【第二部完結】各務に想う 〜いつになったら財務会計ってもんをみんな覚えてくれるんだろうか〜   作:ふぃーあ

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無機質なAIの胎動

 部室のスペースで僕はチヒロと二人きりでパソコンのキーボードを叩いていた。

 

「通話先の部長、懲りて無さそうだったね」

「ちょっとは懲りて欲しいのだけれどね……また廃墟に行ったんだろ?参ったねほんと」

 

 曰く、『確かめることがある』とのことで、ヒマリは現在シャーレの先生やエイミと共に廃墟に赴いている。つまり、特異現象捜査部の活動にお熱なわけだ。

 

 相変わらず実地派というか、好奇心の塊なところは変わらないようだ。というか、人がそう簡単に変わるはずもないのだというべきか。

 

 ちなみに、僕は今、リオの横領に関して言えば、ヒマリは関与していないと推論を立てている。人がそう簡単に変わるわけがない、というのは先に述べた通りだが、ヒマリという人間は思ったより人情家なのを僕はよく知っている。

 

 人情家が他者を不幸にする行為を黙認できるわけが無いのだ。そして、人情家などという熱い性格はそう簡単には抜けまい。鉄じゃあるまいし、冷めるのも早いということではないだろうから。

 

「だが、その上でヒマリには何らこちらの都合を話さないってわけだよ。まあ、勝手な暴走リスクを抑える意味合いもあるけど」

「なるほどね。……いやまあ、確かに部長ならなりかねないか」

「ヒマリなら十中八九事が露見した時点でカチコミかけると思うんだけどどう?」

 

 まあ、今の今まではそんな推理と振り返りを僕はチヒロに、このヴェリタスの部室で伝えていたわけである。

 

「まあ、分からなくは無いけど」

「言いたいこともわかるよ、チヒロ。ビッグシスターには全知をぶつけるべきだというのは筋だが、現状ヒマリも考えあってリオと同調しているらしいし、九割九分こちらに靡くとわかっていても一分の可能性を重く見ても問題ないだろう」

「……そうだね。ま、最初に私たちに隠して色々やってたのはほぼ確実なわけで。たまには全知が知らないことがあってもいいかもね」

 

 チヒロが皮肉げにそう言って、ゆっくりと息をつく。改めてどれほど自分たちに協力者というものがないかを再確認しているようなものだから、そうもなろうというものだが。

 

「まあ、一人でやるよりマシだ。二人なんだからな」

「ごもっとも。とはいえ、相手も相手。ヒマリとリオ、二人とも敵に回すには事実として、私もチハヤもまるっきり能力が足りてないわけで」

「ま、祈るしかないだろうな。ヒマリが敵じゃなければ全然ワンチャンどころかスリーチャンスくらいあるわけだし」

 

 そういえば、とチハヤはぐっと体を伸ばしながら呟く。

 

「デカグラマトンについての話が今日の本題だ。とんでもない話を持ってこられた」

「……聞かせてよ、なに?」

「突然、特異現象捜査部の部室の全PCとモニターがほぼ即座にデカグラマトンにハックされたらしい。その後、先生の持つタブレット端末にアクセスを試み、何らかの要素により失敗、撤退したそうだが」

 

 その言葉が意味するのは即ち、ハッカーとしてのミレニアム最高峰であるあの明星ヒマリが、完全に電子戦において一方的かつ最速の敗北を記録したという事実。

 

 あの明星ヒマリですら、手も足も出ないという現実であった。

 

「……とんでもないね。デカグラマトン……お熱になるわけがわかったかも」

「ほら、あの……ヒマリの側仕えになってるヤベー服の奴がいるだろう」

「……エイミね。いや言いたいことは分かるけど、やめてあげて。本人の体質的に仕方ないんだから」

 

 そうそう、和泉元エイミ。いやまあ仕方ないんだ。思春期の男はあんな意味不明な服を見せられたら一旦「それは服なのか?」ってところから始めなきゃいけないんだから。……僕は誰の何に対して釈明をしている? 

 

「もしかして、今回の話ってそこから持ち込まれたの?」

「そうだ。エイミ曰く、『保険でしかないけど、一応。万能の人なら何かを見いだせるかもしれない』と。『デカグラマトンの動きにはミレニアムの何かを狙う節があるってヒマリ部長が言ってた』だってさ」

「その『万能の人』ってヤツ、久しぶりに聞いたかも」

 

 僕も久しぶりに聞いた。最近はすっかり『部活動専門会計士』の方ばっかり言われてきたから、なおのこと。

 

「僕なんかが『万能の人』と呼ばれるには少々無能無才が過ぎるがね」

 

 ミレニアムの現三年生世代は怪物揃いだ。覚えているだけでも、『約束された勝利』、『トップマイスター』、『予測不能な影』。

 

 そして、間違いなく特異点だと思える大天才二人……『全知』と『ビッグシスター』。

 

 目の前に座っているチヒロだって影では『仲介者』やら『導き手』やらとカッコついた名前がついていたこともあったらしい。確か、千年難題で二人の大天才を折り合わせた役目が評価されたと聞いている。

 

 そして、その中でたまたま僕にそれっぽく与えられていたことがある2つ名みたいなものが『万能の人』だ。

 

「でもまあ、なんでもできるよね?」

「その道の専門家には逆立ちしても勝たないけどね」

「……ちなみに、チハヤ的に周りに『これはできないよな』って思われてそうだけど実はできることとかあるの?」

 

 ふと思い返す。いやぁ、昔取った杵柄だから。そう言い訳して口を開く。

 

「ヘリは飛ばせる。オペレーターもできるし、運転もできる」

「……ヘリって、ヘリコプター?」

「もちろん。あぁもちろん機体を保有してるとかそういう訳じゃないけどね。あれば飛ばせるってだけだ」

 

 そりゃそうだろ、という目線がチヒロから僕に流され、僕は静かにダメージを受けた。

 

「話を戻すよチヒロ。デカグラマトンの狙いだ。そうすれば必然、対策やらなにやらも考えられる」

「……ヒマリが防げないハックでしょ? 何を考えるべきだって話なんだけど、私からすると」

 

 まあともかく、後輩たちからもそれなりに評価はされているらしい僕に、エイミから渡された話。それから見出すべきことがあるとすれば。

 

「簡単さ、『何が』ハックされたらまずいかを先に考える。ハックされたらされたで爆破でも何でもできるようにしておく」

「……なんというか、対策?」

「後手も後手だよ。さっさとなんとかしてもらいたいところだが、さて、デカグラマトンの預言者という存在には一つ特徴がある」

 

 画面に映されたのは、ビナー。その頭部分を僕は指さす。

 

「彼らは『デカグラマトンに感化されたAI』であるそうなんだ。このヘイローはその証だそうだよ。つまり、逆説的に『感化される前』が存在していると考えることができる。元は何らかの機械とAIだったものというわけだ」

「……口からビーム出して、砂嵐を起こして、ミサイルを撃つ蛇型の兵器の元とかあんまり考えたくないんだけど」

「……それは、本当に、そう。だが、まあ一旦それは脇に置いておくよ。ここで言いたいのは、ミレニアムからなんか引っこ抜くとしたら何? って話だ」

 

 答えは割と簡単だ。あんまり生徒の間での知名度というか認知度が高くないだけで、ずっとそれは僕らの下でせこせこ動いていたのだから

 

「僕にはひとつ明確な回答があるんだ。僕が、ありとあらゆる機械をハッキングして、あとのAIは全部自分のものにできる前提で考えるなら真っ先に抑えるだろうなあ、ってやつがある」

「……ミレニアムに?」

「そう。ミレニアムに。チヒロはわかるか?」

 

 チヒロは天井を見上げ少し考え込んだ。そして、考えるために軽く下を向き……そこで顔を上げる。

 

「『ハブ』……!」

「あぁ、そうだ。ちなみに、たぶんもう間に合ってない。僕ならそうするということはまあ……もう、やるよなーって」

「え?」

 

 けたたましいサイレンが校内放送に鳴り響く。それは異常事態の合図。

 

「……っ! これは……!?」

「そんなドンピシャで来るか? 僕が悪役みたいなことになるんだが? まあ……仕方の無いことだけど、どうにもならないわけじゃない。予想できた範囲だ」

「ハブが、地上に浮上している……暴走……いや、預言者になったの?」

 

 軽く僕は椅子を立つ。新たな預言者の出現の方が、僕の根本対策よりは早かった。だが。

 

「リスペクトが足りないな。遥かに先輩なのか、意外と後輩なのかは知らないが、奪って使おうなんて思想を技術者に向けるのはいただけない」

「チハヤ! どうするの、対策どころの話じゃなくなったけど!」

「まあ、なんとなく想像通りの展開になってくれたわけだし、まず相手さんには致命的弱点を解決するまでは黙っててもらって、その間に色々手回しと行こうか!」

 

 対処療法が使えない訳じゃあない。ハブの電源供給源はネットワーク管理だが、いざと言う時に備えた非常用の手動管理が存在する。

 

「やあ、もしもし生塩? 忙しいようだが、セミナーの配電盤を開けて左から二番目のレバーを下ろせ。多少時間を稼げるだろう」

『わかりました、ありがとうございます。チハヤ先輩!』

「C&Cを招集してはいるんだな?」

『はい。……当該暴走ユニット、稼働停止を確認しました、これは……』

「遅かれ早かれ再起動する。それは今だけの猶予だ。さっさと当てて撃破しろ」

 

 生塩の了解を得てから僕は通話を切る。ここからはどちらかといえばセミナーの仕事だし、あとは任せても構わないだろう。

 

「さて、チヒロ! ここからは忙しくなる、ミレニアム各所のAIというAIに独立した秘匿プログラムを仕込む作業だ」

「……強制停止のシャットダウンだね? わかった」

「ここからミレニアムがまだ狙われないとも限らないけど、戦闘は最強が何とかするだろ。僕らは手早く不味めな奴から順に僕らが操作できるシャットダウンシステムを仕込んでおくべきだ」

 

 チヒロはパソコンにまた向かい、無言で了承の意を示した。僕もまた取り急ぎ齧り付くようにパソコンを操作し始める。

 

 面倒なことになった。その言葉だけが、2人の今共有する思いになっていた。

 




チヒロがセキュリティアドバイザーをやっていることに加えて、チハヤが仕事ついでにチヒロに協力することでミレニアムの防壁が多少強化されており、デカグラマトンは本作で一度ハブの感化に様子見フェイズを挟んでいる。

そのため、デカグラマトンとしての動きを察知されたあと、嗅ぎ回り終わったヒマリを急襲(アロナに撃退される)の後ハブを感化させることとなり、結果としてチハヤの案で仮対処されることとなった。



今回もありがとうございました。モチベーションになるため感想等いただければ幸いです。ではまた明日6時に。
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