【第二部完結】各務に想う 〜いつになったら財務会計ってもんをみんな覚えてくれるんだろうか〜 作:ふぃーあ
リオと、ヒマリが通信から消えてしばらく。僕らになにかできることがあるわけじゃなく、強いて言うならいつでもなにか使えるようにはしておく、くらいなもので。
「上手くいくといいんだがな」
「大丈夫、っていうのは無責任すぎるかもね。考えるだけ考えてみようか」
「そうしよう。戦闘支援は後輩に任せて、頭を回してみるか」
チヒロとそう語り合うことが、僕にできること。後輩たちの成長を阻害したくない、とかそういうわけじゃあないが、手出しするまでもないという話だ、これに関しては。
アバンギャルド君がエンジニア部の手によって改造されつつあるのを尻目に、双砲を咆哮させ、両腕のガトリングを回し、ありとあらゆるエリドゥに迫る敵を薙ぎ払わんとするアビ・エシュフとトキが駆ける。
「敵ながら凄まじいものだ。……エリドゥがサポートする演算を崩すきっかけがあればいいけど」
「そもそも、未来予知みたいな演算力って人間に耐えられるのかな?」
「そこだよな。情報量がおかしなことになるのに、あのメイドは耐えている」
僕とチヒロが感じた違和感。それは、戦闘をしながら演算結果に目を通す情報量の多さに人間は耐えることができるのか、ということである。
戦闘の継続を前提としているはずの『防衛用』でありながら、短期決戦思考なはずはない。
「なら、そうだな。何らかの縛りがあると見るべきか?」
「そうかもしれない。情報量を絞ってる、のかな?」
「それか、特定条件下ではAIが制御を担っているか、だが」
どちらにせよ、どちらかはあって然るべきだろう。どちらも、というパターンもなくはないんだろうが、どちらでもない、は無いはずだ。
「調べる方法がない。……推察にならざるを得ないんだけど?」
「まず、いちばん簡単な弱点として上がるのは……アレは陸戦用ってことだな」
「間違いないね。少し前の観測データがあるよ」
ビルの屋上から共に身を投げ、空中戦にシフトしたネルとアビ・エシュフの動きを反応から見る。
「避けきれていない。空中機動自体はできているにもかかわらず、だ」
「見えたね。……どうして、そうなってると思う?」
「まあ、考えられるのはふたつだ。チヒロはいくつ考えつく?」
「同じくふたつ。ならまあ、答え合わせしよっか」
チヒロはそう言って、かけた眼鏡のズレを直した。
「ひとつ、アビ・エシュフは、墜落時姿勢制御に演算を回す際未来予知機能が停止する」
「そしてもうひとつは、予知できているけど墜落しながら回避行動とかそんなことをやれる余裕がトキにはない、かな。どっちだと思う?」
「前者だ。リオが中途半端なエージェントを側仕えにするかよ」
「同意見。……じゃ、仮説を固定するよ」
チヒロはそう言うなりヴェリタスの仲間たちの方に声をかけた。
「みんな、私とチハヤで一手打ってみる。指定地点まで誘導するように指示して、先生にも指揮を依頼して!」
『おう、聞こえてたぞチハヤ、チヒロ』
随分とズタボロになりながら、それでいて全く問題ないと笑うミレニアムの最強は折れない本能の牙を覗かせる。
『あるんだな? 一手が』
「うん、まだ確定じゃないから、効果の程は分からないけどね」
『それでいい。今のままじゃラチがあかねぇからな』
試したいように試せ、と僕とチヒロに言うネルは、愛銃のツインマシンガンを構え直して飛び出す。
地上ではやはり無敵の強さを誇るアビ・エシュフに、しかしそれでも喰らいつくあたり最強の名に違いはない。
「都市まるひとつとはいかないにしろ、私たちの普段使うリソースなんて比較にならない規模のリソースを集めてる怪物に食い下がるなんて……ほんとにすごいね、ネルは」
「伊達に『約束された勝利』とか言ってないってことだな。……後輩には負けられないって意地も多分に含まれるだろうが、大したものだよほんとに」
ネルの強さに感嘆を述べながらも、しかし手は動く。こちらの支配領域内部に数箇所、大型のエレベータがある。
「準備はできてるか? チヒロ」
「うん。データ防壁破壊完了、操作できる」
「人間が耐えられる限界まで速度を上げる……これだな。よし」
その途端、ひとつの通信。陽気な声が耳朶を打つ。
『あぁ、もしも〜し! チハヤくんだよね!』
「……アスナか?」
『そう! ビビ、っと来たから! 教えた方がいいかなって!』
一之瀬アスナ。彼女の、理論で説明できない『直感』はしかし、信頼のおける『結果』の予測だ。ある意味、アビ・エシュフのエリドゥを利用したデータによる予測など到底意味をなさない、裏打ちのない微かな『予感』。
それ故に、天衣無縫の理不尽としてC&Cに席を置く一之瀬アスナの『直感』には、従うほうが丸い。
「聞かせてくれ。手短に!」
『やるなら半端にじゃダメ。振り切らせて!』
「……こっちの手元が見えてるわけじゃないんだよな?」
『……? うん!』
本当に怖い。僕が今何をしているか、わからないなりに一之瀬アスナの『直感』は僕の行いを咎めてしまった。まあしかし、アスナが言うならばそうなのだろう。
「……ネルなら耐えるか。加速度、最大設定。ありがとう」
『いやまあ、なにがどうなってるかは私にも分からないんだけどね! 役に立ったならいいかなー!』
「大変役に立ったよ。君の直感はバカにならないからね」
そういうと、あはっ! そっかー! と笑ってアスナは通信を切って戻っていく。
「なんだかよく分からないけど、アスナがそう言ったんだ?」
「そうだな。……中途半端はよくない、ってさ。やるならやるとこまでやれってことらしい」
「ま、大丈夫ってことなんだろうね。……ならまあ、やることやろうか」
今から行うことは、即ちバトルフィールド作りだ。
美甘ネルと、アビ・エシュフを装備したトキの一騎打ちができる環境を。できれば、アビ・エシュフの絶対性が失われた状態で。
そのために、僕とチヒロが選んだものこそがエレベーターである。
『準備は出来てんだろうなぁ、チハヤ!』
「あぁ、万全だとも。そいつを押し込め、エレベーターにな!」
『……ははっ! そういうことかよ!』
笑うネル。そこまでの過程を知らない僕には分からないが、ズタボロにされるだけのスペック差がアビ・エシュフとネルの間にはあったのだろう。それでも、ネルは笑う。それは反撃の確信から来る、リベンジャーの心意気。
「……ここだね!」
ありとあらゆる退路を塞ぎ込み、ネルとトキが同じエレベーターにその身を踊らせた、その途端にチヒロの手によって扉が閉まる。
『……! しかし、ネル先輩と言えど……この装備があれば!』
『甘いぜ、後輩……』
「加速度、最大。いいや、200パーセントだ! 耐えろよ!!」
『『……っ!?』』
そして、空へ登るエレベーターは、重力加速度を最大速度の倍に設定され、摩天楼を切り裂いていく。その身に降り注ぐ重力は地上の十倍を超え、試算では十二倍前後。12Gという膨大な重力が、二人をエレベーターの床に縫いとめ……
『……こんくらい、なぁっ!!』
最強が、動く。
『なっ! システム……ダメですか、動かないっ!』
『もうチートはなしだ! そして、アタシの間合いだ……後輩!!』
『っ! ですが、私にも意地がありますのでッ!!』
叫び。一手遅れて、トキはパワードスーツのガトリングの砲口をしっかりとネルに向け……
『もう遅ぇよ……!!』
一手の遅れは、取り返せない。すでに、ガトリング砲の砲口よりも内側に入り込まれた。ならば、ならばどうする?
『まだですッ! アビ・エシュフ、パージ……!!』
力を振り絞り、アビ・エシュフから自らを解き放ち、トキは前へ突き出されるように加速して、ネルへ突貫し……
『いい、覚悟だ……ッ!! だがなァ!!』
12G。人の身に致命を与えうる、動くことすらもままならない重力の中で、動き続けるふたりには驚嘆という言葉が最もふさわしいことに間違いはない。しかし、その上で、最強が最強たる理由があるとすれば。
『っ、がぁっ!!?』
振り抜かれた右足が、地から天へ『昇る』軌跡を描く。
それは、有り得ざる重力に対する非常識的な逆行。地上の十二倍という重力の中、ネルは十全な威力をもって、トキの顎を蹴り穿ってみせたのだ。
「はは……んな、馬鹿な。十二倍の重力下で『蹴り上げ』なんて。それも、空中の相手の顎を撃ち抜くほど高く、そして鋭く……?」
『決闘場』の中を覗いていた誰もが絶句する中、最上階に止まったエレベーターの扉が開く。
気を失ったトキの身体の横で、膝をつくネルはしかし、それでも栄光を掴んだラストスタンド。約束された勝利の名は揺るがず。
『言ったろ? 生意気な後輩には、指導が必要だってな』
コールサインダブルオー、美甘ネル。最後の鍵、アビ・エシュフ及び飛鳥馬トキを無力化。
要塞都市エリドゥは、この時点をもって事実上完全に陥落した。
ネルパイをかっこよく書けてるといいのですが……。
今回もありがとうございました。次回もまたお願いします。モチベ維持になるので評価感想、ここすきも是非宜しくお願いいたします。
それと、多分なんですけど本日執筆にあてる時間が取れない可能性が高い(本小説はスタックとかはないんですよ、そこも申し訳ないです)ので、明日の朝の更新を1日だけお休みさせていただくことになると思います。本当に申し訳ない。