【第二部完結】各務に想う 〜いつになったら財務会計ってもんをみんな覚えてくれるんだろうか〜 作:ふぃーあ
僕とチヒロが互いに想いを吐き出してからというものの、チヒロと僕は青春を今から謳歌するんだ、とばかりに言葉と身体を使って伝えたはずの想いをまた伝え合っていた。
小難しく言ったが、気恥しさを捨てて言うならハチャメチャにイチャついているのだ、僕とチヒロは。
「なんだか、不思議だな……何回伝えたか分からないのに、伝わってるかわからないし、まだ伝えたい」
「そう、だね。胸が苦しいし、切ないのに言葉にしたらもっと切なくなっていく」
ただ好意を伝えるだけの囁きを、互いの耳に届くように送り込む。
「あぁ……もう、すごいな、これ。私らしくもないのに、それでいいやって思ってる」
「ある意味、理性とかがない人間の本能に忠実なことだからかな。……僕もなんか、リミッターみたいなのが取れてる気がするよ」
チヒロの身体の確かな丸みからくる柔らかさと、ふわりとした温泉上がりの香り。とろりとした瞳、上気した頬。チヒロのすべてが愛おしく思える。
チヒロの、僕の上着を掴む指の力がそっと、しかし確実に強くなった気がした。
「まあでも、なんだかんだ、こうなるとは思ってなかったよ」
「私はずっとこうしてみたいって思ってたけど」
「本当か?」
嘘なんてついてどうするのさ、とチヒロが僕の胸に顔を隠しながらぽそりと言う。
「……そうなら待ってたという言葉もまた重さが違うな」
「ほんっとにね。学生の一年半くらいって長いよ?」
「ごめんって。……埋め合わせはするよ」
言ったね? とチヒロは顔を上げた。
「まあ、大したことはできないけど」
「大それたことを要求するつもりは無いよ。ただ、あなたの本心ももっと言葉や行動にして欲しいだけ」
「そうか。ならまあ、今すぐそうするよ」
抱き寄せる力を強くする。チヒロのことを離さないように。
「んっ……あったかい。あと、ちょっとだけ苦しい……でも、この感覚も、チハヤがくれたものだから、好きだよ」
互いの体温を分け合う僕たちに、そこで初めて、空を見る余裕が生まれた。ふと、本の一節を思い出す。
「……月が綺麗ですね、か」
「ふふ。……私、死んでもいいわ、だっけ? 私はあなたを見ていないといけないのに」
「そうだね。ずっとそばに居てくれなきゃ困る」
そんなことを言い合いながら星の輝く夜空を見る僕たちだったが、当然眠気も来る。互いを信頼し、安心できるほどに身を預ければ当然のことだろう。
寝袋に入って今日のところは眠ろう、そう思っていたのに。
「それじゃあ、チハヤ。おやすみ」
チヒロが僕のことを抱き寄せる。……なぜ、こうなったんだったか。
まず前提として、僕の寝袋が、チヒロと同じものだということを話しておく必要があるか。オススメされたから、それでいいやと買ったものだ。この寝袋は同一の型番であればくっつけることが出来たらしい。端から外すと、もうひとつの寝袋と繋がるようにできていたのだ。
最初から手のひらの上だったのか? と疑ったが、チヒロ的にもここでどうこうする予定はなかった上、そもそも二つで繋がることにさっき気づいたようで、偶然もいいところだったようだ。
そして、偶然にも気づいてしまったチヒロは、寝支度を整えながら、僕にこう言ったのだ。
『……一緒に寝たいかも。消える消えないなんて話されたあとにひとりにさせたくない』
答えはもちろん、『わかった』に決まっているだろう。こと、こういうところに関しては負い目があるのをチヒロはわかってやっている。
「……ふふっ、甘く見たでしょ。一緒に寝るって言ったって寝袋は別とか」
僕の胸元からそう言うチヒロは、身体をめいっぱい僕に寄せ、僕のことを抱き枕にしていた。
「否定はしない……まさか、こんなことができたなんて思ってもなかった」
「まあ、言った通り気付いたのはさっきなんだけど。ねぇ、チハヤ?」
「なに? チヒロ」
チヒロは微かに笑みを浮かべて、優しく。
「今は、暖かいかな?」
「……ふふ。あぁ、お陰様で」
チヒロは僕に、人肌の温もりを教えたいらしい。体を優しく寄せ、僕の身体に密着する範囲を増やしていく。
「……あの、チヒロ?」
「なぁに?」
「いささか、近すぎないか。いくら不安で、いくら待たせてしまったといえど、その……この距離は、少し」
チヒロはそれを聞いて、そう思うんだ? と悪戯な笑みを浮かべた。
「意識、してるの?」
「してるね。僕は思春期男子だよ?」
「っ……でも、私をこんなにしてくれたお礼はしないといけないから、頑張って我慢してほしいかな」
もちろん、襲う気とかはないんだが。そんなとっさの言い訳が口をつく。
「わかってるよ、ここで手が出せるなら私、こんなに待たなくて良かったもんね?」
「ごめん、ごめんって! 身につまされる! とてつもなく!」
「私の思ってる以上に気にしてそうだし……次からはこれでは弄らないよ」
そういうチヒロは、改めてこちらを上目遣いで見上げてくすりとしてみせる。
「で、結局私のことこうやって抱きしめてくれる。なんだかんだ、してくれるじゃん」
「……仕方ないと思わないか。こと、僕の立場じゃ君に求められたら答えざるを得ないと思うんだが」
「それは……私に借りがあるって意味? それとも……」
ここを間違えはしない、と心決めにしていた言葉をチヒロが呟き、僕はそれに笑顔で返す。
「僕らは恋人って意味さ。……あー、気恥しいなこれ」
「恋人、ね。ふふ……よろしくね、チハヤ」
「あぁ。こうして、言葉にしておかないとなあなあにしてしまいそうだったからな。……よろしく。それから、おやすみ、チヒロ」
「うん。おやすみ、チハヤ」
翌朝。朝の心地よい光が、テントの隙間から入り込み、僕は目を覚ました。隣にはもう誰もいない。先にするりと抜けていったようだ。
テントの外に出て、陽射しに目を細めていると、柔らかい声が僕にかけられる。
「起きてたんだ。おはよう、チハヤ。コーヒー、飲む?」
「あぁ。ありがとう」
朝からコーヒーを淹れていたらしいチヒロは、片方のマグカップを僕に手渡してくれた。
朝一番のコーヒーが身体に染み渡る。熱く、ほろ苦いブラックのコーヒーが完全な覚醒を促していく。
「うん、美味しい。……チヒロの淹れるコーヒーは美味いね」
「そう? 口に合うならよかった……昨日もこんな話したかな」
「何度言ったって足りないことがあることもある、だろ?」
チヒロは、言葉に答える代わりに、軽くコーヒーの入ったマグカップを持ち上げて、同意を示してくれた。
「この後、どうするかな」
僕がそう呟くと、チヒロは不思議そうに「この後?」と言う。
キャンプ自体は、この後山を下山するのをバスに乗らず徒歩で降りてトレッキング代わりにするとふたりで決めていたので、どうする、とはなんだろうと気になったのだろう。
「ミレニアムに帰ってから、だよ。僕はどう振る舞えばいいかなと」
「……えぇと、ようは……隠すか、ってこと?」
「そう。まあ……隠す必要も無いかなとは思うんだけど」
チヒロの顔が僅かに赤らむ。昨日あんなに大胆に抱きついて人のことを抱き枕にした割に、まだ恥じるところがあるらしい。そこもまた、かわいいのだが。
実際、リオにこの関係を隠し通すことは不可能だろうなとは思うのだ。だから、もう最初からさらけ出してしまえとも。
「……ちょっと、気恥ずかしいかも。でも、慣れないとね。私は、あなたの相棒、だから」
「……そう、だね」
一瞬チヒロが可愛すぎて気を飛ばしかけたが、僕は至って正常だ。続く言葉を促すと、チヒロはぽしょぽしょと僕に聞こえるギリギリの声で、恥ずかしそうに続けた。
「ほんとは、帰りたくもなかったというか……もっと、2人きりでいたいんだけど。そうも言ってられないよね」
「……コーヒーを飲んだばかりだが、二人で二度寝するか? まだ早いし」
「ふふっ、ありがとう。でも大丈夫。きっと祝ってくれる人がいるって思ったら、帰ってもいいなって思えたから」
チヒロはそう言うと、椅子から立ち上がった。
「帰ろうよ、チハヤ。ミレニアムへ」
「そうだな。……驚かせてやろう」
伸ばされたチヒロの手を、僕の手が握る。
僕らは、キャンプ場を立ち去るべく、後片付けに入ったのだった。
ちょっとだけ書くのに苦しんだのと、作者が忙しいので今日明日は定期更新は恐らく朝の分だけです。2回行動したいんですけど、できなくて申し訳ないです……。
作者を応援してやってもいいと言う人はぜひ評価感想等お願いします。赤ゲージのフルでめちゃくちゃテンション上がってますし、それが作者に与える影響はとても大きいので、本当に、ぜひ。
ランキングもありがとうございます。乗るものとは思わず……
また次回もよろしくお願いします。