【第二部完結】各務に想う 〜いつになったら財務会計ってもんをみんな覚えてくれるんだろうか〜   作:ふぃーあ

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煩悩に懊悩

 夕から夜にかけてふたりで過ごした病室は、今は「流石に暗いと危ない」ということで電気が灯されていた。

 

「それで、こちらが決まったこと。お二人ともご確認を、という話になりまして、仮にまとめた草案ですけど」

 

 コタマがわざわざ持ってきてくれた紙に目を通すと、入念なプランニングをされたのであろう作戦案が飛び込んでくる。

 

 僕はそれを隅から隅まで読み込んで、付け加えられる部分を探しつつ、僕の役目を理解することに努める必要があった。

 

「といっても、私たちの役目は簡単だね。後方支援だし」

「それなんだけども……僕から、ひとつ提案があるんだよね。エイミ、君も入ってきてくれ」

 

 病室の扉に呼びかけると、エイミが姿を見せる。今の今まで警備にいたって真剣に取り組んでいたらしいエイミだが、部屋の中に入ると今度は壁に背を預けた。

 

「警備中の私を呼んで、提案か。なんのつもり?」

「んーまあ、そうだな。今のところ、エイミの対リオ戦績って一勝一敗、あるいは一勝一不戦敗なわけじゃないか」

 

 エイミが僕の言葉を受けて、軽く考え込む。

 

「まあ、そうかもね。会長の企みに気づけなくて先手を取られて部長がいなくなり、部長のおかげで気付けた二度目はチハヤ先輩を拾えたと考えれば一勝一敗?」

「その通り。それで……なんというか、そうだな。こういうことにしよう。リベンジマッチを組む。やってくれないか」

「……リベンジ、マッチ?」

 

 エイミがその言葉に首を微かに傾げた。だが、エイミはすぐに気付いたようで。

 

「……いいの?」

「もちろん。というか、僕からも願いたいことだ」

「……あぁ、なるほどね。リベンジマッチか。言い得て妙だね、チハヤ」

 

 遅れてチヒロも気がついたように呟く。悪戯げな笑みで、チヒロは言葉を続けた。

 

「エイミにヒマリを奪還させる、ってことね」

「その通りだよ、チヒロ。そして、これは僕とチヒロとエイミという、作戦案通りに進めると、特筆した役回りのない後方支援と前方部隊の一戦力でしかないという、別行動もできるという前提の策だ」

「で、内容は?」

 

 エイミがそう聞いてきて、僕はにんまりと笑う。

 

「エイミには、初手の突入以降潜伏してもらう。潜伏と隠密を心がけた上でエリドゥのリオがいる場所に向かうんだ。前線部隊を体のいいデコイのように扱うことになるのは申し訳ないが、まあ許してもらうことにしよう」

 

 前線を担うのは主にC&C、そして現地に赴いて直接言葉を聞くという意義を果たしたいゲーム開発部の面々に加えて、何人かの選抜をすると聞いている。

 

 美甘ネルという怪物がいるんだ、ある程度の無茶は許容。加えて一之瀬アスナという予測不能の直感持ちがいるのだから、死神だって道を譲るのが道理というものだろうし。

 

「チヒロは、エイミのサポートを頼む。現場のエイミと後方のチヒロで連携をしてエリドゥの探索に当たる方が丸い」

「心強いサポートだけど、そうなるとチハヤ先輩は」

「ま、第二の囮になろうと思ってね」

 

 僕という存在を、調月リオは見逃さないだろうという確信がある。その確信を前提に考えれば、天峰チハヤがそこにある限りにおいて、調月リオの思考から何かを消すことができる可能性がある。

 

 そこに僕は賭けてみることにしたのだ。

 

「リオと一勝負しようと思う。正真正銘、サイバー攻撃による大勝負だ」

「……勝算は?」

「君らがやるべきことをやるための時間稼ぎが勝利条件だとしたらだいぶある」

 

 なるほど、とエイミが小さく呟く。その上で、僕に向き直った。

 

「会長に勝つつもりはないの?」

「あるさ。全力でやる。その上で、負ける確率の方がずっとずっと高いだけで」

「どのくらい稼げそう?」

 

 エイミは僕にあえて、どれだけ持つかを聞いた。だから、僕はそれにこう答える。

 

「気合い入れて持たせるが、長くは持たない。なるべく早めにヒマリを回収してくれ」

 

 そう言うと、エイミが頷く。チヒロもまた、口を開く。

 

「まーたひとりでなにかしようとしてる……ま、今回は事前相談あるからいいけどね。そういうことなら、こっちはさっさとヒマリを回収することだけ考えとく」

「それでいい。頼む」

「うん。そっちも任せた」

 

 チヒロからの親愛と信頼を感じて若干口角を緩めながら、僕は考えの続きを話す。

 

「任された。それと……ひとつ、借りてきたいものがあってね。そっちには作戦が始まる前までに連絡をつけたい」

「……借りてきたいもの?」

「あぁ。なに、大したことないUSBとツールデータだよ」

 

 その言葉に、ふたりが沈黙し……チヒロだけが、知っていた答えに辿り着く。

 

「……『鏡』か」

「ご明察。今はセミナーの保管庫にあるそうだが、一時的な借り受けでもいいから使わせてもらいたいところだね」

「何に使うの、と聞くところだけど……まあ、リオ相手への外付けか」

 

 チヒロが完全に用途まで回答してしまったせいで、僕の言うことが無くなったがそういうことだ。

 

 リオ相手に、単に挑むだけでは勝てない。サイバーの世界は知的遊戯であり盤上遊戯に近い。以前、チヒロと僕が組んだ折カイザーが何も出来なかったように、僕がただ挑んでも無様な敗走を喫するだけだ。

 

 それじゃあ時間稼ぎにもならないのは明白なので、下駄を履かなければならないのだが、そこで『鏡』だ。

 

「リオの多重防壁系のセキュリティの突破は難しいだろうが、『鏡』を使ってセキュリティをすり抜ける形で突破すればある程度のラインまで拮抗できるはずだ。もちろん、リオとて無抵抗で『鏡』にやられっぱなしってわけじゃないんだろうがな」

 

『鏡』はどう控えめに言っても最強のツールだ。セキュリティという概念を「セキュリティ以外の全てをコピーする」という荒業でブチ抜く手法のためのツールとして設計された『鏡』は、その仕様上『不正な侵入』であるという痕跡すら残さない。

 

 それでも、調月リオならばそれに対策を打たないことはありえない。

 

「信じられないとは思うが、調月リオの思考は本質的に弱者の、被捕食者のそれなんだよな」

「……なんだか、少しわかるかも。会長は常に、より悪い未来を想定して対策するから」

 

 だからこそ、調月リオには隙があるようで、隙がない。

 

 調月リオを超越するために必要なものは頭数ではなく、変数だ。

 

 僕にそれは備わっていない。奇跡は起きない。当然の行動を起こし、当然の備えをしたリオと対峙することになる。

 

「……鍵は君たちだよ、チヒロ、エイミ。君らがヒマリを連れ帰ることそのものが、リオにとっては最悪の変数になる。いくらリオでも、ヒマリを相手にしておいて僕に構う余裕はない」

 

 だから、そうだ。僕が二人にかけるべき言葉はひとつ。

 

「ヒマリの解放は、僕らにとっての完全な勝利に違いない。成功を祈るよ」

 

 その言葉に、エイミが微かに口角を上げ、チヒロが表情に自信を覗かせる。

 

「機会をありがとう、チハヤ先輩。任せて」

「成功なんて祈られるまでもないよ、チハヤ。信じて」

 

 その言葉に頷くと、僕は電話をかける。その先は当然。

 

「あぁ、もしもし?」

『ち、チハヤ先輩! どうしたんですか!?』

「早瀬、元気そうでなによりだ。さて、ちょっとだけ野暮用があってね。この後顔を合わせたいんだが時間はあるかな」

 

 チヒロが小さく、『なーんか、勘違いさせそうな……』と呟く声が耳に届く。

 

『えっ!?』

「あぁいや、頼み事があって。今までのツケで解決して貰えそうなら是非ともということなんだ」

 

 咄嗟にリカバリーに走る。変な勘違いをもうさせるわけにも行かないのだ僕は。

 

『あ、あぁ……な、なるほどです。わかりました! 今はどちらに?』

 

 ユウカに同じことを問い返すと、今はまだセミナーにいるとのことだった。

 

「そうだ。今日は遅いし、明日にしようか」

『そうですか……明日は事務作業してると思うので、来ていただけたら対応できます!』

「そうか。ならそれで頼むよ、よろしく早瀬」

 

 それきりで電話を切ってスマホを置くと、チヒロからの静かな目線が突き刺さった。

 

「……なあ。チヒロ。ことコミュニケーションにおいては、言い方の問題って難しいと思わないか?」

「問答無用っ!」

「うぉあーっ!!?」

 

 力強く手を引かれ、ベッドに乗り上げる。そして、チヒロもまた引いた反動でベッドに倒れ込む。

 

「もう、そういうのもちゃんと考えて。わ……私がいるんだからさ、ね?」

「……善処する」

「むっ……」

「そこは『ごめん』でいいのに……」

 

 目の前にある、拗ねた可愛らしいチヒロの膨れっ面をつついて潰す。呆れたようなエイミの声が、妙に耳に残っていた。

 

 

 




日時が進まねぇッ

今回もありがとうございます。それと、アンケート回答ありがとうございました。朝投稿して、余裕あったらか筆がのったら夕に追加するのがよさげに見えるので、これからもこれを継続していこうかなと。

是非これからもよろしくお願いします。

それと、いつもお願いして申し訳ないんですが、感想と評価。ここすきもですね。こちらモチベーションに直結しておりますので、何卒よろしくお願いします。
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