【第二部完結】各務に想う 〜いつになったら財務会計ってもんをみんな覚えてくれるんだろうか〜   作:ふぃーあ

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依頼、そして、信頼

 二人で寄り添って病室から夕日を眺めていると、扉の方が何やら騒がしくなってきた。

 

 少しだけ距離を離そうとして、チヒロの方を見る。

 

「ダメだよ」

 

 その言葉に、距離を取ることを諦めた僕は静かに息をついて、チヒロの手を握った。

 

「これでいいか?」

「うん。今はこれでいいよ」

 

 チヒロもまた、その手を握り返して、病室の扉を見る。

 

「入りなよみんな、うるさいからさすがに!」

 

 そうチヒロが一声を放って、病室前で話していた人々を入室させる。先生、ゲーム開発部。総じて、先にチヒロから『僕を探しに行った』と言っていた人々。

 

「先のことは誰に対しても不誠実だったと思っている。そして、わざわざ探しに行った人達もいると聞いた……迷惑をかけてすまない。こんなことをしている余裕はなかったはずなのに」

 

 入ってきた面々に深々と頭を下げると、先生はそれを静止した。

 

「……うん。チハヤも落ち着けたみたいだね」

「いろいろと、話をしまして」

「そっか。……それなら、私から言うべきことはひとつだけ」

 

 先生がそう言って、僕とチヒロを見る。優しい眼差しで、眩しいものを見るように目を細めながら。

 

「どうか後悔のないようにね。二人にとって、って意味で」

「えぇ。分かっています」

 

 そう話していると、チヒロは僅かに手の力を強めてきた。握り返す力を僕も少しだけ強くする。

 

「私は、チハヤとはまだあまり関わる機会が少なかったけど……シャーレでチヒロにはお世話になってるからね。これから機会があればよろしく頼むことになると思うんだ。その時はお願いするね、チハヤ」

「如何様にも、お使いになってください。チヒロや、後輩が世話になっていることはこちらも伺っておりますので」

 

『後輩』という言葉で、先生はこちらを改めて見る。疑問に思ったことを放置せずに、先生は言葉を紡ぐ。

 

「……情報処理部の子はうちに来てたかな?」

「あぁ……そういえば、先生とお話してた時はそちらの立場でしか話したことがないんでしたか。チヒロも、話してなかったんだね?」

 

 チヒロもその言葉を聞いて理解したのか、あぁ……と呟く。

 

「道理で話が噛み合わないと思った。……ちゃんと話しとかなきゃダメだったか」

「……どういうこと?」

「あぁ、まあ……情報処理部部長、というのは僕の一側面であって全てじゃないってことですよ」

 

 僕は改めて、先生へ名乗りをあげることにした。思えば、その肩書きを僕が自分で名乗ることも随分と久しぶりだ。

 

「『ヴェリタス』のアナログ式依頼窓口、天峰チハヤと言います。情報処理部部長はそのための座であり、表にあたる部分ですね。改めて、どうぞよろしくお願いします」

 

 その言葉に、先生は驚いた様子であったが、すぐに持ち直す。

 

「それでマキやハレが君の話をしていたんだね。個人的な交友があったのかと思っていたんだけど、ヴェリタスに所属していたんだ」

「そうですね。とはいえ、学内では半ば公然の秘密のようなものです。だからこそ、ここまでそこを先生に話さずにやってきてしまったわけですが」

 

 なら、と先生は何かを考えながら口を開いた。

 

「ヴェリタスへの依頼は君を通して、ってことなのかな」

「そういうわけでもないですが、僕を通していただけると色々やり取りは楽かと」

「そういうことなら、ひとつ。早速依頼があるんだ」

 

 先生はそう言うと、ゲーム開発部の方を見る。桃髪の少女が、小さく震えていた。

 

「ここにいるべき生徒がひとり居ないんだ。……私は、何も出来なかった」

「アリスが『魔王』なんて、そんなことはありえない! だから、本人に会って、話さないと。私たちは、まだ誰も納得してないんだから!」

 

 その震えは、怯えではなく奮起。桃髪の言葉に続き、緑髪が口を開く。

 

「アリスちゃんは、私たちの仲間だから。アリスちゃんがそう思ってたとしても、私たちの声が届けば……そうじゃなくなると信じています」

 

 その言葉が、ゲーム開発部に残された意思であり、強い渇望であると理解させられる。

 

 言葉が飾られることなく、真実を告げる時、僕のようなある種の『嘘つき』の言葉にはないような、強い説得力が出ることがあることを、僕は先程からエイミにもチヒロにも教えられていた。

 

 なんら理屈のない、ただの感情論でも、そこに理由があるならやる価値があると心から信じているゲーム開発部の皆。

 

「……ヴェリタスの皆さんの力を借りたいんです。大切な、『友人』のために」

 

 そう、精一杯に伝えてくる赤髪の少女の言葉に、僕は一度理屈らしいものを捨てた。手を握ったままの、チヒロの目を見つめる。

 

「チヒロ。……どう思う?」

「私と、チハヤ。同じこと思ってるよ、きっと」

 

 そういうチヒロは口角を僅かにあげて微笑んだ。

 

「いい熱を持ってると思わない?」

「そうだな。違いない……気に入った」

 

 僕は、チヒロとの話し合いを終えゲーム開発部の方へ向き直る。

 

「……その依頼、正式にヴェリタスが受諾する。といっても、僕とチヒロが改めて加わるだけだし、それじゃ物足りない。リオとやり合うには、まるで人が足りない」

 

 そういうと、ゲーム開発部の皆に差した希望の色が僅かに薄れる。それでもなお、言葉を続ける。次は先生に向けて。

 

「先生。リオは正真正銘、ミレニアムという学園の最高に位置する頭脳の片割れです。もう片割れとも言える全知の天才は今やリオの手に落ち、リオを止められる人間の方が少なくなってしまった」

「……その代わりになる方法はあるの?」

「あります。頭数を揃えることです。いつなんどきだろうと、ジャイアントキリングのやり方は囲んで棒で叩くと相場は決まっています」

 

 場のみんなの顔を見回していく。

 

「ゲーム開発部、ヴェリタス。なるほど、確かにこの場の頭数だけではできないことが沢山あります。ですが、ここはミレニアム」

 

 いくつもの部があり、方向性こそ異なれど天才だらけのこの学園だ。セミナーもリオの所業を知れば白黒コンビあたりはこちらに流れるかもしれないが、まあそれはそれ。

 

「できないことは放り投げ、できることをする。それでも十二分に全員が役目を果たしている状態になるまでは、頭数を揃えます」

 

 そう語りながら、僕は先生とゲーム開発部の皆を正面から見る。

 

「つまるところ、ありとあらゆるツテを使って優れた人を集めることが、最上かつ最高の策になります。先生、才能のある人を集めましょう。根回しのような活動……お嫌いではないですか?」

「いいや。早速やろうか、チハヤ。私にできることなら、なんだってするだけさ」

 

 そういうと先生は、知る限りの生徒たちへ連絡を回していく。正しく、ミレニアムを背負う天才たちに、先生の声がかかる。

 

 それと並ぶ僕は、勢力整理を引き受けて、その量に慄いた。

 

「……みんな、協力してくれるって!」

「人たらしかなにかですか? ……どうしたらこれだけの勢力を一堂に集められると!?」

 

 C&C。エンジニア部。セミナーの白黒コンビ……ノアとユウカ。

 

 もちろんそれは、先生が声をかけ、そしてそれに答えた協力者たちに他ならない。

 

「しかし、集まったものは仕方ないですから、セミナーの防諜室を借りましょう。作戦会議はそこで」

「うん、わかった。ユウカにそう伝えればいいかな?」

「グループトーク作ってこちらでやっておきます。作戦会議の時刻は……今から、可能な限り早めで調整します」

 

 グループトークにウタハ、ネル、ノア、ユウカと次から次へと協力してくれることを約してくれたみんなを叩き込む。

 

 何ら要領を得ないだろう、『今からすぐにセミナーの第二会議室まで来れるか』という問い。

 

 それに対して、否定の言葉はなにひとつなく、肯定の言葉が並ぶグループトークを確認する。

 

『であれば、今すぐに集まろうか。代表だけでいい。むしろ、その方が楽だから』

『すぐ向かう。待ってろ』

『少し片付けをしてから向かう。放置できないものだけは作業させてくれ。20分はかからない』

『部屋を解放して準備しておきます!』

 

 それぞれの書き込みに軽くサッと目を通してから、僕は先生へ声をかける。

 

「アポが取れました。皆遅くとも20分ほどすれば集まれると。先生はセミナーへ向かってください」

 

 その言葉に先生は不思議そうにこちらを見る。

 

「……あれ、チハヤは?」

「申し訳ないんですが、現状ここから離れることもあまり良手とは言いにくくて。僕が移動の間をリオに狙われる可能性があるんです」

 

 リオがそういう不意打ちを二度も狙うタイプだとは思わないが、先にあった邂逅でリオは『人を調月リオは信頼しない』という前提を破壊してあのトキとかいうメイドを重用していた。

 

 前提を立てて考えるのは今のリオには極めて危険と言わざるを得ないのだ。

 

「さすがにミレニアム最大の病院であるここを攻撃するようなことはリオとてやりたくはないはずですから、僕はここをある種の盾としておくのが現状一番なんです」

 

 そういうわけで、僕が手伝えるのは基本方針の提示だけだ。会議の実際には出席できないし、モモトークでの情報共有はリオがデータを監視しているという噂が黒ならアウトになりかねないから。

 

「またまとまったらペンかなにかでアナログに書き付けたものを貰ってもいいですか? その方が万一の可能性のケアになる」

「わかったよ。持ってくるね」

「お願いします」

 

 そういうと、白い上着を羽織る先生は、僕とチヒロを見て。

 

「ありがとう。私たちの依頼を受けてくれて」

 

 そう言う先生に、チヒロが優しく笑う。

 

「あれだけ真剣に頼まれたら、ね。仕方ないなあ、って思っちゃった」

 

 無言の同意として、頷くと、先生はそれでも、重ねて礼をしてから部屋を出ていった。

 

「ありがとう、先輩!」

「ありがとうございます、お二人とも」

「あ、ありがとうございます……!」

 

 ゲーム開発部のみんなもまた、その背に付き従って病室を立ち去り、またも病室には僕とチヒロだけになる。僕は思ったままに呟いた。

 

「素直だな。あの子達は」

「あなたと違って?」

 

 チヒロがそう悪戯げに聞くのを受け止めて、ふふ、と静かに僕は笑う。

 

「そうだね。僕と違って、ずっと素直だ。そして、誠実だよ。真っ直ぐで、ひたむきな姿は応援したくなる。今の僕はそうじゃなくなったけどさ」

「そんなことないと思うけどね。チハヤはずっと、ある意味真っ直ぐである意味誠実だよ。少し空回るだけ」

「そっちの方がきついだろ。フォローになってるか?」

 

 あはは、とチヒロが声を上げて笑った。沈みかけの夕日が僕らを最後に照らして沈んでいくのを、僕らは尻目に話を続ける。

 

「フォローにはなってないか。でもまあ、チハヤはまず自分を下げるとこなんとかしないとね。チハヤが思ってるより、チハヤを評価してる人もいっぱいいるし」

「傲慢すぎず、謙虚すぎず。あるように自分を受け入れる、ってちょっと難しいな」

「そう? まあ、ゆっくり解決すればいいよ」

 

 そういうチヒロは、夕闇に沈む病室に光をつけるために枕元のスイッチを押し込もうとして、手を止めた。

 

「だからそうだね、今日はもう暫く一緒にいてもいい?」

 

 そう、チヒロが問いかける。僕の答えはひとつ。

 

「大義名分もあるんだ。この後もふたりで過ごそうか」

 

 暗い病室で、静かに寄り添って、僕とチヒロは、言葉のいらない時間を過ごす。

 

 今日失われるかもしれなかった、その時間を過ごせる幸せを、僕はただ噛み締めていた。




日間ランキング16位(2次オンリー12位)ということで、多数の方にご覧いただけたのもあり、なんと8万UAと相成りました。8万て。10万近いって。何事ですか?

もう全然わかんないです。みなさんチヒロのことが大好きなようで……。

是非とも今後ともよろしくお願いします。

モチベーションになるので感想や評価をどうぞお願いします。
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