【第二部完結】各務に想う 〜いつになったら財務会計ってもんをみんな覚えてくれるんだろうか〜 作:ふぃーあ
「この有様か。全く、この間も処理したのに費用が嵩むな」
僕は床が粉微塵に破壊された通路の一角で立ち竦む少女に、そう声をかけた。
「あ、天峰先輩……! そうなんです! ネルがここでアリスちゃんと戦闘して……アリスちゃんが逃げるために床に……」
「なるほどねぇ。それで? C&Cはなんて?」
「『今回はうちが持つ。それでいいだろ?』って……なら最初から演習場を使ってくださいとは言いましたけど……」
『鏡』奪還戦という、ミレニアムの一大イベントにも等しい大事件が起きるとわかっていても、決めた通り不干渉を貫いた僕は、その後の後始末に奔走していた。
早瀬……セミナー会計、早瀬ユウカの頼みを受け、破損箇所の修繕と、新しい防衛セキュリティの監査を担当してシャッターのセキュリティを以前以上に引き上げると共に、ミレニアムセキュリティアドバイザーという大仰な立場に実はいるチヒロの協力を仰ぎより強固な防壁を構築し終えた、その日の暮れのことだ。
『先輩……本当に、申し訳ないんですが……もう一つだけ、お願いします……!』
早瀬からの泣き言のようなモモトークに導かれ向かった先が、粉微塵の床を残した通路である。曰く、天童アリスと美甘ネルの戦闘痕であるとか。
早瀬は立ち竦んでいたが、内側にある怒りと仕事に対する絶望が綯交ぜになって整理をつけられていないだけだろう。なぜ分かるのか? 僕も現場を見て3秒くらいはそうなったからだ。
「全く……荒っぽい時代錯誤の戦闘狂はこれだから困るな……ま、いつも通り賠償の請求をかけておくことだ。僕はここを雑損として処理して、賠償の納入のあり次第追加記入で完成するように損益計算を修正する……はぁ」
「……本当にごめんなさい、先輩」
「別に早瀬が悪い訳じゃあないのに謝るなよ……あのスカしたヤンキーはキッチリ今度シメる」
言葉の裏で僕は、この戦闘が行われた理由にアタリをつけていた。
確か、ネルは『鏡』奪還戦のタイミングでは本来帰ってくる予定のない任務に出ていたが帰還していたとのこと。これ自体は奪還戦の黒幕……推定リオかヒマリの差し金であるとして、ではなぜそうする必要があったかを考察する。
(……まあ、ネルとアリスの対戦カードを見るためなんだろうな)
そこまでは容易に想像がつく話だ。ネルは押しも押されぬミレニアム最強、その最強に対してアリスというイレギュラーがどのような対応を取るのかを見たかったというと、途端に考察がそれらしさを持つ。
「床にスーパーノヴァを打ち込んで粉塵の上がっているうちに撤退した、らしいんですけど……」
「それでこれか。まあ……下手にタイルだけ張り替えるよりは逆に安く済むんじゃないかな、うん」
そして実際にはそのカードが行われていないことも僕は知っていた。確か……花岡ユズと言ったか。ゲーム開発部の部長が機転を利かせてネルを引き剥がしたとか、なんとか。
ネルに真っ向から嘘をつくとは、とんでもないクソ度胸もいたものだ。ぜひ顔を拝んでみたいが、まあ一度それはいい。
「だいたい……この程度でしょうか?」
「額面的にはね。業者にツテがある、3割はカットできるんじゃないか?」
裏になにかがあって、動かされたという構図を美甘ネルは何らかの要素で自覚した。なんならあの戦いがアリスを見極めるものであったことも看破していたとしてもなんら不思議ではない。
となれば、あの戦闘狂が黙ってはい終わり、となるわけもない。恐らく、興味を示したのだろう。心情は推察する他ないが、そこまでして見極めたいなにかを自分も見極めたいと思った、というのが1番近しいだろうか?
「なんにせよ……もうちょっと場所は選んで欲しいな」
「ほんとですよね……」
呆れた声を漏らす早瀬に同情する。僕がしてやれるのはあくまで書類だけで、実務は早瀬がやる他ないのだ。その忙しさは想像に余りある。
そう思うとなんだか可哀想になって、今度こっそりコーヒーでも渡そうと決めたが、早瀬にコーヒーの好みを聞いていなかったのを思い出す。今度生塩に聞いてみることとしよう。覚えていれば。
「後始末といえば、ヴェリタスの方はどうなのですか」
「チヒロがそっちはやってるよ。セミナーのセキュリティシステムはセキュリティアドバイザー……チヒロの管轄で、自分の防壁を部の仲間に抜かれた形だ。ひとまず攻撃の方法を聞いて、対策を講じるとのことでね。ヴェリタスはそっちに全員回った」
「なるほど……それは大丈夫なのですか……?」
「チヒロがちゃんと見てるんだ。そこは信頼して欲しいかな」
そうやって微笑んでみせると、早瀬はばっと目線を逸らした。なにかついていたろうか、わからないがまあいい。
「ひとまず、僕は書類のまとめに戻る。また何かあれば連絡してくれ」
「はい、ありがとうございました!」
「うん。ではね」
戻る先は、情報処理部の部室……ではなく、ヴェリタスの部室だ。そこにはデスマーチが広がっていることが想定され、苦笑いが抑えられなかったが、中身はやはりというか僕の想定通りだった。
「言ってないできりきりと直す! 自分の始末は自分ですること、それから修正パッチをちゃんと当てる! 自分が使ったセキュリティホールは2度目は使わせないつもりで!」
「エナドリが足りてない……」
「やあ、差し入れだよ」
「あ! 先輩っ!」
しなびた様子の赤髪の少女がぴょこぴょことやってくる。最年少の後輩……一年生、小塗マキ。
「ほら、そこの突っ伏してる白髪にそれを渡してやれ」
「はーい! ほら、ハレ先輩! エナドリ! チハヤ先輩から!」
「……っ! ありがとう、チハヤ先輩……!」
缶を開け、流し込むように『妖怪MAX』を飲む白髪の2年生、小鈎ハレ。
「……結局、チハヤさんのご助力のおかげでネルさんというイレギュラーと遭遇せずアリスさんたちが脱出できたと言っても過言ではありませんでした。ありがとうございました」
「気にしないでくれ。僕は同胞として当然のことをしたまでだ」
「それでもです。あなたは感謝を受け取ってくれないだろうから」
「気にするなら今度缶のコーヒーでも奢ってもらおう。それでチャラだ」
礼儀正しく話す、金髪の少女……部内3人目の3年生にして、ヴェリタスに後発で加入した中では最も古株である音瀬コタマ。
この3人とチヒロ、そして僕。あと、今は特異現象捜査部に出向したヒマリを合わせた六名が、ヴェリタスのメンバーとなるわけだ。
「それで、終わりそうなのか?」
「なんとかね。ほぼ一から防壁を再構築したから、そう簡単には次はないと思うんだけど……やっぱり、人が常時張り付くのが理想なのは変わらないから」
「やはりそうなのか……チヒロの手をもってしても?」
「簡単に抜かせはしないし、カウンターも仕込んである。その上で、部長とかにやらせたら三分持つか持たないか、みたいな感じだから……」
その言葉に僕は笑った。なんというか、無駄な心配をしているな、という意味合いで。
「あのな、僕はヒマリとリオのことは人間の上位種という解釈をしているんだ。その手の存在のことは無視するのが重要だ、一般的になんとかなるものだけ僕らがなんとかすればいいんだ。上位種には上位種をぶつけるのが早いし、そうじゃなきゃ人海戦術でその場その場でやるしかない」
「……まあ、それもそうか。部長が敵に回ったとかそんなことが起きなければいいけど」
二人はそこで顔を見合わせる。
「(まあ、ヒマリなら大した理由もなしにセミナーのセキュリティウォールのハッキングくらいやるのでは? という意思がありありと浮かんだ苦虫を噛み潰したような表情)」
「(間違いなく部長なら作った防壁の確認と宣って試しのハッキングくらいは入れてくるだろうな、という負の信頼に振り切れた酷く暗い表情)」
なんとも信頼のないヴェリタス部長、明星ヒマリであった。
前話のコタマ周りを修正(三年生だが後輩という立場にあった)
☆10貰ったんでまた衝動で筆を進めました。ありがとうございます。
今回も評価感想等お待ちしておりますので、何卒。