 

 

 

ジャブの刺し合いはもう結構だ。殴り合おうぜ。

まるでそう言わんばかりに、最短距離で、ほぼ真っ直ぐにギャプランは距離を殺しに来た。

 

 

 

ロンドベルの凄腕でもこれほどでは無い。まるでネオジオンの親衛隊じゃないか。侍のようなさっぱりとした戦士の狂気が、そこにはあった。

 

これほどの凄腕で、これ程の潔さで、何故ティターンズなんかに?

 

 

 

零れる思いはあった。しかし、思いとは裏腹にハサウェイの思考は戦闘のために加速する。

 

敵の実力は、それでもスーパーエース未満。まだ自分が食い下がれるレベルだ。そして、上手く嵌れば勝ちの目もある。

 

裏を返せば、マシンのスペック差がもろに結果に反映されてくるレベルとも言えた。

 

 

 

チャンスはそれほど多くない。

 

 

 

時間も、それほどかけられない。

 

 

 

迫りくるギャプランの放つ、いやに正確無比なビームを回避し続ける。その回避機動に、もはやハーラを気遣えるほどの余裕は無かった。

 

 

 

直撃ではないが当たる弾、これは囮。回避させた先で、本命が待つ。これをローリングで回避し、返す刀で、撃ち終わった敵の、次の動きへの接続の間を狙って、撃つ。撃つ。

 

 

 

撃たれたビームを回避し、同じくビームを刺し返すが、しかし同じように回避され、回避された先に置いた攻撃はシールドバインダーへ跳ね返さる。

 

 

 

距離は迫る。ロングレンジがミドルレンジへと、そしてミドルレンジからクロスレンジへと差し迫る。

 

格闘戦だ。そこに言葉は無かった。

 

 

 

ハサウェイは狙撃用のバイザーを上げ腰のビームサーベルに手を置き、ギャプランはモビルスーツ形態へと変形しながらサーベルに手を置く。

 

「ガンダム顔……?」

 

資料で見たギャプランとは全く違う様相に、思わずハサウェイは呟いた。

 

 

 

そして、お互いにまったく同じタイミングで、ビームサーベルを抜き放ち、お互いにぶつけあった。

 

 

 

その時、ハサウェイは脳に宇宙を感じた。

 

「っ!?何だ、今の感覚……っ」

 

 

 

ビームの奔流によって一瞬閃光が走り、互いに鍔迫り合いへ移るが、それも一瞬、即座に距離を取り合った。モビルスーツ形態のギャプランは落下し、SFSのハサウェイは真横に弾かれる。

 

 

 

離れる瞬間もビームを刺し合い、それもやはり当たらない。

 

嫌な馬の合い方だ。ハサウェイはそう思った。長引いたら、確実にこちらの手の内が読まれる。そうなれば、スペックで劣るこちらに不利に働く。

 

 

 

「ハーラ、ミサイル」

『っ、了解!』

 

だからこそリスクを取る。勝機は時間とともに消費されていくとハサウェイは直感した。

 

 

 

立て直そうとモビルアーマー形態へ変形しようとするギャプランをバルカンで牽制し、ギャプランは意表を突かれたようにモビルスーツ形態でシールドを構えつつ、ビームで牽制しようと構える。

 

 

 

その瞬間を待っていたんだ。

 

 

 

ビームを構えるギャプランに、ハサウェイはシールドを構えることなく撃ち合いに応じようと構える。

 

それは、しかし悪手にしか見えなかった。

 

シールド持ちと、非シールド持ちが、同じ距離で撃ち合いをすれば、結果は言うまでもない。

 

ギャプランは落下しつつ、片手でシールドバインダーを構えながら、いやこの中距離を保とうと、落下方向へと加速する。

 

 

 

ギャプランから放たれるビームの弾幕。

 

いや、弾幕というほど厚くはない。しかし、シールドさえ構えぬ間抜けに風穴を開けるには十分すぎるほどの射撃。

 

 

 

ハサウェイはそれに、SFSから跳び立って、単身その地獄へと加速する。

 

スラスターを同じく落下方向へと吹かし、しかしビームが迫る。

 

肩、胸、足。確殺せんと、ハサウェイへと迫るビーム。

 

 

 

ハサウェイはそれを、身をよじって、肩と足への射撃は、直撃だけ回避する。

 

 

 

そして、胸への一撃を、ビームサーベルで切り払った。

 

 

 

ギャプランは、撃ち終わって距離を殺された。攻守が、一瞬で逆転する。

 

ハサウェイはさらに加速し、迫りビームライフルの砲身を切り捨て、さらに一息に構えられていたシールドも切り捨てる。

 

 

 

ギャプランは距離を取ろうとモビルアーマー形態への変形を試みる。

 

ハサウェイはそれを見逃すように、身を起こしてギャプランからほんの少し距離を取った。

 

 

 

その瞬間、ミサイルの弾幕がギャプランへと降り注ぐ。

 

それは、ハサウェイがハーラに撃つように命じたミサイルだった。

 

 

 

状況が完全に傾いた。

 

 

 

ミサイルの爆風に煽られながら落下するギャプランは、しかし致命傷だけは避けていた。

射撃兵装とシールドは喪失したものの、流石単機での大気圏突破を可能にした、予算が潤沢な時代の可変機とでも言うべきか、未だ飛行性能を保持していた。

 

 

 

ハサウェイは再び加速する。

 

最早勝機無しと悟り、離脱せんとするギャプランの頭をビームライフルで牽制し、その動きを止めると同時に、ビームサーベルを抜き放つ。

 

 

 

苦し紛れのように、最後に残されたビームサーベルで、ギャプランは鍔迫り合いに持ち込む。

 

 

 

サーベル同士が、閃光を放って、再び交錯する。

 

 

 

そしてハサウェイは、ギャプランのパイロットから、酷く懐かしい匂いを感じた。

 

「っ!?」

 

郷愁にも似た、しかし愛おしさも憎らしさも内包した、酷く懐かしい、よく知った匂い。

 

「っ、これは、一体……っ!?」

 

脳の瞳が警告する。殺してはいけない。進んではいけない。ここから先は、禁忌がもたらされる。

 

 

 

触れてはいけない山の祠の、その札を剥がすかのような嫌悪感。

 

しかし、懐かしさや愛おしさも感じる、慕情に似た感覚と、それと相反する、決して受け入れることのできない気持ちの悪さが、一瞬の接触の内にハサウェイへと流れ込んだ。

 

 

 

「あぁ、ああ!!」

『ハサウェイ!?どうしたの!?ハサウェイ!!』

 

 

 

モニターに映るギャプランは、ふらつきながらも空域を離脱しようとしていた。ハーラが仕留めようと放ったミサイルも、しかし回避され、雲に紛れてその姿を完全にロストした。

 

 

 

脳がシェイクされたような気持ちの悪さ。ハサウェイは息を切らしながら、それでも既に見えなくなったギャプランを視線で追い続けた。

 

 

 

「……君は、誰だ……?」

 

 

 

澄み渡る晴天が、美しい青空が、戦闘の残滓さえ感じさせない凪いだ海が、しかし今は慰めにもならなかった。

 




読了ありがとうございました。

ハサウェイのバディを誰にしようかと悩んだんですが、ハーラになりました。
皆さんハーラはお好きですか?写実的な描写が多い閃ハサで、そんなマフティーメンバーの中で飛び抜けて声が可愛くて、初めて聞いたとき私はびっくりした記憶があります。

さっさとトレス海峡を抜けて珊瑚海に出る、予定だったんですが、何故か戦闘が盛り上がりました。予定通りに執筆が進みませんが、まあ良いか!



いつものことにはなりますが、誤字報告ありがとうございます。
誤字のことは、もう諦めました。「おいおい、こいつまたミスってるぜ!」と笑ってください。出来たら愛してください。

そして感想と高評価、お気に入り登録もありがとうございます!
前回はふざけすぎたかな?と若干戦々恐々していたのですが、温かく受け入れてくださりありがとうございます。
でも流石にクェスが憐れなので、ちゃんと挽回の場は与える、つもりです!多分!

引き続き感想、高評価、お気に入り登録などしていただけると嬉しいです。
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