【第二部完結】各務に想う 〜いつになったら財務会計ってもんをみんな覚えてくれるんだろうか〜   作:ふぃーあ

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天才の考え、凡才の推理

 チヒロとメシを食った日からまた数日が経った。

 

 ミレニアムは今日も平穏無事であり、と続けたいところだが、そうもいかないらしい。

 

 エンジニア部のウタハたちが言うには、予算をドカ食いしたくせに宇宙戦艦そのものは作らないから無用の長物でしかなかった戦艦の主砲用のレールガンを軽々と持ち上げて持っていった『新入生』がいるらしいのだ。

 

 特徴は地に着くほどの長い髪と、今や彼女の専用兵装となった宇宙戦艦の主砲用レールガン『スーパーノヴァ』。それとゲームのシステムのような喋り方……名前は確か、

 

「天童アリス……だったか」

 

 既に調べはつけた。後輩たちが一枚噛んでいるのは知っている、かわいい後輩たち……特にマキとコタマが僕とチヒロに隠れてコソコソしている時はろくなことにならないからなるたけ早く調べなければならないし。

 

 その結果、ミレニアムの生徒登録データベースの改竄が確認され、一年生に天童アリスという生徒が存在したことになっていることが判明した。

 

 そして、エンジニア部の推察によるところでは、天童アリスは。

 

「戦闘を目的に開発された兵器の類、ね。言い得て妙なのかもな」

 

 エンジニア部が回収して寄越したデータを彼女が通常の生徒であると仮定した時に想定されるカタログスペックと比較する。

 

 膂力は想定の2倍を超え3倍に達し、肉体の耐久性、戦闘続行能力などの実際の数値もカタログスペックを遥かに上回る。

 

「恐らくは、人格を保有するロボット……だが、ヘイローがあることが気にかかる。いよいよもって僕にはお手上げかもしれんな、これは」

 

 僕がこれに気づいているということからひとつ、明確に確定させていいことがある。

 

「リオ、ヒマリ。二人もアリスには気づいてるはずだ……どう出る? どう見る? 答え次第では、どうなってもおかしくないぞ」

 

 そう、リオとヒマリもまた、この程度までは必ず勘づいているはずであるということ。僕ごときが気付くことなど、天才が知らぬ存ぜぬなどありえない。

 

 リオとヒマリがどのような道を選ぶかを見届ける。そして、天童アリスという一人格に対して、個人的な評価を添えることが出来るように彼女を見極める。

 

「今僕にできることを僕はすればいい。未来のことは天才たちに放り投げる。そうやってやってきたんだ、今回も依然変わりなくやればいい」

 

 そう決めたその日のうちに、事は起きた。いや、厳密に言うと話が持ち込まれた。

 

 部の同輩が決意を込めた顔で打ち明けにきたのだ。

 

「チハヤさん。私たちに協力して欲しいんです」

「……なにをするつもりだ」

「『鏡』を回収したいんです。部長の作った最高のハッキングツールを使って、G.Bibleのセキュリティを突破したい」

 

『鏡』。各務ではないそれは、明星ヒマリが手ずから作り上げた最強のハッキングツールなのだという。その危険性から、セミナーが回収しており、現在はデータの入ったSDカードが差押室に安置されているとの事だが……。その話を聞きながら僕はある人物へモモトークを送る。

 

「……ダメだ。僕にはそれに協力する理由が見えない。所謂、廃部寸前の問題児たちのあがきに、本来は君たちが付き合う道理もない、関わるべきではないと僕が思っているのは分かっているだろう?」

「……っ」

 

 ふぅ、と僕はやってきた同輩……音瀬コタマにその顔を向けることなく溜息をつきながら回答を続ける。パソコンのブラウザを立ち上げながら。

 

「……頭を冷やせ。君がやれることをやればそれに関しては十分だ」

「……え?」

「協力はできない。だが、その必要も無いだろう。君が僕に言いに来たってことはヴェリタスの後輩たちはこぞって彼女たちを助けたいと思ってる。違うか? マキも、ハレも協力しているんだろう」

「……そう、ですが」

 

 なんだ、とまた別の意味で僕は溜息をつきながら、パソコンを操作し続ける。

 

「それなら僕の手なんて不要だろう。君たちはヴェリタスにその席を置く者だ。3人集まってたかだかセミナーの小役人とその手駒如き、翻弄出来ずしてなにが『反セミナー』だ。気合いを入れろよ後輩。もし次、どうにもならない手詰まりになることがわかったら言うといい」

「……はい!」

 

 たんっ、とエンターを叩いて、くるりと椅子ごとコタマに振り返る。『鏡』の所在を調べ終わったから。

 

「それと……『鏡』の在処は中央棟の差押室、四つ目の棚の下から3段目。右から二つ目だ」

「……え!?」

 

 細かい場所くらいはサービスしてやってもいいだろう、後輩の努力が無駄にならないように願うのは先輩としての特権だ。……コタマは3年?いいんだよ、僕の方がヴェリタスの歴としちゃ先なんだから。

 

「頑張りなよ」

 

 その言葉を最後に、また作業に戻ろうとする僕にコタマの言葉がなにか聞こえたような気もするが、どうせ意味の無い感謝だ。受け取るのはやめておくことにした。サービスくらい、受け取っておけということだ。

 

 モモトークを開く。

 

『それでヒマリ。申し開きはあるか』

『なんのことでしょうか?』

 

 帰ってきていた返信を確認して、溜息をつく。

 

『知らないとは言わせない。鏡は君が作ったツールだ。マスターデータかコピーかは知らないがどうせ持ってるはずだし、なくても作る程度のことはできるはず。……なぜ「取り返す」方面で話を進めた』

『なんのことか、さっぱりわかりません。このスーパー天才キューティハッカーも知らないことにはお答えできませんから』

『そうか。その回答で分かったからいい。ありがとう』

『え?』

 

 なるほどなるほど、どうやらヒマリは相当にいい性格をした人と手を組んだようだと僕は考える。

 

 ホワイトボードに文字を連ねていく。ヒマリ、『鏡』、セミナー、それからゲーム開発部と後輩たち。ゲーム開発部と後輩たちは線でつないでおく。

 

「気付いている、というのも間違いじゃないはずだ。ヒマリは観察の段階にある」

 

 ゲーム開発部のところに、天童アリスという文字列を書き加え、ヒマリから矢印を引っ張って、矢印の横に観察と書き入れておく。

 

「『鏡』を取り戻すように仕向けたのはヒマリの策だ。なんのために? アリスを観察するためだろう。だが、それ以上に不自然な点が残っている」

 

 おそらくはゲーム開発部はセミナーの差押室に直接乗り込むつもりだろう。潜入、回収をこなすつもりなのだろうところまでは察しがつく。

 

 そして、その行動とおそらくヒマリの観察したい要素は異なるはずであることも。

 

「ヒマリが見たいのはアリスの戦闘のはずだ。……そうなると、セミナーに根回ししている可能性がある。そして、そうであるとすると……前提が変わる」

 

 きゅ、とヒマリの横に、リオと書き足す。

 

「リオも居るんだろうな、たぶん。セミナーと、ヴェリタス。ゲーム開発部と、それに助力する人々。多くを巻き込んでひと騒動起こしてでも、リオとヒマリはこの『鏡』争奪戦をやる意味がある、この争奪戦の中でアリスが戦闘を行うように仕向ける価値があると思っている」

 

 全く、一言くらい声をかけてくれてもいいではないかと、思わなくはない。だが、天才の域に一歩踏み込んだとして、あの二人は連峰の頂上に咲き誇る双花であり、仮に己が天才であったとしてもまだ山に登ることすらできていないと自認する己には到底届かぬ領域であることも事実。

 

「ま、わかったからなんだって話か。そう思うだろ? ちなみにいつから居た?」

「……独り言の最初からかな。気付いているのも間違いじゃ、くらいから」

「ほんとに最初からだな。声かけてくれてもよかったんだよ?」

 

 振り向くと、チヒロ。最近ずっと会ってる気がしてきたが、たまたまだろう。チヒロの手にはチヒロが愛飲しているコーヒーとは別に、カフェオレの缶が握られていて、それをチヒロは何を言うでもなく机に置いてから話し始める。

 

「コタマたちがいろいろやってたのは会長と部長の手のひらの上、ってことかな?」

「そうなんじゃないかなと考えてる。その上で、僕らがこれに勘づいてももうどうにもならないところまでことが動いてるから、二人は僕らを放置したんだ。食えない策だし、たぶんリオの方の思いつきだろう。戻れないところまでことを進めるのはリオの得意だ」

「嫌になるね……」

「そうか? むしろ僕らはこれでいいんだと思うよ」

 

 僕は口角を上げて笑い、チヒロを見る。チヒロは少し驚いた顔をした。ホワイトボードにマーカーで今度はチハヤ、チヒロと書き足すと、後輩たちに線を伸ばした。その横に、期待、と文字を添える。

 

「だってそうだろう、チヒロ? 僕らは僕らであの子達の成果を確かめられる時が来た」

「……まあそうかもね。これはあの子達の試験みたいなものか」

「リオとヒマリに踊らされるのも癪だが、一人前にあの子らがなれるかどうか、見てやろうじゃないか」

 

 机の上の、チヒロの置いたカフェオレを開栓し、チヒロに首を傾げてみせ、頷いたのを見て流し込む。

 

「うん、美味い。やっぱこれだよなー……」

「チハヤは甘いの好きだね、ずっと」

「ブラックも悪くはないんだけどね。ほら、ヒマリが差し入れでコーヒーを買ってくると味が一種類ずつだろう? 微糖とかブラックとかカフェオレとか」

 

 ふふ、とチヒロが思い出しているのだろうか、小さく笑みを浮かべながら口を開く。

 

「そういえば、残ったのをいつもチハヤはとってたっけ?」

「そ。買ってきたヒマリはジュースを嗜み、リオが真っ先に微糖。君がブラックを取って、残ったカフェオレを僕が取る」

 

 それでカフェオレが好みになったのだ。慣れというか、なんというか。それとあと……

 

『カフェオレは甘いし、疲れを取るのにはいいよね……私もよく飲むよ』

 

 昔のチヒロの影を追っているのは、否定できないかもしれないな。言うつもりは、皆目ないが。

 

「それじゃ、今回の件は見させてもらうでいいね?」

「うん。私もそれでいいと思うよ」

「……じゃ、チヒロの用件を聞こうか。何?」

「実は、いい所のスイーツを貰ったんだ。お裾分けに……」

 

 僕は久方ぶりの甘味にそれ以降の思考を奪われた。




前回のお願い文が若干変だったと思いますが、透明文字を仕込んであるだけですのでお気になさらず。

ということで今回もありがとうございました。赤ゲージ早速いただけて嬉しい限りです。今後ともやっていくので是非宜しくお願いすると共に。

評価感想等お待ちしております、励みになっておりますので。返信もやっていくつもりはありますのでぜひお願いします。
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