【第二部完結】各務に想う 〜いつになったら財務会計ってもんをみんな覚えてくれるんだろうか〜   作:ふぃーあ

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アフター・ザ・エリドゥ

 まあ率直に言えば、ネルの勝利はそのまま僕たちの勝利を意味していた。

 

 エリドゥの最後の鍵を手に入れた、僕とチヒロによって、オールブロックされたエリドゥの中央タワーの障壁は解除。

 

 先生とゲーム開発部は中央タワーの最上階、アリスの元に辿り着き、なんやかんやとした一悶着の後、彼女の精神にリオが作り出した『精神をフルダイブさせる』なる超技術装置で飛び込んだ。

 

 この折に分かったことだが、リオはアリスの中にいるという第二の人格……リオ曰く『Key』を阻害し続けていたらしい。

 

 その阻害を止めたことで、当然と行っていいものか『Key』は覚醒。

 

『プロトコル、アトラ・ハシースを開始』

 

 という文言と共に、僕らのハッキングした分も合わせればなんと10万エクサバイトというデータリソースを保存していたエリドゥを元手に世界への介入を開始しようとしたものの。

 

『……ここね、ノア!』

『えぇ、ユウカちゃん! 落とします!』

 

 ユウカとノアの機転によりエリドゥへの電力供給が停止。元々はリオに対する対抗手段として用いる予定だった、電力遮断の一手を、ユウカが咄嗟の判断で利用したのだ。

 

 同時に、大量にエリドゥに襲来した『Key』の尖兵、白い不可思議なロボ……リオ曰く『Divi:sion』はというと。

 

『よぉし、エンジニア部の夢とロマンを見せてやろう! アバンギャルド君MK.2、発進!!』

『アタシらも黙ってられねぇなぁ、やるぞお前ら! 掃除の時間だ!!』

『……私も少し、手伝おうかな。部長の車椅子を押すのも久しぶりで良かったけど、こっちがやっぱり慣れてるし』

 

 まあ、そういうことだ。エンジニア部やC&C、エイミが上手くやってくれたこともあり、完全殲滅はともかく、足止めには十二分だった。

 

 残りは言うまでもない。そう長い付き合いがあるわけでもないが、才羽モモイという人物がどれほど明るく、そして周りを引っ張って行けるかは理解させられた。

 

『私たちの声を、届けるためならなんだってするよ!!』

 

 そう叫んで飛び込んだ、ある種の英雄によって無事に天童アリスは再覚醒し、『Key』は再び封じられ、当初の目的は果たされた。

 

 あぁ、それから。調月リオはどうしたのか、という話をしなければならないか。今、僕の目の前にいる、この女の選択の話だ。

 

 ここはミレニアムの地下道。ミレニアムタワーから郊外に抜けるための道。リオと僕は互いになんとなくの相互理解で、そこに赴いた。

 

「チハヤ。やはり、来るならあなただと思っていたわ」

「リオ。……消えるつもりなんだな」

「……えぇ。能力主義のミレニアムは、私を許容してしまうから」

 

 そうだろうな、と僕は思う。自責する想いがあり、それを否定するみんなが居る。それは、少なくとも罪人の自覚がある人間には酷く重く、辛いことだ。

 

「死ぬほど怒られるだろうが、その後はまたいつも通り。それに納得が行かないんだろう?」

「そうね。これでも、理解はしているのよ。前向きな責任の果たし方があることも」

「それでも、逃げる道を選ぶんだな」

 

 目を伏せて、リオはそうよ、と呟いた。その気持ちが痛いほどよくわかる。僕とて、同じ道を歩んだから。

 

 史上最低のクズに成り下がり、それでもクズであることを許されず引き戻された経験が、僕にはトラウマのように残っている。その上で、断言する。僕には人を引き戻すことはできない。それが本当に誰かのためになるとしても、だ。

 

 同じ苦しみを味わえとは言わない。僕の味わった苦しさは、他の人が誰も味わう必要のない苦しさだったと思う。せめて苦しまないように、とは言わないが、苦しむにしろもっとまともに前向きに苦しんで欲しい……長くなったが、つまるところ、僕はリオに欠片も同情したくないのだ。どうだろう、いたってカスの思想だが。

 

 そんなことを考える間に僕の体は自然に動き、リオに道を譲った。

 

「……いいのかしら?」

「あぁ。行けよ。自罰的になってる時に、無理くり引き戻されるのは……死ぬほどキツい。心に整理がついていないなら尚更に」

「……やはり、あなたは……優しすぎるわ」

 

 あとからようやく理屈を追いつかせた僕は、その言葉を鼻で笑う。

 

「優しいもんか。優しいってのは、こういう時に引き戻せる人のことだ。地獄に進むことがわかってるのに、なおそれを止めない僕はクズだろ」

「ひとつ聞かせて欲しいのだけれど。何を思って、止めないのかしら」

 

 リオのそう推し量るような言葉に、僕は驚いた。リオが、そうして人の心を理解しようとするのが珍しく思えたから。

 

「……そうだな。強いて言うなら、最後まで君の敵でいたくはなかった。それだけだ」

 

 手酷く先程は『同情したくない』とか吐き捨てたが、素直になればそんなもんだ。

 

 なんだかんだ、僕は仲間のことが大切だ。チヒロのことを愛している。マキやハレといった慕ってくれる後輩もいる。コタマという同期もいる。そして、それはあの頃の仲間たちも同じだった。

 

 千年難題の研究チーム。ヒマリ、リオ、チヒロ、僕。四人で打ち込んだ、あの日々は、僕にとってもかけがえのないものだった。それを終わらせたのがリオだが、それを始めたのも確かにリオだった。

 

「君も、いつかは僕の仲間だったんだ」

 

 リオに敵対した。誰もがそうだった。ミレニアムすべてが彼女の敵になった。リオの願いは挫けた。僕が挫いた。それは、『願いを挫かない理由がなかったから』だ。

 

 リオが数多くの僕の仲間に敵対してしまったから、僕もまた敵対した。それだけに過ぎないのだ。

 

 全てが終わって、僕とリオの関係が知己へと戻り、敵でなくなった今は、リオもまた僕からすれば特別な人間であり、『手助けしない理由がない』人間だったのだ。

 

「……そうね。私たちは、仲間だった。最後に、仲間として手助けをしてもらった。そういうことにしておくわ」

「それでいい。それと……行くアテはあるのか?」

 

 リオは静かに目を伏せた。だろうな、と僕は呟く。これは、本当に渡したくなかったのだが。

 

 小さな鍵を、彼女へと放る。

 

「……これは?」

「それをもって、ここからアビドス方面に出たところにあるガレージに行き、それで開く貸しコンテナを開けろ。……多少は役に立つはずだ」

 

 そこに止めてあるのは、僕の車だ。といっても、ミレニアムに持ち込んで停めてある外周り用の車ではなく、外縁に転がっていた廃車をリメイクしたものだが。

 

 いい感じの広さがあるワゴンだったから、いずれヴェリタス全員で出かける時にでもお披露目してやろうと思っていたのだが。

 

 まあ、色合いも黒にカラーリングしてあるし、リオが運転する分にはちょうど良いのではなかろうか。

 

「……ありがとう。大切に、使うわ」

「貸しひとつにしておくよ。いつか気が向いたら返してくれ」

「……えぇ。必ず」

 

 そう言って、リオは暗い地下道の先へ消える。かつ、かつと遠ざかる足音を響かせて。

 

 僕がそこでリオと話したことを語ることは、誰にもなかった。

 

 かくして、リオはミレニアムを去り。ヒマリはリオの逃げに憤りながらも、エリドゥをその手によって掌握し直した上で閉鎖した。

 

 リオだけが欠落した日常がミレニアムに帰ってきた、と言い換えてもいい。

 

「あの女、本当に許しておきませんから」

 

 と呟きながら、作業に追われるヒマリに、僕とチヒロで苦笑と青筋を浮かべながらカイザー絡みの件のお説教をしたり。

 

「アリスは皆さんにも感謝がしたいんです!」

 

 と礼儀正しくお礼の品物(テイルズ・サガ・クロニクル初代と2のセットだった。2はミレニアムプライスの特別賞を受賞したと聞いているし、今度初代共々プレイしてみようと思う)と共に部室を訪れた天童アリスに、孫が来たみたいな勢いでヒマリと僕とチヒロが揃いも揃って猫可愛がりしてみたり。

 

「それでは頼むよ、チハヤくん」

「ま、ウチらの分も頼むぜ」

「……あぁ、そういや月末近かったっけな畜生!」

 

 大量に作った借りを精算するのに四徹してチヒロにこっぴどく叱られたり。

 

 そんな日常を送る僕のスマートフォンに、送られてくるひとつのメッセージ。

 

『新しい拠点よ』

 

 ふっ、と小さく笑う。なんとも『前衛的』(アバンギャルド)なオブジェクトが端とはいえ随分と堂々と鎮座した、モニタの多数備わる部屋の写真。今いるヴェリタスの部室とも似通ったものがある。

 

『元気そうだな』

『……至って普通よ』

『皮肉だよ』

『あら。そういうことも言えるのね』

 

 それは、リオが欠落した今のミレニアムでただ僕だけが持つ、リオの在処のきっかけ。

 

『まあ、そこはいい。ひとまず、頑張れよ』

『? なにを?』

『面倒な犬のしつけ』

『……まさかあなたトキにっ!』

 

 なんのことやら。僕は心底落ち込んでいたメイド服の少女の前にスマートフォンを落としてからたまたまポケットの中にあったメモ帳の座標を読み上げただけだ。……彼女がC&Cに合流してからの落ち込みようは、ちょっと見てられなかったし。

 

 そうこうしているうちに、新しい個人用モモトークの相手が増えた。『飛鳥馬トキ』、そう書かれた連絡先の最新の履歴は。

 

『ありがとうございます、天峰先輩。リオ様ともう一度会わせてくれて』

『なんのことだか』

『とぼけるおつもりですか。ですがそれでも、です』

 

 その言葉の結びには、リオの前でピースする無表情のメイドの写真。リオも当惑した顔ながら、ピースをしていて。

 

『ピースピース。私は今とても嬉しいです』

 

 そうキャプションのように添えられたトーク。

 

『楽しそうでなによりだ』

 

 僕はそう返信して、スマートフォンを閉じる。彼女たちが楽しそうなら何よりだが、とりあえず今はもっと大事なことがある。大切な人の足音を僕が聴き違えるはずもない。椅子を回して、向き直る。

 

「チハヤ。ご飯は済ませたの?」

「いいや。まだだよ、チヒロ」

 

 チヒロは僕へ、真っ直ぐに手を差し伸べる。

 

「ならさ、食べに行こうよ。いいお店、見つけたからさ」

 

 そう提案しながら笑みを浮かべるチヒロに、僕は手を取り立ち上がる。言葉はいらない。制服の上着を着込むことで返答にして、僕たちは手を繋ぎ、部室から外へ踏み出した。

 

 

 




第一部、これにて完。

メインストーリーとそんなに差異のない部分は省いてバシバシと進めてきた本作ですが、一区切りまで行けてとても嬉しい限りです。

結局最後の最後で休日出勤になり投稿ができなかったことをお詫び申し上げます。

次回以降も書いていきますので、是非ともご覧いただけたら幸いです。

作者のモチベーションに繋がりますので、感想評価などよろしくお願いします。
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