【第二部完結】各務に想う 〜いつになったら財務会計ってもんをみんな覚えてくれるんだろうか〜   作:ふぃーあ

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注意

・本編とは別の時間軸で行われている単純なイチャつきです。
・時系列的に置いても違和感のない位置などの考察は今回していませんので、単純な短編としてご覧下さい。
・ハッピーバレンタイン。


バレンタイン短編:重なりゆく幸福

「ほんとはさ、自分で用意したかったんだけど」

 

 そういうチヒロの手には、2枚のチケット。脈絡のない発言に僕は戸惑っていた。

 

「ええと、なにが?」

 

 そう問うと、チヒロは嘘でしょ? というような顔をした。

 

「嘘でしょ?」

 

 言われた。チヒロは呆れたように、それでいてまあ仕方ないかと言わんばかりに僕に説明を始める。

 

「今日はバレンタインだよ……チョコを用意したかったんだけど、どうしても最近忙しくて。それで、これ」

 

 チケットの内容を見ると、スイーツの食べ放題への優先入場券とある。バレンタインの日にスイーツ食べ放題の優先入場券を取れるとは、一体どんな手を使ったのだろう。少し気になるから聞いてみることにした。

 

「一切知らなかったとはいえ、バレンタインにスイーツ食べ放題なんてどんな手を使って手に入れたんだ。僕はそこも気になる」

「まあ、外回りの営業の時にちょっと縁があって」

「なるほど……? で、それに行こうというわけか」

 

 そう、とチヒロは言う。ふぁさ、と制服の上着を羽織りながら椅子から立ち上がり、こちらを見る。

 

「デートしようよ、バレンタインの恋人らしくさ」

「なるほど。じゃあ行こうか、チヒロ?」

「うん。行こっか、チハヤ」

 

 チヒロの横にコートを羽織って並ぶと、チヒロが少し恥ずかしそうに手を伸ばす。

 

「……繋ぎたい」

「わかってる。ほら」

「……んっ、ふふ。あったかい」

 

 手を繋いで歩くことしばし、ショッピングモールに入っているスイーツ屋に辿り着くと、チヒロは店員に声をかけた。

 

「予約の各務です」

「各務様ですね、お待ちしておりましたー。お席奥にご用意ございますから、ご案内しますね!」

「はい、お願いします」

 

 どうやら予約まで先にしておいてくれたらしいチヒロと一緒に、店員の案内を受けて奥の座席へ進む。チヒロを奥の座席へ座らせ、僕が手前の椅子を引く。僕にできる精一杯の見栄張りだった。

 

 ルールの説明やら何やらを受け終わり、店員の女の子が笑顔で一言。

 

「それでは、スイーツ食べ放題開始ですー! ごゆっくりどうぞー!」

 

 その言葉と共に去る店員を見届けてから、チヒロはゆったりと口を開く。

 

「食べたいスイーツ、ある?」

「いいや、今のところは。特に何も考えてなかったから一先ず適当に1種ずつくらい食べてコンプリートでも目指すかと」

「まあ、それも悪くないけど、もしよかったら最初は私の取ったスイーツ、食べて貰えないかな。バレンタインと言うには手作りでもなんでもないけど」

 

 なるほどね、と頷きを返す。菓子をプレゼントする、というバレンタインの祝祭に、スイーツ食べ放題というチョイスをしたものだとばかり思っていたのだが、最初の一つ目にちゃんとプレゼントとして意味を持たせよう、と考えるのは実に真面目なチヒロらしい。

 

「それで、何を……」

「お待たせしました、ご予約いただいてたものですね」

「取り置きなんて普段はやってないだろうに、無茶を聞いてもらってすみません」

 

 皿を運んできた店員が、チヒロの言葉に首を振って「いえ、そんな滅相もない!」と言いつつ皿を僕とチヒロの間にひとつ置く。

 

「これは……」

「こちら、チョコのバウムクーヘンになります!」

「すごいね、写真よりもずっとすごい」

「ありがとうございます! ご予約いただいた時から気合を入れてお作りさせていただいたんですよー、よかったです!」

 

 皿の上に鎮座していたのは、何層にも重なる生地を年輪のように重ねた、バウムクーヘン。外側をチョコが覆い、内側はホイップクリームか生クリームか。なんにせよクリームで穴を埋め尽くされている。

 

「切りましょうか? それとも、ご自分で切り出されます?」

「お気遣いどうもありがとう。でも、大丈夫。……それくらいは、やってあげた方がいいかと思うんだ」

「そうですね。……ふふ、そちらの方とお付き合いされてるんですか?」

 

 チヒロはやや顔を赤らめながらも、「えぇ。少し前から」と答えると、店員はまあ、と笑みを浮かべた。

 

「よくお似合いですし……それに、バウムクーヘン……えぇ、素敵なチョイスだと思います! とっても!」

 

 店員はそう言ってから、「飲み放題のドリンクとは別に、特別なコーヒーをバレンタインの日にはカップルのお客様にサービスしてるんです」と軽く笑いながら言う。

 

「特別なコーヒー……よかったら、貰ってもいいですか?」

「僕も興味がある。貰おうかな」

「はい、お二つお持ちしますね!」

 

 店員の彼女が立ち去って、僕は疑問に思っていたことをチヒロに問いかけた。

 

「バウムクーヘンか。バレンタインに送る菓子には意味があるらしいとは聞いたことがあるんだが、どういうあれそれなんだ」

「それ、贈り主の私に聞く? ……いいよ、教えたげる」

 

 チヒロは赤らめた頬をそのままに、僕の顔を真っ直ぐ見る。

 

「バウムクーヘンは、『幸せが重なるように』って意味を持ったお菓子なんだよ。チョコなのはまあ、バレンタインだからせっかくだしと思ったんだけどね」

 

『幸せが重なるように』。チヒロは、噛み締めるようにその言葉を紡いでいた。

 

「重なるように、か。僕は君を幸せにできているのかな」

「うん。今も、これまでも。あの日からずっと、夢を見ているみたい」

「そうか。なら、これからもその幸せを重ねられるように。僕もより努力するかな」

 

 そう言いながら、ホールのバウムクーヘンの上に乗った、ハッピーバレンタインと記されたチョコプレートをつまみ上げる。

 

「菓子言葉には詳しくないんだが、チョコの菓子言葉くらいは知ってるつもりだ。僕なりの答えとして、受け取ってもらうとしよう」

 

 チヒロにゆっくりと、手に持ったチョコプレートを近づける。

 

「チヒロ、口を開けなよ。あーんってやつだ」

「っ……は、恥ずかしいから……っ!」

「構うものか。今日くらい恥はかき捨てということにしよう」

 

 うぅっ……! と呻きながら、チヒロは小さなチョコプレートの半分ほどを齧りとる。

 

 チョコの菓子言葉。『私も同じ気持ち』……伝わっていればいいし、きっと伝わっている。そう思いながら、残り半分を口に放り込む。

 

「なぁ……っ!!?」

「ん。甘すぎないビターな感じとクリームがよくあって美味いな」

「チハヤは……時折、とてつもなく大胆になるよね。今日は狙ってやってるんだろうけどさ……っ」

 

 チヒロにだけは言われたくないことだと内心で一人思う。大概チヒロも行動を起こす側になればかなり大胆なことを躊躇わないので。

 

 とはいえ、言っても仕方ないこと。今は、そうだな。

 

「まあ、好きな人にやることだからな。当然、このくらいはしてもいいと思ってるし、ラインを超えない範囲だと認識してるが」

「……もうっ。ずっと言ってるけど、あんまりドキドキさせないでよ……公共の場なのもあるし」

「心臓に悪いっていうのはお互いさまじゃないか?」

 

 もう、と改めて優しく口にしたチヒロは、バウムクーヘンを切り分けていく。6等分にバウムクーヘンがきっちり切られたあと、先程の店員がコーヒーカップをふたつ運んできた。

 

「こちら、限定のラテアート入りのエスプレッソコーヒーですね」

 

 スチームミルクにより、白いハートの模様が3つ浮かべられたコーヒーが僕とチヒロの前に置かれる。

 

「へぇ……すごい。これは、あなたが?」

「あ、はい。趣味で少し……以前のバイト先だった喫茶店の技術を使っていいと言われていて」

「なるほど。すごい精巧な技術だ……ありがとう」

 

 彼女は嬉しそうに頭を下げて、また去っていく。

 

 コーヒーカップを二人同時に傾け、模様が崩れるのも気にせずに味わいを楽しむ。悪くない。どこかで飲んだような覚えもあるのだが。

 

「うん、美味しい。深みがしっかりあって、スチームミルクもちょうどいい」

「よくスイーツに合うんだろうことがわかるね。さて、バウムクーヘン、ひとつもらっても?」

「いいけど、少し待ってよ」

 

 そういうなり、チヒロは6等分のバウムクーヘンのうちひとつをさらに細かく切り分ける。一口大のそれを、フォークにさして。

 

「ほ、ほら。チハヤも口開けてよ……」

「ん……? あ、あぁ」

 

 甘やかな味わい。だが、その全てを把握することは出来ず。

 

「なるほど。先程の君の気持ちが少しなりとも理解できた。緊張からか味が分からん」

「私はそこまででは、なかったかも……?」

 

 そのままチヒロは残りのバウムクーヘンを僕がチョコプレートでそうしたように口に運んだ。

 

「うん、美味しい。とってもね」

「チヒロのチョイスに間違いはないな。ことこういうのでも外したことないだろ」

「信頼されると期待が重いな。外せない」

 

 チヒロがそう言って笑うので、僕もまた笑う。バレンタインの祝祭を記念したスイーツ食べ放題は、この後僕らが満腹になり、若干の胃もたれに悩まされるまで続くことになった。

 

「……っく、ふぅ……」

「さすがに、食べすぎかな……少し、歩いて帰ろうか」

「同意するよ……このままじゃ幸せ太りって言うにも限度がある太り方をする……」

 

 店を出る。足取りが重い。本当に苦しいというわけじゃあないが、満腹なことには変わりなく。

 

「ね、チハヤ……今日、このあと予定ある?」

「ないな。チヒロは?」

「もちろん、空けてあるよ……さすがにまだ、別れるのには早すぎると思うんだよね」

 

 チヒロがそう言いながら、繋いでいる手を離し、また繋ぐ……いや、絡めるようにしてきた。

 

「ねぇ……チハヤ。ちょっとだけ、時間として早いけどさ。なら、ふたりでゆったり過ごせばいいと思わない?」

「そうだな。だけれど、場所に心当たりは無いぞ」

「もう……ヴェリタスの拠点じゃなくて、チハヤの準備室に行きたいな。どう?」

 

 ヴェリタスの部室ではなく、僕の情報処理部の、準備室へ行きたい。その言葉の意味は、本当の二人きりになりたいという意味に他ならない。

 

 なにせ、情報処理準備室は半ば僕の私室のようなものなのだから。

 

「……まあ、君の頼みなら構わないよ」

「そう? ありがと。……それじゃ、行こっか」

「あぁ。帰ろう」

 

 この後、僕は精神的に多大な負荷を負いながらも彼女の猛攻を耐えたことをここに宣言する。

 

 ……よく、頑張ったと思うのだ。僕は。

 

 その後この件を知った後輩たちの、「嘘だろお前」みたいな目線を受ける度に、そう思うことしか僕にはできなかった。

 

 




バレンタイン短編でした。ありがとうございました。

感想評価等いただけると幸いです。モチベのために。ちなみにここすきも実はちゃんと確認してるのでいただけたら小躍りをしています。

次回もまた、よろしくお願いいたします。
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