【第二部完結】各務に想う 〜いつになったら財務会計ってもんをみんな覚えてくれるんだろうか〜   作:ふぃーあ

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第二部
プロローグ:廃滅の未来にて


 暗い空の下を歩む。足下、踏みしめる感覚は鉄の大地。

 

 なぜこうなったか、についてはわからない。いつの間にか氷原の先にあった、鋼の大陸はたった三日で世界を覆い尽くした。

 

 先生や、リオ、ヒマリたちとは連絡がつかない。逃げたのではないか、いやあるいは先んじてアレに挑んだのでは? もしかすれば、今回の異変の元凶やもしれぬ、とわいのわいのとあることない事吹聴している愚物共に呆れていたが、どうも、呆れている場合でもなかったらしい。

 

 世界を覆い尽くした鋼の大陸は、そのままとある存在の意志を世界に提示した。

 

『怒りも悲しみも、全て我が取り去ろう。二度と、誰もそれを思い出さなくとも良いように』

 

 それは慈悲深い神の声であり、しかし無慈悲な裁定者の声であった。

 

 抵抗を続けようとした者がいたはずだ、だがもう名前すら思い出せない。それらは取り去られてしまった。

 

 僕の中にあった存在に、そのまま空虚が上書きされている。二度と思い出さなくて良いように。

 

 そうして、キヴォトスは未来を失った。何もかもを失い、神に従うことだけが認められた世界に僕は絶望していた。

 

 そして、絶望は『とある存在』にとって認められざるものであった。

 

 それだけの理由で、僕は鋼鉄から突き出された槍に吊るされ、その命を奪われようとし。

 

「ぁ、あ……ぁぁぁぁあ゛っ!!!」

 

 己の中から、何が消えたのかを思い出した。最愛の人も、大切だった後輩も消えていたことに気がついた僕は、最後の抵抗にもがいた。当然『とある存在』はそれを認めず、僕は世界の端から無へと解けていく。

 

 ……それでも。まだ、僕には打てる手がある。この未来を、伝える必要がある。どこに? わからない。それでも、足掻く。

 

『無駄だ。神の眼前で何に祈るつもりだ?』

 

 神はそこにいる。故に、神が微笑むことはない。だが、此処まで藻掻き足掻く人間に憐憫を垂れ、そして何かを感じたモノがあった。それをなんといえば良かっただろう? 

 

「死んでもいい。どうなったっていい! もうみんな居ないんだ! 守りたかったものは、もう! なにもないんだ! ……なら、何でもいい! 僕にもなにか起こさせろ!!」

 

 僕の耳に、微かな囁き。それは幻聴だったろうか? いや、違う。それは祝福だった。それは呪いだった。それは原初の現象だった。

 

 虚空を引き裂き、『それ』はそこに現れた。万色を纏い、紫に輝き、暗く、明るく、そこにあることだけが分かる、光。

 

『……有り得ん! この存在は……!』

「っ、悪魔だろうが、なんだろうが知ったことか! 魂ごとくれてやる、契約だ……!」

『待て、止めろ……ッ!!』

 

 槍が僕の身体に突き刺さり、光の玉が僕の体をえぐり抜く。それでも、既に契約は果たされた。

 

 僕は立ち上がる。既にこの身は自由だ。誰も僕が拘束されているという認知をしていないのなら、僕は拘束されていないと言える。拘束されていないのなら、僕は自由であると言えた。

 

『なぜ、槍で地面に縫いとめられているのに……立てる』

「そうなっていないからだ。観測不足だろう」

 

 僕の周辺の温度が急激に下がり、僕の掌中に小さな押し込められた焔が現れる。

 

『……馬鹿な。第二法則の、無視……いや、悪魔の存在?』

「今この場で証明すればいいだろ? 第二法則くらい」

 

 その場を離れようとした、『とある存在』の動きに先駆けて、槍の破片ひとつを蹴り飛ばす。

 

 破片は飛び、当たり、跳ね返り、様々な現象を起こした。

 

『……なんだ、何が起きている……!』

「蝶が羽ばたけば、神とて手傷を負う」

『なっ』

 

 空間を引き裂き、今の僕の位相と『とある存在』の逃げた場所を繋げて通る。破片ひとつを蹴り飛ばした、それだけで起きたことが重なりあって、最終的に巨大なビルが倒壊した。その崩落の先は、この場所に。

 

 叩きつけられた大質量は、『とある存在』の鎮座するべきその神聖な間を破壊し、僕と『とある存在』は共に鋼の大地へと戻る。

 

「……計算通りの結果だ。何ら面白くない。だが、これでいい」

『……運命を、未来を……操作できるというのか』

 

 その言葉を笑い飛ばす。未来を操作できるなどということは有り得ないのだ。それは、相手も同じこと。

 

『なんだ? ……世界の状態が固着している。テキストの張替えが出来ん……!』

「世界のゴールが決まっていると仮定するなら、道中の全ては既に決まっていると考えてもいいはずだ。世界のゴールが変えられないなら、同じように道中も変えることはできない。見立ての問題だ」

『貴様……ッ!』

 

 たまたまと言うべきか、必然と言うべきか。僕の今悪魔から与えられた力は、この『とある存在』に対して特効を保有していた。

 

 改変を許さず、干渉を許さず。ありとあらゆる未解明の命題を悪用して、僕は自分と相手の敷いたルールをすり抜ける。

 

『なるほど、理解したぞ! パラドクスの悪用者か!』

「今更気付いたか? だが、それでどうにかなるのか?」

『……今の段階ではもうどうにもならんが……ならば!』

 

 手中にエネルギーを浮かべた『とある存在』は、それを僕に解き放つ。それは、僕にとっても望むべくも無いもの。

 

『何処へなりとも行け……お前を、この楽園より追放する!』

「望むべくもない。双方合意の上で、追放されてやる」

『……貴様の手の上で踊るしか無かったのは癪だが、我には他の人類を救済する大義がある。この世を捨てる訳には行かぬのだ』

 

 知ってる。だからそうなるように行動してきたわけで。

 

「他の世界に渡るなら……その世界では、お前が世界をこうすることそのものを、止めるよ」

『……そうであったとしても。我は、この世界を守る』

「他世界の自分など気にしてはいられないか。愚かな神もいたものだ」

 

 こうして、僕は他次元へ旅立つ。エネルギーの奔流に、世界を追われて。

 

 そして、僕を救った、あるいは呪った『それ』を追う。『それ』は意志を持って移動しているように思えたのだ。誰がなんと言ったわけでもなく、僕は『それ』の後をつけていき。

 

 そして、僕は、辿り着く。希望ある世界へ。これから奪われる世界へ。

 

 

 

 黒いドレスの少女が、地へ降り立つ。銃を無言で向ける先、立っているのは黒いスーツ、ひび割れた頭の男。知る人にも知らざる人にも、その者は『黒服』と呼ばれるだろうことは明らかな外見である。

 

「……色彩は、既に「名も無き神」と接触した後でしたか。これは、私の不手際です。狼の神の裏側、あまねく命を常世へと誘う死の神『アヌビス』。それが、あなたの『恐怖』であったと」

 

 黒服は、そう呟く。今にもトリガーを引こうとする彼女の前で、静かに諦めたように。それで、それっきりのはずだった。

 

「誰?」

 

 黒いドレスの少女がそう呟くと、そこにまるで最初からいたかのように、忽然とソレは現れた。認知したことで、存在が確定したかのように。

 

 黒服が初めて、その顔を驚愕に彩らせる。

 

「色彩と接触していたのは、ひとりだけではない? まさか、貴方が『恐怖』と成るとは……!」

 

 ソレの頭部は兎の頭部を模した異形に成り代わっていたが、それがぐにゃりと歪み、人のそれとなる。砕けた黒のヘイローが、その者の上に輝いている。

 

「認知の歪み、存在の二面性……シュレーディンガーの猫。なるほど……あなたが司るもの、『恐怖』に至った結末はそうなるのですね。あなたは『識の魔』と呼ばれるに相応しくなった! 興味深いですが……口惜しいですね」

 

 そう呟いた黒服は、降り立った人物の方を向こうとして、ドレスの少女にその身体を弾丸でもって貫かれた。

 

 沈黙する時間が暫し続き、ドレスの少女は銃を次は『識の魔』と呼ばれたモノに向ける。

 

「……あなたは何者?」

「不安に思わないで欲しい。君と同じ、『あれ』に見初められた者だ」

 

 そういう『識の魔』は、次やるべきことを提示されているのであろう『アヌビス』に向けて軽く皮肉げに口を開く。

 

「同一存在がいると誤魔化しが効かなくてダルそうだな」

「ん。……こっちの私を攫う」

「なるほど。行方不明にして、こちらの世界の君が『アヌビス』とやらになったのだと世界に誤認させるつもりか。面白い」

 

 僕にその手のあれそれはいらないからな、と『識の魔』はそう後付けて話した。

 

「今の僕は認知と観測、矛盾塊の具現化みたいなもんだからな。人の認知を捻じ曲げることができる以上、世界からの認知も同様に捻じ曲げることができるのは当然のことだ」

「……よくわからないけど、あなたはこっちの味方? それとも敵?」

「どうなるだろうか? それを見極めるために、君たちを観察させて欲しいんだよ」

 

『アヌビス』は露骨に嫌そうな顔をした。それは、『識の魔』の存在格を感じ取っているからであり、己と同じ『色彩』により反転した『恐怖』を敵に回すのは面倒だということを知っているからである。

 

「まあ、しばらくは君たちの味方だ。裏切ると決めれば僕は恐らく死ぬからね。『アレ』に与する限りは生きていられるだろうけど、そうじゃなきゃ単なる死体かもしれないし」

 

『識の魔』は最後にそう言うことで、『アヌビス』に一旦同道する旨を伝えたのである。

 

 こうして、キヴォトスに悲劇を終えた世界の神と、未解決の神秘の具現化が並び立つ。

 

「……それでは、世界の終末を眺めようか」

 

 あまねく物語の、終焉をここに。世界よ越えてみせてくれ、と『識の魔』は願う。

 

「僕が消え失せてでも、守る価値がある未来があるのか。見極めなきゃな」

 

 そう言うと、『識の魔』もまた、先に動き出した『アヌビス』に追随してその場を去った。

 

 

 




第二部あまねく奇跡の始発点編、開幕。グッピーを処刑していきます。そう長くはならない予定です、作者がチヒロとチハヤを書く上で通すべき筋を通すのが第二部となります。

また、しばらくお付き合いいただけると幸いです。

今回もありがとうございました。感想評価や、ここすきもモチベになるのでお願いしますね。それでは、また次回。
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