狩猟笛使い、ブルアカ世界へ   作:教頭

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先生は男だし、ハンターが生徒と恋愛関係になることもありません。

書いてて思ったが、別の世界とは言え勝手にギルド作ってギルドマスター名乗るの頭ぶっ飛んでるな。
いかれてんじゃねぇの?


03.シャーレ奪還作戦:巨漢と旋律の挨拶

第一章:混乱のキヴォトス、新しき「指揮官」

 

連邦生徒会長の失踪。

それは、絶対的な秩序によって保たれていたキヴォトスという楽園に、取り返しのつかない亀裂が入ったことを意味していた。

各地で暴動が起き、制御を失ったオートマタやならず者たちが街を練り歩く。

 

そんな混乱の最中、連邦生徒会に呼び出された一人の人物がいた。

「先生」。

キヴォトスにおいて、唯一にして絶対の権限を持つ組織『シャーレ』の顧問として招かれた、外の世界からの来訪者。

 

「……ここが、キヴォトス……」

 

先生と呼ばれた人物は、七神リンがらの簡単な説明を受け、窓の外に広がるキヴォトスのパノラマを見つめた。

だが、その感慨に浸る時間はなかった。

オフィスがある『シャーレのビル』は、正体不明の武装集団によって占拠され、地下のシステムはロックされている。

 

「先生、では改めまして……、連邦捜査局『シャーレ』の設立、およびオフィス奪還作戦の指揮をお願いします」

 

行政官、七神リンの要請を受け、ちょうど連邦生徒会へ抗議に来ていた生徒たちが集められた。

ミレニアムのセミナー、早瀬ユウカ。

トリニティの正義実現委員会、羽川ハスミ。

ゲヘナの風紀委員会、火宮チナツ。

そしてトリニティの自警団、守月スズミ。

 

異なる学園の生徒たちが一堂に会する異常事態。

彼女たちの協力のもと、先生の初仕事である「シャーレ奪還作戦」が開始された。

 

作戦は順調だった。

先生の的確な指示、そして四人の生徒たちの圧倒的な実力により、占拠していたならず者たちは次々と無力化されていく。

だが、ビルまでの中間地点に差し掛かった時、彼女たちは奇妙な違和感を覚えた。

 

「……おかしいですね」

ハスミが愛銃『インペイルメント』を構え直し、翼をわずかに震わせた。

「先ほどから、抵抗が弱すぎます。まるで、誰かが先に掃除を済ませたような……」

 

「ええ。道路やビルの壁面のあちこちに、不可解なダメージの跡があります」

チナツがアスファルトの凹みを確認した。

それは銃弾の痕ではない。

巨大な「何か」が、重機で叩きつけたような、暴力的な破壊の痕跡。

 

「ミレニアムのデータにはない物理衝撃です。……まるで、大型の野生生物が暴れたような」

ユウカが頭の中の計算機を叩きながら、冷や汗を流す。

 

その時だった。

シャーレオフィスを構えるビルの中から、地鳴りのような「音」が聞こえてきた。

 

それは音楽だった。

だが、キヴォトスで流行しているポップスやクラシックではない。

大地の底から響き渡るような重低音。

聴く者の生存本能を揺さぶり、血を沸き立たせる、原始的な旋律。

 

「この音……まさか、ブラックマーケットの……」

スズミが目を見開いた。

 

扉が、内側からゆっくりと開く。

そこには、占拠していたはずの武装集団が、一人残らず積み上げられていた。

そして、その山の前には、巨大な「何か」を奏でながら近づく影があった。

 

 

 

 

 

第二章:挨拶代わりの「狼牙琴」

 

「……おっと。どうやら、本主(ほんぬし)のお出ましらしいな」

 

影が近づくにつれ、正体が露わになる。

その瞬間、ユウカたちは息を呑んだ。

 

デカい。

あまりにもデカすぎる。

身長はゆうに二メートルを超え、筋肉の塊のような肉体には重厚な鎧が装着されている。

背中には、禍々しくも美しい、巨大なギターともハープともつかぬ楽器――狩猟笛『狼牙琴【異獄】』。

 

「あ、あなたは……ブラックマーケットの王、……『ギルドマスター』……!」

ユウカが銃を向けるが、指が震えている。

 

キヴォトスにおいて、銃弾は「日常」だ。

だが、この男から発せられるプレッシャーは、銃弾では防げない「暴力」の気配だった。

戦場を何百回と潜り抜け、自分よりも巨大な怪物を屠り続けてきた者だけが持つ、捕食者の風格。

 

男は、積み上げられたならず者たちの山を後目に言葉を紡ぐ。

 

「……安心しろ。こいつらは生きてる。少しばかり、俺のギルドのやり方で教育してやっただけだ」

 

男は快活に笑った。その瞳には敵意はなく、ただ新しく現れた「興味深い存在」を観察する好奇心に満ちている。

 

「お前が、『先生』とかいう御仁か?」

 

男の視線が、生徒たちの中心に立つ先生へと向けられた。

ハスミとスズミが即座に先生を庇うように前に出る。

 

「止まりなさい! それ以上近づけば、正義実現委員会として……」

 

「はっはっは! 威勢がいいな、小娘。だが、銃口が下がっているぞ。俺を撃つ気がないなら、その鉄屑をしまっておけ」

 

男は意に介さず歩み寄り、先生の前で足を止めた。

先生とハンター。

キヴォトスの運命を導く「知恵」と、世界の境界を壊せる「力」。

二つの異質な存在が、シャーレのビルで対峙した。

 

「俺は、ハンター。今はブラックマーケットで『ハンターズギルド(俺のための組織)』のギルドマスターを名乗っている。……挨拶に来たんだ。連邦生徒会長がいなくなって、代わりに変な『大人』がやってきたと聞いたからな」

 

ハンターは大きな手を差し出した。

先生は、一瞬の沈黙の後、生徒たちの静止を振り切ってその手を握り返した。

 

「……初めまして、ハンターさん。『シャーレ(生徒のための組織)』の顧問、先生です。占拠していた生徒たちを抑えてくれたのはあなたですか?」

 

「ああ。ついでにな。最近はどこもかしこも荒れちまって、掲示板の更新に手間取って困るんでな」

 

握り合わされた手。

先生の手が、赤ん坊のように小さく見えるほどの巨手。

だが、ハンターはその握力を完璧に制御し、友好的な力加減で先生の手を揺らした。

 

「ほう……。いい目だな、先生。キヴォトスの生徒たちとは違う、だが、どこか似た『重み』を感じる。……合格だ」

 

 

 

 

 

第三章:ハスミのコンプレックスと「小さい奴ら」

 

「合格……? 何を勝手なことを!」

ユウカが憤慨して割って入った。

「あなたはブラックマーケットの最重要危険人物として連邦生徒会にマークされています! シャーレの奪還作戦に首を突っ込むなんて、一体何が目的ですか!?」

 

「がみがみとうるさい小娘だな。言っただろう『挨拶』だと。……お前、ミレニアムの会計か? ギルドの連中から聞いてるぞ。計算には早いが、飯の旨さには疎いとかなんとか」

 

「なっ、何ですって!? 私の食生活は完璧に管理されて……!」

 

ハンターはユウカの言葉を適当に聞き流しながら、周囲の生徒たちを見渡した。

ハスミ、チナツ、スズミ。

それぞれが学園の精鋭であり、キヴォトス基準で見れば十分に大人びた、立派な戦士たちだ。

 

だが、二メートル超の巨漢であり、かつては二十メートルを超える飛竜と戦ってきたハンターの視点からすれば、彼女たちはあまりにも「小さかった」。

 

「……しかし、どいつもこいつも小さいな。あの子(ユメ)もそうだが、この世界の住人はみんなこんなに華奢なのか? ちゃんと肉を食っているのか?」

 

その言葉に、特に敏感に反応した生徒がいた。

羽川ハスミである。

 

彼女は、トリニティの中でも指折りの高身長(179cm)であり、さらにその巨大な黒い翼のせいで、周囲からは常に「大きい」と見られがちだった。

自分の背が高いこと、体が大きいこと。

それは彼女にとって、密かな、しかし根深いコンプレックスだった。

可愛らしい服もサイズが合わず、他の生徒たちの中にいれば自分だけが浮いてしまう。

 

そのハスミが、今、自分を遥かに見下ろす存在から「小さい」と言われたのだ。

 

「え……。小さい……?」

ハスミが呆然と呟いた。

 

ハンターは、ハスミの頭の上にポンと大きな手を置いた。

普通なら失礼極まりない行為だが、彼の動作には不思議な「父性」のようなものが宿っており、ハスミは思わず動けなくなった。

 

「ああ、小さい。特にそっちの会計(ユウカ)や、救護担当(チナツ)なんて、俺の故郷の『アイルー』より少しデカい程度じゃないか。お前もだ、黒翼の嬢ちゃん。背筋を伸ばしているが、俺からすれば、まだまだ成長途中のヒナだな」

 

ハスミの顔が、一気に真っ赤に染まった。

「ヒ、ヒナ……。私が、小さい……?」

 

「そうだ。飯を食え。もっと体を鍛えろ。そんな細い体で銃を振り回してちゃ、真の大型モンスターの突進は受け止められんぞ。お前ら全員、まとめて『小さいの』だ」

 

ハンターは豪快に笑いながら、ハスミの頭をワシワシと撫で回した。

普段、正義の実現委員会の副委員長として畏怖され、誰よりも「大きく、威厳ある存在」でいなければならなかったハスミ。

その彼女が、初めて「守るべき小さな存在」として扱われた瞬間だった。

 

「……ぁ。あう……」

ハスミの瞳から、鋭い緊張の光が消え、どこか夢見心地な、あるいは毒気を抜かれたような表情に変わった。

 

「ちょ、ちょっとハスミさん!? 何をぼーっとしてるんですか! 敵ですよ、敵!」

ユウカがハスミの袖を引っ張る。

 

「……あ。いえ、ユウカさん。ですが……。その、私を『小さい』と言い切った人は、人生で初めてで……。なんだか、その……悪い気はしません、というか……」

 

「ハスミさん、ダメですよ! 洗脳です! 音による精神攻撃かもしれません!」

チナツが慌ててハスミの容態を確認しようとする。

 

「洗脳なわけあるか。ただの事実だ」

ハンターはハスミから手を離し、腰のバッグを叩いた。

「ほら、嬢ちゃん。これはサービスだ。ギルド特製の『携帯食料』だ。保存がきくし、スタミナもつく。作戦が終わったら自分で食うなり誰かに分けるなり好きにしろ」

 

ハンターが放り投げたのは、丁寧に梱包された、干し肉のような何かだった。

ハスミはそれを両手で、大切そうに受け取った。

 

「あ……。ありがとうございます……ハンターさん」

 

「ハスミさーんっ! もう絆されてるじゃないですかーっ!!」

ユウカの絶叫が廊下に響き渡った。

 

 

 

 

 

第四章:先生への伝言

 

「さて。挨拶は済んだな」

 

ハンターは満足げに頷くと、背中の狩猟笛を軽く鳴らした。

ポロロン……と、軽快な、しかし空気を震わせる音が響く。

 

「先生。お前はこの世界の『要』になる。俺の勘がそう言っている」

 

ハンターの表情から、先ほどまでの快活さが消え、真剣な「古参ハンター」の顔になった。

 

「このキヴォトスという場所は、一見平和に見えるが……その裏側には、底知れない闇が潜んでいる。『鋼蛇竜』も、おそらくただの前座に過ぎん。……もっと巨大な、概念そのものが牙を剥く日が来る」

 

「……あなたは、何を知っているんですか?」

先生が静かに問いかける。

 

「うんにゃ、何も知らん。俺はただのハンターだ。だが、『気配』は分かる」

ハンターは窓の外、遠くに見えるアビドス砂漠の方角を見つめた。

 

「俺は俺のやり方で、この世界の生態系を……いや、平和を守る。俺のギルドには、行き場を失った生徒たちがたくさんいるからな。あいつらのメシの時間を邪魔する奴は、誰であろうと俺が狩る」

 

彼は一歩、先生に近づき、耳元で囁いた。

 

「もし、お前がどうしようもない壁にぶち当たったら……ブラックマーケットの奥にある、あの巨大な倉庫に来い。……ギルドは、いつだってお前のような『依頼主』を歓迎するぞ」

 

ハンターはそう言い残すと、驚くべき軽やかさで窓枠に飛び乗った。

 

「ちょ、ここ最上階ですよ!?」

スズミが叫ぶ。

 

「はっはあ! 飛竜の巣に比べれば、ただの丘だ! ……あばよ、嬢ちゃんたち! 先生、また会おうぜ!」

 

男は、そのまま夜のキヴォトスへと飛び降りた。

四人の生徒たちが慌てて窓に駆け寄り下を覗き込むが、そこにはすでに男の姿はなく、ただ遠くのビル風に混じって、勇壮な狩猟笛の旋律だけが聞こえてきた。

 

 

 

 

 

第五章:嵐の後の静けさ

 

「……行っちゃいましたね」

スズミが銃を下ろし、深く息を吐いた。

 

「何だったんですか、あの人は……。データが全く通用しません。というか、重力とか質量保存の法則とか、全部無視してませんでしたか?」

ユウカが片手で頭を抑える。

 

「ですが、あの『ギルドマスター』……ハンターさんからは、嘘をついているような雰囲気はしませんでした」

チナツが落ち着きを取り戻し、冷静に分析した。

「少なくとも、今すぐ私たちに危害を加える意志はないようです。……むしろ、私たちを『守るべき対象』として見ているような」

 

「……で、……ハスミさん、さっきからずっとその干し肉を見つめてますけど」

ユウカが、頬を赤く染めたまま硬直しているハスミをじとっとした目で見つめる。

 

「はっ! ……す、すみません。あまりにも唐突な出来事で……。ですが、その……『小さい』と言われることが、これほど心を軽くするものだとは、思いもしませんでした……」

 

「ハスミさん、それは多分、自分より大きい人間に会ったことがなさすぎて、脳がバグってるだけですよ! 早くその怪しい肉をチナツさんに検分してもらって……」

 

「……いえ、これは私が……私への『報酬』として、いただいておきます」

ハスミがぎゅっと干し肉を抱きしめた。

 

「もうダメだ、この正義実現委員会……」

ユウカが天を仰いだ。

 

先生は、そんな生徒たちのやり取りを見守りながら、自分の右手の感覚を確かめていた。

あの大きな、タコだらけの、硬い手。

世界中の重圧を一人で背負ってきたような、それでいてすべてを笑い飛ばすような、強靭な大人の手。

 

「……ハンターさん、か」

 

先生は、男が去っていった夜空を見つめ、小さく微笑んだ。

キヴォトスには、自分の知らない「味方」が、まだたくさんいるのかもしれない。

そして、このブラックマーケットの王が、いつか自分を助けてくれる確信に近い予感があった。

 

「先生、ぼーっとしないでください! まだ地下のシステム復旧が残ってるんですから!」

 

「ああ、分かっているよ、ユウカ。……みんな、行こう」

 

シャーレの奪還作戦は、無事に完了した。

だが、それは同時に、キヴォトスという巨大な生態系における、ハンターと先生、そして生徒たちの交響曲が始まった合図でもあった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

数日後。

トリニティの正義の実現委員会。

副委員長の部屋からは、時折、幸せそうな「フフフ……」という声が聞こえてくるという。

 

「……ハスミ先輩、最近機嫌がいいわね」

「ええ、なんだか『私なんてまだまだ小さいですから……』って言い出してて……、謙虚を通り越して、少女みたいな顔をしてるわ」

 

部下たちの噂をよそに、ハスミはハンターからもらった携帯食料(驚くほど美味かった)を少しずつ食べながら、まだ見ぬ「大きな背中」に思いを馳せていた。

 

一方、ブラックマーケット。

ハンターは、戻ってきたギルドのメンバーたちに、豪快に肉を振る舞っていた。

 

「ハンターさん! 連邦生徒会はどうだったっすか!?」

 

「ああ。面白い奴がいたぞ。……小さいが、いい根性をしてる『大人』だ。キヴォトスも、案外退屈せずに済みそうだ」

 

ユメが横でニコニコしながら、ハンターにお茶を差し出した。

「よかったですね、ハンターさん。お友達ができたみたいで」

 

「友達、か。……まあ、そんなところだな」

 

焚き火の炎が、ハンターの顔を照らす。

彼の背負った『狼牙琴』が、静かな風を受けて共鳴し、まだ見ぬ強敵への期待に胸を躍らせるように、低く、力強く鳴り響いた。




ハンターから見た「小さい奴ら」の評価メモ

ターゲット:早瀬ユウカ

評価:賑やかな小鳥。
所感:数字にうるさいが、仲間のために一生懸命なのは伝わる。ただ、もう少し栄養のあるものを食え。あんなにがみがみ言うのはカルシウムが足りない証拠だ。

ターゲット:羽川ハスミ

評価:迷えるヒナ鳥。
所感:この世界では「大きい」方らしいが、俺からすれば片手で担げるサイズだ。もっと胸を張れ。翼があるなら、いずれは空の王者(リオレウス)のように堂々と飛ぶべきだ。素質はある。

ターゲット:火宮チナツ / 守月スズミ

評価:冷静な子リスと、真面目な白狼。
所感:どいつもこいつも真面目すぎる。キヴォトスの生徒は、もっと「遊び」を知るべきだな。狩りの後の一杯の旨さを教えてやりたい。

ターゲット:先生

評価:知恵あるハンドラー。
所感:武力は皆無。だが、あの眼差しは数多の困難を乗り越えた熟練の編纂者に似ている。守られるだけの存在ではないな。いつか、俺のギルドに正式なクエストを依頼してくる日を楽しみにしている。
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