【第二部完結】各務に想う 〜いつになったら財務会計ってもんをみんな覚えてくれるんだろうか〜   作:ふぃーあ

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今回の話は第一部完結記念ということで、本編には関係の無い幕間をお届けします。イチャイチャさせたいだけですけど。

そして今日は私のブルーアーカイブに存在する全生徒の中から無作為に一人を選出して作中に登場させるという挑戦をしています。誰かは……えぇ、まあ。はい。ごめんなさい。でもダイスの神様は爆笑していると思います。



幕間の物語-1
幕間:溶けてしまいそう


 ある日のヴェリタスの部室。天はしろしめす、世は全てこともなし。そういう言葉のひとつも言いたくなるような長閑な日を過ごす僕らに、ひとつのニュースが舞い込んだ。

 

「……初音ミクぅ?」

 

 響いた言葉は僕のもので。

 

「知らないの? 天峰先輩!」

「ここ最近ミレニアムを中心に活動するシンガーソングライターですよ?」

「路上ライブから始まり、今ではシャーレとも交友を持ってキヴォトス全体に声を届ける活動をするんだって息巻いてる、新進気鋭の歌姫……いつだか、ライブをコタマ先輩とマキと見に行ったんだ」

 

 まさか知らないとは、とばかりに言うのはハレ、コタマ、マキ。

 

 その一方で、僕と同じ反応を見せている女がもう一人。言うまでもないだろうが……。

 

「へぇ、そんな人がいるんだ」

「微塵も知らなかったよな。最近忙しかったし」

「そうだね、いろいろ仕事も溜まってたし」

 

 チヒロである。僕とチヒロはことそういうのに疎い。世間の流行というものには本当に『知らん。なにそれ、怖』の3単語しか返せないのだ。

 

「最近で言いますと、初音ミクさんは新譜の『メルト』などはとても良いですよ?」

「『メルト』……さっぱり分からないな。どんな感じの曲?」

 

 チヒロがそう問うのに、無言で同意する僕。三人に問いかけると、代表するようにコタマが自身のパソコンを操作する。

 

「この動画が公式のリリックビデオですね。今度のライブでもやると思いますよ。新譜ですし」

「ふぅん……少し聞いても?」

「もちろんです。再生しますね」

 

 流れ出すイントロは記憶に残るようなメロディ。歌い出した初音ミクとやらは、機械的な声質をそれでも人のように震わせる。

 

『メルト、溶けてしまいそう……好きだなんて! 絶対に、言えない。だけどメルト、目も合わせられない……』

 

 サビに入って、そう歌い上げる初音ミクは、確かに感じた硬い機械の声音を奇妙な暖かさで打ち消して、恋の歌を高らかに歌っていた。

 

「恋に恋なんてしないわ、か」

 

 ふと、とある日の会話を思い出す。その時もここでそんな話をしたんだったか。

 

「今思ったけど、なんだか先輩と副部長のことみたいだよね!」

「……そう?」

「うん、まあ確かに。似てはいるかもね……チヒロ先輩が『私は可愛いのよ』って自負を持ってたら話早そうだったけど」

 

 チヒロが眼鏡を光らせ、つい言葉を漏らしたハレに照れ隠しついでのデコピンするのを尻目に、僕は感想を漏らす。

 

「悪くないな。売れるのも頷けるよ」

「でしょー! それでね、チハヤ先輩! 私たち、初音ミクのライブ会場のプログラムを構築したから、その縁で関係者席に入れるの!」

 

 三人ともがそれぞれに誇りを持った顔を向けてくる。僕とチヒロは思わず感嘆の声を漏らした。

 

「「立派になったね……」」

「お母さんとお父さんの目線なんだ……」

「羨ましいとかではないんですね……」

「……問題児扱いされるのって、こういう弊害があるんだ……」

 

 三人がそれぞれに『思った反応と違う』といわんばかりの表情をするのを見て僕とチヒロは正気に戻る。

 

「いや、すごいと思うよ。それは君たちに与えられた正当な権利だ。楽しんでくるといい」

「そうだね。皆は報酬を受け取るべき仕事をした。私たちに黙ってやってたのは……まあ、私たちが忙しそうにしすぎていたからだと思うし」

 

 そのチヒロの言葉に、僕も頷く。やや余裕が無さすぎたので、パリパリとしていたのだ、空気が。ピリピリの上を行く、パリパリ。

 

 そんな僕らの雰囲気に、ちょっと待ってよ、とばかりにマキは言葉を割り込ませた。

 

「それだけで終わると思ってるのもしかして!?」

「「ん? 終わらないの?」」

「終わらないよ!!?」

 

 また揃った、今日はよく声が揃う日だな。と思いながら横を見ると、チヒロも同じように微笑みながら目線を向けてきていた。それはそれとして、マキの言葉を聞くために目線をマキに戻す。

 

「これ!」

 

 マキが取り出したのは、白いチケット入れ。

 

「ヴェリタスの部員と、それから情報処理部の部員みんなで抽選に真っ向勝負して、二枚当選したの! 初音ミクのライブのチケット!!」

「へぇ、すごいじゃないか。さぞ倍率が凄かったろう? 最近売れっ子のシンガーソングライターのライブなんて」

「ね。それに正々堂々挑むなんて」

 

 やっぱり着眼点が父母になりがちだ。今までのヴェリタスなら間違いなくハッキングして抽選を誤魔化すくらいしそうだよなと思っていたから余計に。

 

「んんっ! だからね、チヒロ先輩!」

「うん。友達でも誘って行ってきなよ、留守は守ってあげる」

「えっ」

 

 えっ。違うのか、と僕とチヒロは顔を見合わせる。心底不思議そうに首を傾げる僕らは、呆れた目線を三人から向けられていた。

 

「普通に、先輩たちにあげるために取ったんだよ? このチケット」

「……えぇと、ほんとに」

「僕らに、で間違ってないのか?」

 

 僕とチヒロに、と。そう言いながら僕の閉じたパソコンの上に置かれた白いチケット入れ。まさか僕とチヒロの分とも思っていなかったので、二人して困惑しつつそれを見直す。

 

 かくして、僕らは初音ミクのライブに行き。

 

『みんなー! ありがとう〜! 気をつけて帰って、ねっ!』

「いい……」

「よかった……」

 

 終演後、この通り語彙力を失った。いや、もっと言うべきことがあるだろうと思ってはいるのだ。本当に。

 

 なんというか、それ以上に圧倒されただけで。

 

「歌というものに興味はなかったが、なかなかどうしていいじゃないか」

「ね。……うん、とってもいい時間だった」

 

 ライブ会場の外に出る波に乗って、はぐれないように手を繋ぐ。いつも繋いでいるはずの手が、なんだか普段と違うように感じた。

 

「……恋の歌、ね。現地で聞くのと、動画を見るだけと。こうも違うか」

「……意識、しちゃった? 私のこと」

「あぁ。いつもしてる以上に」

 

 そうやって話して進むうち、人波の動きがぱったりと止まる。入場口から外に出る人々がそこから先へ進みたがらないのだ。

 

 当惑の空気が辺りに広がる中で、僕とチヒロがようやく表に出れた頃には、いつの間にか垂れ込めた雲が、これまたいつの間にか雨を降らせていた。思い切り降り注ぐ大雨、それはまさしく。

 

「……『天気予報が嘘をついた、土砂降りの雨が降る』……か」

「なら『カバンに入れたままの折り畳み傘』があってもいいだろうが、二人揃って常備だろ? 折り畳み傘」

「だね……良かったよ、持ってきておいて」

 

 僕とチヒロはそれぞれの手荷物から折り畳み傘を出す。用意が良すぎるのも考えものだ、ドキドキするようなことは何もないということだし。

 

「……でも、そうだね。チハヤ、二人でひとつの傘、使ってみない?」

 

 それだからこそ、チヒロのその提案に驚かされる。チヒロもまた、同じ気持ちだったのだとわかって嬉しかったから。

 

「こんなにおあつらえ向きなことはないだろうしね。……行こ?」

「……『仕方ないな、入ってやる』とでも言えばいいのか?」

「ふふ、なんだか似合わない言い方」

 

 僕とチヒロが初音ミクを知るきっかけになった『メルト』という一曲はライブの最後に歌われた。だから、僕もチヒロも強くその歌詞が焼き付いたまま。

 

 僕とチヒロは、恋をすっ飛ばしてきた。お互いに意識して近づいた訳じゃあないから、言葉を形にした時にはすでにそれが『愛』として確立していた。

 

 だからこそ、普通の恋愛の『恋』の部分の追体験を、僕はしてみたくなった。恐らくは、今の誘いをしたチヒロも、そう思ってくれているはずだ。

 

「……♪」

 

 赤信号に立ち止まった僕とチヒロ。傘の下で、歩幅を合わせて歩いてきただけの今までから、ほんの少しだけ進みたくなって、メロディを鼻歌で奏でるチヒロの手を握ると、真っ赤なチヒロの頬がちらりと見えた。

 

「おかしい……ね。ちょっと、さ」

「あぁ。……こんな、気恥ずかしいものだったかな?」

「普段はそうでもないと、思ってたけど……なんか、恥ずかしいね?」

 

 互いに恋を意識して、ひとつの折り畳み傘の下に入って。愛を囁く代わりの、微かな触れ合いを続ける。

 

 左肩が濡れることが不思議と気にならない。なんでもない雨音も音楽みたいに聴こえる。チヒロと歩む一歩一歩がいつにも増して鮮やかに感じて仕方ない。

 

「……もうすぐ、だね」

「そう、だな」

「ん……っ」

 

 ヴェリタスの拠点までは、あとほんの少し歩くだけ。

 

 チヒロが僕の手をより強く握る。言葉少なに為されたそれは何よりも雄弁な『離れたくない』という意思表示で、だから僕も同じように手を握りしめて返した。

 

 心を伝えるためにはすべきことがある。僕らはそれをもう知っている。そのために、口を開き。

 

「チヒロ。……どこまでも、そばにいるよ」

「うん。私も、いつまでも、そばにいるから」

 

 言葉にして、伝える。伝えられる。恋の段階を通り過ぎ、恋を追体験した僕らは、愛を深めていく。

 

「なら、さ。チハヤ……このまま私を、抱きしめて」

 

 その言葉に続くはずの言葉は、本来なら別にある。『メルト』という曲の歌詞は全て、彼女の口から実際に述べられた言葉ではなく、心情の綴り。

 

 ならばこそ、実際に口にしたのなら。

 

「あっ……ち、チハヤ……?」

 

 男が取るべき行動は、最初からずっと一つだけ。

 

「『なんてね』とは言わせないよ。チヒロ」

 

 手を取り、傘を支えつつも、胸の中にかき抱く。この心の中にある切なさ。甘く、酸いようなこの想い。

 

「……うん。言わないつもりだった」

 

 これが、恋。想いのままに、チヒロを抱きしめる。恋に落ちる音が、雨音に交じって傘を叩き続けていた。

 




ということで、ダイスの神様に選ばれたのは初音ミクでした。ほんとに最初は外すのを忘れており当たって大慌てしたんですけど、『メルト』ってめちゃくちゃ味するな、って思ったのでやりました。

後悔はありませんが、反省はしています。次回以降もし同じ試みをするのであれば超電磁砲コラボは抜きます……。

今回もありがとうございました。また次回もよろしくお願いします。

10万UA達成ということで、ご愛顧をいただきありがとうございます。それに新たな星10評価も2件いただいたりとか、多くの9評価がついたりとか。本当に本当にありがたい限りで、おかげさまで執筆が楽しくできています。これからもどうぞよろしくお願いします。
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