「ほぁ~さっむ、船の上ってこんな寒いの?」
「これ、フェリーだから、かなり遅いほうだよ。
「うへぇ、勘弁」
拝啓、両親。
俺は今、小豆島に向かってます。
それも、あの有名アイドル、sumimiの初華と一緒に。
……いま、Why?ってなったでしょ?
それが正しいよ、そりゃそういう反応にもなるでしょうよ。
誰だってそうなる、俺だってそうなるし、ヒンメルならそうする。
までも、彼女たっての希望なんです、俺とこの島に行きたいって。
なんでかって、そりゃ……ねぇ?
まぁ、そういうことですよ、はい。
まぁほら、実家へのあいさつ?と言いますか?
いやぁ、人生何が起こるかわかりませんねぇ、えへへ。
……ほらそこ、頭開けてキッショとか言うんじゃないよ。
「あ、見えてきたよ」
「どこだ……おぉ、あれか」
「じゃあ降りる準備しよっか」
「あいさー」
荷物を持ってフェリーの出入り口へ。
程なくして扉が開いて、小豆島の大地を踏みしめる。
奏斗、小豆島へ、行きまーす!!
「おぉ……風強いけど、意外とあったかいな」
「都会に比べたらね。湿った風じゃない分、あったかく感じるんだよ。まぁ、ここはまだ海風だから寒いけど」
「なるほどなぁ……」
確かに、吹き抜けていく風は都会のそれよりはどこか乾いている。
ここまで強いと吹っ飛ばされそうだけど。
「で、初華の……初音の実家はどこ?」
「えっとね、こっち。足元気を付けてね」
「はいはーいっと」
わざわざ呼び直したのは、意識的に意識するため。
頭痛が痛い的な感じになってるが、まぁそれはご愛敬。
マインドが大事なんだ、わかるかい?
わからないだろうねぇ、呪術も使えない猿どもには……ではなく。
「意外とボコボコなんだなぁ」
「この辺りは整備されてないだけだよ。あっちのほうとか獣道だから危ないんだよ?」
「近道だったりする?」
「……行きたくない」
「じゃあ進路このまま」
初音についていくこと20分。
大きい家が見えてきた。
「意外とデカいんだな……ん、あれは……?」
家の玄関で手を振る、初音によく似た少女。
「もう……お迎えしなくていいって言ったのに……」
声色とは反転、うれしそうな顔を見るに、少しは期待してたようだ。
あれが「初華」なのだろう。
「お姉ちゃん!お帰り!奏斗さんもいらっしゃいませ!」
「ただいま。お迎えなくていいって言わなかったっけ?」
「私がしたかったんだもーん!」
えへへ、あははと笑いあう義姉妹を見てると、家族っていいなあと思える。
「仲良しだね」
「そりゃあもう!お姉ちゃんてば、あたしのこと大好きすぎてあたしの名前使ってるんですから!」
「うっ……初華こそ、寂しいとか言って、毎晩電話かけてくるくせに!」
「だってお姉ちゃんの声落ち着くんだもーん、sumimiでASMRとか出さないの?」
「だ、出さないよ!多分……」
まぁ出すとしても出すよとはいえんわな、賢明な判断だ。
「奏斗さんもそう思いませんか!?お姉ちゃんの声、なんだか落ち着きませんか?」
「まぁ、わかる、かも?」
気が気じゃない。
初音とどこまでも進んでるので、声を聞くと落ち着くというより、なんだかいけない気持ちが湧き上がってくる割合のほうが大きい。
現役アイドルとやることやってるのはどうなんだとは聞かれそうだが、純愛なので許されますよね。
「ほらぁ!お姉ちゃんやっぱりASMRだそうよ!なんならスマホに囁いてくれてもいいんだよ!「初華、頑張ってて偉いね」とかさぁ!」
「いや、まぁ……言ってほしいなら、言うけど」
「いいの!?やった!じゃ後でやってね!絶対だよ!!」
そういって慌ただしく玄関に入っていく初華ちゃん。
「ごめんね、騒がしくって」
申し訳なさそうに苦笑、という顔をしているが、声は震えている。
来るべきではなかったのか?
「初音、もしかして今日、嫌だった?」
「え、奏斗君と来れるって思って、全然嫌じゃなかったけど」
「それなら……いや、隠すのも嫌だし言うわ。初音、めっちゃ声震えてる」
そう言うと、初音は悪いことをしたのがバレたような……いや、もっと深刻な。
まるで、
「……初華、すごく元気だった」
「いいことじゃん」
「……私を、「お姉ちゃん」って呼んでくれた」
「嬉しくなかったのか?」
初音は否定する。
「違うんだ。私が初華の何もかもを奪ったから、初華は私を恨んでるはずなんだ。なのに、どうしてあんな元気に……」
「……あのさ、初華ちゃんがほんとに初音の事恨んでるなら、笑顔で出迎えたりしないと思うんだよね」
「でも、私は初華から何もかもを奪ったんだ!夢も、名前も……祥ちゃんだって」
「……じゃ、本人に聞いてみたらどう?ちょうどそこにいるみたいだし」
初音の実家のほうを指さすと、おそらく満タンに水が入ってるだろうじょうろを両手で持って、玄関から初華ちゃんが出てきた。
「え、あ、あの……えっと」
「お姉ちゃん」
「っ……あ、ごめ」
「もういいよ、お姉ちゃん」
じょうろを置いた初華ちゃんが、初音のもとに駆け寄って、勢いそのまま抱きしめる。
「あたし、お姉ちゃんのこと大好きだから。全然恨んでないし。むしろ嬉しいよ?」
「うれ、しい?」
「うん!だって、あたしの名前がいろんなところで聞こえてくるの、うれしいでしょ?」
「で、でも、それは」
「いーの!お姉ちゃんは、これからも「初華」として、いっぱいお仕事してね!」
初華ちゃんが初音の頭をポンポンとし、頬にキスをする。
「あ、奏斗さん!もしお姉ちゃんが倒れたりとかしたら呼んでください!代役ぐらいならできるので!」
「……わかった、その時が来たら連絡する」
連絡先を交換すると、初華ちゃんは花壇の水やりに戻っていった。
「どうだった?」
「……初華は、いい子だから」
「……そっか」
人の感情を推し量れるほど、俺は人の心に寄り添えないが。
少なくとも、あの屈託のない笑顔を演技として人前に、しかも身内に出せるなら。
君は演者になったほうがいい。
三角姉妹仲良かったらいいなって思って書きました