【第二部完結】各務に想う 〜いつになったら財務会計ってもんをみんな覚えてくれるんだろうか〜 作:ふぃーあ
三つの特異点が、電脳空間に存在を主張する。
リオの作り出した防壁を、ヒマリと『鏡』が読み解いて進み、読み解くことすら許されぬ壁にはチヒロと『剣』が打ち砕く。
『……なら、これはどう?』
「無駄だ。僕だけならともかく、ヒマリが防衛用に作ったツールなんてものなわけで、単なる数押しでは通らない」
リオが放ち続ける怒涛の攻撃は、僕が『勾玉』と共に受け止め流す。『勾玉』の性質は、無尽蔵な防壁の展開だった。
『……多種多様な防壁を一瞬で作り上げて、有効な防壁を判別する。言葉で言うのは簡単だけれど、離れ業ね』
「お褒めの言葉痛み入るよ……脳が割れそうなんだがな!」
作る。投げ込む。防ぐ。繰り返す。どれが最も良く防ぐ?
そんなサイクルを繰り返してリオの攻撃を受け流す僕は、多種多様な防壁の形式を生み出すことも、それの有効性の評価もすべて行わなければならない。
当然、負担はとてつもなく、けれどヒマリがこれを僕に任せたということは僕にもできるということ。そして、これを僕が果たし続ける限り、ヒマリとチヒロに向かう負担はそう多くないということの、ふたつの事実が、僕にこの負担を受け入れさせていた。
『……硬いし、鋭い。攻守に役割を分担するのは賢いけれど、連携が難しいでしょうに』
『ですから私がそこら辺を請け負うというわけなのですよ、リオ。超絶美少女天才ハッカーは潤滑油の役回りも十全にこなせるのです』
『……あなたが潤滑油になることがあるというのかしら?』
その言葉を受けて次にヒマリが吐き出す言葉は当然リオへのヘイトであるため、努めてそれを無視。
「チヒロ、そっちは」
「もちろん、順調」
『いい調子です。その勢いで食い破りましょうか』
チヒロが切り開いた防壁の先、リオの支配領域を、ヒマリがわずかな時間で己の領域へと塗り替える。ヒマリの絶対性は遺憾無く発揮されている。
『サムス・イルナを使ってこれとは情けないわね。とはいえ……拮抗できている事実そのものを喜ぶべきかしら』
サムス・イルナ。それが何を意味するのか僕らには分からないが、恐らくリオ自身に装備される追加のバフパーツかなにかなのだろう。
『アバンギャルド君は落ち、トキは一時撤退。いたって戦況はよろしくない……そうね、チハヤ。あなたならどうする』
戦況はこちら有利。ゲーム開発部とエンジニア部はアバンギャルド君を撃破し、C&Cはトキを撤退させて、中央タワーに迫っている。その中で、僕らとリオは対峙していたわけだ。
「……敵に話すかよそんなこと!?」
『私が最適解に気付いてないわけないでしょう?』
それはそう。これはリオにまだ余裕があるということの表れみたいなものだ。全くたまらないくらい傲慢だ。
『盤面を全て、一手でひっくり返すためには。昔、アバンギャルド君の設計図を見てあなたが言ったことよ』
「そうだな。確か……なによりも、単騎で強い怪物を作ればいい」
『そうね。正解よ、チハヤ。だから……』
巨大な赤点。撤退したと聞いていた、エリドゥにたった二人の敵性の人間反応に、更なる脅威が上乗せされる。
『これが私の答えよ、チハヤ……アビ・エシュフと、サムス・イルナ、並列起動。システムリンク』
「後輩たち! キツかったら言え、リオの肝いりが来た! だが……何とかしてくれると、助かる!」
僕の声に、三者三様の理解と了解の声が飛ぶ。
両腕にガトリング。肩部にキャノン砲。パワードスーツ『アビ・エシュフ』を装備した、正しく最後の切り札が戦場に降り立つ。
『先輩方。これであなた方全員と互角、いえ、私の方が上です。それを、証明します』
『ナマ言うじゃねぇか。えぇ? ……やって見せろよ』
僕は推測だけで察されることを先に伝えることにした。その方が時間の無駄ではないから。
「肩部キャノン砲は実弾ではない可能性が高いこと、エリドゥとダイレクトリンクされていることからリンク切る前のアバンギャルド君と同様の状態にあることに留意してくれ!」
『リンクは切れねぇのか?』
「ヒマリ! 『鏡』回して!」
言われるまでもなく、ヒマリはアビ・エシュフに対して『鏡』を行使していた。そして、その回答としてヒマリが述べたのは、否定。
『無理ですね、これは。アビ・エシュフをダイレクトにどうこうするのはこちらからは不可能です。中央タワーと同様の多層防壁でガードされており、破壊しても再度生成されました。セキュリティクラスクリアランスレベル最大、スパコン要求です』
「だそうだ!」
『そうか。ま、なんとかする。そっちも気張れよ!』
ネルがそう頼もしげに言い放ち、僕もまた「幸運を祈る」とだけ返して、互いの敵に向かい合う。
僕は盤面を俯瞰して、手を動かしながら冷静に思考する。リオの攻めを捌き、どうにか回せる余剰の思考のリソースで。
「まずいか。……このままじゃ、拮抗する」
『……そうですね。リオが使っている「サムス・イルナ」なるシステム、あの女の手のものな割に優秀なようで。少しずつですが、エリドゥの支配領域を奪ったところが取り返されています』
「そうだね。向こうも速い。……私に、ひとつ案がある」
チヒロはそう言うと、軽くふぅー、と息を吐いて天井を見上げた。そして、その口を開く。
「捨てよう。ここのメインサーバー。今私たちが支配してる領域にメインサーバを移して、エリドゥの支配領域に『勾玉』を持ち込む」
「……後輩たちは元々サブサーバから支援をしているから、問題は無い、か。面白い」
チヒロの発想には毎度度肝を抜かれる。やはり、チヒロもまた『あちら側』の人間なんじゃないかと思うことも一度や二度ではないのだ。
『チハヤさん、やるならお早めに』
「了解。即時実行……した」
『……っ、そう来るのね。大胆な一手、さすがね』
リオの声に僅かに焦りが混ざる。三種の神器が同じサーバに揃い、既に支配した領域に勾玉の威光が輝く。
『……攻められない。取り返せない……攻撃をしない訳にも行かないけれど、これは……時間の問題ね』
「ああ。リオ、チェックが近い。最後の勝負と行こうか?」
『いいえ。最後の勝負、勝ち負けひとつで全てを失うのは非合理的よ。なら……まだ、確率の高い方に賭ける』
リオは、三種の神器が暴れ狂うエリドゥの状態を見渡して、そう言った。そして、次の瞬間。
『フェイルセーフ起動。エリドゥ中央タワーへリソースを集積。残領域を閉鎖』
残された全てが、止まる。
『リソースの管理鍵を、アビ・エシュフへと移行。……オール、ブロック』
それは、リオ自身のやるべきことがすべてなくなることを意味する言葉。
しかし、全てのアクセスを拒絶し、たった一つのリンクだけを残したエリドゥの中央タワーは、もはや誰にも落とせなくなった。
『まさかやるとは。……オールブロックを確認。攻め手が完全に消失しましたね』
「アビ・エシュフを撃破出来ればいいんだが……祈る他ないか」
「……そうだね。ま、なるようになるとは思うんだけど」
全ては現場の者たちに託される盤面。それでもなにかは残されているかもしれない、そう祈りながら盤面を俯瞰する。
「……支配領域下のものならまだフリーに使えるな。アクティブにして、支援に使えるようにだけしておくか」
『ですね。それくらいしか逆にやることがないとも言いますが』
通信の先、オールブロック宣言からそこまで言葉を紡がなかったリオは、叩くことをやめたキーボードを静かに見下ろす。
『あなたが羨ましいわ、チヒロ』
ぽつり、と零した言葉が、通信に乗ってこちらに届いた。
『私は、あなたにはなれない』
そう呟かれた言葉を受けて、チヒロは。
「何でもできるのに、欲しいものだけが手に入らない、か」
静かに画面から目を外し、同じように呟くのだった。それこそは、憧れと羨望の発露。僕がそうであるように、チヒロもまたそうであるということに他ならない。
僕も、チヒロも。届かず、けれど諦めず天に向かって手を伸ばし続けた。今、こうして並ぶに至ってなおその存在に憧れ、焦がれる夢追いに過ぎなかった。
結局、誰よりもリオを尊敬し、信頼していたのは僕であり、チヒロであるということであり、それ故に。
「私を含めた、みんながリオみたいになりたいと望んでいたのに。リオは、私になりたかったんだ」
世の中は上手くできている、と言うべきか。あるいは、あぁ無情、と嘆くべきか。
君臨する者の孤独は理解されないものだ、という話なのだろうか、結局。僕はリオの心が分からない。ただ、これはなにかをリオが得られなかった話だということしか分からなかった。
ヒマリは黙して語らず。リオは、作った静寂を己から振り払って、呟いた。
『そうね。それでも……』
そう、それでも、僕らの焦がれた『ビッグシスター』は。
『調月リオは、調月リオである他にないの。……誰も、私の道を肯定しないとしても……他ならぬ私だけは、「調月リオ」を肯定しなくてはならない』
確かにそこにいる。どこまでも、ヒマリと共に咲き誇る天外の華らしく、そこにあり続ける。
『バカですね。大バカですよ、あなたは。……申し訳ありませんが、少し外します』
そう、小さくヒマリが呟いて。それきり、ヒマリからも、リオからも、通信は帰ってこなくなった。
エリドゥ中央タワー、オールブロック。調月リオ、戦線離脱。
しかし、状況は依然、五分。
今回もどうもありがとうございました。また次回もお願いします。
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エリドゥ攻防戦周りだけではなく、基本的にメインストーリー全編において原作と変わらない部分(=主人公に関わりのない部分)をダイジェスト的にする試みをずっと行っているのですが、違和感なくお読みいただけているようでそこも最近の自分の中では嬉しいところです。
またなにか思う所があればその時は読者の皆様にアンケートをお出しさせていただくので、よろしくお願いいたします。