【第二部完結】各務に想う 〜いつになったら財務会計ってもんをみんな覚えてくれるんだろうか〜   作:ふぃーあ

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アテナとアイギス

 さまざまな人々を頼り、ツテを回して手に入れた材料の数々が並ぶ工房は、今工房を借り受けている主……つまり僕の他に、もう一人客を迎えていた。

 

「これで確かに納品だな。アタシが聞いてもわからんから聞かねぇと思ってたけど、こんな量のオーパーツなんに使うんだよ」

 

 小さな身体に無限の力、ミレニアム当代最強こと美甘ネルその人である。まさか当人が頼んだオーパーツの納品に直接訪れるとは思わず、大したもてなしも出来ていない現状だ。

 

「ま、予備分まで込だよ。失敗も多くするだろうしね」

「そうか? ……ま、異常な量要求されたしそうか」

 

 ネルの手配した人手がせっせとオーパーツを運びこんでくれている中、僕とネルは話を続ける。僕が要求したオーパーツの量は状態問わずとはいえ各種50を超える。完品ならなおよし、というわけだ。

 

「んで、これで貸し借り無しでいいのか?」

「あぁもちろん。さらに言えば、望外の量だし追加報酬も出そう。次回以降2回、会計の面倒を請け負う」

「助かる。腕っ節で解決できることで書類仕事がなくなるなら楽でいいな」

 

 そう言ってへへっ、と笑うネルは、運び込み終わった資材を一通り検める。

 

「よし。問題なくアタシらの持ってきたもの、ひとつの個数の違いもなく運び込み完了だ」

「あぁ。ろくに飲み物もなくてすまなかったが、どうもありがとう」

「いや気にすんなよ。そう長居するつもりもなかったんだ」

 

 ネルが荷物の端に置いておいたスカジャンをばさ、と翻して着ると、よぉし、とばかりに立ち上がる。

 

「んじゃな。何すんだか知らねーが、変なことはすんなよ」

「分かってるさ。君の世話にはならない」

 

 ならいい、とネルは工房の入口まで歩んでいき、最後に振り向く。

 

「気張れよ」

「言われるまでもない」

 

 その言葉を残してネルとネルの寄越した人手が立ち去ったあと、静かになった工房で揃ったものを見回す。

 

「さて、始めるとしようか」

 

 いよいよもって、僕の地獄が始まった。それは終わらない試行錯誤の渦への突入だ。

 

「失敗。……防御にすら、なりはしない」

 

 ノウハウはなく、アプローチの数は無限大。試しにすらならないようなものまで徹底的に検証し、「使えない」ということが分かるまで作る。

 

「……また失敗。力場が弱すぎる……力場の生成の理論が間違っているらしいな」

 

 僕が試行錯誤の中で目をつけた、名も無き神の遺産から引き抜いた技術。それは『力場』だ。理論上、『弾を完全に防御する』ことが出来るというその技術は、僕が求める盾としての最高峰に位置していた。

 

「この技術ならば、僕の望むものが作れる筈なんだ……まだ、まだいける」

 

 最先端の工具は用意した。最高の材料を整えた。ならば、足りないのは発想と腕。僕はそういう能力に乏しいが、しかしこれだけはやり遂げなくてはならない僕のタスクに他ならないわけで。

 

 幾度の試行の果て、僕は一つの案を試すことになる。

 

「……これを、転用することができればあるいは……」

 

 単一の親機と、それに格納された複数の子機による連携システム。火力機構を搭載してロールアウトされたドローン。エンジニア部の過去の発明のひとつが、オフラインのパソコンの中に図面保管されていた。

 

 この発明の主な欠陥はふたつ。ひとつはエネルギー消費の甚大さ。親機と子機の連携の時点で電力を使用する上、火力武装の放出のためにも同じく電力を利用し、その結果攻撃兵装として機能する時間は僅かに1分半。

 

 そして、二つ目は莫大な生産コストである。特殊素材の大量利用。連携のための通信機の内蔵。ありとあらゆる要素が量産を否定する。

 

 100秒にも満たない時間だけ、オールレンジ攻撃を行うことができる兵装はあまりにも、コストパフォーマンスが悪い。そんな理由で、コンペディションに敗北したそれを、僕がリワークする。

 

「火力武装を用いないようにすると、どこまで連携状態での時間は伸ばせる? やってみる他ないか」

 

 内部の武装はオミット。代わりに『力場』の発生装置を内蔵させる。『力場』の発生装置はいくつかのオーパーツを組み合わせることで制作可能なことがいくつかの試行の中で判明していた。

 

 さらに空いたスペースにはできる限りのバッテリーを組み込み、電力消費の荒っぽさを力技で解決しようと試みる。

 

 結論から言えば、成功と失敗の同居というべきか。

 

「強力な『力場』の生成には成功したが、稼働時間は3分を切る、か……」

 

 親機と子機の連携により、出力元が増えた力場は十二分に強力なものとして機能したが、稼働時間が本来の想定より短くなる形になったのだ。

 

 頭を悩ませる稼働時間の問題を一度忘れたくて、外に出る。

 

 改めて考えると、稼働時間の長短はあまり問題ではないのではないか。そう、木陰で考え直す。あのキャンプで語り合ったことを思い出せば、そう。

 

「……チヒロは守られるだけの女の子じゃあない」

 

 僕はチヒロを信じている。チヒロが強いとか弱いとかじゃなく、彼女を助けたいと思う人間が僕だけではないことを信じている。

 

 チヒロの人格を僕は信じている。チヒロの積み上げてきたものもまた、同じように信じている。ならば、僕が「守りたい」と願うことはそれを疑うことかもしれない。それでも、なお守りたいと願うのなら。

 

「逆転の一手を打つ時間だけを稼ぎ出せばいい。あるいは、逃げの一手を打てる時間を稼げばいい」

 

 チヒロになら、それができると信じる。チヒロの一手のための、僕が与える猶予。これはそうであるべきだ。

 

「彼女のための、盾。時間は長ければ長いほどいいが、そこは本質じゃない」

 

 そう、本質じゃない。一度でいい。暴力を、ただ一度跳ね除けるだけでいい。

 

「そうか。そうだな。それでいいんだ」

 

 工房に戻り、組み上げた部品を見直していく。

 

 オーパーツを改良し、親機と子機の連携をより緊密にした。稼働時間はより減少したが、僕に迷いは無い。

 

「思いを出すことに迷うな。凡才は万事を満たせないんだ」

 

 データを組み込む。AIに学習を繰り返させ、人間を最も効率よく守ることができるよう、瞬発的な展開ができるように教え込む。

 

 かくして組み上がった、ひとつの球体型ドローン。奇しくもそれはアテナ3号によく似た形をしていた。チヒロの髪色に近い紺に塗り分けられたそれに、僕は名を与える。

 

「僕なりの名前をやりたかったんだが、これに関してはいろいろとなげうってくれた後輩のこともあるしね。彼女への敬意も忘れてはならないはずだ」

 

 AIのプロトタイプと現在の成果提出により、AIを学習させる余地を与えさせてくれた最大の影の立役者、小鈎ハレ。

 

 彼女のドローンの名前はアテナ3号という。アテナとは、古い文献に名が残る女神の名であり、であるならば、彼女の成果を元に生み出されるであろう盾に充てるべき名前は、そうだな。

 

「『アイギス』」

 

 アテナの持つ、聖なる盾。文献に曰く、それは『遍く災いを打ち祓う破邪の聖盾』だそうで。降りかかる災いを祓うための盾として作ったのだ、名前負けしない程度のものになっていればいいが。

 

『アイギス』は親機とその内部に格納された5機の子機の6機からなる。キヴォトスにおいて普遍的に利用される弾丸をほぼ無効化する『力場』の展開を目的とし、こうして生まれ落ちた球型ドローン。

 

 それ以外のことはなにもできないし、燃費も『力場』展開時は超絶的な劣悪度合い。フル展開すれば一分も持たなかろうが、相手にリロードを要求させる程度の時間耐えることができれば問題は無いはずだ。

 

「……これで、いい。これが今の僕の限度だ」

 

 僕の限度がたった一分の稼働時間という形で現れていても、弾丸の実質的な1分間の完全無効はキヴォトスという銃社会において圧倒的なアドバンテージを産むことは想像に難くない。

 

 そう考えれば、一分の間弾丸に対してほぼ無敵になれるとも取れるこの武装にも、意義が見いだせるというものだ。

 

「にしても……どう渡すかなあ、これ」

 

 それはそれとして、と僕は心底困り果てた。

 

 僕はチヒロのためにこれを作った。それは言うまでもない。だが、僕は実に人に何かを贈るという経験に不足があり……まあつまり、どう渡すか困っていた。

 

「参ったなあ。これ、ちょっと籠ってる感情が微妙に重いんだ」

 

 重い自覚くらいはある。これはなにせ、親愛と信頼の証明なわけで。それ以上に、チヒロならこれでもなんとかするだろう? という結論ありきのものなわけだ。

 

 ある意味、チヒロに対する像の押しつけのようで、嫌われはしまいかと思うのだ。

 

作り上げたものを、どうするべきか僕は今も悩みつつ、でも渡さないというわけに行かないし……と懊悩する僕を、作り上げたアイギスがじっと見ているように感じた。

 




今回もありがとうございました。また次回もお願いします。

モチベのために評価感想いただけたらありがたいです。それではまた。
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