【第二部完結】各務に想う 〜いつになったら財務会計ってもんをみんな覚えてくれるんだろうか〜   作:ふぃーあ

24 / 62
新技術とエンジニア

 ヒマリの期待に応えるべく、行動を開始することにした僕はまず最初にとある場所を訪れていた。

 

「……工房を貸してほしい?」

「そうなんだ。少し入用でね」

 

 訪れたのはエンジニア部。歴代最高とも言われる至上のマイスター、白石ウタハ。彼女に、頼み事をする必要があったので、ひとまず訪ねてみた次第だ。

 

『名も無き神の遺産』から読み取れる、新しい技術の数々。その全てを余すことなく理解するためには、優れた工房が不可欠だろうと思ったのだ。

 

「珍しいな、『万能の人』は鍛治も嗜むのかい?」

「まあ、軽くね。僕はほら、必須の単位は会計で取ってしまったから。趣味で色んな講義に顔を出させてもらってるんだよ」

「なるほどね。普段からお世話になっているわけだし、構いはしないんだが……」

 

 普段からお世話になっている、というのはもちろん、部活の予算に関する会計のことだ。

 

 白石ウタハを始めとした、彼女たちエンジニア部は、能力が十全にあるにもかかわらず会計を『面倒だから』という理由で僕に放り投げる不届き者たちだ。しかしまあ、こういう時に貸しを返してもらうには素晴らしく役に立つ。

 

「もちろん、貸しはひとつとは言わない。いくつかチャラにさせてもらう」

「おや、いいのかい? まあ、それなら否やはない……とはいえ、何を作るのかは気になるな」

「何を作るのか、か」

 

 ウタハの問いを聞いて、脳裏を過ぎるのは、チヒロのこと。笑顔や、恥じらいや、甘える声のひとつひとつ。自然と僕の口をついて出た言葉は、設計コンセプトになり得るもの。

 

「……守りたいものを、守るためのもの、かな」

「そうか。それもまた、ロマンだね」

「君たちのロマンは何を指すのか分かってないが、まあ褒め言葉として受け取ろう。それで、いいのか? 使っても」

 

 もちろん、とウタハは頷いた。

 

「私たちの工房で良ければ好きに使って欲しい。『光の剣』に使った都合で予算がほぼないから、材料だのなんだのは持ち込みでやってくれると助かるけどね」

「もちろん。そこまで求めはしないさ、材料は手配している」

 

 僕に借りのある部活動は多い。そういうのに片っ端からツテはないか? と聞くと、大抵ひとつやふたつは見つかるものだ。

 

 ツテをあたれば、凡そ必要なものは全てミレニアムで手に入った。なんとなれば、C&Cにだって貸しがある僕は、オーパーツの採集依頼を彼女ら宛に出している。

 

「そのうち連絡くらいは入るはずだが、まあゆっくり待てば良いだろうと思う」

「……そういえば君に借りを作っていたのは私たちだけじゃないな。新素材開発部に、特殊塗料部。機器設計部や、精密部品部も借りがあるんだったか?」

「工具改良部もだよ。まあそういうわけで、材料のつてはある。エンジニア部あてに荷物を運び込ませたいんだが、いいかな」

 

 ウタハはすぐさま肯定の意思を即答した。

 

「もちろんいいとも。今ちょうどすっからかんなわけだし、3番の工房を君のために割り振る。私たちエンジニア部は君を歓迎するよ」

「入部する訳じゃあないけどね。悪いが、ありがたく借りさせてもらう」

「あぁ。完成したら是非とも私たちにも見せてくれ。作品への興味関心はマイスターの欲望の根幹だ」

 

 必ず見せよう。だがプロじゃない、期待しないでくれと言った意味合いの長ったらしい言葉を吐きながら僕は借りた工房を検めるべく、工房の扉を開く。

 

「……へぇ?」

「なかなか悪くないだろう?」

「いや驚いた。丁寧に整理されている」

 

 作業工房3番と銘打たれた部屋は、凡そロボットの類を制作するにあたって十分な設備が取り揃えられ、綺麗に整えられた工房だった。道具を丹念にいたわり、そして整備して十全に誰でも使えるようにしておくのはさすがプロの技と言えよう。

 

「これなら材料があればすぐにでも取りかかれそうだな……」

「そこのパソコンは自由に使ってもらって構わない。図面保存用のオフラインパソコンだが、なにかの役に立つならね」

「内部のデータの参照もいいのか?」

 

 ウタハは鷹揚に頷いてみせた。

 

「もちろん。この工房に入る以上は君も私たちの同胞だ。同胞に私たちは技術の開示を惜しまない」

「ありがとう。恩に着るよ……もう少し多く、借りを減らしておく」

 

 そう言うと、ウタハは「本当か? 助かるね。もっと恩を売っておくべきか」と冗談めかして言いながら、部屋の設備を一通り解説してくれた。

 

「まあ、大きく授業と外れたものはない。授業の設備は使えるんだろ?」

「もちろん。あとは色々やる中で合わせていくつもりだ」

「それがいいだろうね。分からないことがあったら呼んでくれれば手伝うよ」

 

 ありがたい申し出を受け、遠慮なくその時は頼らせてもらう、と返すと、ウタハは待っているよ、と笑って言った。学内の人気が高い理由も頷けるな、と内心思ったが、口に出しはしない。

 

「じゃ、一度私はこれで失礼する。君はすぐになにかするのかな?」

「いや。材料待ちだ。運び込まれた材料はここに運び込んでもらっていいか?」

「それも引き受けるよ。私たち宛に届く荷物はもうチハヤの材料しかないから、全部君の場所に放り込めばいい訳だしね」

 

 予算切れで何も作れないからね、というウタハの言葉になんだかなあ、と思うのを僕はそっと抑えて、感謝を述べるのだった。

 

 材料はまだない、工具も揃わない、そんな中で僕にできることはあるのか。答えとしては、ないわけじゃない、が正解だ。

 

「ひとまず、図面からだな……」

 

 図面設計を支援するアプリを立ち上げ、およその設計案を書き出していく。そのためにまずは、どのようなものを作り出すかを決めなければならない。

 

「守りたいものを守る、それだけを考えればいいとして……どれほどに強く、長く、守ればいい? 守りに特化したものを作るべきだが、何をどういうアプローチにしていけばいい……?」

 

 書き出していく。箇条書きだ。

 

 個人単位の運用が可能な防御兵装。それは自立駆動する必要がある。それは高度な判断を行う必要がある。

 

 そのために必要なものは、AIだ。それも、自己学習を繰り返すタイプのAIを最終的にスタンドアローンで運用することになるだろう。

 

 AI。どこに頼む範囲だろうか、心当たりがあまりないが……と思っていると、ふと思い浮かぶものがあった。

 

「あのドローンは確か、高度なAIの学習用に作られたんだったか……?」

 

 アテナ3号。ヴェリタスの後輩、ハレの持つ自己学習AI搭載型ドローン。ということは、ハレに頼み込めばAIデータの分岐前を貰えたりしないだろうか。

 

『ハレ、すまない。頼みがあるんだ』

『チヒロ先輩とのその……イチャイチャ、覗いたのに、怒ってないの?』

『別に気にしてないさ。まあそれを貸しにしておけば、話を聞いてもらえるのならそうするが』

 

 ハレのモモトークはどこか申し訳なさそうな文体だったが、何ら気にする事はない。むしろあんな場所でイチャイチャしていた僕らが悪いのだが。

 

『……わかった。それで、頼みっていうのは』

『不躾な願いだとは承知しているが、君のアテナ3号に搭載している自己学習AIの学習前の状態が欲しい』

『……え、それだけ?』

 

 それだけだがなにかあるのだろうか。

 

『そうだ。君の大切な開発成果を欲しいというようですまないが頼みたい』

『まあ、それくらいならすぐにでも送るよ』

『いや、こちらから取りに戻る。君の生み出した自己学習AIはできるだけ安全にやり取りをするべきものだ』

『そう? なら、待ってる。……副部長に伝えたら機嫌よくなったから早めに戻ってきた方がいいよ』

 

 そういえばチヒロと僕を覗いた折のこと、きっちりとチヒロとは和解したのだろうか。逃げていった2人はどうしていたのかは気になるところだが、結局ちゃんと戻っているように聞こえる。

 

 その辺の真偽を確かめるべく、僕はヴェリタスの部室に戻った。

 

「あ、おかえり〜! ハレ先輩! チヒロ先輩! チハヤ先輩来たー!」

 

 マキの元気のいい声に迎えられながら奥へ進むと、いつも通りの様子のチヒロと、やややつれ気味なハレの二人がやってくる。

 

「その様子じゃ随分と怒られたか?」

「ううん、単純にこれはセルフ反省……さすがにその、マキと一緒に逃げたのは短絡に過ぎたから」

「気にしてないって言ってもこれなんだ。私の方が申し訳なくなっちゃってさ……」

 

 チヒロがやや困ったように頬をかく。まあ、本人のやりたいようにやらせてやればいいのだと思う、とチヒロに伝えると、そういう物かな、と納得したようなしないような様子をチヒロは見せた。

 

「それと、チハヤ先輩。これ、頼まれていたもの。このUSBの中にコピーが入ってるから、使って。アテナ3号の集積データがこっち。もし良ければ、だけど」

「いいのかい? それは大事な成果だろ」

「いいんだよ。先輩が私を頼ってくれるなら、私に出せる全部を出さないと先輩の理想には辿り着かないと思うし」

 

 そんなことはない。些か僕は過剰評価されてはいないだろうか、と思いつつも、しかし望外のありがたいおまけに助けられる僕がいて、僕は静かに目を閉じる。

 

「ありがとう。過分な期待、痛みいるよ。君に託されたに足るものを必ず作る」

「頑張って、チハヤ先輩。私はあとは応援するだけだからさ」

「私もまあ、色々やりながら応援するよ。それと、エンジニア部の工房は借りれたの?」

 

 問題ない、とチヒロに頷きを返すと、チヒロは軽い冗談のようにいう。

 

「無理して倒れないでよ? コーヒーの差し入れには行くから」

「分かった。楽しみに待ってるよ」

 

 少し前に二徹していた時のやり取りをふと思い出す。

 

「倒れたら君が困るんだろ? なら倒れないさ」

「あ、覚えてたんだ。今のチハヤなら私が困る理由もわかるんだし、倒れるなんてことはないと信じてるんだけど」

「あぁ。無茶はしない。約束しよう」

 

 そう言いながら、手に2つのUSBを持ってヴェリタスの部室を出る。

 

 やる気も、設備も万全。あとは、材料を待つだけだ。

 

 僕はそう思いながら、静かに図面設計ソフトをまた立ち上げるのだった。




今回もありがとうございました。また次回もよろしくお願いします。

さて、お気に入り1000、6万UAということで本当に御愛顧ありがとうございます。いつも通りにモチベになるので評価感想などいただければ幸いですと言いつつ、喜ばしい思いでいっぱいです。

チヒロすき。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。