狩猟笛使い、ブルアカ世界へ   作:教頭

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以上「アビドス編」終了です。
拙い小説でしたが、ご精読ありがとうございました。

……蛇倒してへんやんけ!完全に忘れとった!


08.それぞれの帰る場所:砂漠の夜明けと「ただいま」の旋律

第一章:ギルドに降る「涙の雨」

 

ホシノ奪還作戦から一夜明けた、ブラックマーケット。

ハンターズギルドの拠点は、いつもの活気を失い、どんよりとした悲しみに包まれていた。

 

「……ううっ。ユメ先生、もう戻ってこないんだろうな……」

「当たり前じゃないっすか。あんなに素敵な学校と、あんなに可愛い後輩ちゃんがいたんだもん。こんな砂埃くさいギルドにいる理由なんて、一つもないっすよ……」

「おいギルマスに聞かれるぞ……」

「聞こえてんぞ」「ヒエッ」

 

食堂のテーブルには、ジュースの入ったジョッキと、いつもより味気なく感じる料理が並んでいた。

スケバンも、不良少女も、ならず者も、今はただの「教え子」として、恩師との別れを嘆き、鼻をすすりながら食事を口に運んでいる(ギルドの掟として残すのは厳禁である)。

 

「ギギルマス……。ユメ先生の荷物、まとめておいた方がいいっすか?」

スズナが、赤くなった目でハンターに尋ねた。

 

ハンターは、黙って巨大な肉を焼いていた。

その背中は相変わらず大きく、揺るぎない。だが、その沈黙が余計にメンバーたちの不安を煽る。

 

「……荷物か。ふん、そんなもの、置いておけばいい。あいつがいた証拠だ」

 

ハンターのぶっきらぼうな言葉に、一人の生徒が堪えきれずに泣き出した。

「ひどいっすよギルマスー! そんな、死んじゃった人みたいに言わなくても……! でも、でも、ユメ先生が幸せなら……私たちは、応援しなきゃいけないんだ……っ!」

「っでも!!っでもよ~!!」

「言うなっ!……また泣いちゃうだろうが!……ユメ先生~~っ!!」

「泣いちゃった……」

 

その時、拠点の重厚な扉が、勢いよく開いた。

 

「ただいま戻りましたー! 皆さん、そんなに泣いてどうしたんですか?」

 

聞き慣れた、おっとりとした、しかし芯の通った声。

メンバーたちが一斉に振り返ると、そこにはアビドスの制服ではなく、ギルドでいつも着ていた受付嬢の制服姿のユメが、不思議そうな顔で立っていた。

 

「「「ゆ、ユメ先生ーーーーっ!!?」」」

 

地鳴りのような叫び声が上がり、生徒たちが一斉にユメに飛びついた。

 

「どうして!? アビドスに帰ったんじゃなかったんすか!?」

「記憶、戻ったんですよね!? あの可愛い後輩ちゃんを置いてきちゃったんすか!?」

 

ユメは、もみくちゃにされながらも、困ったように笑って答えた。

 

「ええ、記憶は全部戻りましたよ。ホシノちゃんとも、たくさんお話ししました。……でもね、今の私はもう『アビドスの生徒会長』じゃないんです。ほら、ホシノちゃんが3年生になってみんなをまとめ上げていて……。私は卒業したんだって、自分の中で踏ん切りがつきました。だから、正式にホシノちゃんを次の生徒会長に指名してきたんですよ」

 

ユメは、集まった教え子たちの頭を一人ずつ撫でながら続けた。

 

「アビドスは、私の大切な故郷です。いつでも遊びに行けますし、ホシノちゃんたちが守ってくれるって信じてます。……でも、今の私が一番やりたいことは、ここにあるんです。居場所のない子たちが、自分らしく生きていける場所を作るお手伝い。……私、まだ皆さんに教えたいことがたくさんあるんです」

 

「ユメ先生……っ!」

 

生徒たちは、安堵と喜びに再び涙を流した。今度の涙は、悲しい雨ではなく、恵みの雨だった。

 

 

 

 

 

第二章:アビドスの打ち上げと「こんがり肉G」

 

一方、アビドス高等学校。

校舎の一角では、対策委員会のメンバーと先生による、ささやかな、しかし最高に明るい打ち上げが行われていた。

 

法外な利息は無くなったが、借金はまだまだ残っている。

砂漠化の問題も、依然として深刻だ。

だが、部室を包む空気は、数日前とは劇的に変わっていた。

 

「……ホシノ。本当に、よかったのかい? ユメさんと一緒じゃなくて」

先生が、ジュースを飲みながら隣に座るホシノに問いかけた。

 

ホシノは、窓の外の月を見上げ、ふっと穏やかな笑みを浮かべた。

そこには、自分を責め続け、過去に囚われていた「おじさん」の姿はもうなかった。

 

「……うん。いいんだよ、先生。……あの日、伝えられなかった『ごめんなさい』と『大好き』を、ちゃんと伝えられた。それだけで、おじさんの憑き物は落ちちゃったみたい。……先輩が生きてて、笑ってる。私にとってそれ以上の救いなんて、この世界にはないからね」

 

ホシノは自分の手を見つめた。

「それにね、先輩には先輩の道があるんだって分かったんだ。……ブラックマーケットのあそこは、先輩を必要としてる人たちがたくさんいる。先輩の優しさは、アビドスの中だけじゃ収まらないんだよ」

 

「ホシノは、強いね」

 

「うへへ~、いつまでも昔のままだと、先輩に笑われちゃうからね〜。……ユメ先輩がいなくても、私たちはアビドスを守れるんだってこと。次に会った時に、胸を張って見せてあげたいんだ」

 

「あーーっ! シロコ先輩、それ私が確保してた分! 卑怯ですよ!」

「……ん、早い者勝ち。この肉、異常に美味しい。止まらない」

 

部室の真ん中では、セリカとシロコが、皿の上の肉を巡って激しい争奪戦を繰り広げていた。

 

「これ……ハンターさんが差し入れてくれた『こんがり肉G』ってお肉ですよね。本当に、どうやって焼いたらこんな味になるんでしょう」

ノノミが幸せそうに頬を緩めている。

 

ハンターが「救出のお祝いだ」と言って先生に託したその肉は、一口噛めば生命力が溢れ出すような、驚異的な旨味を持っていた。

 

「もう、二人とも落ち着いてください。肉はまだまだあるんですから」

「……セリカ、口の周り、ソースだらけ」

「シロコ先輩だって、目がマジすぎるわよ!」

 

二人の騒ぎを見て、ホシノと先生は顔を見合わせ、声を上げて笑った。

アビドスの夜に、希望に満ちた笑い声が響く。

それは、どんな莫大な借金よりも重く、価値のある「宝物」だった。

 

 

 

 

 

第三章:ギルドへの帰還、真の「おかえり」

 

再び、ハンターズギルド。

宴の喧騒が一段落した頃、ハンターはユメを拠点の一番高い場所――マーケットを見渡せるバルコニーへと呼び出した。

 

「……ユメ。記憶が戻っても、ここに戻ることを選んだんだな」

 

「はい、ハンターさん……いえ、ギルドマスター。私は、あなたの作ったこの場所が好きなんです。不器用で、乱暴で、でも誰よりも温かい。……ここでなら、私は本当の意味で、誰かの力になれる気がするんです」

 

ハンターは、月明かりに照らされたユメの横顔を見た。

記憶を失っていた時のどこか儚げな表情ではなく、今は一人の自立した女性としての、強い光が宿っている。

 

「……そうか。ならば、正式な手続きが必要だな」

 

ハンターは、懐から一枚の古びた、しかし丁寧に手入れされた「狩猟状」を取り出した。

それは、ギルドにおける正式な役職任命書だった。

 

「ユメ。お前を、ハンターズギルド・キヴォトス支部の『総括マネージャー』に任命する。……断る権利はないぞ」

 

ユメは、驚きに目を見開いた後、ふふっと楽しそうに笑った。

「一大組織の総括ですか、随分と重たい任命ですね……。でも、お受けします。

 今後ともよろしくお願いしますね、ハンターさん」

 

二人がバルコニーから拠点内へ戻ると、そこには今か今かと待っていたギルドメンバーが二人を待ち構えていた。

 

「「「おかえりなさーーーい! ユメ先生!!」」」

 

口々に叫ばれる、純粋な歓迎の言葉。

かつては不良だスケバンだと荒れていた生徒たちが、ユメを本当の家族として、心から必要としていた。

 

ユメは、その光景に胸が熱くなった。

砂漠を彷徨った孤独。

苦痛の中で意識が遠のく絶望。

それらすべてが、今のこの瞬間のためにあったのだと思えるほど、彼女は今、幸せだった。

 

最後に、ハンターが彼女の前に立ち、大きな手を差し出した。

 

「……おかえり、ユメ。

 ……それじゃあ野郎ども!宴をはじめるぞ!!」

 

「野郎じゃないでーす!」「さっき宴終わったばっかじゃないですか!」

「さっきの聞いてたっすよーっ、おめでとうユメセンセっ!」

「ギルマスー!もうちょっとしんみりした空気にできないんすかー!」

「ちょっと照れてんじゃねーよ!!」「さっきので歌いすぎた……、少し休ませて……」

「うぉぉぉっ!まだまだいくぜーっ!」「あんた明日早起きするって言ってなかったっけ?」

 

「はっはっは、なんとでも言うといい!もう一回宴だ!朝まで騒ぐぞ!」

 

「「「おおおぉぉぉーーーっ!!」」」

 

その言葉は、いつもの宴好きで不器用なハンターそのものだった。

だが「おかえり」、……その声には、深い親愛と信頼が込められていた。

「……っ。はい……っ!」

 

ユメの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。

それは、もう二度と消えない自分の場所を見つけた者の、至福の涙。

 

「……ただいま、帰りました……! 皆さん……ただいま!!」

 

ユメの「ただいま」の声が、ギルドの壁に共鳴し、ブラックマーケットの闇を優しく照らした。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

数日後。

アビドスの校門の前。

ホシノは、新しくなった「生徒会長」の腕章を少しだけ照れくさそうに直しながら、砂漠の彼方を見つめていた。

 

「……先輩。見ててね。私、頑張るから」

 

その視線の先には、ブラックマーケットの喧騒。

そして、そこには今日も、スマホの操作に怒り、巨大な肉を焼き、生徒たちを厳しくも温かく導く「狩人」と「聖女」の姿がある。

 

キヴォトスの空は、どこまでも広く、青い。

異なる場所にいても、同じ空の下で繋がっている。

それは、アビドスの生徒たちと、ハンターズギルドが紡ぎ出す、新しい時代の序曲だった。

 

「……さて、みんな! 今日の補習、始めちゃおうか!」

 

「えっ、今日は休みじゃないの!?」

 

「あはは、生徒会長の命令だよー!」

 

笑い声と共に、アビドスの新しい一日が始まる。

そして、ブラックマーケットの掲示板にも、新しい依頼が貼り出される。

 

『クエスト:最高の日常を守り抜け』

 

その依頼をクリアするための戦いは、これからもずっと続いていくのだ。




【特別編】アビドス×ギルド友好記念・こんがり肉Gのレシピ

品名:こんがり肉G

【マスターの独り言】
「アビドスの小僧たちが取り合って食ったらしいな。ふん、当然だ。この肉は、ただ焼けばいいってもんじゃない」

【材料】

厳選された生肉:草食竜の肉(生徒たちは「竜肉」を「牛肉」と聞き間違えている)。

ハチミツ:新大陸のハチから採取したような、濃厚な甘みを持つもの。

苦虫の抽出液:隠し味。これが肉の旨味を極限まで引き立てる(生徒には内緒)。

【調理法】

火加減:焚き火の炎が青白くなる瞬間に、肉を回転させる。

リズム:心の中で『上手に焼けましたー!』という旋律を奏でる。このリズムが狂えば、ただの『コゲ肉』だ。

スパイス:ユメが特製した、アビドスの砂漠でも有数の調味塩。

【効果】

スタミナ上限解放:借金返済のモチベーションが100%向上する。

幸福感の付与:食べた瞬間、過去のトラウマが一時的に消去されるほどの多幸感に包まれる。

【追記:シロコのメモ】
「ん、非常に美味しい。次は私が焼く。マスターに弟子入りするクエスト、掲示板に出しておいてほしい」
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