【第二部完結】各務に想う 〜いつになったら財務会計ってもんをみんな覚えてくれるんだろうか〜 作:ふぃーあ
「チヒロ、ショッピングモールに行かないか」
僕がそう切り出したのは、とある日の午前のことだった。
「え? ……いいけど、珍しいね。買い物?」
「ま、そんなとこだよ。少しだけ、欲しいものがあって。一緒に選びたいんだ」
僕はあくまで不自然でないように、必死になりながら連れ出すための誘いをかけ、そしてチヒロは僕の焦りをついぞ知ることなく頷いてくれた。
そんなわけで、その手を取り共に赴いた、いつぞやキャンプ用品を集めるためにやってきたこのショッピングモール。チヒロに何を求めているのかを悟らせないために、最初は。
「この服は君が選んでくれたやつだ、覚えてる? 服に興味がある訳じゃないが、多少は見栄えの良いものじゃなきゃ君のそばにはいられない。つまるところ、服選びってわけさ。センスは君の方があるだろ?」
そういうと、チヒロの眼鏡がきらりと輝いたように見えた。……見え透いた地雷を、わざわざ自分から踏んだのだから当然だが。
「ふふ、やっと関心を持ったんだね。分かった、存分にコーディネートのイロハを教えてあげる……!」
まあ、随分と長くなりそうだった。というか、長くなった。チヒロに着せ替えられながら、様々に指導を受けること2時間半。
「うん、これもよく似合ってるよ。そっちのと、こっちのと……どっちが好みかであとは選びなよ」
その一言でチヒロの授業から解き放たれた僕。しかし、僕としてはまだチヒロを夢中にさせておきたい理由がある。ということは、だ。
「あぁ。……それと、今日は君の服も見るか? この後君が良ければ、だが」
「……いいの? 女の子の服選びは、長いよ?」
「もちろん。せっかくふたりで来たんだ、荷物持ちでもなんでも使ってくれと思うし、君の楽しめるようにしたいと思う」
僕の服をひとまずさっと購入し、その後チヒロの服も見ていく。
「……こ、こういうのは……似合う?」
「ワンピース的な服か。可愛らしいと思う」
「そ、そっか……でも、少し恥ずかしいかも」
……普段、あんなに短い丈のスカートを履いておいて恥ずかしいのか? と思っても口に出さないのが男というものだ。僕も少しは分かってきたかな? チヒロのワンピース姿を喝采で迎えながらそんなことを思う。
「うん、やっぱりこういうのかな」
次はジーパンにシャツを合わせた無難な着こなしへ。そこにベージュの上着を羽織ればカッコもつくし、チヒロの雰囲気にもよくあっている。
「それから……夏用のはこれとか?」
ノースリーブ。貫禄のノースリーブだ。チヒロの二の腕や脇が露出しているのは珍しい。ブラボー! ……いや、そうではなくて。
「うん、どれも似合っている。やっぱりチヒロはすごいよ」
そう褒め称えると、チヒロは照れ隠しに笑う。
チヒロとショッピングデートというのも、悪くはないものだ。前回の暴走は記憶に新しいが、とはいえそれもチヒロの愛らしい一面である。
ちなみに、チヒロの服選びはなんときっかり2時間かかった。僕は授業ついでに服を選んでもらったのに、彼女は服を選ぶことに専念して2時間だ。ほんとに、女子の服選びは長い。チヒロ以外に付き合わされるのは勘弁だな、と思いつつ、フードコートのファストフードでさくっと昼を済ませる。
「奢りでよかったんだが?」
「まあ、甘えすぎも良くないかなって。多少は自分で出さなきゃね」
「そこでそういう言葉になるあたり、君は本当に人間性のできた人だな……」
だが、本題は結局これからだ。そう、僕からすればこれからなのだ。
「まあ、いい。で、チヒロ。本題と行こう。向こうも準備が出来たようだしね」
「……準備?」
チヒロの手を引いて、僕が向かったのはアクセサリーショップだった。最近モールにオープンした新店である。
「ここって……」
「アクセサリーショップだよ、ご覧の通りだ」
「欲しいものって、アクセサリーのことね。ネックレスとか?」
チヒロがそう僕に問う。以前僕に服のことでアドバイスしてくれた時、チヒロは僕に「首周りを飾るものがあってもいい」という旨を話した。恐らく、それを覚えているのだろう。
流石にチヒロ自身が言ったこととはいえどもよく覚えているな、と思っていると、店員が表にやってくる。
「お客様、本日は何をお探しですか?」
そう首を傾げるようにして問いかけてくる店員に、僕は今日の目的を告げた。
「ペアの、アクセサリーを探しに」
「……チハヤ!?」
「それはそれは……かしこまりました。気合を入れて、お探しさせていただきます。よろしくお願いいたします」
チヒロが驚いているのを見て、僕はドッキリ大成功とばかりの軽い笑みを浮かべる。
「ちょ、っと……ちょっと待って? ペアのアクセサリー?」
「なんにも話さないで悪いな。けど、まあそういうことだ。欲しくなってね、『残る形』が。嫌だったかな?」
「それは……その、嬉しい、けど……」
ならいいじゃないか、と僕はチヒロを押し切る。
「どのようなアクセサリーをお考えですか?」
「あぁ……ええと、リングを。できればチェーンを通したらネックレスになるようなものが望ましいんですが」
僕としては、なんとなく贈り物のアクセサリーと言えば『指輪』と『ネックレス』というイメージがある。
指輪を選びたいのだが、普段使いというか学校にいる間につけるのが恥ずかしいのと、携帯しておく分にもつけておく必要があるため、ネックレスにできるのが一番楽と僕はそう考えていた。
「……ゆ、指輪……ネックレス?」
「チヒロがゆだっている……初めて見たんだが?」
「だって……焦るでしょ!? なんでそんな冷静なの……!」
そりゃ決まってる。自分より焦ったり恥じらったりしている君を見てしまったらこう、『すんっ』となるのが人間だからだ。
「あ、店員さん。これでサイズを選んでもらっても?」
紙を手渡す。実は、チヒロの指のサイズをこっそりと計測していたことがある。というか、コタマに1回分の貸しを作って計測させた。
「ありがとうございますー。ふむ、そうですねぇ。おふたりの親愛や、愛情を表すものが良いですよね……ううん、どれがいいかな……」
店員が頭を捻っているうちに、チヒロがさらに寄ってくる。
「い、いつの間にサイズまで……!」
「まあ、ちょっとだけ手伝ってもらってね」
「お待たせしました、いくつか候補をご用意させていただきましたので是非ともご覧下さい!」
そんな言葉と共に出された指輪の中から、店員はひとつを取り上げる。
「オススメはこれですねー。人の指って浮腫むんですよ、1号くらいズレる人も居るくらいにはー。なので、こちらのこのリングのようなものをオススメしています!」
そのリングは、店員曰く『ズレに強いオープンリング』であるという。さらに、刻印も入れることができるのだとか。
ならそれで構わないな、とうっすら思った。指輪の普段使いのしにくさは果てしないものがある。結構いつの間にかなくなるのも容易に想像できる。
「なら、それの類にしようかな。チヒロ、手を貸して?」
「え、えぇ、うん。はい」
差し出された右手を取り、薬指に指輪を通す。
「く、薬指……っ!?」
「うん。良く似合う。思った通りだ」
指輪がチヒロの右薬指に鈍く室内の光を反射した輝きを宿すのを見て、僕は満足気に頷く。
「よし。……僕もつけてみるか」
「わっ……私が、つけてあげるよ。ほら手を出して……んっ」
差し出した右手の薬指に、チヒロが指輪をはめてくれる。
「うん。……いいな、これで」
「でしたら、そちらにされますか?」
「ええ。お願いします」
首から下げても、自己主張をあまりしないそれを気に入った僕は、手早く購入の手続きを済ませる。
「こちら、チェーンは箱にお入れしてありますので、ぜひお使いください」
「どうもありがとうございます。使わせていただきます」
そう安くは無い金を払い、チヒロと共に店を出る。
「なんだかわからないうちに、指輪だけ増えた……」
チヒロはそう呟きながら、嬉しそうに指輪を撫でる。その姿を見ながら、僕は口を開いた。
「それは、僕なりの誠意のつもりだ」
それを用意した理由を、チヒロに伝えるためだ。
「誠意?」
「そうさ」
僕なりの誠意。アイギスがそうであったように、これもそうであるというだけの話だが。
「いつか、ちゃんとしたものを贈るから、ってことだよ。その時まで、左手の薬指は……開けてくれると、嬉しい」
「……! ふふ、わかった……いつまでも、待ってる」
「そんないつまでもは待たせないつもりだから。楽しみにしててくれ」
2人の右手に光る、ペアリング。この後つけっぱなしでミレニアムに戻り、めちゃくちゃに誤解されることになるのだが、それはまた、別の話。
今は。
「……うん。ありがとう、チハヤ……大好き」
「僕もだよ。大好きだ、チヒロ」
体を寄せ合う。愛する、たったひとりを想う。
甘く酸いような思い出をまたひとつ刻んだ僕らは、腕を絡め、指を絡め、歩む。
言葉にしようとしてもできない、膨大な想いを少しずつ切り分けて言葉にしながら、ミレニアムへの帰路に着いた。
どうもありがとうございました。次回もよろしくお願いします。
作者のモチベに繋がるので評価感想、ここすきもよろしくお願いいたします。
指輪ーっ!!(書きたかっただけ)(ペアリングだけどね)