【第二部完結】各務に想う 〜いつになったら財務会計ってもんをみんな覚えてくれるんだろうか〜   作:ふぃーあ

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観客を舞台へ送るために

 

優しく肩をゆすられる。仮眠室の天井は確かにそこにあり、そして視界の半分は見慣れたチヒロの顔が占領していた。

 

「チハヤ……1時間経った。起きて?」

「んんんっ、ふぁ……すまない、水……」

「言うだろうと思った……はい」

 

チヒロに手渡された水を飲むと、急激に頭が冴える。やはり先程までの自分とは明らかに異なる、一時間も眠れば随分楽だ。

 

「で、ペロロジラだのなんだのは僕の夢でいいんだな?」

「……まだ言うのそれ。現実もいいところだけど」

「ちょっとした冗談だ。いや、あの光景はさすがに冗談であって欲しかったんだが」

 

二人して部室へ繋がる扉を開け、部屋に戻る。チヒロは困ったような顔をして僕に説明を始めた。

「寝てる間にいろいろあったの。まずひとつ、今回の元凶の居場所がわかった」

 

曰く、超高空、78000mの宙に浮かぶ、巨大空中要塞『アトラ・ハシースの箱舟』。そこに真の敵がいるが、そこには『多次元解釈』なる概念によってバリアが張られており、まずそれを破る必要があるとかなんとか。

 

「多次元解釈……?」

「提唱したのはトリニティの浦和さんって人だね。ヒマリも理論に間違いはないって言ってたよ。私も確かめてみたけどどうやら反証するものはないみたい」

「へぇ……まあ、ゲヘナに居るくらいだからそりゃトリニティにもいるか、天性の頭脳持ち」

 

僕はそう納得した。ことこの辺のことに関しては、『チヒロとヒマリが両方納得するならそうだろうな』で納得することにしているのだ。

 

「対抗策がアビドス砂漠にあるって分かったから、アビドスの生徒が取りに行ったらしい。曰く、宇宙戦艦、らしくて」

「……は?宇宙戦艦だぁ?」

「そういう反応になるよね……なんか、そうらしい」

ウトナピシュティムの本船。そう呼称されているらしい、『対抗策の宇宙戦艦』に乗り込んで空を目指すというわけか?

 

そうチヒロに聞くと、肯定の言葉が帰ってくる。

 

「……なんとも、エンジニア部が喜びそうな話だ。主砲を作って本体を作れなかったアホどもだし」

「ね……。ちなみに、エンジニア部と私たちは先生たちの要請でこれからアビドスに向かうことになってる。手に入れたウトナピシュティムの本船を調べるために、だってさ」

「そうか。……僕も同行した方がいいか?それともここを守るべきか?」

 

その言葉にチヒロは少し考えてから、頷いた。

 

「もう窮地は去ったと思う。しばらくは大丈夫って先生も言ってたし……チハヤも来てよ。ある程度色んな分野に通じてる人間の知見も必要になるかもしれない」

「ならば、そうしよう。それならヘリを出すよ、アビドスに車で行くのは効率が悪い」

「出すって……機体は?」

 

いつだか、チヒロに『実はヘリを動かせる』と暴露した時があった。

 

そういやそんなことできたな僕、と思い出したので、学内のヘリコプターを持ち出せる権限を申請しておいたのだ。

 

「実はヘリ貸出可のライセンスがミレニアムにはあってな。……取得しておいた」

「……いつの間に……!」

「本当は空の旅でデートしたかったんだが、相当人数と相乗りで初ドライブと行こう。すまない」

 

すまない、で済むなら私驚かなくて済むんだけど?とチヒロからぽかぽかと軽く殴られつつも、ヴェリタスのメンツにも声をかける。

 

「さ、必要なもんをまとめな。僕はヘリを用意してくる、エンジニア部も呼んで学習棟Bの屋上に来てくれ」

「はーい!」

「……チハヤさんならと思っていましたが、案の定なんでもやるんですね」

「予想外ではない、というのは救いじゃないんだね。……用意してくる」

 

三人が用意のために立ち去ったのを見届けると、僕は立ち上がる。

 

「チヒロも、屋上でまた会おう。20分もせず用意するよ」

「あぁ、うん……なんだかなあ」

「平和になり次第今度こそはヘリでデートしようか」

 

チヒロは顔を赤らめながらも頷き、そして小さな声で呟く。

 

「それで誤魔化される私がちょろすぎるのかもね……」

「なんて?」

「ううん、なんでもないよ……じゃ、用意お願い」

 

セミナーに向かって、ノアに会い、ヘリライセンスを見せてヘリを借りる旨を伝える。

 

ここでもやはりヘリを動かせることに驚かれはしたが、そこよりも重要なことがあった。

 

それはノアの頼み事である。

 

「あの……もしよければ、アリスちゃんたちを連れて行って貰えますか?」

「……12人も乗せてけ、と?」

「エンジニア部、ヴェリタスのみなさんがいるのは承知の上なんですが……会長がまだアリスちゃんを狙っているのではないか、と私たちは不安で」

 

あぁ、と僕は声を漏らす。正直もう平気だと思いはするが、それを言うと僕がリオと僅かな繋がりがあることを悟られてしまう可能性があるため、僕はそれを断ることができなかった。

 

「……仕方ない。人数が人数だ、ヘリは搭載人数がデカイのを回してくれよ?」

「もちろんです。手配しておきますので、規定のポートから発進を」

「あぁ。それと、学習棟B屋上のヘリポートを借りるぞ」

「はい、そちらも埋めておきますね……これで完璧です」

「すまないが、頼む。それではね」

 

かくして、全員をヘリポートで拾い、僕らはアビドスに飛び立つ。

 

それなりにかかったものの、車で行くよりはずっと短い時間で到着したアビドス砂漠の一角、無人のカイザーPMCの基地にあったヘリポートに着陸した僕らは、そこで先生たちとも合流することになった。

 

「あ、チハヤ!来てくれたんだね!」

「えぇ、ヴェリタス及びエンジニア部、総員で参りました」

「頼みたいのは解析でね。お願いしてもいいかな?」

 

先生がそういうので、僕は後ろでうずうずしていてもたってもいられないような様子をしていた怪物たちを解き放つことにした。

 

「かしこまりました。……さあ、行けエンジニア部!仕事の時間だ!!」

「よぉし私たちが夢と希望の詰まった宇宙戦艦に対して解析という極めて重大な仕事ができる日が来るなんて本当に嬉しいよさあさっさと始めようそして昼と夜と寝食を忘れ没頭しよう諸君突撃だーっ!!」

 

凄まじい早口で未知へ挑まんと飛び出していくウタハの背を追って、エンジニア部のヒビキとコトリもまた瞳を輝かせながら飛び出していく。

 

それを『バカだなぁ』みたいな意味のこもったジト目で見つつ、僕はヴェリタスのみんなへ向き直った。

 

「……ま、待って。普通に、きつい」

「…………まさか、ここまでヘリが酔うものとは……!」

「先輩たち、大丈夫……?」

「だめ。むり。くるしい」

 

ハレとチヒロとコタマがダウンする死屍累々の状況に、僕は静かにため息をついた。

 

「せめてスマホ見るのはやめろって言ったろ……?」

「……そうですね。耳を塞ぐのも、やめた方が良かったですね。平衡感覚が……!」

「私とハレはそもそも普通に酔ったしね……うっ……く、ふぅ」

 

ハレは二の句すら継がぬほどの様子であったし、残り二人もまた辛そうにしている。ケロッとしているのはマキだけだ。

 

その様子を見て僕は改めて先生に向き直る。

 

「すみません。この有様なので、少し時間をください……」

「あぁ、うん……その、水とかいる?」

「できれば、お持ちくださると……一番理想的なのは梅か何かを食わせることなのですが……」

 

そんなもんはない。現実は無情だ。アビドスの生徒たちがどこからともなく持ってきた水をチヒロたちに配ると、チヒロたちの様子も良くなっていく。

 

結局作業に入ることができたのは現場に到着してエンジニア部が作業を開始してから三十分後であった。

 

と言っても、僕ができることはあまり多くない。というか、僕ができることはぶっちゃけコタマでもできる。だから僕は、先生と話をすることになっていた。

 

「……そういえば、お耳に入れたいことが」

「なにかな?チハヤ」

「真の敵とあいまみえたとお聞きしましたが」

 

あぁ、と先生の顔が固くなる。

 

「そうだね。会ったよ。シロコと、それから色彩の嚮導者にも」

「僕にも、接触してきた者がいて」

「……聞かせて欲しい。どんな人だった?」

 

先生に対して、僕はXの事を懇懇と話した。それは敵のようで敵ではなく、けれど必ずいつか敵になる者であると。そして、それと戦うことができるのはおそらく僕だけであるということと、勝ち筋は正体の看破であるということも、すべて。

 

「……そっか。その話は、チヒロにしたの?」

「まだ。ですが、この解析作業が終わり次第伝えます。彼女のパフォーマンスはこの局面では重要で、陰りがあってはいけませんし」

「人想いなのはいいことだけど、それ故に勘違いされるようなことがあってはいけないよ。チハヤはもう一度間違ってしまったという自認があるんだから、気をつけないとね」

 

その言葉に、僕は頷く。あの経験は心に刻み付けられた傷なのだ。傷が絆に変わった今も、ずっと痕の残った、傷。

 

「えぇ。……理解しています」

「ならいいんだけどね。そうか、観測者……そういうのもいたんだね」

「役者と舞台監督として先生のお会いしたという二人を置くと、Xはそこにいるべき『観客』というものでしょうね。色彩という存在は、どうやら思ったより凝り性なようです」

 

先生の考える時間が挟まり、無言になる。先生は静かに、僕に確認を取るように問を発した。

 

「勝てるの?」

「負ける理由がありません。すでに決着までの道筋も見えています。おそらく、向こうにとっても同様に勝つ理由が見えていないはず」

「それでも来ると思う?」

「来ます。必ず。先生たちが戦っている最中に」

 

最後に、と先生は言葉を繋ぐ。

 

「Xの正体を明かすことが勝ち筋、って説明で、正体はもう分かってるんだよね?……教えて欲しい。君と戦うのは、何?」

「その答えは、先生にも秘密ですよ。……この答えは、チヒロとだけ共有します。Xも、その方が望む決着を迎えられると思いますし」

「……どうしても?」

 

その言葉を、僕はえぇ、と一言返すことで否定した。さすがに無礼かと思って、言葉を付け足す。

 

「この戦いは戦いではないんです。なんというべきなのかは、わかりませんが……報い、あるいは労い。そういうものになると思います」

「……?」

「分からなくてもいいんです。たぶん、理解できるのは僕だけですから。ただ、そんなことがあったんだとだけ思っておいてくださいと、それだけのことです」

 

そう僕は最後に述べる。先生とキヴォトスのすべてが真の敵と戦う時、僕はただXと向き合うことになるということだけを、僕は先生に伝えておきたかったのだ。

 

天峰チハヤは、この最も重要な局面において盤上の駒としては存在しないと。僕はそう示したのだった。

 

 

 




昨日は更新できず申し訳ありませんでした。

今回もありがとうございました。次回もまたよろしくお願いいたします。感想評価ちゃんと見てるのでぜひお願いします。新規評価がつくたび跳ねて喜んでます。ベッドの上で。

それでは。
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