【第二部完結】各務に想う 〜いつになったら財務会計ってもんをみんな覚えてくれるんだろうか〜   作:ふぃーあ

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愛か、理屈か

赤く染まったモニターの前。僕とリオの決裂は既に避けられない状態になっていた。

 

「リオ。……二度はない。道を、譲れ!」

 

 僕は突きつけた拳銃を、リオの眉間に向けたままそう言う。

 

「それでも、と言っているわ。えぇ、認識している。あなたにとって、チヒロがどんなに大切か」

「理解はしていないんだろ? ふざけるなよ調月リオ。理解なくして認識は成り立たない。形式だけの確認に意味なんざない」

「理解する必要が無いだけよ。今この瞬間、あなたの大切な人などより、キヴォトスの未来のための私の行いの方が正しくなったに過ぎないわ」

 

 リオの言葉に、静かに呼吸を整える。ここで応戦するのは自由だが、それに意味は無い。今は一刻も早く、チヒロの元に向かう必要がある。脱出の手はあるが、打ちたくない。できるだけ、リオに見逃してもらいたい理由がある。

 

「正しさとは主観の価値観だ。君に見える正しさと僕の思正しさは少なくとも同一ではないらしい」

「そうね。そこに関しては、同意見よ」

「そして、リオともあろう大天才が『天峰チハヤが銃の引き金を引けないほど甘い男である』という読み間違いをするわけがないことも、共通見解だろ? ……隠し球がある。違うか」

 

 静まり返る空気。それは、互いに互いの手札を読み切っているが故の膠着。

 

「そういえば、C&Cには『5人目』がいるそうじゃないか。お前の手駒か? リオ」

 

 故に、僕は存在しないカードを、まるであるかのように切り捨てるフリをした。

 

「……どこでその情報を手に入れたのかしら」

 

 そして、ある意味においてどうやら『天峰チハヤを信頼している』状態にある調月リオは、見事に地雷を踏み抜いた。

 

「きっかけは少し調べていたからだが、確信に至る情報は今手に入れた。……合理的すぎてカマにかけられるのもなんとも君らしいことだが、そうなんだな。いいことを聞いたよ」

 

 面倒ね、と言わんばかりの顔をするリオだったが、僕はそこに追撃を仕掛ける。

 

「その手駒に僕を拘束させるつもりだったようだが、手駒も今の盤面では動けないらしいな。主人の怪我はさすがにさせたくないと見える、忠犬もこうなれば型なしだ」

「……そうなのかしら?」

「そうだろう。ある意味、君のことを良く想っている犬だ。どう育てたかは聞かないが、深読みする人ほどハマりそうな手だよ。『調月リオが人を使うはずがない』という先入観が邪魔をするだろうからな」

 

 銃のグリップを握る手の力をより強くして、銃口をリオへさらに近づける。

 

「さあ、選べよ。僕はここで君と相討とうが構わないんだ。だが、君はそうじゃないだろ? 僕は通過点に過ぎないはずだ」

「確かに、あなたをここで退場させることは私にとっては分岐の先の結果とはいえ、最終的な目標の中途に過ぎないわ」

 

 けれど、とリオは、銃の先端を振り払う。しまった、銃口を近づけすぎた!

 

「トキ!」

「はい、リオ様!」

「しまっ……! アイギス!!」

『アイギス、スタンバイ』

 

 飛びだす、ひとつの影。部屋の隅にあったひとつのロッカーから、少女が飛び出して走る。それに対応して、蒼のアイギスが親機から子機を放出し、障壁をスタンバイさせ……

 

 そして、その瞬間、ぽーん、という音が響く。

 

「エレベーターが動いていた……!?」

「ここに来る方法なんて知ってるのは、ひとりだけ……! トキ! 迎撃の準備をしなさい!!」

 

 開く扉の先。マズルフラッシュが迸る。

 

「天峰先輩、助けに来た! 居るならこっちに走って!!」

「……ヒマリの護衛だな!? 仲間とみなすが構わないね!」

 

 正気の沙汰とは思えない露出度の服に身を包んだ少女。明星ヒマリと常に行動を共にしているはずの、和泉元エイミがそこにいた。

 

 飛び出した影……リオには『トキ』と呼ばれていたから、トキと呼ぶことにする。トキの動きを、その手に握るショットガンで牽制するエイミ。

 

「エイミ! 僕に弾は効かない! 当てないようにする必要はない! 撃て!」

「わかった……!」

「……っ、近寄れないっ! このままでは……!」

 

 アイギスに流れ弾を防御させながら、壁沿いを走ることでアイギスの障壁と壁で自分の体を挟み込み、アイギスの守れない死角を消す。

 

「……エレベーターの操作権限の剥奪を……!」

「悪いが、それはさせない!」

 

 ずがんっ、と轟音が轟く。僕が事前に準備した、リオへの対策の中で最も暴力的な要素が発動した、その瞬間。

 

 モニターの赤や、タブレットの青、そしてアイギスの障壁。その一切が消失する。

 

「エラー。EMPグレネードかしら? 再起動すれば正常に動くだろうけれど、そんな時間はないわね」

「対策手段のうちの一つだよ。電子戦はまるっきりお断りさせてもらおうというわけでね」

「……天峰チハヤ。あなたが私の手を脱するとは思わなかったわ」

 

 エレベーターまで辿り着いた僕にそう言うリオは、なんら悔しそうなところも無さそうな、涼しげな顔でそう言った。

 

「今は、一先ず見逃さざるを得ない。けれど、私の行動の妨害をしようというのなら……その時は、私の持ちうるものを使って、あなたを粉砕することにしましょう」

「最後にひとつだけ。リオ……ヒマリも、同じようにしたな?」

 

 それは、僕からの事実確認。そして、リオもまた表情をひとつも変えることなく。

 

「えぇ。ヒマリとはやはり意見が合わなかったから」

「『あなたもまた』とか言ってたから気になってはいたんだがな。一人目はやっぱりヒマリだったか。そのうち、僕と君はまた会うことになるらしいね」

「……なぜかしら。ミレニアムを守る、という共通の理念に際して、私のことを妨害する理由はあなたにはないのよ」

 

 僕はその言葉にはっ、と鼻で笑うような声を出した。

 

「ヴェリタスは仲間意識が強くてね。頭をパクられて黙ってる質じゃないんだ」

「……理解できないわ。非合理的すぎる」

 

 そう言い放つリオに、僕は最後に閉まる扉越しにやり取りを交わす。

 

「人生が合理で動くと思うなよ、リオ」

「合理で動かない人生に価値などないわ、チハヤ」

 

 ドアが閉まる。エイミが僕を見て、改めて口を開いた。

 

「まずは、お疲れ様。助けられてよかった」

「本当にありがとう。……ヒマリの差し金で間違いないのかな」

「うん。部長が『仮に、私が単独で行動した後にいなくなったとしたら、私を探すより先にチハヤさんを監視し、護衛してください』って」

 

 ヒマリらしい、先読みの一手だ。人を信頼する人であるが故に、リオという人間がどのような手に出るか、ついでに僕が追い込まれたら何をするかまできっちりと理解しているようでなにより。

 

「ひとまず、お陰様でミレニアムタワーを倒壊させる必要が無くなった。本当に感謝している」

「……え?」

 

 本当に助かった。さすがに我が身可愛さにミレニアムタワーを倒壊させるのはちょっとという話があったので。

 

「詳しく、説明して」

「ぶっちゃけ、リオが今更連絡してくるとか、九割は罠とかだろとは思ってたんだ。だから、最初から脱出の手段とかは諸々考えてあったんだが……地下に引きずり込まれて、大半が無用の長物と化した」

 

リオと乗ったエレベーターが下に動いた時がある意味最も焦った瞬間だったのは言うまでもない。ただまあ、大半がということは残った案もあるということで。

 

「で、その中で唯一生きてたというか、形を変えて存続してたプランがミレニアムタワーを倒壊させて救助待ちになる、ってやつでね。出る手段がないんだから、リオも僕を連れ去るとかそういうことはできなくなるだろう?」

「……元々のプランは、聞かないでおくけど。バカじゃないの?」

 

 否定はしない。これのために使おうとしていた、アイギスの開発ついでに作り出した『失敗作』のうちのひとつを動かすために、ミレニアムが自治区全体で日々発電している電力の半日分を要するので。

 

 コストも、火力も、明らかにオーバーな代物なので、使いたくはなかったのだ。そもそも使うと決めた時点で早瀬辺りからとんでもないお説教が飛んでくるのは確定したようなものだし。

 

「まあ、使う必要がなかったことはいいことだろう? とりあえず……なんて呼べばいい?」

「エイミでいい。しばらくは、チハヤ先輩の護衛につくことになる。よろしく」

「すまないが、しばらくよろしく頼むよ」

 

 上昇するエレベーターの中で自己紹介を交わし、そのまま地上に脱出を果たす。その足で、チヒロの運び込まれた病院へ向かった。

 

「あ、チハヤさん……! ようやく来られましたか! 副部長はもう目を覚ましてますよ!」

「本当か!? よかったよ……!」

 

 結果から言えば、至って無事。検査的な入院であったとのことで。

 

 ベッドで安静を言い渡されたという、チヒロの元へ向かうと、ベッドから僕を見つめる彼女の姿があった。

 

「あぁ……良かった、良かったよ……」

 

 どっと、疲れが噴き出すような感覚。安心する、ということがここまでのものだとは思わなかったが。

 

「ごめん、チハヤ。心配かけたね……」

「ほんとだよ。……後輩を守ったと聞いた。君のような彼女を持てて、誇りに思う……なんてのはちょっと薄っぺらいかもしれないけど、本心からの賞賛だ」

「……アイギスがさ、私を守ってくれたんだ」

 

 チヒロは、ぽつりぽつりと語る。マキが拾ってきた不気味なロボットを『先生』に見せたこと。ゲーム開発部たちもその場にいたこと。天童アリスの様子が明らかに変わったこと、そして銃口をモモイに向けたことも。

 

「アイギスを使って、モモイを守った。それが私にできることだと思ってね。でも、次は私に標的が向いた」

 

 そして、アイギスはモモイを守ることをやめたという。命令したチヒロの言葉を無視して、あるいは自分で判断して、チヒロを守ったのだと。

 

「それでも余波だけでふっとばされて、気絶したわけだけど……とはいえ、それだけで済んだんだ」

 

 僕はふと思い返す。『壊れてでも護れ』という命令を。そして、それを受諾したアイギスのことを。

 

「なるほど。……役目を、果たしてくれたのか」

「アイギスがなかったらどうなってたか、わからない。あるいは、しばらく後悔するようなことになってたかもね」

「そうかもしれないな。……本当に、良かった」

 

 恐らく、そうなればモモイに放たれた光は重い傷となり、あるいは他の人々も傷ついたかもしれなかった。だが、そのもしもはアイギスに塞がれて、奇跡のような現実がここにある。そう理解していても、なお。

 

「けど、やっぱりまあ、君が傷ついたと聞いた時は、気が気ではなかった」

「……ごめん」

「あぁ……別に、謝って欲しいんじゃないんだ。ただ、君がここにちゃんといることを確かめさせてくれ」

 

 そう言って、僕はチヒロを抱きしめる。既に病室に集まっていた知り合いたちのそれぞれの感嘆や驚愕の声を努めて無視して、チヒロの体温を確かめる。

 

「み、みんなの前だから……!」

「ダメだ。僕をこんなに……こんなに心配させてくれやがって。……しばらくは、こうさせてくれ。夢に出そうだ」

「もう。仕方ないなぁ……あ、あんまり、そんなに見ないでほしいんだけど……っ!」

 

 周りからの視線を無視できないチヒロが悶える中、僕はチヒロを腕に抱いて、リオとのことを一旦忘れ、確かで静かな安堵に浸るのだった。

 




今回もありがとうございました。

次回のモチベのために評価感想とかをまたよろしくお願いします。ココスキモミテルヨ……

ようやくメインストーリーにちょっとずつ絡まり始めてる……チハヤが……!長すぎ……!今までなにしてた……イチャイチャしてたなあそういやなぁ……となってはいます。これからもご愛想をよろしくお願いします……。
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