新キャラと展開の構想を考え直してた。
まあ、その新キャラも登場が少ないけどさ。
ここからは三人称視点で頑張っていきます。
たまに一人称を挟むと思うけど。どちらの方が読みやすいかわかんないよね。
第七話の最後を編集しました。
白濁とした視界の中で、二人の男女が笑っていた。
頭上に黄色いヘイローを戴き、背に白い翼を持つ女性。そして、傍らに立つ普通の人間の男。その眼差しは、胸が締め付けられるほどに暖かかった。
視界の下から、幼い、小さな手が伸びる。何かを掴もうと、もどかしく空を掻く。
(これは……俺の手か?)
そんな疑問を抱く間もなく、白髪の女性が手を伸ばし、愛おしげにその「幼子」を抱き上げた。視点が天井から彼女の慈愛に満ちた顔へと移り、耳元で愛の言葉が囁かれる。
熱い。頭の芯が焼けるように熱い。天堕ケンゴという個体が持たぬはずの、しかし確かに刻まれているはずの記憶が、濁流となって押し寄せてくる。
「――――イ……ル」
馴染みない単語が途切れ途切れに囁かれるが、声は形を成さずノイズと共にかき消えた。
(だ……れ??)
そう言葉を発しようとして、無情にもそのチャンスは消え失せた。視界は無慈悲に暗転していく。
待ってくれ、と願う意識を引き裂いたのは、あまりに硬質で現実的な衝撃だった。
□□□
「……うがっ!!?」
次の瞬間、ケンゴの体はベッドの下に転がり落ちていた。
バタン、という重い音と共に側頭部を床に打ち付け、彼は痛みにもがきながら体を起こす。じんわりと広がる鈍痛に顔をしかめ、枕元に置いていたスマホで時刻を確認した。
「6時……か」
監視役であるイチカがやって来るまで、まだ2時間近くある。
ケンゴはぶつけた箇所をさすりながら、重い溜息をついた。
「なんか気分が優れねぇな。……そういや、寝てる時に何か見たような?」
微かな記憶の残滓を捕まえようと頭を捻ってみるが、断片的な色のイメージさえも、覚醒と共に指の間から砂のように零れ落ちていく。結局、何も思い出すことはできなかった。
無駄な足掻きを諦めたケンゴは、ふらつく足取りで寝室を離れ、リビングへと向かう。
備え付けの冷蔵庫から取り出したのは、安価な惣菜パンと、例のスポーツドリンクだった。ゲマトリアの「黒服」から手渡されたものと同じその味は、いつの間にかケンゴの習慣になっていた。
パンを咀嚼しながら、彼はここ数週間の生活を反芻する。正義実現委員会の仕事がない日は学食で済ませ、夕食はイチカと共にする。
(……一人で外食くらいしてみたいが。今は仕方ないか)
当初、イチカから「偏っている」と食生活を指摘されたことがきっかけで始まった外食の習慣だが、案外それは悪くない時間だった。
監視対象と監視員。そんな堅苦しい関係を忘れ、ただの同級生として言葉を交わす時間は、ケンゴの乾いた心に不思議な安らぎを与えていた。
「せっかく早く起きたわけだし、もう着替えておくか」
最後の一口を飲み込み、軽くストレッチをこなすと、ケンゴは壁に掛けられた黒い制服に袖を通した。
着替えを終え、身支度を整えた頃。玄関の扉が開く乾いた音が部屋に響いた。
「あれ? 今日は早く起きれたんですね? おはよーっす!」
寝室から出たケンゴを迎えたのは、意外そうな顔をしたイチカだった。
時刻は午前6時50分。いつもならケンゴが無理やり起こされる時間の、1時間以上も前である。
「おはよう。今日は少し、早く目が覚めちまってな。……そういうイチカこそ、やけに今日は早いじゃねえか」
ケンゴが問い返すと、イチカは額に浮かんだ汗を拭いながら、どこか照れくさそうに笑った。
「えーっと、それはっすね。……最近は、朝にランニングしてるんすよ」
「こんな時間に? ……朝からよくやるな」
「日中などはケンゴ君につきっきりになってるんで、なかなかする暇がなくて困ってるんすけど。だから、朝のこの時間帯にササッと済ませるようにしてるんす」
そう言って笑う彼女は、いつもの制服姿ではなく、スポーティな運動着に身を包んでいた。健康的な少女としての等身大の輝きは、この学園の朝の光によく馴染んでいる。
「ストイックだな。俺も少しは見習うべきか」
「あはは、ケンゴくんは無理しなくていいっすよ。私の最近のブームなんで。その代わり、今日は一時間早く起きれたんで、ちょっと寄り道して行きましょう!」
イチカの提案に、ケンゴは頷いた。
イチカが着替えてくるのを待ち、二人はまだ人の気配が薄い寮を出る。
朝の冷気と、石畳を叩く二人分の足音。
背丈が同じくらいの二人の歩くテンポはほぼ同じで時折足音が重なり合っている。
気付けば、約二ヶ月半……。二人が出会ってからそれだけの日数が経過していた。だんだんと空気も変わり、夏の変わり目となった。
「いや〜、だんだんと暑くなっても、朝はちょっと冷えるっすねぇ」
「そうだな。確かに、少し寒いな」
「ケンゴくんはどうっすか?」
「いや、俺はそんなに。でも、昼が近づけば流石にこの厚着じゃ暑いな」
「今はまだ長袖の期間ですから。でも、そのうち夏服に切り替わると思うんで、今はまだ我慢っすね」
「そうか」
「ところでケンゴ君」
「……ん?」
イチカは急に立ち止まった。ケンゴは、イチカの方を向く。
「どうっすか?学園には、もう慣れました?」
「……どうだろな。まだ、よくわかんねえや」
「慣れた……といえば、視線には慣れたが。……多分、聞いてるのはそれじゃねえよな」
「そうっすね」
ケンゴの問に、端的に答える。
「いろんな人と話しました?」
「それなりに……」
「仕事の話、以外でですよ」
「…………ちょっぴり」
「そうっすか……馴染めてはいますか?」
「……馴染めて……るとは思うかな?」
「友達は、できたっすか?」
「……イチカかな?」
「えっ?」
監視をする自分に友達と言うケンゴにイチカは少しだけ驚いた。以前の休暇の際に、イチカは彼に友達と言って遊びに出た。ケンゴがどう思ってるかわからなかったが、少なくともイチカはその時はそう思っていた。だから、まさか友達と思ってくれているとは、本人も思っていなかった。
「あれ、違ったか?前にそう言ってくれてたから、お前もそうだと」
「いや……大丈夫、友達っすよ」
少し悲しそうにしたケンゴにイチカはすぐに返答した。その後も、イチカは質問する。
「楽しめてるっすか?」
「そうだな……どっちかっていえば楽しいより、かな」
「どんな時が?」
そう言われ、ケンゴは考える。
ここ最近の二ヶ月の記憶を辿る。楽しかったときのことを、一番自分が笑ってたと思う時を思い出しながら、考える。そして、答えが出た。
「イチカといるとき……」
「……えっ??」
聞いた本人が、出てきた答えを聞いて、また驚いた。
「いつも一緒にいるからかな。監視とはいえ、お前といる時が俺は一番楽しかったって思う。たくさん話しかけてくれるし、くだらないけどなんでもない、なんてことない話をお前から聞くのは面白かったし、パトロールでいろんなとこ行くのも、一緒に食事をするのも、楽しかったって俺は思ってる」
ケンゴは、真剣そうに笑みを浮かべて、話し出す。その気持ちが、なんの嘘もない本心である事は、イチカも伝わっているのか、少し嬉しそうな、安心したような顔をしてニコッと彼女も笑った。
「じゃあ、よかったっす」
そこからは会話もなく、二人は再び歩き出した。
□□□
寄り道で連れてこられた場所は、委員会室近くの射撃場だった。近くと言っても、大規模演習ができるくらいの広さがあるため、委員会本部どころか学校からもかなり距離があった。
まだ誰もいない静まり返ったその場所には、火薬の残り香が朝露の匂いと共に漂っている。
「……射撃場? 寄り道ってのは、ここか?」
ケンゴが怪訝そうに眉を寄せると、イチカは「そうっす!」と快活に頷き、背負っていたバッグをベンチに置いた。彼女が肌身離さず持っていた愛用のアサルトライフルを取り出し、慣れた手つきで点検を始める。
「最近のケンゴくん、パトロール中も結構いい動きしてるじゃないっすか。いざという時の判断も的確で、安心して任せられます。でも、支給されたグレネードの使い方は、もっと体に叩き込んでおいた方がいいかと思って」
「…別に、今のままでも十分だろう?」
「いいえ、ケンゴ君。君の問題は、使用するタイミングっす」
ケンゴの使い方のどれもが、危機に差し迫った時のみだった。この前、頭に銃を突きつけられた時もそうだった。よっぽどの危機でもない限り、手が伸びない。
「でもよ。この爆弾自体持ち歩ける数にも限りがあるから、あんまり使いまくりたくないんだよな」
だが、ケンゴの言い分も最もだった。
ケンゴが一度に持てる爆弾の数は系六個。そしてその手持ちは、閃光手榴弾と発煙弾を三つずつ常備する構えである。十分な数があるように見えるが、けして多いわけでもない。それに、用心に越した事はないという理由からケンゴは使用を渋っていた。
「出し惜しみして死んじゃったら、元も子もないっすよ」
イチカは呆れたように肩をすくめると、ライフルのボルトを引いて残弾がないことを確認し、それをベンチに立てかけた。そして、代わりに訓練用のダミーグレネードを一つ手に取る。
「君の体は、私たちみたいに弾丸を何十発も浴びて平気な顔ができるようにはできてないっす。一発が致命傷、一瞬の油断が命取り……。だからこそ、その『一瞬』を自分から作り出すためにグレネードがあります。囲まれてから使うんじゃなくて、囲まれる前に使う。わかったっすか?」
「……手厳しいな。わかったよ」
ケンゴは苦笑しながら、イチカの指導に従って模擬弾を手に取った。
早朝の静寂を切り裂くように、イチカの鋭い声が飛ぶ。投擲のフォーム、爆風を避けるための左翼の展開、そして煙に紛れての移動。
一時間ほど、二人は泥臭い訓練を繰り返した。ヘイロー持ちゆえの筋力があるケンゴだが、キヴォトスの「常識」である銃撃戦のセオリーは、彼にとって未知の領域だった。
「……はぁ、はぁ……。流石に、疲れたな」
「いい汗かいたっすね! 飲み物、買ってきますよ」
イチカが自販機の方へ駆け出していく。ケンゴはベンチに腰を下ろし、着ている防弾ベストの重みを感じながら、大きく息を吐いた。
射撃場に差し込む朝陽が、夏の気配を孕んで少しずつ熱を帯び始めている。
先ほど交わした「友達」という言葉の余韻が、ケンゴの胸を少しだけ軽くしていた。記憶はなくとも、この場所には自分の隣を歩いてくれる少女がいる。その事実だけで、今は十分だと思えた。
だが、その平穏は、唐突に変わった空気によって塗り替えられた。
「……? なんだ……今の音」
耳の奥へと、微かな音だけが入ってくる。しかもそれは、一つや二つではない。至る方向からしてきていたが、全く姿が見えない。
それと同時に、ケンゴの頭上にあるヘイローが、今まで感じたことのない微かな振動を始める。
「イチカ……?」
自販機の前で立ち止まっているイチカが、通信機を押さえて怪訝そうな顔をしていた。
「……おかしいっすね。さっきからノイズが酷くて、電波が悪いのか、本部と繋がらない……」
イチカが呟いた直後、射撃場の周囲を取り囲む森の奥から、複数の影が音もなく現れた。
いつものヘルメット団……だが、その姿は異様だった。しっかりと整えられた装備の他に、彼女たちが手にしていた武器も様変わりしており、最近では見なかった銃やドローンが追加されていた。
「いたぞ! あれが依頼主の言ってた奴だ!」
「ヒャッハー! 運のねえ野郎だな。こんな人気のない場所に二人きりでいるなんてよぉ!今日はついてるぜ」
下卑た笑い声と共に、彼女たちは一斉に銃を構えた。
「イチカ、伏せろ!」
ケンゴが叫ぶと同時に、一発の銃弾が空気を切り裂いた。
それと同時に投げられた爆弾、それは二人の前に落ちた瞬間、すぐに爆ぜた。
ドォォォォン……!
どこを見ても、見たことのない柄の武器が並ぶ。まだ認可すら降りていないようなものばかりだと、イチカは撃たれながらそれに気付いた。早く先輩達に連絡をしなければ、とそう思うがスマホには嫌なノイズがかかっており妨害されてしまう。二人だけに対して、過剰な装備。一体どうなっているのか理解できなかった。
「っ……!? こんなのを、どこから??」
「いいぞ。もっと追い詰めて体力を減らせ!」
イチカが瞬時に愛銃を手に取り、応戦の構えをとる。だが、引き金を引こうとした彼女の体が、一瞬だけ激しくよろめいた。
「……っ!急に、意識っが!!?」
「イチカ!? どうし――っ!?」
イチカの顔から血の気が引いていく。
意識が朦朧としだし、俯いたその瞬間に煙を吐く物を見つけた。同時に、この症状の原因がこの煙であるのだと理解した。
「クソッ、体が……しびれ、て」
ビリビリと体が痺れながらも動けないわけではなかったケンゴは、必死な顔でイチカの下に行く。イチカの意識が暗転していく。脳がまともに働かない。喋ろうとしてみるも筋肉が硬直してるのか吐息に近い声しかでない。
ケンゴは足をもたつかせるイチカの腕を掴み、遮蔽物へとなんとか飛び込んだ。それはいいものの、ころくに肉体が動く状態ではなかった。とりあえず今は、物陰で身を隠すしかない。幸い、この煙のおかげで隠れるところは見えていないので多少の時間は稼げるだろうが。
いずれ、時間の問題だろう。
「くそ、どこに消えやがったんだ?」
「焦るな。この煙を吸ってんだ、きっと今頃おねんねさ。そう遠くにはいないはずだ」
でも、じっとしていてもいずれは捕まる。それに、この眠気もどうにかしなければ逃げるのすらままならない。イチカは煙を吸いすぎたことで気絶しており、今はぐっすりとしている。……せめて、イチカだけでも……と、そう考えてすぐ。
「ん?……いたぞ!」
ケンゴは自ら、そいつらの前に現れたのだった。
「俺は逃げも隠れもしない。連れていくなら、さっさとしろ」
その言葉と共に、一斉に取り押さえられてしまうのだった。
最後のシーンは消しました。
納得のいく続きが書けなかったので消しました。