ハサウェイがアムロやシャアに影響される前に機械オタクになった世界線のお話   作:陸奥九十九

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やっとガンダムっぽいものを出すことが出来ました。ほっと一安心。
そして新キャラも登場です。分かる人には分かるかな?
思えばこの作品ヒロインが全然出てこない。いや恐らく逆シャアに入るまで出てこない。でも、それでやっとお出しされるのが、あの子かあ……。
まあ、ハサウェイがこんだけ変わるんだから未来も色々変わるやろ!知らんけど。



正解に限りなく近い選択肢 プチモビ ブラフシューペリア・SS100

祖父ちゃんから新たなるアルバイトを紹介された。以前OSを書き換えたプチモビの地上用OSについて、アップデートキットとしてデータをまとめて欲しい、というものだ。

 

プチモビは地上でも需要があるのだが、それ以上に宇宙での需要がはるかに高く、そして生産環境も宇宙に集中しているせいで地上用のプチモビは需要に対して供給が少なく、また宇宙用と比べて高価であるらしい。

またコロニー開発や資源発掘などに多くが使用されるため、その後不要になったとしても、わざわざ地球まで下すことは少ないので、地球で使用されるプチモビは旧式になっても値崩れするほど安くならない。

なぜ地球におろさずに廃棄するのか、理由は単純で、広大な宇宙からモノを運ぶ際、移動距離が長くなればなるほどコストが増えるのだ。極端な話、アステロイドベルトで使用されていたボロボロのプチモビを、不要になったからと言ってわざわざ地上まで運ぶか?だったらそのキャパを使って鉱物資源を運べ、その方が儲かるだろ?といった原理で。

宇宙は広大で、貨物船に乗せて運ぶにしても、コロニーからの定期ルートで運ぶにしろ、よほど大規模にやらない限り「割に合わない」という結論に落ち着くらしい。まあ地球で比喩するなら、「ボロボロの中古車を海外から高い輸送量を払って輸入するか?」といったものだろう。

 

ただ、需要自体はあるのだ。それもそこそこに。そこで祖父ちゃんは考えた。

ヤシマ重工として、地球近郊のコロニーで使用されていて、いい加減旧式となって不要になったプチモビを安価に大量に回収し、地上用に改修して中古プチモビを販売しよう!というものだ。

プチモビの需要は何処にでもある。一次産業から二次産業まで、それこそ農業から街の道路工事から鉱山での資源採取まで、あらゆる場面で「力持ちのでっかい人間」は必要とされる。ただ先にも述べた通り、地上用のプチモビは比較的高価なため、大都市や、政府が開発を行う重要地、後は単純に資金力のある大企業の現場ではみるが、そうでない場面では未だメジャーなツールではない。

 

母数の多い、しかし資金的にそう余裕があるわけでは無い顧客の需要に応える。そのために安価な宇宙用プチモビの改修販売を考えたわけだ。

ただ大きな問題が一つあった。OSである。

 

ヤシマ重工は軍需産業にも大きく関わっている企業であり、ことモビルスーツに関連するOS、さらに誘導ミサイルのコントロール、果ては大戦艦を10人足らずで制御可能なほどの高度なコンピューター技術を保有しているが、どれも軍事機密に関わるものである。

そしてヤシマ重工の中でも特に秘匿性高く、社内でも誰がその部門に属し、どういった研究をしているかなどは、ごく限られた人間しか知らないほどに機密性が高い。そんな部門に、安く単純にプチモビを改修できるOSの開発をお願い!なんて依頼できるだろうか?莫大な費用をかけて秘匿性を高めているのに、そんな雑なところで特許取得から機密が漏れたら、笑い話にもなりゃしない。さらに、そんな単価の安い仕事をさせられるほど暇ではない。

外部委託も何度か検討したのだが、ただどうにも上手くいかなかった。

高性能だが複雑かつ操作に難があり、その上高価なユニット。安価かつ単純だが性能がそこそこに低いユニット。どちらも両極端で、いい塩梅が取れなかったのである。

また安く仕入れて安く直し安く売る、を基本に考えているのだから、改修用のOSにも大きな予算は割けない。そういった具合にアイディアレベルで手詰まりになっていたのである。

 

そこで僕に、上手いことやってくれないか?極論できなくても良いから、ダメでも拘束時間分バイト代払うから!とお声がかかったのである。ダメで元々、出来たら最高だけど、まあ難しいよね、という趣旨での依頼だ。そういうことなら、と僕もバイト代に目がくらんで引き受けたわけだ。

 

ある程度のレベルまでは意外にもサクサクできた。単純な動作と移動、それらをそこそこ単純に制御する。ちょっと便利なフォークリフトレベルの操作までは。

ただそこから先で煮詰まり始めた。マシンアームで繊細なものを掴む、1センチ単位の移動から1ミリ単位の移動、比喩ではなく指先の延長線上の動作、そういった部分である。

プチモビの、小さな岩なら砕けるほどのパワーを維持したうえで、鶏卵を割らずに持ち上げられる繊細さの両立。それを、両手の操作レバーに両足のペダル、いくつかのボタンで完遂させる。

これは無理かなあ?膨大なプログラミングを用意することはできるが、そんなプログラムを受け入れられるだけの高度なPCはプチモビ一台に搭載できない、とは言われていた。

 

そんな八方ふさがりを感じ始めたあたりで、祖父ちゃんがとある人をヤードに呼んでくれた。祖父ちゃんの車友達のトミナガさんである。

 

「へえ、ハサウェイはキャブのセッティングもやってんのか」

「って言っても、バイクですけどね。キャブの4輪車は、まだ触ったことないなあ」

「あんま機会がないよな。キャブの車を触ること自体が。俺は好きでやってるからそういう客もまだいるけど」

「へえ、ここらで乗ってる人もいるんですね」

「割といるよ。ただ、皆セカンドカー以下だからさ。大事にガレージにしまって乗る機会も少ないわけよ」

「ああー、インジェクションに慣れちゃうと億劫かもですね。暖気とか」

「なあ。それしかないなら気にならないけど、他に便利なのがあるとなあ」

「最近はどんな車さわったんです?」

「ああ日本車だよ。知ってるかな?最初のニッサン・フェアレディZ」

「S30型ってやつですか?」

「そうそう。その2.4リッターのL型エンジンに、ウェーバーの3連キャブがついててさ、それのオーバーホールやったよ」

「L型かあ、触ったことないなあ。RBはあるんですけど」

「RBさわれるならLもいけるだろうさ、今度遊びに来いよ」

「じゃあ、今度時間見てお邪魔しますね。トミナガさんのお店」

 

 

トミナガさんは祖父ちゃんの昔からの知り合いで、修理からチューニングまで何でもこなす人らしく、特にコンピューターを触らせたらピカイチとのことで、僕がセッティングを出した964RSのECUを見せびらかしたいと祖父ちゃんが呼んだのだ。

 

ただ今は、僕もトミナガさんもポルシェではなく、プチモビにそれぞれPCを繋いでひたすら画面を追っている。

 

「うーんと、ここトミナガさんなら圧縮します?」

「見せてみな……ほう、ハサウェイはどう思ってるんだ?」

「うーん、した方がすっきりするけど、しない方がいいような気がして」

「だったらしないでやってみようや。何、期限のない仕事だ、ハサウェイの好きにやって見な」

 

プチモビのOSで煮詰まりかけていたのを知ったトミナガさんが、こうして手伝ってくれているのだ。いいもの見せてくれたお礼、と言ってくれた。

 

「ハサウェイは最近何いじってるんだ?」

「最近がっつりやったのはフェラーリですね」

「へえ、景気が良いねえ。車種は?」

「テスタロッサです。ひどいもんでした。なんでイタ車は変なとこ壊れるんですかね?」

「そりゃイタ車だからよ。それもフェラーリじゃあな。今度クラシックアルファも触ってみろよ、凄いもんだぜ」

「どう凄いんです?」

「エンジンが良いよなあアルファは。動きさえすれば」

「あ、OKです。大体わかりました」

「いやいやいいぞお、さながらちっちゃなフェラーリよ。修理の手間もフェラーリ並なんだから」

「当分アルファロメオは寄こさないでくれって祖父ちゃんに言っておきます」

 

ガハハとトミナガさんが笑う。

 

「それにしても最近のガキがさわる車じゃねえよなあ、どれも。油冷のGSXに、空冷のポルシェ、ニッサンの直6に12気筒のフェラーリだもんな。よくぞって感じだよ」

「どれも正直いっぱいいっぱいですよ。直すたびに、これで良いのかなあ?大丈夫かな?って思いますもん」

「そういうもんさ。あれはやったよな、あれも大丈夫だよな、って直しながら頭の中で確認するだろ?そして直し終わった後も反芻する。だからだろうさ。みんなそんなもんだよ」

「トミナガさんもですか?」

「そらそうよ、俺みたいな謙虚で優しい人間は色々思い悩むものさ」

「アッハハハハハハハハッ!」

「おい、笑い過ぎだぞ?」

 

笑い声とタイピング音がヤードに流れる。作業が進む。一人で思い詰めていた時が何だったのかと思う程度に。

 

プログラムをプチモビへロードする。ローディング画面がゆったりと流れ、インストールが完了する。

 

それとほぼ同時に、ヤードの前にヨシムラ管の音を響かせたZ2が止まる。

 

「なんだトミナガ、また来てたのか?お前暇か?」

「うるせーぞヤシマ。時間を空けてハサウェイのバイトを手伝ってやってるんだろーが」

 

祖父ちゃんが軽妙にトミナガさんに言う。

 

「ハサウェイ大丈夫かい?あんまりトミナガに影響を受けちゃいけないよ?このおじさんは悪い人間性のおじさんだからね?」

「そりゃ手遅れじゃねーか?お前の孫として生まれた時点でよお」

 

ジョークと軽口を流して、プチモビを動かす。

 

「ざっくり暫定版はできたよ。大分トミナガさんに手伝ってもらっちゃった」

「おいおい、俺はちょっとしたアドバイスとお手伝い程度だぜ。ほとんどハサウェイ一人の仕事よ」

「そうかあ?じゃあトミナガにもバイト代出すかあ?」

「いるかよそんなもん。それに言ったろ?いいもん見せてくれたお礼だって」

「良いもん?」

「あの964RSは良いなあ。それにR32にテスタロッサも直したんだろ?そっちも見たかったぜ」

「いつでも見に来いよ。待ってるぜ。入場料は大人1800円だぞ?」

 

そう軽口をたたきながら、祖父ちゃんがプチモビへ乗り込み、操作を始める。

前後移動、左右移動。ここまでは出来て当たり前。レバーの移動量、ペダルの移動量、さらにその移動速度によって、通常動作から精密動作への移行が完遂する。

マシンアームの制御。祖父ちゃんが作業台の上のメガネレンチをアームで掴む。それを持ち上げて、作業台にゆっくり置き直す。これも問題ない。

次に作業台上の冷却ホースを、潰さずに掴む動作。レバーをゆっくりと操作する。アームがシリコンホースに迫り、ホースがほんの少したわむ、そこで、アームの掴む動作が止まる。マシンアームはホースを掴んだままゆっくりと腕を上げ、プチモビも同じくゆっくりと反転、向かいの作業台へ移動し、シリコンホースをゆっくりと置き直した。

 

「本当に、素晴らしいね」

 

祖父ちゃんがつぶやく。僕は思わず目を見開き、トミナガさんを見る。トミナガさんは肩をすくめて、当然だろ?なんて仕草をしてくれた。

どうやら、僕は良い仕事をできたらしい。ほっと息をついた。

 

 

勿論あのデータでそのまま完成!なんてことはなく、そこからさらにデバッグをかけて、詳細を詰めて、アップデート用のコンピュータユニットとして生産ラインの手配を始める必要があるとのことで、まだ何が始まった、というわけでもないが、なんにせよ僕はひと段落である。

トミナガさん監修というのもあり、たたき台としてはそれなりのものを作れたのだろう。あとはその道のプロがちゃんと方向性を出して、僕のプロトタイプなんかより何倍も優れたものを世に出すのであろうが、僕としてはいい仕事ができたと大満足である。

 

祖父ちゃんが笑い話なのか「次はモビルスーツを戦闘用から作業用に改修するプログラムもお願いね」なんて言っていたが、話半分で問題無いだろう。

 

 

 

さてさてメインのアルバイトのお話である。次なる車は何だろう?と思っていたら、なんと祖父ちゃんとびっきりのバイクを寄こしてくれた。

 

「いやあ、かっこいいわあ……」

 

バイクの世界最高峰。最も美しいバイクの一台。バイク界のロールスロイス。世界最初の100マイルマシーン。

 

「ブラフシューペリア・SS100。1920年代のバイクとは思えないね……」

 

ひと目見て分かる美しさ。機能美とかデザインとか、そういうちゃちな感想を飛び越えて、ハッとさせてくれるほど美しい。長く伸びるティアドロップ形状のアルミメッキタンク、クランクケースからヘッドへと延びるロッカーアームには存在感があり、そして艶のあるブラックのフレーム、ホイールがエンジンの存在感をさらに引き立てている。シンプルなのに美しい。飾る必要が無いほどに美しい。GSXやポルシェには、ある種の機能美があると思っていたが、ブラフシューペリアは理屈の必要が無い美しさを持っている。

 

「本当にカッコいい……」

 

だが、埃被って、また錆があちこちに見られ、その輝きは失われつつある。メカの機能的な回復、というよりは、外見を奇麗に直し、その上での性能回復が今回のテーマだ。

 

まあやることは極めてシンプルだ。何せマシンが単純なのだから。シングルクレードルにダンパー付きのスプリングフォーク、ドラムブレーキにOHVのVツインエンジン。お手本のようなクラシックバイクだ。

ただ驚嘆すべきは、この完成度のバイクが1950年代ではなく、1920年代にすでに制作されていたということだろう。トライアンフが1960年代に190km/h、そしてホンダが1970年代に200km/hの世界最速を樹立したが、そのレベルの話を、世界最速160km/hを1920年代に達成していた。恐るべき技術力と言える。

 

文化財と言って差し支えない車だ。フェラーリともポルシェとも立ち位置が違う。このマシンと並ぶバイクはそうそう無い。気を引き締めて掛かろう。

 

 

先にも言ったが、マシン自体はそう複雑ではないのだ。特殊な機構も部材もない、王道のバイク、鉄とアルミで出来たバイクである。コムスターホイールだとかインボードベンチレーテッドディスクだとか、アンチノーズダイブだとかSACS(スズキ・アドバンスド・クーリング・システム)だとか、そういった変な技術は何も使われていない。

 

ただ、何しろ部品が無い。本当に部品が無いのだ。純正部品など残っていないし、ダメな部分があれば可能な限りリペア、それが不可ならパーツ作成である。ガスケットやらボルトやらならともかく、エンジンやシャーシに関わる重要部品などはまず手に入らない。それにゴム類やパッキンなど、交換必須なものはフィットするものを探すか、もしくはありものを加工するか、究極一から作る必要もある。

何が言いたいかと言えば、重要部品がだめな時点で作業が止まるのである。目途がつくまで他の箇所を進めるが、他は進めどダメな部分は残り続けるのである。そして幸いなことに、他の箇所はしっかりと進んでくれた。

グッズグズだったキャブレターも専用のキットがあって直ったし、へたり切ってたバルブスプリングも規格で注文できた。ベアリングも探せたしブーツ類も探せた。消耗品は意外にも何とかなるのだと気付くことができた。これは発見と言えるだろう。

 

ただし……

「コンロッドとピストンは無いねえ……」

 

肝心要の心臓部で止まっているのである。

 

この車、エンジンをかけた時点でメカノイズが結構あった。そう、エンジンはかかったのである。ただ異音がする。タペット音だとかそういったものではなく、ちょっと怖い感じで。

オイルを抜いて分かった。鉄粉の量が多くないか?ちょっと鉄粉も大きいぞ?と。この時点で結構嫌な予感がしていた。

そしてエンジンをばらして判明する。コンロッドが歪んでいる。そしてピストンも若干歪んでいる。シリンダーにも線傷が確認できた。おそらくオイルメンテナンスが不足だったのか、はたまたピストンとコンロッドの強度がはなから足りなかったのか、キャブを絞り過ぎてデトネーションでも起こしたのか、結論は分からないが、とにもかくにもエンジンはブロー寸前だったのだ。

シリンダーは面妍でいけると思うが、ピストンとコンロッドの再使用は不可だ。再生も無理だろう。どうにか準備しなくてはならない。

クランクシャフトが無事だったことを喜ぶしかないが、こちらにもダメージがある。致命傷ではなかっただけマシともいえるが。ただバランス取りは必須な状況だ。

 

問題は最初に帰結するが、ブラフシューペリアに合うパーツがどうにも見つからないのである。

当然と言えば当然ともいえる。今世界はハイブリット車から電気自動車への移行が進んでいるのだ。旧型というか、もはやクラシックな純ガソリン車のパーツさえ品薄になっている。

それが大昔に400台も制作されていないバイクのパーツなら尚更だろう。

 

昨日からヤードの中を掘り起こしてはいるものの、やはりブラフシューペリアに関連するパーツは見当たらない。探せど探せど出てくるのはボロボロの2Jエンジンばかりである。

 

「どうしたものかなあ……」

「どうした、困りごとか?」

「うわ!おお、トミナガさん…びっくりしたあ……」

「だいぶ集中してたみたいだな。それに、凄いバイクさわってるな」

 

いつの間にかトミナガさんが隣にいた。いや、祖父ちゃんにせよトミナガさんにせよ何故音もなくいつの間にかいるのか?ジャパニーズおじいちゃんはみんなニンジャの修行でもしているのか?

 

「おお、ピストンとコンロッドが死んでるな。こりゃ再生は無理だな」

「うん、ただ、新品のピストンもコンロッドも見つからなくて……」

「そりゃこんな古い車の純正品なんてないだろ?あとは同じサイズのピストンをどこかから引っ張ってくるか、ワンオフで作るかだな」

「え?ワンオフで作れるものなの?」

「そら作れるだろ。ただ高く付くからな。1000ccの2気筒なら適当なサイズ見つけられそうだけどな」

「いや、まって、探してみたけど、そんなショップ何処にも……」

「そりゃ今どきでかでかと看板掲げてるところは少ないさ。それだけじゃ食えないし、数こなしても割に合わないしな。ただ、結構いるぞ?俺もたまに頼むショップがあるし」

「そ、そうなんだ……」

 

知らなかった…いや確かに、ワンオフでって言うと、ピストンをエンジン1基分から作るのなら、だいぶ工賃もかさむし利益だすのも難しいか…それに最近の車ならパーツは出るし、パーツが出ない車のパーツを大量に作るわけにもいかないもんな……。

 

「互換パーツはなさそうなのか?」

「えっと、古いハーレーとか、2気筒の旧車とかも見たけど、サイズ合うのは見当たらなかった」

「じゃあ作った方が早いな」

 

そう言うとトミナガさんはその場で電話し始めた。

 

「おう、久しぶり。……ああ、飲みはまた今度な。ピストンとコンロッドで、ちょっと待った、ハサウェイ、クランクシャフトはどうなんだ?」

「あ、クランクは大丈夫。バランス取りでいけると思う」

「バランス取りはどうする。一緒に依頼できるぞ?」

「えっと、じゃあお願いしたい」

「だそうだ。クランクシャフトはバランス取りで、ついでにピストンリングとクランクメタルもあるようなら探しといてくれ。じゃあ、これから持っていくから。……おう。また」

 

そういう感じだ、とトミナガさんが電話をしまう。

 

「じゃあ俺はこれから現物持っていくから。あとなんかあるか?エンジン関係だったら大概大丈夫なところだから」

「ううん、後は大丈夫。あの、本当にありがとう。結構困ってたから、本当にありがとう」

 

くつくつとトミナガさんが笑いながら言う。

 

「いいさ、ちょっとした恩返しみたいなものだからな」

「恩って、僕何もあげてないのに」

「あの964RS、あとちょっと前にR32も見させてもらったよ。そのお礼さ」

「そんな、そんなの全然……」

「いいや、十分だよ。あのECUには、それだけの価値があった」

 

トミナガさんが言う。

 

「お前、車をすごく大事にするし、車をちゃんと知ろうとする性質だろ?」

「そりゃ、そうだけど、でも普通のことじゃない?」

「その普通、結構みんなおざなりなのよ。最初はちゃんとしてても、途中でだらけてきて、最後は雑になって行く。最初から最後まできっちりってのは、簡単なようで意外に難しい。それに、別にそれでいいところもある」

 

俺は学校なんて全然行かなかったしな、とトミナガさんが笑う。

 

「でも、車や、特にECUはそれじゃダメだろ。適当じゃ始まらない。かといって、キッチリ詰めすぎてもまた問題が出てくる。まだ行けるまだ行けるとギリギリを狙えば、そこにはリスクが付きまとう。適当とリスクの、ちょうどいい中間地点、ちょうどいい塩梅。難しいよな?」

 

懐かしむように、トミナガさんが続ける。

 

「ハサウェイ、お前、コンピューターが原因で車を壊したことはあるか?」

「ううん、まだない」

「俺はある。それほど多くはないが、片手では済まない程度にはな。もっとパワーを、もっとレスポンスをと、詰めてはいけないところまで詰めて壊したエンジンもあれば、こんなもんで良いだろと、自らの愚かさゆえに壊したエンジンもまた、ある」

「トミナガさんでも……?」

「だからこそかもしれん。数をこなし過ぎて、結果が相応に伴って、ちょっとおかしくなってたのかもしれない。仕事で成功した分だけ、俺は純真さというものを失っていった。物事をしっかりと捉えられなくなっていった」

 

けれど、お前のECUは何処までも真摯だった。トミナガさんが僕を見る。

 

「車を壊すのは、怖いよな」

「うん……怖い」

「それが事故じゃなく、自分が組んだエンジン、自分が作ったECUだったら、なおさら怖いよな?」

「……うん」

「お前の書いたECU、すごく良かったよ。エンジンのことをしっかり調べたんだろう。純正の圧縮比は?パワーは?トルクは?その結果出るフィーリングは?それらを踏まえて、この車はどういう方向性で設計されたのか。そして、その上でどうすべきか」

 

ちゃんと考えられていた、ちゃんと分ろうとしていた。そう呟く。

 

「その純真さ、その真摯さは、俺に勇気をくれた。そうだ、俺はこういう風に仕事をしたかったんだと、心を震わせてくれた。その、恩返しさ」

 

トミナガさんが僕の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。

 

「別にお前に何かしてほしいわけじゃないし、お前にこうあって欲しい、なんて押し付けるつもりもない。祖父さんの友達のじじいに、たまたま気に入られて構われてる、くらいなもんさ」

 

ただ、もしそれでもお前が気にするなら

 

「また直った車を、俺に見せてくれや」

 

それだけで十分だと、笑ってくれた。

 

 

ピストンとコンロッドは驚くほど早く出来上がり、バランス取りできたクランクシャフトと一緒にトミナガさんが持ってきてくれた。

エンジンは早々に組み上がり、いよいよ大詰めという時にトミナガさんが手を貸してくれた。ジェッティングはちょっとしたものだぞ?とキャブセッティングをトミナガさんがやってくれることになったのだ。

何か凄まじい技術が?と思ったが、トミナガさんのセッティングはいたって普通のものだった。バキュームゲージとにらめっこしながら、パイロット調整をする。ただ、それが凄まじく早いのだ。すぐに同調を取ってしまう。

そして、どうチューニングしていくのかもすぐに決めてしまう。どのジェットを変えるのか、メインなのかエアなのかパイロットなのか、そしてどの径を選ぶのか。たった一度の調整で、完璧なジェッティングをしてしまう。

経験もあるのだろう、でも数をこなせばこういうレベルで仕事ができるのかと問えば、僕は不可能だと思ってしまう。

プロの中のプロ、こういう人がいるんだと思った。

 

この世で最も美しいバイクの一台と思っていたブラフシューペリアは、1920年代のバイクと思えないほどに良い走りをしてくれた。フレームの剛性感、サスの性能、ブレーキの性能、現代車と比べるのは間違っているが、古いが古すぎない、そんな印象さえあった。当時世界最速、そしてオーパーツじみた性能を誇ったブラフシューペリアの凄まじさ、それをまじまじと感じられた。

 

ただそれ以上に、トミナガさんのジェッティングが素晴らしかった。ノーマルキャブで最初のセッティングをとった時、決して悪いものではなかった。軽い車体に1000ccのエンジン、パンチがあって現代でも乗って楽しいバイクだと感じた。

だがトミナガさんのセッティングはそういうレベルじゃない。まるでエンジンが変わったと錯覚させるような、別の車に乗っているかのような吹け感、そしてエンジンのパンチ、こういうセッティングもあるのかと思った。

トミナガさんは僕のセッティングを素晴らしいと言ってくれた。でも、これほど高度なセッティングは、僕にはできない。もしこれがインジェクターのECU制御車だったとしても無理だろう。もっと安全策を取ってしまう。もっとノーマルに近いところでバランスをとる。

それで良いとトミナガさんは言ってくれた。そういう選択も有りだと。

 

でも、そうじゃない選択も有る。正解は一つじゃない。でも、正解に限りなく近い選択肢は、そう多くない、と思う。僕は、正解に近づけているのだろうか?

もっと知りたい。知らないと始まらない。こういう世界があるのだと。こういうレベルがあるのだと。

 

心が脈打つ。世界一美しいバイクは、その時すでに僕の目には映っていなかった。

 




読了ありがとうございました。プチモビの設定や自動車の環境の設定はオリジナルです。にわか度合いがばれてきますね。温かい目で見てあげてください。
創作の励みになりますので、高評価、感想など頂けるととても嬉しいです。
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