※流石に導入が無謀すぎたので修正。
第一章:次元の亀裂と黄金の砂海
新大陸、龍結晶の地。
そこには、「導きの青い星」と呼ばれたハンターも体験したという、
古龍渡りをも凌駕する「世界の歪み」が発生していた。
「……なんだ、こいつは。テオの粉塵とも、クシャルの嵐とも違うな」
その男、自称『五期団の旋律使い』は、目の前に浮かぶ不気味な紫色の亀裂を見上げて、楽し気に笑った。
身長は優に二メートルを超え、鍛え上げられた筋肉は重厚な防具越しにもその剛健さを主張している。今回背負っているのは、巨大な雷狼竜の素材から作られた狩猟笛『王牙琴【鳴雷】』。これのみならず様々な狩猟笛を扱うが、逆にいうと彼は一貫して狩猟笛しか使わない。それは彼のプライドであり、狩猟笛はその象徴であった。
視点を裂け目に戻す。
調査班のリーダーからは「異常があれば即座に撤退しろ」と言われている。彼のハンターとしての勘が「この先に、まだ見ぬ生態系がある」と囁き続けるものの、勝手な行動は無謀だと体で知っていることから、一度立て直す判断を下した。
「よし、位置をマーキングして一旦立て直すか……」クルッ
ガンッ!
彼がそう言って振り返った際、好奇心で近づきすぎていたためか、背中に背負った狩猟笛が裂け目にぶつかってしまう。
「あ」
瞬間、空間が爆ぜた。
重力という概念が消失し、極彩色の光が彼の視界を塗りつぶす。叫ぶ暇もなく、二メートルの巨体は次元の狭間へと飲み込まれていった。
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熱い。
頬を撫でる風が、新大陸のそれよりも遥かに乾燥している。
「……う、ぐ……。ここは……どこだ?」
ハンターが目を開けると、そこは見渡す限りの砂漠だった。
しかし、大蟻塚の荒地とは違う。砂の色が白く、そして何より空の色が不自然なほどに青く、澄んでいる。
立ち上がり、クーラードリンクを一気飲みする。
背後を振り返るが、既に裂け目は跡形もなく消え去っていた。
「ふーむ。見たところ、砂漠のようだが……植生が全く分からん。それに……」
帰る方法を失った彼は周囲を見回す。
その時、違和感の正体に気づいた。
遠くに、砂に埋もれた「巨大な鉄の建造物」が見える。それらは新大陸にある古代樹や遺跡とは異なり、どこか高度な技術を感じさせる無機質な造形をしていた。
「……文明の跡か? 少なくとも知的生命はいるようだな……。だが、これほど巨大な鉄を加工する技術、……は確かにあるが、こんなもの工房の親方のとこでも見たことがないぞ」
彼はまず、自身の装備を確認した。
背中には愛用の狩猟笛。腰のベルトには、回復薬、鬼人薬、硬化薬、そして各種の粉塵が詰まったバッグが健在だ。
試しに精神を集中させると、新大陸のキャンプから転送されるはずの「アイテムボックス」の気配を感じた。
(……よかった、『拠点』さえ持てばアイテムボックスは使えるか……)
本来そんな現象はこの世界では起こりえないのだが、それはハンターは知らぬことである。
彼は慎重に歩き出した。まずは情報収集だ。
ハンターにとって、未知の土地での最優先事項は「地図の作成」と「生態系の把握」である。彼は指を舐めて風向きを確認し、最も標高が高いと思われる砂丘へと向かった。
だが、その時。
大地が、震えた。
「……! ディアブロスか? いや、この地響きは……もっとデカい!」
砂丘の向こう側から、銀色の「巨体」が姿を現した。
それは生物と機械が融合したような、異様な姿をしていた。全長は優に百メートルを超え、全身が鈍く輝く白銀の装甲に覆われている。巨大な蛇のような体躯を持ち、頭部には不可解な「輪」が浮かんでいた。
ブルーアーカイブの世界において、それは『ビナー』と呼ばれる総力戦のボス、デカグラマトンの預言者の一体であった。
「なんだ、あのモンスターは……! 全身が金属でできているのか? それとも、そういう外殻なのか!?」
ハンターの目が、歓喜に輝いた。
恐怖ではない。まだ見ぬ強敵、未知の生態系を前にした、純粋な狩猟本能の昂ぶりだ。
「よし……。名前も分からんが、まずは挨拶といくか。この『鳴雷』の旋律が、貴様に通用するか試してやる!」
彼は背中の狩猟笛を構え、力強く地面を蹴った。
第二章:砂海の決闘
ビナーが放つ光線が、砂をガラス状に焼き払う。
ハンターは重厚な見た目に反し、極めて軽快なステップでそれを回避した。
「はっはあ! 随分と派手なブレスじゃないか! だが、予備動作がデカすぎるぞ!」
彼は走りながら、狩猟笛の弦を弾き、重低音を響かせた。
ジャムセッションの始まりだ。
一打、一打がビナーの装甲に火花を散らす。
『自分強化』――。
『攻撃力強化【大】』――。
『のけぞり無効』――。
旋律が重なるたびに、ハンターの肉体に力が満ち、周囲に不可視の衝撃波が展開される。
ビナーは自身への攻撃を不快に感じたのか、砂の中に潜り込み、ハンターの足元から奇襲を仕掛けようとした。
「甘い! 地響きで位置は丸分かりだ!」
ハンターはスリンガーから『音爆弾』を放とうとしたが、バッグの中に音爆弾を切らしていることに気づいた。
「しまった、補充を忘れていたか。……なら、これだ!」
彼は狩猟笛を頭上に掲げ、力一杯地面へと叩きつけた。
『響周波【打】』。
大地を伝わる強烈な振動波が、砂の中に潜むビナーの感覚器官を直撃する。
苦悶の叫び(のような機械音)を上げ、ビナーが地上へと飛び出した。
「チャンスだ!」
彼はビナーの側面に回り込み、怒涛の演奏攻撃を開始した。
重厚な笛の音が砂漠に響き渡り、ビナーの銀色の装甲が剥がれ落ちていく。
だが、戦いの中でハンターの鋭い感覚が、戦場とは異なる異質な「気配」を察知した。
ビナーの巨体の陰、吹き飛ばされた砂の下。
そこには、白い砂の中に埋もれるようにして、一人の少女が倒れていた。
「……なっ、人間か!? こんなところに!」
ハンターは息を呑んだ。
その少女は、長い緑髪を砂に汚し、制服のような服を着ていた。頭上には、ビナーと同じような、しかしもっと繊細で美しい「光の輪(ヘイロー)」が浮かんでいたが、その光は今にも消え入りそうなほどに弱々しい。
彼女こそ、アビドス高等学校の生徒会長、梔子ユメであった。
ビナーが再び鎌首をもたげ、知ってか知らずか少女がいる方向へ向かって、広範囲を薙ぎ払う光線の準備を始める。
「くっ……!」
ハンターの脳内に、激しい葛藤が駆け巡った。
(これほどの大型モンスター、今を逃せば二度と仕留められないかもしれん。ハンターとして、この『歴史的狩猟』を完遂すべきではないのか?)
(だが……あんな子供を見捨てて、何がハンターだ! 我ら調査団の目的は、生命の循環を守ること。目の前の命を救えずに、何が世界の調査だ!)
葛藤は、一秒にも満たなかった。
彼はビナーに背を向け、少女の方へと全力で疾走した。
「おい! 起きろ! 捕まってろよ!」
彼はユメの細い体を、壊れ物を扱うように、しかし迅速に抱え上げた。
その直後、背後で大爆発が起きた。ビナーの放った光線が、先ほどまで彼がいた場所を蒸発させたのだ。
「ぐっ……熱いな! だが、これでいい!」
彼は少女を左腕で抱えたまま、右手の狩猟笛で地面を叩き、移動速度を強化する旋律を奏でた。
ビナーは逃げる獲物を追おうとしたが、先ほどのハンターの攻撃で負ったダメージが深かったのか、あるいは追撃を諦めたのか、ゆっくりと砂の中へと消えていった。
「ふぅ……。ひとまずは、撒けたか」
ハンターは砂丘の陰に滑り込み、少女を横たえた。
第三章:命の旋律
「おい、しっかりしろ! 返事をしてくれ!」
ハンターの声が響くが、少女――ユメは反応しない。
彼女の肌は異常なほどに熱く、呼吸は浅い。砂漠の過酷な環境下で、極度の脱水症状と熱中症に陥っているのは明らかだった。
「まずいな。このままじゃ死ぬぞ」
彼は自分のバッグを漁った。
普段なら『生命の粉塵』を使うところだが、今の彼女は意識がなく、呼吸もままならない。より強力な、根源的な治癒能力を引き出す必要がある。
「……これを使うしかないか。貴重品だが、命には代えられん」
彼が取り出したのは、緑色に怪しく輝く小瓶。『秘薬』である。
マンドラゴラと栄養剤グレートを調合して作られるその薬は、ハンターの体力を瞬時に最大まで回復させ、死の淵から引き戻すほどの効能を持つ。
「少し苦いかもしれんが、飲んでくれ」
彼は不器用な大きな手で、ユメの口元に瓶を運んだ。
意識のない彼女が喉を詰まらせないよう、細心の注意を払いながら、一滴一滴、その霊薬を流し込んでいく。
秘薬が喉を通ると、驚くべきことが起きた。
ユメの青ざめていた頬に、急速に赤みが戻り始めたのだ。浅かった呼吸は深く安定したものになり、消えかかっていた頭上のヘイローが、柔らかな光を放ち始める。
「ほう……。新大陸の薬は、この世界の住人にも効くようだな。植物の力というのは偉大だ」
ハンターは安堵の溜息をつき、周囲の安全を確保した。
そして、彼は決意した。
「よし。ここを『キャンプ地』とする!」
その宣言とともに、彼の目の前の空間が歪んだ。
砂漠の真ん中に、突如として巨大な木製の箱――アイテムボックスが現れた。ブルアカ世界の物理法則を完全に無視し、あたかも最初からそこにあったかのように、堂々と鎮座している。
彼はボックスから大きな布を取り出し、簡易的な日除けのテントを作った。
さらに、ボックスの中から『こんがり肉』を取り出し、火は起こさずとも、その芳醇な香りが漂う中で彼女の目覚めを待つことにした。
数時間が経過しただろうか。
日が傾き、砂漠が黄金色から紫紺へと染まり始めた頃。
「……ん……。ここは……?」
ユメが、小さく声を上げた。
彼女の目は、ゆっくりと開かれた。
「おっ、気がついたか! よかった。秘薬が効きすぎて、そのまま永遠に寝ちまうんじゃないかと心配したぞ」
豪快な笑い声とともに、巨大な男の顔が視界に飛び込んできた。
ユメは驚いて身を固くしようとしたが、体に力が入らない。ただ、目の前の男からは、暴力的な威圧感ではなく、太陽のような暖かさと、森のような深い生命力が感じられた。
「あ……なた、は……?」
「俺か? 俺はハンターだ。新大陸から……まあ、少し遠いところから来た。お前さんが砂漠で倒れていたのを拾ったんだ」
ハンターは、水筒から水を与えながら、優しく微笑んだ。
「お前さん、名前は言えるか? どこから来た? 仲間は近くにいるのか?」
情報の収集。それはハンターの基本だ。
だが、ユメはその問いに対して、困ったように眉を下げた。
「なまえ……。なまえ、は……ユメで……。……あれ?」
彼女は自分の頭を押さえた。
熱中症による高熱。そして砂漠を彷徨った過酷な疲労。
それらは『秘薬』によって肉体的なダメージこそ癒えたものの、彼女の繊細な記憶の領域に、深い霧をかけていた。
「思い出せない……んです。私、誰なんだろう。ここがどこかも……私が何をしていたかも……全部、真っ白で……」
ユメの瞳に、不安の涙が浮かぶ。
記憶喪失。
あまりにも過酷な現実が、彼女を襲っていた。
ハンターは、太い指で顎をさすり、唸った。
「うーむ。脳が熱にやられていたからな……。だが安心しろ。体の方は俺が完全に治してやった。記憶なんてのは、腹がいっぱいになればそのうち戻ってくるもんだ」
彼は立ち上がり、背中の狩猟笛を軽く叩いた。
「俺もこの世界についてはさっぱりだ。お前さんも記憶がない。なら、話は早いじゃないか」
彼はユメに向かって、ゴツゴツとした、しかし頼もしい手を差し出した。
「お前さんの記憶が戻るまで、俺が守ってやる。俺は情報の扱いには詳しいんだ。一緒に探せば、お前さんが誰かなんていずれ分かるさ」
その快活な、根拠のない自信に満ちた言葉。
ユメは、目の前の大男を見上げた。
彼が奏でる、静かだが力強い「生存の旋律」が、彼女の不安を少しずつ溶かしていく。
「……はい。ありがとうございます……ハンターさん」
砂漠の夜風が、二人の間を通り抜けていく。
新大陸のハンターと、記憶を失ったアビドスの少女。
全く異なる二つの世界の旋律が混ざり合い、新しい物語の序曲が、今ここに奏でられ始めた。
だが、ハンターはまだ知らない。
彼が救ったこの少女が、この世界の運命を左右する存在であることを。
そして、彼が手こずっている「不器用な機械系端末」が、この先どれほど彼を悩ませることになるのかを。
「よし! まずはメシだ! こんがり肉を食え! 元気が出るぞ!」
「あ……えっと、それは、お肉……ですか?」
「そうだ! 焼き加減は完璧だぞ! さあ、食え食え!」
砂漠の夜に、肉を焼く香ばしい匂いと、男の豪快な笑い声が響き続けた。
次元の裂け目を越えた調査は、思わぬ方向へと動き出していた。
【調査報告:アビドス砂漠】
遭遇個体:銀色の巨大蛇(仮称:鋼蛇竜)。ブレス攻撃、潜行能力を確認。
救助対象:現地住人と思われる少女。頭上に未知のエネルギー体(ヘイロー)を確認。
現状:少女は記憶を喪失。当面の間、彼女の保護と並行して周辺地域の調査を継続する。
備考:この世界の「鉄の箱(端末)」は、どうにも指が太すぎてボタンが押せん。不便極まりない。
ハンターの持ち物リスト(初期状態)
装備品
武器:王牙琴【鳴雷】(ジンオウガ素材の狩猟笛)
防具:EXジンオウαシリーズ(雷狼竜の素材を用いた重厚な防具)
バッグ(携帯用)
回復薬グレート ×10(体力を大きく回復)
鬼人薬グレート ×3(攻撃力を長時間強化)
硬化薬グレート ×3(防御力を長時間強化)
秘薬 ×1(残り0:ユメに使用。体力最大値を増やし、全快させる)
生命の粉塵 ×3(周囲の味方の体力を回復)
砥石(武器の斬れ味を戻す)
アイテムボックス(拠点設置時のみ利用可能)
こんがり肉(スタミナを最大まで回復)
各種素材(新大陸で採取した鉱石、骨、皮など)
予備の消耗品(ハチミツ、薬草、アオキノコ等)
携帯食料
捕獲用麻酔玉
シビレ罠・落とし穴
意識がないのヘイローが灯っている描写については、死にかけで起きているのか寝ているのかすらわからない状態ということでお願いします。