【第二部完結】各務に想う 〜いつになったら財務会計ってもんをみんな覚えてくれるんだろうか〜 作:ふぃーあ
空が赤く染まった。何を言っているのか分からないが、事実としてそうなった。僕の認識では、少なくともそうだった。ヒマリはリオが残したデータを見つけていたらしいが、それなしには予兆のひとつもなかったと言える。
すぐにシャーレと連邦生徒会から発出された、非常対策委員会の招集は、少なからず良い結果ではない方面に終わったらしい。
トリニティに、ゲヘナ。最近いろいろとあったらしい両校を主軸に、ミレニアムからは会長代理としてユウカ。その他各学園の会長やその名代を集めて行われた会議の結果としては、極めてお粗末と言わざるを得ない。
それだけではない、こんな折にも関わらず連邦生徒会の一部は不信任決議を決行。七神リン行政官を失脚させたと聞く。
「……んな事やってる暇あるのか、今!」
僕の声が響く。僕と、ヒマリと。それからチヒロ。三人だけで集まった、ヴェリタスの部室には、重い雰囲気が停滞していた。
「はっきり言えば、ありません。エネルギー反応は日に日に膨大なものとなり、専門知識のない人間でも検知可能なものへとなりました。現在、エネルギーの中心部に謎の構造物が出現しています」
「……構造物を起点にしたエネルギーが単に起爆するだけでも、とてつもない被害になる。そんな中で、連邦生徒会はなにをやってるの……!」
二人とも、言葉に余裕はない。不信と不安、そして焦燥が渦巻く中で、三者三様の通知音が部屋に鳴り響いた。
「……先生か! 状況が少しはまともになるといいが……!」
「内容は……キヴォトスの生徒への呼びかけ。なるほどね」
「先生がいてなお、あのザマなのかと疑っていましたが……なるほど、会議への同席はされておられなかったようですね」
それはそれで謎だが、しかし先生がそれをすっぽかすような人間でないことは知っている。ならば、何かがあったのだろうと考える方が適当だ。
僕とチヒロ、そしてヒマリは同時に結論を出す。
「先生に協力しましょう。シャーレに行けば良いのでしょうかね」
「異論ない。だが僕らがここを外すわけにはいかないな。リモート環境を整えるぞ、非常時のインフラ管理は僕らの仕事というわけじゃないが、アングラな人間にしかできないグレーゾーンがあることも事実だ」
「一つ一つ確実にやろう。無駄なことはしないつもりで……ヒマリ、シャーレに通信を繋ぐのは任せるね。私たちは支援の用意をする」
先生への協力をすることに決まってからは早い。先生が主体となって、非常対策委員会が再組織された。
それへ参加するべく、ヒマリと僕とチヒロ、それから改めて招集し直したヴェリタスの面々でシャーレへと通信を繋ぐ。
会議の内容は概ね僕らのそれまでに知り得る情報の他に新しいものは無かったが、明確にヒマリとチヒロが計算したところによる『臨界点』が明示された。
300:00:00。
それが、キヴォトスに残された時間であると推定される。そう、ヒマリとチヒロは結論付けた。
『つまり、300時間の間に、六つの構造物……タワーを破壊する必要があります。守護者を撃滅した上で、です』
守護者。ヒマリの見つけたリオのデータ曰く、その『虚妄のサンクトゥムタワー』なる構造物を守るものであると言われるそれを撃破しながら、地域住民を保護。事態の収束を目指すということになった。
それに際し、攻略作戦チームと防衛チームを分割して制作することも作戦として通達された。
『それじゃあ、私の主観になってしまうけれど。振り分けを発表するので従って欲しい!』
そうなれば、先生からヴェリタスにも当然呼び声がかかる。僕らヴェリタスがアサインされたのは、第五サンクトゥムの攻略作戦側。ミレニアムの外縁、廃墟に出現したサンクトゥムタワーだが、問題がひとつ。
「エリドゥが近い。……潜り込まれれば面倒だね」
「だからこそ、先に手を打った。みんなそれを前提に動いてくれている……あとひとつを除いて、だが。ミレニアムの外には僕の人脈はそう多くないからなあ……」
エリドゥ。リオの作り出した都市は、沈黙を保って未だそこにある。そして、サンクトゥムタワーの守護者を務めるのは、僕にとっても因縁深いデカグラマトンの預言者、ホド。
それがどういう動きをしてくるか、予想するなと言うほうが無理だ。事前に予想した図通り、ホドはエリドゥに侵入している。
「そうだね。……ちょっとまずいかな?」
「いや、向こうが設備を使える訳じゃない。それは救いだが……地下を自由に動かれるだけでも面倒だ」
一緒にアサインされたメンツを確認する。僕らヴェリタスに加え、セミナー、エンジニア部。それから……と考えていると、次の瞬間ゴンゴンゴンッ!! とドアを叩く音がした。
次の瞬間、「なんだ……押しドアか」と呆れたような声がして、扉が開く。
「やあ、失礼するぞ! ここがヴェリタスの部室ということで間違ってはいないか?」
なんだこいつは? と無礼な闖入者を見遣る。白衣を着込み、尾を伸ばす、短パンの少女。……まさかこいつ、噂をすればなんとやらというやつか?
「まず、名乗れ。誰だ」
「はーっはっはっ! 私は今回の作戦において君たちと同一の作戦群にアサインされた、温泉開発部部長の鬼怒川カスミだ! 今回はよろしく頼む!」
「……えらく愉快なやつがやって来たな。とにかく、椅子はある。座れ」
マジでそうだとは思わなかったが、温泉開発部の部長その人か。
ホド攻略に際し、アサインされた最後のグループ。それこそが温泉開発部であり、ゲヘナの危険な不良生徒のうちの一角、どこにでも温泉があると思えば爆破する危険なテロリスト集団だ。
早速カチコミあるいは挨拶に来たというわけか、と納得しつつチェアを一脚勧める。
「む、では失礼するぞ……おお、座り心地が良い……ではなく。今回は共同で作戦に当たる。主戦力は私たち温泉開発部が請け負おう」
カスミがそういうなり、通信が起動する。相手は早瀬ユウカ。現地にセミナーのみんなが出向いているのは先に述べた通りだから、恐らくは到着の報告か。
『聞こえていますか、天峰先輩! エリドゥに現着です!』
「早瀬、よく聞け。そっちに大規模な増援が行く」
「この私、鬼怒川カスミの手塩にかけた大部隊、温泉開発部の面々がな!!」
瞬間、ユウカの声が止まった。小さく、深呼吸するような音。受け入れられない現実を見たような、そんな様子でユウカは呟いた。
『えっ……温泉開発部のことを増援って言いました?』
「言った。そいつらと僕らは共同で事にあたる、そいつらにヘイトを押し付けて君らは支援に回れ」
『……わかりましたけど、なんか複雑です』
ユウカはなんとも言えなさそうな声色で通信を切った。さもありなん、温泉開発部を阻止できないとかなりの額面が飛んでいくので、財務会計者にとって彼女たちはある意味普通の敵よりよほどタチの悪い強敵なのだ。
「はっはっは! 酷いことを言うじゃないか! 温泉があれば掘る! 当然のことだろう!」
「まだ口には出してない、心を読むな。さて、鬼怒川さん。ホドにはいくつか機能があるが……温泉開発部のことだ、爆弾くらいは持ってるんだろうな」
「それはもちろん。どの部員もいつだって開発のための情熱と共に持ち合わせているとも!」
それはお前も? とは聞かないでおく。怖いことになりそうだったから。
「あぁもちろん私も持ち合わせているぞ? 起爆してやろうか、んー?」
「だから、心を読むな! 話を進めにくいだろうが!!」
「なんか、ええと……チハヤ、大丈夫……?」
「大丈夫なわけないだろ!!」
カスミにいちいち心を読まれ、チヒロに真剣に心配されながらも、僕はカスミに提案をする。
「んんっ……いい、切り替える。鬼怒川さん、インベイドピラーという概念がホドにはある。これを片っ端から破壊してもらいたいんだよ。エリドゥ全域が敵に回る、とか嫌だろう?」
「……なるほどな。わかった、任せてもらおう。温泉が埋まってるかの地質調査も兼ねてな!」
「そっちが本音だろうが……本音があるゆえに信頼できない訳じゃないのが癪だ。全て任せる、信じているぞ」
信じる、任せた。そう告げると、カスミは静かに瞳を一度閉じる。再び瞳を開いた時、そこから茶化すような雰囲気は消え失せていた。怜悧な瞳が、こちらを静かに見据えている。
「名前を聞いておこうかな、たらし野郎」
「不名誉な渾名だな。僕のことを言ってるのなら、僕はチハヤ。天峰チハヤだ」
「そうか、君がチハヤか……私はそちらを敵に回したくない。なので、その名前、確かに覚えておくことにするよ」
静かにそう言ったカスミは、また瞳を閉じ、開く。キラキラとした瞳を以てモニターを見つめる。……キャラを作ってやがったな、このバケモノ。
「さて。それでは、始めよう」
恐るべき切れ者が、道化の仮面を被り直す。居るところには居るものだ、恐るべき怪物も。ゲヘナだと侮っていたが、どうにも僕が間違っていたらしいと認識を改める。
高らかに鬼怒川カスミはトランシーバーに、己の声を叩き込む。
「温泉開発部諸君! 地質調査、及び撤去活動を開始する!!」
「ここからは僕がオペレートを担当する。各員、僕の指示に従う気があるなら聞いてくれ」
同時に僕もまた、ずっと前から手を動かしているチヒロを始めとしたヴェリタスの面々の代わりにオペレートを担当することを告げつつマイクに声を吹き込む。
「現地にいるミレニアムのみんなに連絡。ホドへのアタックをスタートしろ。インベイドピラーは温泉開発部に破壊させる。支援、遊撃は各員の判断に一任するが、最優先攻撃目標はホド本体」
地表に現れるホドを、ドローンカメラで確認する。……色こそ違えど、また会ったな。今回は逃さない。
「目標を視認。マーキング弾、発射……よし、固着を確認。ホドの位置を各員の端末へ共有する、ミッションスタートだ!」
やることは変わらない。例え、世界の終わりがそこにあるとしても。
僕は、動き出したホドをドローンを操作してカメラの中心に捉えながら、高らかに開幕を宣言した。
今回もありがとうございました。
気づいてなかったんですけど感想が100超えてましたね。どうもありがとうございます、いつも感謝しながら読んでますのでこれからもどうぞよろしくお願いします。