【第二部完結】各務に想う 〜いつになったら財務会計ってもんをみんな覚えてくれるんだろうか〜   作:ふぃーあ

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予約投稿ミスったので急遽用意した朝用の投稿です。
なので朝更新読みで見に来てくれた方、前にもう一話あります。大変申し訳ございません。そちらから先にどうぞ。


彼女たちは(はか)

「ありえないんです」

 

 それは、暁光の差し込んだ朝からしばらくが経った日の昼のことだった。

 

 開口一番、自販機の前でヘッドホンを首にかけた少女は言い放った。彼女の名は、音瀬コタマという。彼女は怒っていた。

 

「えぇ、有り得ないですね」

 

 それを受けるは、白い制服。白髪と合わせ、強く白の色を押し出した、メモ帳を開く少女。彼女の名は、生塩ノアという。彼女もまた、表に出さないだけで、静かな怒りを蓄えていた。

 

「いつになったらあの二人は……!!」

「お気持ちはよく分かります、コタマ先輩」

 

 この二人は、つい最近意気投合したばかりの仲である。反セミナーと、セミナー。あるいは、『鏡』奪還戦において、出し抜いたものと出し抜かれたものである両者が投合する話題とは、そう。

 

「本当に、チヒロ先輩とチハヤ先輩はいつになればきちんとお付き合いをされるのでしょうか……」

 

 チヒロと、チハヤの関係。身も蓋もないように言えば、彼女たちは気ぶっているのであった。

 

「なぜあれでまだお互いに告白も何もしていない距離なのですか……! 普通は色々済ませるべきところです、あの間柄は!」

 

 コタマはチヒロに幾度も、本当に幾度も飽きるほどの惚気を浴びせられている。コタマには、一緒にご飯を食べに行く上にお金まで出してくれる男性が、自分に気がない、あるいは友人でしかないと思う、チヒロへの理解ができなかった。

 

「全くもって、その通りではあるのですが……何故か、そうなっていません」

 

 ノアはノアで、仕事でチハヤの元に訪れる度に、近頃チヒロの話を聞くようになっていた。つまるところ、状況はコタマと同じ。まだ聞き飽きていないだけで、そのうち聞き飽きる事になる惚気を聞かされているのであった。

 

 そして、まだ聞き飽きてはいないものの、考えることも同じ。

 

 なぜ甘味を後輩よりも自分のところに持ってきたり、都度様子見に来てコーヒーを置いていったりする女性が、自分に気がない、あるいは友人でしかないと思う、チハヤへの理解ができなかった。

 

「……どうにかして、仲を進展させようとの試みは……」

「ダメです、コタマ先輩……あの二人、最近休日が噛み合っていない様子で……」

「なぜですか……副部長、チハヤさん……!」

 

 本当に彼女たちからは見通すことも叶わぬ都合で、チヒロとチハヤはなるべく互いへの接触を避け、しかし不自然では無い程度に交流を続けていた。

 

 二人の定めた限界は、今この場にある気ぶり後輩たちが知る限り……

 

「コーヒーを落ち合ってどこかで飲んで、歩いて一緒に校舎に戻る! なんでこれだけ夫婦感のある立ち居振る舞いをしておいてなにもないんですか……!」

 

 割とガチな夫婦仕草である。ノアは呆れたように、今のミレニアムの女生徒事情をぼやいた。

 

「割と、チハヤ先輩の彼女に立候補すればワンチャンあると思ってる子はそこそこ居ますから……チヒロ先輩には一度自覚させないといけないのでしょうか……?」

「いえ、副部長は最近割と……マシになってきました。問題はチハヤさん……あの朴念仁の方です」

 

 コタマが普段の丁寧な気配を剥ぎ取って辛辣に愚痴る。

 

「何を考えているのか皆目見当もつきません。純喫茶に誘いに来たと聞いた時は喜び勇んで副部長を追い出して臀を叩いたというのに、何ら進展のなかった時の私の気持ちをどうか理解して欲しいのです、ノア」

「……それは……なんというか……」

「それに、副部長には散々からかいついでに燻らせた恋心を煽ったというのに、それを叱られたものですから……」

「……ご愁傷さま、です……?」

 

 ノアはその言葉に返す言葉を持っていなかった。なんとなく、自業自得なのでは無いだろうかとうっすら思いはしたが、それを口にしない理性が彼女がセミナーたる所以である。

 

 とにもかくにも、距離感をそろそろいい加減何とかして欲しいと思う二人は今日も案を交換する。

 

 ひとつ、有力な案がここ最近の彼女たちにはあった。

 

「キャンプ……副部長の趣味ですが、これはなかなか使えるとは思いませんか? ノア」

「えぇ。チハヤさんは比較的ミレニアムの中ではアウトドアにも適応すると思いますし……あるのではないでしょうか」

「問題は……」

「えぇ、どうやって行かせるか」

 

 そして、問題は常にここに収束する。そもそもキャンプとは、休みがまとまって出ない限り向かえないものだ。後々、ヴェリタスの面々で新年の初日の出を拝むという名目でキャンプに行くことになるがそれはそれ。

 

 逆に、そう言ったタイミングでしか行けないものを、どのように平時に行かせるのか。

 

 これに関して、コタマが今日用意したのは切り札であった。

 

「……あ、コタマ先輩! ここで合ってるんですか?」

「ええと、こちらの方は?」

「あ、どうも。協力者の方ですか?」

「え? あ、はい。どうも、セミナーの生塩ノアです」

「ご丁寧にどうもです」

 

 軽くお辞儀をする、一人の見慣れぬ少女。普通の制服を普通に着こなした彼女は、そう。

 

「彼女は情報処理部の後輩です。面白い話を彼女から聞きまして……件の話、ノアさんにも共有を」

「はい! 私たち情報処理部の通常の部員は、先日個人的な依頼をチハヤ部長から受けた見返りに『貸し』をひとりにつきひとつ、要求できる立場にあるんですけど……これを使って、部長を休ませてあげたくて」

「……それなら、実行出来るかもしれませんね!?」

「でしょう!?」

 

 コタマとノアが笑顔で頷き合う。それは絶望の中に活路を見出した人間のそれ。

 

「副部長の外回りの予定表はこちらに抑えてあるので、これを使って予定を整えて……チハヤさんに『貸し』で同じタイミングを休みにさせれば……!」

「何日間か、まとまった休みを与えておける……あとは、私たちの根回しで例えばキャンプ場の利用券などを用意しておけば完璧ですが……」

 

 その時、後ろからハイヒールの音が聞こえた。

 

「ノア、ここにいたのね」

 

 そこにいたのは、調月リオ。セミナーの会長、その人であった。

 

「会長……珍しい、こちらまで降りてこられるなんて」

「たまたまよ。ところで……何やら、面白い話をしているようね」

「聞こえていましたか?」

「多少は聞いていたわ。それで、あなたたちに提案があって」

 

 リオは口角を上げ、「まあチハヤには色々と引き受けてもらっているところもあるから慰安、というわけではないのだけれど」と言ってから、提案を打ち明ける。

 

「私にも一枚噛ませてちょうだい。くじ引きのイベントをここで開催するわ。そうね、一等は適当に最新のゲーム機とコントローラー、ソフトのセットでも用意するとして……二等の景品にキャンプ場の利用券を入れるわ。チハヤは確実にこの手のイベントは逃さないわ。キャンプ場の利用券が当たるように仕向けておく。怪しまれずに渡せればいいのでしょう?」

「なるほど……!」

「それならば、確かに……」

 

 キャンプが趣味ということ自体は、チハヤもチヒロから聞いているだろうから、チヒロに券を渡そうとするはずだが。

 

「たぶんチヒロ先輩、誘いますよね。チハヤ先輩のこと」

「今の副部長なら、恐らくは。ですが、念には念を押して私からも働きかけてみます」

「恐らく、そういう流れにはなると思うのだけれど……コタマがそうしてくれるならより確実ね。そうしてちょうだい。……まあ、そうね……ペア専用チケットとかにしてしまうのが確実かしら?」

 

 くじ引きを引く方法など、様々なことをその場でひとまず決めたリオ、コタマ、ノアの三人は、満足気に頷く。

 

「あの、帰っていいですか?」

「あ、ごめんなさい。全然大丈夫です、ありがとうございました。もちろんですが、ここの話は他言無用でお願いしますね?」

「はい、もちろんですとも。コタマ先輩も頑張ってくださいっ」

 

 一人、話題に取り残された情報処理部の部員も帰っていって、三人が残る。

 

「もし良ければ、細かい話を詰めたいわ。セミナーに寄っていく気はないかしら」

「……反セミナーという題目を掲げているので、あまり堂々とは望ましくありませんね」

「なら、会長。カフェテリアの奥のレンタルブースを使いましょう。あそこなら余人の立ち入りもありませんから」

「そうね、そこでいいかしら?」

「ええ、大丈夫です」

 

 そんな合意を経て、三人はカフェテリアの方へ歩んでいくのであった。

 

 

 




はい。予約投稿ミスったので書く予定のなかった番外編でした。
とてつもないホラー回でもあります。
モチベになるので、評価感想等よろしくお願いします。

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