【第二部完結】各務に想う 〜いつになったら財務会計ってもんをみんな覚えてくれるんだろうか〜 作:ふぃーあ
きっかけはほんの些細な雑談からだった。ミレニアムの生徒とい
うのは総じて、寮住まいの生徒も含めて何故か学内に泊まろうとするバカ揃いだという話から。
「チハヤは情報処理準備室で寝泊まりしてるんだよね」
「そうだよ。ミレニアムは便利すぎてな……家の意義を見失う」
寮住まいも居れば、自治区内に居を構える者もいる。僕は後者で、小さな家を保有している。……あまり使わないが。
というのも、ミレニアムにはおおよそ生活に必要なものが揃ってしまっているのだ。生活用品は購買部で揃わないものの方が珍しいし、少し歩くがシャワールームも校舎内には存在している。
夜間消灯後の安全もバッチリで、危険な区域や侵入のリスクがある部分には巡回警備ドローンが配備されている。
「あんまり帰る理由が見いだせなくてな……」
つまりそういうことだ。一度でも学内で泊まるという横着をした者は、もう逃れられない。もちろんそれは僕も例外ではないわけで。
「ホコリとか溜まってそうだね。どのくらい帰ってないのさ」
「僕が掃除できなくても、清掃が本業のメイドさんことC&Cにはちょくちょく正しい意味での掃除を頼んでるからな。何だかんだ清潔な状態ではあるはずだけど」
「あぁなるほど……?」
あぁでも、ふと思い出す。まだ、そういえばチヒロにひとつ借りがあったっけ。誘い方はどうしようか、そうだなあ……と考えながら口を開く。
「チヒロ、僕の家に来ないか」
「えっ? ……それは、その」
……なんでだ、すごく語弊があるように聞こえる。そんなはずじゃなかったんだが?
「あぁーっと、すまない。言葉不足だった。言われてみて思い出したから今日は家で飯を作る予定を作ったんだが、チヒロも良ければどうかと思ったんだ」
「なるほど……全く。心臓に悪いよ? お邪魔しようかな、そういうことなら」
「あぁ。水炊きの礼も済んでいないし、ぜひ来てくれると嬉しい」
そんなわけで、僕は大切な彼女を僕の本当の意味でのパーソナルスペースに招き入れることになったのである。
こじんまりとした家の扉を開くと、あまり広くはない、一人暮らしの男の部屋がそこにある。つまるところ、いつもの僕の部屋だ。
C&Cはよくやってくれているらしい、ひとつも不備なく、綺麗に片付けられた室内ながらに男の居室として違和感がない。
「ほら、上がってくれ」
「お邪魔します。……いい部屋だね、整理整頓がされてる」
「全部メイド共に貸し付けたツケのおかげだけどね」
そう笑いながら言う。なんだかんだで定期的に掃除をしてもらう程度にはまだ書類整理の恩を感じてくれているらしく、使わない家としちゃ十二分すぎるほどに綺麗なのだ、ここは。
「それで、飯なんだけどね。出来ればチヒロの好きな物を作りたいんだ」
「……特に好みとかはないんだけど、そうだな……チハヤの作れる料理の中で、一番自信のあるもの、とかどう?」
「む。……言ったな、僕を試すつもりか。いいよ、やってみよう」
チヒロの好みを求めたが、チヒロからのオーダーは『シェフのスペシャリテ』。ならばそれはそれでいい、僕なりのスペシャリテを見せてやると意気込む。
「そういえば食材は?」
「実は購買部と契約しててね。注文してから30分もすれば届く」
「購買って配達もやってたんだ……使わないからな、購買部の野菜生鮮……」
購買部が意外と便利だということをチヒロが知り感嘆するなど、色々ありながら無事に注文を済ませ食材を手配して。
暇な30分はアニメを見ることにした。一話完結のギャグアニメだ、前後半で同じ内容を二度流すが、声優が違う上アドリブが豊富で飽きない、という奇妙なアニメだが、これがまた面白かった。
しばらくして、食材が届く。ドローンに入れて配送となると、いささか中身が心配にもなるが、とはいえそこはミレニアム。梱包に最近開発された緩衝材を使うなど心配りに余念が無い。
「チヒロ、食材も来たし始めるよ。先に料理名を伝えておこうか?」
「……そうだね。チハヤの一番自信のある料理、聞かせて?」
僕は瞑目し、そして一言。
「チャーハン、さ。見たければ見ていくかい? 調理過程」
「そうさせてもらおうかな。チハヤの作る家庭料理には興味があるし」
「うん。好きに見ていってくれ」
かくして、調理が始まる。ボックスの中から取り出されるのはネギ、たまごにチャーシュー。元より家にあった米は事前に炊いてある。
「米……は、だいぶ硬めだね。これは?」
「古米に粗塩をひとつまみ、それから普段よりも水を少なめにして炊いてある。パラパラにするためのひと工夫みたいなもんさ」
こうすることで、水分が抜け、硬めに仕上がる。どうもキヴォトスの新米は美味いのだが、水分が多く、べちゃっとした仕上がりになりがちだ。それを嫌うと、こういう風な工夫をしなければならない。
それから、冷凍の冷やし飯を入れるのも良くない。なにせ、水が出るから。温度をあげるのが大変になるようなことはしない方がいい、当然のことだ。火力勝負なのだ、チャーハンという料理は。
ちなみにここまでもこれからも、僕のチャーハンに関する知識、発言は『玄武商会監修! 本場の料理人の教える美味しい炒飯の作り方』(玄武商会会長 朱城ルミ 著)と、経験によるものだ。
「次に……チヒロ、そこ開けてもらっていいか? そのレバーを下に引いてもらって……」
「こう? ……ってうわっ!?」
「そう。そこ引くと調味料類のまとめ棚が下から出てくるんだよ、すごいだろ? エンジニア部に依頼したら半日でやってくれた」
ネギを刻む僕は、チヒロの驚く声に少しだけ口角を上げる。
どうして帰らない家にそう手を入れるのかと聞かれることがあったが、分からない。これこそが「ロマン」なのだとエンジニア部を説得したことを思い出す。
「それじゃ、炒めるとしようか。本格的な鉄鍋もあるんだよ、僕の個人的な趣味に昔料理があってさ。こと、山海経の方の料理は歴史もあるし奥深いし簡単だ。ハマっちゃって、さ」
「なるほど……いや、なるほどで済ませるものなのかはわからないけど」
「そんなもんでいいよ。さて、では本命だな」
鉄鍋を火にかける。よく育っている鉄鍋を熱して、脂を叩き込み、たまごは白身をより分けて黄身だけを用意。二人分の黄身を用意して、米を少し大きめの茶碗に2杯。
ふつふつと脂が煮えるのを目視して、まずは黄身を。
「……さあ、勝負と行こうか!」
追ってすぐ米を叩き込み、素早く鉄鍋を振る。ここからは時間との勝負、遅ければ味という料理における『すべて』を損なうのだ。
激しく、素早く、されど零さない。火の勢いはMAX一択、エンジニア部にこれまた改造してもらった超高火力コンロが業務用もかくやとばかりに火をあげる。
「これは、すごいね……っ!」
「シンプルなチャーハンにこそ、料理人の腕が出るんだ!」
シャカシャカシャカシャカッ、と小気味よく素早く鍋を振ると、米一粒一粒へ黄身がまとわりついていく。それをしっかりと目視してから、お玉で調味料類をすくい上げ、放り込む。
「水分は甘えだ、調味料は粒状が望ましい。水気は敵だね!」
「そ、そうなんだ……?」
「あぁ!」
チヒロが若干慄いて、いや引いているような気もするが、気のせいだろう。鶏ガラスープの素を投入。最後に一気に炒めて、おたまに鉄鍋のスナップでチャーハンを乗せれば……!
「よし。これで、完成だ……! 黄金チャーハンってやつだね」
「手際いいね。それに、こぼれもないし……」
「ま、昔は死ぬほど作ったからな。マジで、文字通り、一切の比喩なく、僕の青春の一部分をこのチャーハンが作ってる」
あんまり僕は僕自身の過去を話さない。それは、話すまでもない平凡な暮らしをしている自覚があるからだが、そこに僕の人生があり、積み重ねた何かがあるということ自体は、変わることではないのだ。
「バイトでもしてたの?」
「そんな感じ。気にすることでもないよ」
「うんまあ、気が向いたら教えてよ。あなたの全部を知りたいから」
考えておく、と僕はそう言って、皿に丸く盛ったチャーハンをチヒロに渡した。皿の端に、レンゲを添える。
「とりあえず、お待ちどうさま。向こうに持って行って、食べようか」
「うん。とても美味しそうだし、温かいうちに食べたいかな」
そう言うチヒロと共にリビングへ戻り、いただきますだけ言ってレンゲを潜らせる。
「パラパラですごく美味しい……お店の味に近いのかな、それでもそれより美味しく感じる」
「どうも。君の水炊きとはまた条件が違う中での僕の全力だが、それでも返礼になっていたら嬉しいな。君の水炊きは味もさることながら、なんというか……優しかったから」
「ふふ。そう? ……また、作ってあげようか。その時は、ここで」
チヒロの言葉に僕は頷きを返す。是非ともお願いしたいところだ、という意味を込めて。そして、言葉を追いかけて次の言葉に繋ぐ。
「ただ、君に任せきりなのも貸しが増えそうだ。一緒に作ることにしないか」
「そうしよっか。チハヤがそうしたいなら」
「あぁ。鍋はやはり、囲んで一緒にやってなんぼだろ? ……時間作って、ふたりでやろう」
二人で笑い合いながら、僕もチャーハンを口に運び、ひとつ頷く。我ながらよく出来ている。というか、出来すぎだ。……チヒロが褒めてくれたという補正でもかかっているのか? 単純な男だな、僕は。
「そうだな、チヒロ。次は、泊まりがけにでもしてみるか?」
「……チハヤ。何を言ってるか分かってる? ……泊まったら、私、止まらないけど」
「……自制してください、と言っておくか」
「無理だけど? うん、絶対に無理。チハヤだって私が隣にいたら怪しくならないの?」
僕は静かに夢想する。チヒロが山間のテントではなく、僕のベッドで眠る姿を。そして、静かにそれが別の意味を持ち始め、僕は思考を打ち切らざるを得なくなる。
「ごめん。僕が悪かった。どうか許してくれ」
「分かれば、いいんだけど。というか私はいいってずっと言ってるのに」
「……君には到底勝てそうもない」
僕は静かにそうため息をついた。
改めて本当に更新できず申し訳ない。明日以降また頑張って書くんですけど、夜勤や早出が増えていきますので気合い入れます。
いつも通り作者を応援してやってもいいと思う方が居られましたら、評価や感想をお願いいたします。ここすきも拝見していますので、ぜひお願いしますね。それではまた。