【第二部完結】各務に想う 〜いつになったら財務会計ってもんをみんな覚えてくれるんだろうか〜 作:ふぃーあ
僕とチヒロは、作業を突貫とはいえ終えることができた。今は、疲れきった体を伸ばし、休めている。
そうした方が、多分いいと僕が提案したからだ。ミレニアム最強……『約束された勝利』美甘ネルという存在がある限り、いくらデカグラマトンの預言者と言えども『勝利』という結果を得ることはできないという信頼があった。
「……落ち着かない」
「気持ちはわかるが、落ち着けるのが仕事だ。最大の非常事態はあの預言者の出現に乗じてデカグラマトンが攻勢に移ること。そうなった時、さっき施した突貫工事を有効に使えるかは僕らにかかっている。いたって冷静である必要があるし、気を張り詰めすぎないようにする必要もある」
個人的に、人間のパフォーマンスを最もよくするのは緊張ではなく緩和であると思っている。脱力することで、瞬発を生む。矛盾のようで矛盾しない状態を作ることが、今の僕らの役目だろう。
「チヒロ……僕の膝の上にでも座るか?」
「……ぇ、いいの? いっ、いやなんのつもりっ!?」
「冗談だ。気抜きにでもなればいいがと思って」
「もう……焦らせないでよ……」
軽い冗談でチヒロの気を紛らわせ、デカグラマトンの預言者と化した『ハブ』……今は、識別名『ホド』となったそれと、美甘ネルを始めとしたC&Cの戦いの様子をぼんやりと眺める。
ずいぶんとまあ、ボコボコにしている様子。プロレスにしたって塩試合、くらいの勢いだ。
「ま、問題はなさそうか。とはいえ……暇だな。助太刀くらいはしてやるか」
「……ドローン? 珍しいね」
「そうだな。ミレニアムの誇る頭のいい馬鹿の集まりことエンジニア部謹製、現在もミレニアムの警備に用いられる警備用ドローンの1つ前のモデルさ。使わなくなったのを貰ってきたんだ」
配色は僕専用に蒼にカラーリングして、見分けが着くようにしてある。最も、違いはそれだけだが。
「なにするつもりで……あぁ、わかった。すごく分かったのが癪だけど、分かっちゃった。だからそんな『まだ分からないのか』みたいな顔でこっち見ないで」
「まあ……うん。結局時代遅れなわけでね。あんまり戦力にはならない。となれば、やることはひとつだろ?」
「……でも大丈夫なの? 出してる柱が周りの機械を侵食してるように見えるけど」
ドローンに四角いコンテナを懸架する作業をしながら、僕はチヒロの最もな問にこう返す。
「大丈夫じゃない。大問題だが、電波によってそういうことをやってるらしいからそういう意味じゃ問題ない」
「……まあ、突っ込ませるだけだもんね」
「失礼な。自爆までセットだ」
ようはそういうことだ。ホドなる預言者は、周辺の機械を侵食し、自分の配下のように使う性質を持つらしいが、その侵食はインベイドピラーと呼ばれる柱によって行われるらしい。
ピラーから放たれる特殊な電波がハッキングの役目を果たすらしい。ということは、そもそもプログラムをスタンドアローンで動かせばなんら問題ないということでもある。
「そういう話じゃないでしょ……まあ、使い道が無さそうなのも事実ではあるけど」
「だってしょうがないじゃないか。いらないと言われたら改装するか片道特攻の自爆兵器にするかくらいしか使い道がないんだから」
エンジニア部謹製ドローンの、僕によるカスタム。銘を『プロメテウス』。ドローンのエネルギー配分を傾け、ブースター出力を向上。搭載された銃器を排除し、追加ブースターを装備。
ただただ超速で突進するだけとなったドローンは、懸架部分に爆弾を装備することで自爆兵器として生まれ変わったのだ。
通信回線にハッキングして、C&Cのオペレートに乱入する。通信に出たのは、当然。
「こちら天峰。聞こえているか現場」
『あァ!? ……んだよ、チハヤか。こっちはアタシが片付けるのにお前も同意したって聞いてたんだが?』
美甘ネルその人。割とネルは頭もそこそこキレるほうだとは、僕の評価だ。こと戦闘と任務のこととなると広い視点と考察を瞬時に行えるのはネルの強みだろうな、と思いつつ会話を広げる。
「あぁ。その手筈だが、少しばかり暇でね。そっちに僕の支援をぶつけておく。活かすのはそっちの役目だ。頼めるか?」
『へぇ、アタシたちを試そうって魂胆か?』
「まさか。最初から信頼してるさ」
ぽちっとな。と呟きながら、手元のパソコンの実行キーを叩く。このキーを叩けば、自動で回線を切り離しドローンがスタンドアローン化するシステムだ。
ホドの横、インベイドピラーと呼ばれたそれと、ピラーの乗っ取ったタレットに向けて5機のドローンが飛ぶ。目にも止まらぬ早さで、事前に設定された座標に向けて。
そして、うち2機はピラーを、3機はタレットを直撃し、爆風の華が咲く。
『……あれで援護って?』
「ピラーは案外脆いらしい。驚いたな」
ピラーが半ばからへし折れ、ホドに乗っ取られたタレットが一斉に破壊される。
「速度が出るから、爆弾が爆破する直前に『めりこむ』んだよ。より能率的に爆弾の火力を伝える工夫ってものさ」
『アタシまだお前のこと捕まえるって依頼貰った事ないの嘘に感じてきたな。お前結構ヤベーだろ』
「はは、ロボット暴走させるやつだのオカルトじみた疑似科学だのよりヤバい判定される言われはないね」
想定外の威力が出たとはおくびにも出さず、そんなこともあるよね感を出しておく。ミレニアムでは必須技能なのだ、まあそんなこともあるよねという態度は。
「とにかく、さっさと詰めきってくれ。僕ができる支援はこれしかないんだ。虎の子の1発だったんだぞ、使い所がわからなかっただけで」
『間違いなく5発あったけどな。とりあえずさっさとボコる!』
ピラーの機器妨害による、タレットを味方につけた戦術を行っていたホド。タレットとピラー、その両方を失ったホドが、ネルを始めとしたC&Cに撤退を選んだのは、その僅か三分四十秒後であった。
「終わったか……いやぁ……にしても、頭が痛いな」
「ハブの離脱、か。ネットワークの敷設にも工事にも引っ張りだこだったものだけに、どうしたものか、だね。まあ私たちが考えることじゃないとは思うけど、セミナーに今だけは同情するかな」
「なんやかんや、セミナーに同情することが多いこと多いこと。もっとお題目通り動けるのがいいんだが」
僕とチヒロは共にため息をつく。
何となく、お題目通りに動くのはもう暫く先なことを予感したからであった。
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