【第二部完結】各務に想う 〜いつになったら財務会計ってもんをみんな覚えてくれるんだろうか〜 作:ふぃーあ
開幕を宣言し、それに呼応して戦闘を開始した皆には悟られぬよう、僕は静かに息をつく。
ハッキリ言おう、この戦場は僕らにとって『不利すぎる』。
リオの作り出した要塞都市エリドゥ、その大半の機能は封鎖されているが、ヒマリの創り上げたそのロックもいつまで持つやらわかりはしない。
「現地組聞こえるね! 僕を最上位指揮とし、分割指揮に移行する!」
『えぇ、お任せします!』
『分かった。私達もそれぞれにことに当たる!』
何せ、ホドとはデカグラマトンの預言者であり、デカグラマトンとはハッキングという部門において、最高位にある人間のはずのヒマリを完膚無きまでに叩き潰した存在だから。
「マキはエンジニア部。ハレはセミナー。それぞれ支援してくれ」
「りょーかいっ!」
「わかってる!」
エリドゥがホドの手に落ちれば、撃破はほぼ不可能になるだろう。カスミには強気に「エリドゥが敵になるのは面倒だろう」と言ったが、そうなった時点で即詰みが見えている。
「鬼怒川さん、余剰人員はエリドゥの北側に欲しい! そこだけやや戦力が薄い!」
「分かった、回させよう。……メグ! 一個小隊分の余剰を北へ回せ!」
『OK! みんなー、パターンD!』
そんなことができる可能性のある相手に、五分のスタートを切ることができたこと。そのことがまずは安堵できる要素であり、一息をつくことを許す要素だった。
「チヒロ!」
「もうやってる! ホドへ一発ぶち込めばいいんでしょ!」
僕の視界には凄まじい量の情報が映り、消え、流れる。それらから必要な情報をピックアップ、必要な人間に必要なだけ横流ししていく。
必要、不要、頭の片隅に入れておくこと、もう忘れていいこと、早急に対処すべきこと……僕はそれらを分別し、区別し、適切に放り投げる。
最高位指揮官のやるべきこととはすなわち、適切な振り分けにある。
脳と口だけを回す仕事の片手間に、手を動かすのはやった方がいいことに過ぎないが、できるに越したことはない。リオがエリドゥに残していったAMASをこちらから起動。
「リオには悪いと思ってるんだよ、これでも!」
そのまま、リオのAMASをホドへ突撃させる。当然、というかなんというか、リオらしく仕込まれていた『自爆』のコーディングを、そのまま僕は稼働させる。
『……目標に爆撃、いえドローンの特攻? チハヤ先輩ですね!?』
「僕なりの援護だ! インベイドピラーが健在の時は、機械系列はほとんどゴミになるが、こういう使い方ならできる!」
「やるなたらしめ、機械に対する特攻効果持ちの守護者と聞いていたが自爆特攻は有効か!」
その同心円状の瞳の部分から、臨界点になったレーザーを放とうとしたホドが項垂れるように体勢を崩す。熱量のオーバーロードだ、つまり。
「「チャンスだ! 畳み掛けろ!!」」
僕とカスミの声が重なり、火力が一極に集中する。ホドに大きなダメージを与え、大きく生き物のように怯みのたうつ。……まさか、痛覚かなにかがあると?
「チヒロ! 準備は!!」
「できてる! オーバーライド、セットアップ!」
「打ちどころを間違うなよ!」
「言われなくとも……!」
チヒロと声を張り合う。チヒロの一撃が状況の結実となる、それはそう遠くない未来に用意されたゴール。
ならば僕はその未来を手繰り寄せる。盤面の全てで、そうなるように誘導する!
「鬼怒川さん! ペースを上げてくれ!」
「……無理を言ってくれるな君は! だが! 温泉開発部に不可能はない! メグ、前に出ろ、存分にやってくれ! 余剰人員も一斉攻撃だッ!!」
「早瀬! そっちからでいい、向こうのサイバーセキュリティに割くリソースを削って欲しい!」
『連れてきてよかったわ……分かりました! コユキ! 出番よ!!』
盤面を加速させる手は、二つ。両方ともに、僕の知らざる隠し球、けれど僕が予測していた隠し球。
『よぉし、部長からフルアタックの命令だ! 行くよーっ、温泉のためにー!』
温泉開発部の隠し球は、撤去のスペシャリスト下倉メグ。全てを撤去して更地に返す無邪気な悪魔が、インベイドピラーに火を放ち、灰へと還す。
『にははっ! 私も実はいましたーっ! ま、まあ、無理やり連れてこられたんですけどぉ……チハヤ先輩のためと言われたら着いてこない訳にはいかないじゃないですか!』
そして、セミナーのワイルドカード、セキュリティという概念の破壊者黒崎コユキ。叡智を持った白兎は、一鳴き一跳び、現れたはずの防壁をすり抜ける。
『これで、どうですかぁ!?』
「最高の成果……!」
「たまんないね、それっ!」
コユキが貫いたホドの防壁に、僕とチヒロは同時にバックドアを仕掛ける。侵食が始まり、無防備を晒すようになったホドのセキュリティを敢えて放置。
いつでも殴れるようになったのなら、それでいい。今殴る必要はない。やるべき時は、すぐ来る。
『燃えろー燃えろーっ! 全部撤去しちゃうよーっ!!』
メグはその間にも凄まじいスピードでインベイドピラーを燃やし、消し炭に変えていく。メグが前線に加わり、その速度を倍にもして、インベイドピラーを破壊しながら温泉開発部はホドの元へと突き進む。
そして、遂に望むべき時は来る。ホドの足元のホールから威容を覗かせるのは、そう。
「インベイドピラー! ついに来たな、『生成行動』が!」
弾切れになったのなら、当然リロードがあってしかるべきだろう。僕が狙っていた、千載一遇の好機。それは、インベイドピラーの『再度生成』の瞬間!
「逃さない……っ!」
『鏡』はもう僕の手中になく。だが、僕には今『各務』がいる。最強の手札は依然として、ここにある。ならば叩きつけよう、そのための下準備なのだから!
「防壁をコンプロマイズ! 行け!!」
防壁を完全に掌握。瞬間的に取り返そうとするホドの動きを読み切って、その横をすり抜ける僕の切り札。
「システム、オーバーライド!」
チヒロの一撃が、致命的な悪影響をホドに叩き込む。
ホドは、物理的な影響ではなく、次は内部からのエラーに項垂れるように沈黙する。足元から覗いたインベイドピラーは、そこにそのまま留まっていて。
「生成を止めた? ……なるほど、理解した! 温泉開発部! ありったけ叩きつけろ! あの邪魔な木偶の坊も撤去だ!!」
「よくわかってるじゃないか……! それでこそだ!」
四方八方から飛び交う弾丸、爆弾、榴弾、そして放射。ありとあらゆる攻撃がホドに浴びせかけられ、それでもホドは耐えきった。
そう、耐えきったのだ、僕の作り上げた最大の好機を。制御を取り返したホドが、再び動き出そうとする。そして、次の瞬間。
『にははっ! さっき誰にやられたのかすらわかってないんですかーっ!?』
切り札の第二手。一度限りではない。一度限りであってはならない。
強力なインパクトの後に、常在する、あるいは起動する影響もまた、切り札の条件。そして、その意味において黒崎コユキは真に『切り札』足りえる。
二度目のハッキング、次の白兎は防壁を飛び越えるのではなく、見えてしまった中核を全力で蹴り飛ばす。
「再度システムダウン……私も次の手を用意しなきゃね!」
「僕と君とで創ったチャンスと同じものをわずか一瞬でもう一度……つくづく味方でよかったな。それと、次は真似させないつもりでやろう」
こうして、三度目のハッキングが叩き込まれる。チヒロが再びオーバーライド、ホドから権限を奪い去る。
その間にも、ダメージは蓄積する。ホドに確かに熱量は溜まっていく。排熱も行えず、装甲は摩耗する。一射一射は塵芥であろうとも、重なればそれはいつかどんな装甲をも砕くことになる。
爆炎が熱した空気の陽炎が、ホドの姿をゆらめかせている。いや、違う。揺らめいたのは、陽炎の為ではなく。
ホドの機体が前傾する。それは、見紛うこともない真実。
最後のトドメは、チヒロの一手。
「通った……! メインプログラムを完全掌握。アドミン権限を獲得。ローカルにホドを隔離」
ホドに浮かんだヘイローが消える。ホドも、所詮は機械でしかない。AIで動く構造物に過ぎない。
「……撃破しないとダメなら自爆させるけど?」
「いや、まあ大丈夫……なはず。サンクトゥムタワーに攻撃は通るのか?」
「おーい、試してくれるか? メグ」
下倉メグが現場から指令する様子がカメラに映る。温泉開発部のメンツが、サンクトゥムタワーへ攻撃を仕掛け……
『あ、通るって!』
全員で安堵しているうちに、いつの間にやら虚妄のサンクトゥムが破壊された。座を見回すと、チヒロが微笑み、ハレ、コタマ、マキがそれぞれに頷き、そしてカスミが椅子を立つ。
「あとは君たちでやってくれたまえ。ミレニアムには温泉は湧かない、よく分かったとも! 共に勝利を祝うよりも、次なる開発を目指さねばならないのが我々温泉開発部だからな!」
はっはっは! と高らかに笑い、カスミは部屋を出ようとして。
「さらばだ、天峰チハヤ。どうか、二度と会わないことを願っているよ!」
最後にそう言い残して、鬼怒川カスミという嵐は来る時と同じように急激に去っていく。
故に、最後に言葉を述べる役回りは僕のものだ。
「第五サンクトゥム攻略戦、終了! ミッションは完全に達成された! みんな、無事に戻ってきなよ!」
その言葉に、部屋と、通信の先、その二つから同時に喜びの声が上がる。
第五サンクトゥム攻略戦、守護者『ホド』……撃破完了。
今回もありがとうございました。また次回もお願いします。
評価感想等いただけると幸いです。
あおはるレコードは読みましたか?私は読んで2回転半しました。絶頂。世の中は素晴らしい。同好の士に祝福があらんことを。