拙い小説でしたが、ご精読ありがとうございました。
……蛇倒してへんやんけ!完全に忘れとった!
第一章:ギルドに降る「涙の雨」
ホシノ奪還作戦から一夜明けた、ブラックマーケット。
ハンターズギルドの拠点は、いつもの活気を失い、どんよりとした悲しみに包まれていた。
「……ううっ。ユメ先生、もう戻ってこないんだろうな……」
「当たり前じゃないっすか。あんなに素敵な学校と、あんなに可愛い後輩ちゃんがいたんだもん。こんな砂埃くさいギルドにいる理由なんて、一つもないっすよ……」
「おいギルマスに聞かれるぞ……」
「聞こえてんぞ」「ヒエッ」
食堂のテーブルには、ジュースの入ったジョッキと、いつもより味気なく感じる料理が並んでいた。
スケバンも、不良少女も、ならず者も、今はただの「教え子」として、恩師との別れを嘆き、鼻をすすりながら食事を口に運んでいる(ギルドの掟として残すのは厳禁である)。
「ギギルマス……。ユメ先生の荷物、まとめておいた方がいいっすか?」
スズナが、赤くなった目でハンターに尋ねた。
ハンターは、黙って巨大な肉を焼いていた。
その背中は相変わらず大きく、揺るぎない。だが、その沈黙が余計にメンバーたちの不安を煽る。
「……荷物か。ふん、そんなもの、置いておけばいい。あいつがいた証拠だ」
ハンターのぶっきらぼうな言葉に、一人の生徒が堪えきれずに泣き出した。
「ひどいっすよギルマスー! そんな、死んじゃった人みたいに言わなくても……! でも、でも、ユメ先生が幸せなら……私たちは、応援しなきゃいけないんだ……っ!」
「っでも!!っでもよ~!!」
「言うなっ!……また泣いちゃうだろうが!……ユメ先生~~っ!!」
「泣いちゃった……」
その時、拠点の重厚な扉が、勢いよく開いた。
「ただいま戻りましたー! 皆さん、そんなに泣いてどうしたんですか?」
聞き慣れた、おっとりとした、しかし芯の通った声。
メンバーたちが一斉に振り返ると、そこにはアビドスの制服ではなく、ギルドでいつも着ていた受付嬢の制服姿のユメが、不思議そうな顔で立っていた。
「「「ゆ、ユメ先生ーーーーっ!!?」」」
地鳴りのような叫び声が上がり、生徒たちが一斉にユメに飛びついた。
「どうして!? アビドスに帰ったんじゃなかったんすか!?」
「記憶、戻ったんですよね!? あの可愛い後輩ちゃんを置いてきちゃったんすか!?」
ユメは、もみくちゃにされながらも、困ったように笑って答えた。
「ええ、記憶は全部戻りましたよ。ホシノちゃんとも、たくさんお話ししました。……でもね、今の私はもう『アビドスの生徒会長』じゃないんです。ほら、ホシノちゃんが3年生になってみんなをまとめ上げていて……。私は卒業したんだって、自分の中で踏ん切りがつきました。だから、正式にホシノちゃんを次の生徒会長に指名してきたんですよ」
ユメは、集まった教え子たちの頭を一人ずつ撫でながら続けた。
「アビドスは、私の大切な故郷です。いつでも遊びに行けますし、ホシノちゃんたちが守ってくれるって信じてます。……でも、今の私が一番やりたいことは、ここにあるんです。居場所のない子たちが、自分らしく生きていける場所を作るお手伝い。……私、まだ皆さんに教えたいことがたくさんあるんです」
「ユメ先生……っ!」
生徒たちは、安堵と喜びに再び涙を流した。今度の涙は、悲しい雨ではなく、恵みの雨だった。
第二章:アビドスの打ち上げと「こんがり肉G」
一方、アビドス高等学校。
校舎の一角では、対策委員会のメンバーと先生による、ささやかな、しかし最高に明るい打ち上げが行われていた。
法外な利息は無くなったが、借金はまだまだ残っている。
砂漠化の問題も、依然として深刻だ。
だが、部室を包む空気は、数日前とは劇的に変わっていた。
「……ホシノ。本当に、よかったのかい? ユメさんと一緒じゃなくて」
先生が、ジュースを飲みながら隣に座るホシノに問いかけた。
ホシノは、窓の外の月を見上げ、ふっと穏やかな笑みを浮かべた。
そこには、自分を責め続け、過去に囚われていた「おじさん」の姿はもうなかった。
「……うん。いいんだよ、先生。……あの日、伝えられなかった『ごめんなさい』と『大好き』を、ちゃんと伝えられた。それだけで、おじさんの憑き物は落ちちゃったみたい。……先輩が生きてて、笑ってる。私にとってそれ以上の救いなんて、この世界にはないからね」
ホシノは自分の手を見つめた。
「それにね、先輩には先輩の道があるんだって分かったんだ。……ブラックマーケットのあそこは、先輩を必要としてる人たちがたくさんいる。先輩の優しさは、アビドスの中だけじゃ収まらないんだよ」
「ホシノは、強いね」
「うへへ~、いつまでも昔のままだと、先輩に笑われちゃうからね〜。……ユメ先輩がいなくても、私たちはアビドスを守れるんだってこと。次に会った時に、胸を張って見せてあげたいんだ」
「あーーっ! シロコ先輩、それ私が確保してた分! 卑怯ですよ!」
「……ん、早い者勝ち。この肉、異常に美味しい。止まらない」
部室の真ん中では、セリカとシロコが、皿の上の肉を巡って激しい争奪戦を繰り広げていた。
「これ……ハンターさんが差し入れてくれた『こんがり肉G』ってお肉ですよね。本当に、どうやって焼いたらこんな味になるんでしょう」
ノノミが幸せそうに頬を緩めている。
ハンターが「救出のお祝いだ」と言って先生に託したその肉は、一口噛めば生命力が溢れ出すような、驚異的な旨味を持っていた。
「もう、二人とも落ち着いてください。肉はまだまだあるんですから」
「……セリカ、口の周り、ソースだらけ」
「シロコ先輩だって、目がマジすぎるわよ!」
二人の騒ぎを見て、ホシノと先生は顔を見合わせ、声を上げて笑った。
アビドスの夜に、希望に満ちた笑い声が響く。
それは、どんな莫大な借金よりも重く、価値のある「宝物」だった。
第三章:ギルドへの帰還、真の「おかえり」
再び、ハンターズギルド。
宴の喧騒が一段落した頃、ハンターはユメを拠点の一番高い場所――マーケットを見渡せるバルコニーへと呼び出した。
「……ユメ。記憶が戻っても、ここに戻ることを選んだんだな」
「はい、ハンターさん……いえ、ギルドマスター。私は、あなたの作ったこの場所が好きなんです。不器用で、乱暴で、でも誰よりも温かい。……ここでなら、私は本当の意味で、誰かの力になれる気がするんです」
ハンターは、月明かりに照らされたユメの横顔を見た。
記憶を失っていた時のどこか儚げな表情ではなく、今は一人の自立した女性としての、強い光が宿っている。
「……そうか。ならば、正式な手続きが必要だな」
ハンターは、懐から一枚の古びた、しかし丁寧に手入れされた「狩猟状」を取り出した。
それは、ギルドにおける正式な役職任命書だった。
「ユメ。お前を、ハンターズギルド・キヴォトス支部の『総括マネージャー』に任命する。……断る権利はないぞ」
ユメは、驚きに目を見開いた後、ふふっと楽しそうに笑った。
「一大組織の総括ですか、随分と重たい任命ですね……。でも、お受けします。
今後ともよろしくお願いしますね、ハンターさん」
二人がバルコニーから拠点内へ戻ると、そこには今か今かと待っていたギルドメンバーが二人を待ち構えていた。
「「「おかえりなさーーーい! ユメ先生!!」」」
口々に叫ばれる、純粋な歓迎の言葉。
かつては不良だスケバンだと荒れていた生徒たちが、ユメを本当の家族として、心から必要としていた。
ユメは、その光景に胸が熱くなった。
砂漠を彷徨った孤独。
苦痛の中で意識が遠のく絶望。
それらすべてが、今のこの瞬間のためにあったのだと思えるほど、彼女は今、幸せだった。
最後に、ハンターが彼女の前に立ち、大きな手を差し出した。
「……おかえり、ユメ。
……それじゃあ野郎ども!宴をはじめるぞ!!」
「野郎じゃないでーす!」「さっき宴終わったばっかじゃないですか!」
「さっきの聞いてたっすよーっ、おめでとうユメセンセっ!」
「ギルマスー!もうちょっとしんみりした空気にできないんすかー!」
「ちょっと照れてんじゃねーよ!!」「さっきので歌いすぎた……、少し休ませて……」
「うぉぉぉっ!まだまだいくぜーっ!」「あんた明日早起きするって言ってなかったっけ?」
「はっはっは、なんとでも言うといい!もう一回宴だ!朝まで騒ぐぞ!」
「「「おおおぉぉぉーーーっ!!」」」
その言葉は、いつもの宴好きで不器用なハンターそのものだった。
だが「おかえり」、……その声には、深い親愛と信頼が込められていた。
「……っ。はい……っ!」
ユメの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
それは、もう二度と消えない自分の場所を見つけた者の、至福の涙。
「……ただいま、帰りました……! 皆さん……ただいま!!」
ユメの「ただいま」の声が、ギルドの壁に共鳴し、ブラックマーケットの闇を優しく照らした。
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数日後。
アビドスの校門の前。
ホシノは、新しくなった「生徒会長」の腕章を少しだけ照れくさそうに直しながら、砂漠の彼方を見つめていた。
「……先輩。見ててね。私、頑張るから」
その視線の先には、ブラックマーケットの喧騒。
そして、そこには今日も、スマホの操作に怒り、巨大な肉を焼き、生徒たちを厳しくも温かく導く「狩人」と「聖女」の姿がある。
キヴォトスの空は、どこまでも広く、青い。
異なる場所にいても、同じ空の下で繋がっている。
それは、アビドスの生徒たちと、ハンターズギルドが紡ぎ出す、新しい時代の序曲だった。
「……さて、みんな! 今日の補習、始めちゃおうか!」
「えっ、今日は休みじゃないの!?」
「あはは、生徒会長の命令だよー!」
笑い声と共に、アビドスの新しい一日が始まる。
そして、ブラックマーケットの掲示板にも、新しい依頼が貼り出される。
『クエスト:最高の日常を守り抜け』
その依頼をクリアするための戦いは、これからもずっと続いていくのだ。
【特別編】アビドス×ギルド友好記念・こんがり肉Gのレシピ
品名:こんがり肉G
【マスターの独り言】
「アビドスの小僧たちが取り合って食ったらしいな。ふん、当然だ。この肉は、ただ焼けばいいってもんじゃない」
【材料】
厳選された生肉:草食竜の肉(生徒たちは「竜肉」を「牛肉」と聞き間違えている)。
ハチミツ:新大陸のハチから採取したような、濃厚な甘みを持つもの。
苦虫の抽出液:隠し味。これが肉の旨味を極限まで引き立てる(生徒には内緒)。
【調理法】
火加減:焚き火の炎が青白くなる瞬間に、肉を回転させる。
リズム:心の中で『上手に焼けましたー!』という旋律を奏でる。このリズムが狂えば、ただの『コゲ肉』だ。
スパイス:ユメが特製した、アビドスの砂漠でも有数の調味塩。
【効果】
スタミナ上限解放:借金返済のモチベーションが100%向上する。
幸福感の付与:食べた瞬間、過去のトラウマが一時的に消去されるほどの多幸感に包まれる。
【追記:シロコのメモ】
「ん、非常に美味しい。次は私が焼く。マスターに弟子入りするクエスト、掲示板に出しておいてほしい」