【第二部完結】各務に想う 〜いつになったら財務会計ってもんをみんな覚えてくれるんだろうか〜 作:ふぃーあ
翌朝十時頃。開戦の狼煙はまだ上がらず、互いに手を巡らせるばかりの状況において。
暗い、機械的な通路を走る人々の姿を、データベース上で捉えながら、周辺の探査を続けていると、連絡が光った。
『……よし、行ける。チハヤァ! 今どこら辺だ!』
「こちら天峰。残り二分前後でエリドゥにダイレクトインできる入口に出るだろう」
『了解。……んじゃ、チハヤ。ブリーフィングを再確認する』
今、僕の姿はヴェリタスの部室にある。昨晩、チヒロと過ごした時間は実に忘れられない時間になったが、それで眠りを妨げる訳には行かない。
規定の時間に眠り、規定通りに起きて、ヴェリタスのヒマリを除くフルメンバーで、エリドゥ突入作戦開始をサポートする手筈になっていたからだ。
「本作戦において、別働の人員が突入している。それのサポート要員もこちらから捻出した。君らには僕が主についてサポートをする」
『おう。そこまでは聞いてる。で、あたしらはこのまま中央に向かうわけだな?』
「そうだ。そこに変更はない」
ぶぅん、と目の前のモニターにエリドゥのソナー探査を行った地形図が表示される。
「地形データを受け取った。そのまま上に出て、中央塔を目指せ。リオはそこにいるはずだ」
『了解。注意点はあんのか?』
「特記戦力がエリドゥには存在するはずだ。ひとつは、C&Cの5人目こと飛鳥馬トキだろう。リオの性格から考えると、機械強化兵的な強化を施されていても違和感がない。警戒しろ」
その言葉に連絡先のネルがハッ、と笑う。
『そっちは問題ねぇ。あたしはまだ後輩に負けるようなヤキの回る歳でもねぇからな。他に何かありそうなのか聞いてんだよ』
「リオのことだ。人だけに防衛の最終ラインを任せるとは考えにくい。リオの考えた理論上最高のロボット、みたいなものが出てくる可能性には留意して欲しいところだよ」
『了解だ』
ただ、と僕はそこに前置きを挟んだ。
『んだよ。なんかあんのか?』
「もし、僕の想像通りのシステムで駆動するものなら……僕が何とか出来るかもしれない」
『……へぇ? じゃ、楽しみにさせてもらうか』
リオがあの『ハブ』の暴走を見ていないわけがない。高度に開発されたAIが裏目に出たことを目の当たりにしたリオがやりそうなことにひとつ心当たりが僕にはあり、それがもしなされていれば、僕の持つ手段で容易に解決できるものに成り下がるはずだった。
「地上に上がるまで残りわずか。……そっちはどうだ、チヒロ」
「問題無し。エイミ、どう?」
『なにも問題ない。別ルートの進行は現状容易』
チヒロとエイミのペアも順調な様子で、僕は一息つく。ここから先は当分息もつけないだろうし。
「マキ、コタマ、ハレ。ゲーム開発部及びエンジニア部の方は?」
「問題なーし!」
「ならよし。引き続き、3人で支援を頼む」
物流輸送用の無人列車を利用し、さらに物流用通路を用いた侵入を試みるゲーム開発部、及びエンジニア部には、同輩ら3人。
物流輸送用の無人列車を利用したところから別れ、推定リオの発明品のロボットが通るのだろう細やかな通路をすり抜けるルートを選んだC&Cは、僕が担当。
二面進行を選択したのは、リオに対してC&Cが本命だと思わせるためだ。あくまで、表は二部隊とも気付かれても良いのだが、片方だけ隠したいように見せるのが大事だった。
『そろそろ地上出るぞ……エンカウント、今』
「敵性はなし」
『……ならいいな。これから中央へ向かう』
それと同時に、ゲーム開発部の方も地上へ向かう扉を開いたようで、表層に反応が出現した。それだけではなく、いくつもの赤点……敵性反応も。
「敵性反応が中央に近づくことで出現した。AMASだな。撃破しろ」
『誰に命令してんだっての……!』
一瞬でスクラップになったAMASに心の中で合掌しつつ、走るC&Cに指示を出しながら誘導していくと、広場に出る。広場には、ひとつ限りの赤い点。このエリドゥで2人だけのはずな、人の反応を持つ赤点。その片方が、そこにあった。
『よう、後輩』
『ネル先輩、おはようございます。お早いご到着ですね』
『要件は分かってんだろ? 道を開けろ』
銃を構えて、ネルが吼えるのを、その赤点……飛鳥馬トキは静かに拒絶した。
『ご命令を受けています。ここから先は通す訳には行かないと』
『なら……教育が必要か、新人』
『……ご存分に。ですが、私も抵抗はさせていただきます』
トキの周りに赤点が増える。AMASが支援として現れたのだ。
「ネル。それは時間稼ぎに他ならないのはわかっているだろうが、悪いが受けてやってくれ。これはリオと僕との事実上合意みたいなもんだ」
『あ? どういう意味……そういやちょい前言ってたな。都合がいいからそうするだろうとかなんとか』
「ここで君とトキを当てておくのがお互いにとって最も望ましい展開だって言ったよ。ほんとにこうなると、意外と合意の上であれそれの流れが多そうだ」
ミレニアムの最高戦力たる美甘ネルと、リオの保有する最高戦力であろう飛鳥馬トキでは絶対的な差がある。しかし、それでも戦闘というのは足止めが成立しうるものだ。
故にこそ、リオは最低限のリソースでネルを止めたいと考え、最低限のリソースを投じたのだ。飛鳥馬トキという最高戦力を投じることが、最も損失が少ない最低限のリソース投資、ということに僕はネルのスペックへの呆れを感じるのだが。
『よし。んじゃ、まあ。歯、食いしばれよ後輩。教育的指導の時間だ』
C&Cに対するはAMASとトキ。そう悪くないカードのはずだが、なぜだろうな。
「ネル。一分の負けもなく叩き潰し、完勝しろよ」
『二度目だ。誰に口利いてんだっての、髪よりも腹が黒いメガネ野郎』
腹黒メガネ呼ばわりとは随分と強気なご様子で。まあ、これほどまでに威勢がいいのなら負ける道理はないだろう、そう考えた次の瞬間。
「先輩!」
「確認できた! 巨大な反応……やっぱりあったか、そしてそっちに行くか!」
巨大な赤点。それはエネルギー反応の膨大さを示し、そして単純な巨体であることも示す。つまりそれは、リオの生み出した傑作機の証左。
それが飛行ドローンから切り離され、要塞都市の近未来的な大通り、その中央へ轟音を奏でながら着陸する。
『……だっっっっっさ!!!!!』
そう叫ぶ、恐らくは才羽姉妹のいずれかの声に迎えられたそれは、高らかに四腕に装備した武装を掲げているようだ。
『顔だっさ! ……なんでそこにミレニアムのロゴ!?』
『なんでこんな見た目に……』
次から次へ投げかけられるゲーム開発部のメンツによる酷評。なぜか、この酷評のされようにわずかに覚えがある気がする。もしかして……
「アバンギャルド君……なのか……?」
「知ってるの先輩!?」
「いやまあ、リオが『こんなの作れたらいいよね』って同じチームだった頃に言ってたのを僕とヒマリで笑って小馬鹿にしてた曰くつきなんだけど……完成してたのか」
コンセプトは悪くないんだけどデザインは終わってる、そう一年半ほど前の僕とヒマリが評価したはずの怪物がそこにいるらしい。
『……なんかやけに強いんだけど!?』
凄まじい銃声が通信越しに聞こえる。爆発音に、ガトリングの着弾音。あのバケモノめ、本当に当時と何も変わってやしないのか!
「そりゃそう。あの時から設計思想が変わってなけりゃフルパワーで火力ぶん回すだけのお化けだ。なんなら機動力もキャタピラで確保してるし、遠い場所には飛行用随伴ドローンでの空輸も可能な万能機だからな、アバンギャルド君。ほんとに見た目が終わってることだけが弱点なんだ」
ガトリング、バズーカ、アサルトライフル。三種の武装をフル回転させながら、シールドと本体の重装甲で無尽蔵の弾幕を怯まず解き放つ絵面が容易に想像がついて嫌な気持ちになる。
『言ってる場合かなぁ!? チハヤ、ちょっとこれまずいけど!?』
先生からの焦った声に、僕も少し気持ちを切り替える。先生へ願うことは1つ。
「そいつは火力お化けなので、常に動き続けるか建物で射線を切ってください。稼働方式を見抜き次第、対応法も定まります。それまでは、耐久戦をお願いします」
『……わかった! まともにやり合わない方針ね!』
「それでお願いします。こっちの解析が終わるまでは」
アバンギャルド君がどのようにして動き、何を軸に演算を進めているかを解読していけばいいと考えると、比較的話は楽だ。
「悪いな、リオ。君が頑張って作ったのは伝わるんだが」
リオの発明品の特徴のひとつに、シンプルなプログラムのみを搭載して自我を持たせないことが上がってきたのはつい最近のことだ。
恐らく、僕やヒマリよりも先にデカグラマトンという存在について知ったリオは、リスク管理の側面のために過剰に賢いAIを積まないようにすることで、「感化」を防止しようとする対策を打つことができたのだろう。
この要塞都市が、巨大な演算装置としての役割も果たしており、演算を行う必要のある機体は全てこの要塞都市のメインネットワークを介して演算補助を受け活動している可能性は、最初から僕の中にあった可能性のひとつだった。
そして、もしそうならば、これが効く。とはいえ……ここで使うのは、些か早いような気もするのだが。
「でもまあ、これを使わなきゃそもそも全滅しちゃって話にならなさそうなんだよな……」
『鏡』。その猛威は、これから始まるのだとばかりに、アプリケーションが立ち上がり、鏡のロゴが表示される。
「仕方ない。アバンギャルド君とやら、全部丸裸にしてやろう。リオとの繋がり……ぶった切ってあげるよ」
獰猛に、僕は笑みを浮かべ……
『オラァ! 後輩、どうしたァ!? そんなもんかよォ!!』
僕よりもっとオラついている、恐らくツインマシンガンをぶん回して出る、ババババ、という銃声に負けず劣らずの声量で叫ぶネルに、笑みを苦笑に変えるのだった。
エリドゥなんですけど、シリアスは本題じゃないのでテンポよく行きますわ〜!(建前)
元々あんまこのキャラ戦うとかそういうの考えてねぇですわ〜!(本音)
さて、今回もありがとうございました。また次回もよろしくお願いします。
モチベのために感想評価等よろしくお願いします。