記憶喪失の男子生徒と仲正イチカ   作:松花 陽気

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独自設定、独自解釈がふくまれます。

キャラクターに関しても、独自解釈が含まれます。


第六話:久々の戦闘

俺用の武器と装備を受け取ってからさらに数日が経つ。

俺たちは今日もまた、ヘルメット共の暴動鎮圧に勤しんでいた。ここ最近になって、やけにそれが多くなっているような気がする。ほぼ毎日のようにアイツらと顔を合わせている。まあ、アイツらヘルメット被ってるから一方的な感じだが。……物理的な意味で。

他にあるのは、スケバン達の問題くらいだが、そこまで問題視はしていない。なんならヘルメット団よりも少数で片付くのが早い。

そっちの方が楽でいいんだが……。

 

「おっと……!」

 

ギリギリで障害物に隠れ、被害に遭った民間人を抱えて走る。

 

「ママぁ、怖いよ〜」

 

震えた声で泣き出す雀の子供を大切に抱きながら、射線に気を付けて辺りを見回す。

少し遠くからはイチカ……とスズミという最近知り合った少女と他部員が大人数の対処にあたっている。後もう少しで、最後の避難誘導が終わる。この子を送り届ければいいのだ。

 

「大丈夫だ。後もう少しでママのところに着くぞ。だから――」

 

もう大丈夫だ、とそう言いかけて、味方からの言葉によりそれは止まった。

 

「逃げて!ケンゴ!!」

 

カチャッ!

瞬間。後頭部から熱いものが当たり、ジュッ、と焼きつくような音が焦げた臭いと共にする。俺は今、頭に銃を突きつけられているのだろう。

 

「……っ!?」

 

「ケンゴさん!?」

 

「よし!テメェの背後はとったぞ!頭撃たれたくなかったら、大人しくしろ!」

 

頭に触れる銃から僅かな振動が伝わる。その震えの原因は、おそらく恐怖だろう。弾丸一つで、当たりところによっては即死する存在に確実に死ぬであろう頭に銃を向けている。何かの歪みでそれを撃てば、もう後戻りはできない。その瀬戸際の場面。多分コイツに、俺を殺す意志はない。なんなら、撃つ気もないだろう。だったら、意外と簡単かもしれない。俺は、前もって取り出したスモークグレネードのピンを外し、後ろに向けて転がした。

 

「そのままでいろよ!す、少しでも動けばコイツ……を?」

 

瞬間。一瞬、ソイツが気付いたと同時にそれは煙を吹き出しながら勢いよく広がった。寸前で、自分の耳と雀の子の耳を塞いで対応。ソイツの銃から離れ、煙に乗じて裏拳を喰らわせてからイチカ達の元に向かう。

 

「すまん。少し油断してたわ」

 

「ケンゴくん!……もう!心配したっすよ、本当に!」

 

「ケンゴさん、的確な判断でしたね。ですが、人質の状態で安易に動かないでください。先程は運良く済みましたが、次はそうはいきませんよ!」

 

二人から詰められ彼女らからのお叱りが飛ぶ。まあ、流石に俺もヒヤッとは思ったので、結構必死だったし、何か言われるのはわかっていた。でも、今は戦闘の最中。煙がまだあるとはいえ、アイツらが撃ってこない保証は無い。

噂をすれば、煙の中から無数の銃弾が飛び出す。左翼を使い防御の構えをとるが、ほとんどが当たらず弾は空を切るだけで終わった。

 

「チクショー!後もう少しだったのにー!!おい!ちゃんと見ておけよー!なんのための人質確保だ」

 

「ご、ごめんなさい!!」

 

「クソッ!こんな難度の依頼なら受けなきゃよかった!!」

 

リーダーと思われる奴がそんなことを口ずさむ。あんな素行不良な奴らに依頼する物好きがいるとは、と思う。ともあれ、この件には何か裏がありそうだな。

 

「もう一度言います。今すぐに降伏してください!」

 

スズミが大声でヘルメットの奴らに忠告する。だが、アイツらは馬鹿の集まりだ。降伏なんていう選択肢は最初からない。

 

「グッ……!こうなったら〜」

 

でも、戦況としてはこちらが有利。数や戦力的にもこちらの勝ちは確定している。……となれば、することは一つ。

 

「退却ー!!!逃げるんだよ〜!!」

 

踵を返して集団は素早くその場から去っていった。

 

「コラっ!待ちなさい!!」

 

「スズミさん、ちょっと待つっす!」

 

追いかけようとするスズミの肩を掴み静止させる。スズミは真剣な目でイチカを見る。逆にイチカは、冷静に彼女を諭す。

 

「今は追うよりも、避難者のケアをしないと。奴らを追うのは、また後っす!」

 

「っ…………わかり、ました」

 

「ケンゴ君も、手伝ってください」

 

「あぁ、もちろんだ」

 

この後俺たちは、鎮圧後の事後処理をしてから逃走したヘルメット団を追ったが。街のどこを見回っても見つからなかったため、結局断念することとなったのだった。

 

その後、部室に帰ってきた俺たちはハスミ先輩達に今回のことを報告して、今日一日を終えたのだった。

 

□□□

 

最初は、面倒な人を拾ってしまったなと思った。取調室で目の前の男の子に、そう内心に秘めながら私は話を聞いていた。キヴォトスでは珍しいヘイロー持ちの男の子。

彼の名前は天堕ケンゴと言うらしい。それだけしか記憶に無いそうだ。

 

ここキヴォトスでヘイローを持つ人のほとんどは女性だ。だが別に全くいないというわけではない。百鬼夜行連合学園の方にも一人、男子生徒がいると噂で聞いたことがある。他校にも何人かいると聞いたこともある。

だが、ケンゴくんはその中でも異質だった。ヒビ割れたヘイローだ。他の人と大して変わらない見た目に見える。私たちのヘイローは個人によってデザインが異なるそうだが、自分の目には他の人と変わらないように見える。問題はそこでは無い。ヘイローが割れているのが問題なのだ。普通は生きていないはずのそれは、なんの外傷もなくそこに確かに存在している。

見張りとして付いている同級生の何人かがひそひそと話しながら手元を震わせていた。

周りの人が畏怖するのも無理はないと、私は納得する。理由は、先ほど言った通りだが。

 

取り調べを終えると、ハスミ先輩が戻ってきた。そして、私は彼のお世話を任されたのだった。それを引き受けた私は、「あーまた、面倒に関わっちゃったな」と内心で呟くのだった。

 

「さぁ!ではティーパーティーのところまで早速案内するっす」

 

そう言って、私はケンゴくんに校内を軽く案内しつつ生徒会室まで連れて行った。

いつも通り干渉を控えつつ、けど離れ過ぎず適切な距離で会話する。友好関係を作ることは大事なこと。治安維持部隊はチームワークも大事。だから、ある程度の交流は必要だ。

得体の知れない彼であっても、仲良く振る舞うのは変わらない。まだ敵か味方かも曖昧だが、ケンゴくんの体の特性上気にかける必要もあるのだ。

 

 

…………

 

あれから数日。ついにケンゴ君がこの学校に入学した。毎日のパトロールを終え、ルイ委員長たちとの報告会議を終える。 ようやく一息ついた私は、寮の廊下でケンゴくんの隣を歩きながら、胸の内を整理していた。

 

……正直なところ、私は彼が恐ろしかった。 「怖い」と言っても、あのツルギ先輩のような、暴力的な圧力に対してじゃない。 もっと根源的な……この世界のルールそのものを、足元からグラグラと揺さぶられるような、そんな不気味さだ。

 

さっきのパトロールだってそう。 彼が撃たれた瞬間、私の目に映ったのは、キヴォトスでは滅多に流れることがないであろう命の色だった。 真っ赤な、ドロリとした温かい血。 傷口が塞がれば済む話じゃない。私たちの常識では、弾丸一発程度が「痛い」ものであっても「死に直結する」ものじゃないはずなのに。もちろん、私たちだってたくさん攻撃を受ければいずれは死ぬ可能性はある。それが、一瞬かそうでないかの違いだ。

 

「……イチカ、顔色が悪いぞ」

 

不意に隣から声をかけられ、私はハッとして視線を上げた。 ケンゴくんが、怪訝そうな顔でこちらを見ている。

 

「あはは、バレちゃったっすか? ちょっと今日はいろいろありすぎて、お疲れモードなんすよ」

 

いつものように、一歩引いて笑顔で返す。 でも、彼はそれを見透かすように目を細めた。 ……やっぱり、この人は心の隙間に入り込むのが上手すぎる。 アリウスなんていう、聞いたこともない不穏な名前。割れたヘイロー。脆い肉体。 本来なら、もっと冷たく突き放して、ただの監視対象として扱うべきなのに。

彼が傷付く姿を見る度に、心配と不安が胸の奥をチリチリと焼くような感覚になる。 監視役としての義務感だけじゃない。もっと個人的な、目を逸らしたくなるような「嫌な予感」だ。

 

「ああ。……イチカ、ありがとうな」

 

「……お礼なんていいっすよ。仕事っすから」

 

そう、仕事だ。 私は彼の味方である前に、正義実現委員会の一員で、彼の監視役。 距離を詰めすぎてはいけない。情を移してはいけない。

 

……だって、もし彼が本当にいつか壊れてしまった時。 あるいは、彼がその「不気味な特性」のままに、この学園にとって取り返しのつかない存在になった時。 一番近くで引き金を引かなきゃいけないのは、たぶん私なんだから。あ〜あ……本当にめんどくさい奴、拾っちゃったなぁ。まあ、拾ったからには自己責任ってことで、やるだけ頑張ってみるとしますか。

 

「さ、暗くなる前に帰りましょうか。お腹空いたっすねー。たまには、どこか外食でもどうっすか?」

 

「それはいいな。仕事の後のほのかな贅沢も悪くない」

 

「ケンゴ君も少しずつ慣れてきたみたいっすね。とても楽しそうっす」

 

「そうかもな。最初はここの価格帯に目が飛び出たが。与えられる口座の額でまた驚かされるとは思わなかった」

 

「あはは…確かにそうっすね。でも意外でしたね。ケンゴ君に普通の金銭感覚があるなんて」

「あ、別に馬鹿にしてるわけじゃないっすよ。ただ、廃墟に居たって話だったのでそういう感覚がないのかなと」

 

「別に気にしてない。今では、これが普通なように感じるしな。でも、困るのはその使い道なんだよな」

 

「……まあ、わかるっすかね。私もあまり物欲とかないんで、溜まっていくんすよねぇ」

 

「俺も銃があれば弾代に使うんだけどなぁ」

 

「それしか使い道がないってのも、つまらないっすけどね」

 

「言えてるな」

 

そう言って、おかしく笑う彼に、私も明るい声で笑う。そして、少し先に立って歩き出した。 夕暮れに染まるトリニティの校庭に、私たちの影が二つ、長く伸びていた。

 

□□□

 

「そうか……あぁ。なに、問題はない。これからも引き続き頼むよ」

 

月明かりに照らされたビルの屋上。月明かりのみが頼りな室内で、一人……いや、一機のオートマタが電話で会話をしている。相手側の声は、少女の声だ。

 

『そ、その件なのですが。やっぱり、私たちには荷が重いといいますか。その……今回の依頼は、なかったことにしてもらいた』

 

「ところで。君たち、配給は足りているのかね?」

 

『……え??』

 

「なに、組織を引っ張るには必需品は必要だろう?養えなければ士気は下がるし、何も進まない。ずっと停滞、最悪落ちに落ちるだろう?」

 

『……そ、それは。その』

 

電話越しに聞こえてくる声には、恐れがあった。だが、そんなことはどうでもいいこと。逆に、嬉々として喜んだ。予想をしていたのか、オートマタは軽く笑いながら了承する。

 

「それに、相手はあのトリニティの治安維持部隊だ。なんの準備も装備もまともに揃わない、数だけのお前達が苦戦するのも無理はない。……それに、あれは試行戦闘だろう?……ただのテスト。そう、テストだ。つまり、次は、成功する。……そうだろう?」

「もちろん。次が成功するように支援もしよう」

 

『っ!!?そ、それならおそらくは……いえ。必ず、成功させます!』

 

「期待しているぞ」

 

そんな薄っぺらな、心底そう思っていなさそうに、でもそう悟られない声で返す。もう何度もやって失敗しているというのに。報告を聞き終えたのか、オートマタは電話を切り深々と高級そうな椅子に背中を預ける。そんな大きな巨躯を受け止める椅子は、見た目の割に余裕でそれを支えている。

すると、一機のオートマタが部屋に入ってきた。

 

「理事……お客様がお見えになりました」

 

「……誰だ?」

 

理事と呼ばれたそれは、再度姿勢を正しながらやってきたくすんだ緑色のオートマタにそう問い、その人物の名前の名前を聞いた。

すると、理事が少し嫌そうな声音に変わり、不機嫌になりつつ通すように言った。

それから数分が経ち、その来客が理事の前に現れた。

 

「お久しぶりですね、カイザー理事」

 

「……あぁ、久しぶりだな」

 

やってきたのは。真っ黒なスーツに身を包み人間とは言い難い淡く白い筋の模様がある異形な人間だった。

 

「なにやら、機嫌がよろしいですね?なにか良いことでもありましたか」

 

お前が来るまで機嫌が良かったがな……とは言えないので。

 

「そんなことない。……今も前もイライラしているさ。そんなことより、あの件は?」

 

適当に返して、話を逸らす。

 

「あの件ですか……残念ながら、今のところ進展はありませんね」

 

「……そうか」

 

「ところで理事?……なぜそんなにも機嫌がよろしいのですか?」

 

やはり誤魔化せないか……。こいつ……黒服はどうやら何か気づいているようだ。

 

「さっきも言っただろう。いつも通りだ」

 

「その割には……いつもの雰囲気があまりないですね。私の前ではもう少し、嫌な顔を向けていたはずですが?」

 

図星をついた発言に、一瞬黙り込んだがすぐに返す。

 

「今日は少しラッキーに思うような事があったのでな……。まあ、いわゆる小さな幸せによるものだ。茶柱が立ったとかそういうレベルのな」

 

「おや?あなたが迷信を鵜呑みにするとは意外ですね」

 

「迷信なんぞ信じてはおらんさ。ただ、そういう知識はあったのでな。それで気持ち少し上がっていただけだ」

 

と、それらしい事を口にしてその場を切り抜える。

 

「そうですか。貴方にも子供らしい部分があったのですね」

 

「そいつは皮肉か?」

 

「そんなつもりはありませんよ」

 

どうだか……。と、俺はそいつを睨みつけるのだった。もう話は終わっただろうと、俺が切り上げようとした瞬間だった。

 

「ところで……」

 

「……?」

 

「前に軽く話した、翼を持った男子生徒のことですが」

 

思わず無い心臓が体と同時に跳ねる。その動きで全て察したのか……黒服は、クックックと笑いながら。

 

「やはり……そうでしたか」

 

……と。顎に手をあてて呟いた。




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