【第二部完結】各務に想う 〜いつになったら財務会計ってもんをみんな覚えてくれるんだろうか〜   作:ふぃーあ

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戦士へ送る愛

 結局、エンジニア部による調査と僕らの調査により、「わからない」ということ、それでも「推察できることはある」ということが分かったので調査は切り上げられた。

 

 このウトナピシュティムの本船は空を飛ぶ巨大な量子コンピュータである、と仮定し、ヒマリと僕とチヒロはそれを確かめるべくいくつかのデータと理論を照合し、確からしいことを示すことに成功した。

 

 ヒマリがものすごく、ものすごく不機嫌そうに言うには、仮定の段階から協力者がいたそうで。

 

『……』

『ほんっとうに気に食わないのですが、糾弾は全てが終わってからでも遅くありませんからね。今回は協力してもらうことになりました』

「なるほどな。リオの協力があれば『私はAMAS』……?」

『私はあくまでサポートAIに過ぎません』

「無理があると思わないか?」

 

 素直に僕もそうぼやくリオの棒演技だったが、まあ気まずいのは理解出来る。それに僕との繋がりを隠す必要もあるのだ、納得もしてやろう。仕方ない、今はこれを容認してやるしかないのか。

 

 とんだ大根役者だ、と言いそうになった口を閉じる。チヒロも口元をもにょつかせているあたり、考えることは同じらしい。

 

「あのさぁ……いや、なんでもない」

 

 頑張って言葉を抑えるチヒロに口角を緩めていると、先生からアトラ・ハシース攻略戦のために先生と空へ行くメンバーが発表された。

 

 アビドスの廃校対策委員会を中心戦闘メンツとして据え、キヴォトスに眠る頭脳たちを集めたオペレート体制。食事要員の美食研究会+給食部の部長さんに加え、ゲーム開発部の面々が天童アリスのサポートを理由に志願。

 

 合計二十二名が空の彼方に旅立つことになった。そして、ヴェリタスは地上においてヒマリを筆頭としたメインオペレータと接続し、その支援を行うこととなったわけだが。

 

「……参加出来ない? どういうこと? チハヤ」

「言葉通りの意味合いだ。僕は、アトラ・ハシース占領戦に参加出来ない。ヴェリタスは僕抜きで活動してもらうことになる」

「それは……ちゃんと、説明してくれるんだよね?」

 

 あぁ、と僕は頷いた。きちんと話す。その覚悟はできている。

 

 彼女の手を引いて、僕は外に出た。……アビドス砂漠の夜は、冷えるな。

 

「寒くないか?」

「ううん。大丈夫」

「そっか。それなら、いいんだ」

 

 そうして、僕とチヒロはヘリまで行く。ヘリを動かす訳じゃないが、なんとなく落ち着けて話したかったのかもしれない。

 

「それで、どういうわけ? 参加出来ないなんて」

「簡潔に言うよ、チヒロ。……もうひとつ、向き合わなければならない脅威があるんだ。それを僕は打ち倒せる手段がある。僕以外にはその手段は取りえない。対処には僕が出る必要がある」

「……それは、アトラ・ハシースの箱舟と同じだけの脅威、ということ? そして、本当にあなただけしかできないこと?」

 

 チヒロの確認に僕は頷く。あるいは、それよりもよほど危険やもしれない。直接的に世界を滅ぼそうとする箱舟と比較して、Xのやろうとしていることは世界を詰ませようとすることなのだ。ろくでもない奴もいたものだ。

 

「あぁ。どちらもイエスだ。……それで、これを君に話す理由がある」

「……責任をもって話す、って口振りじゃないのは分かる。何か、頼み事があるってことだとは思ってたけど。聞くよ」

「ありがとう。……まず、敵について話そう」

 

 まず、と僕は口を開く。Xという存在を明確にするために。

 

「今回僕が対処する敵は、人を騙る存在だ。そして、人を騙ることで中立的な立場に立ち、未来を観測する権能を行使することができるらしい」

「……未来の観測……それって、観測されたことで確定した未来は」

「早いな、チヒロ……察しがいい。その通り、変えられない。だから恐らく、アトラ・ハシースの箱舟による侵略の未来を確定させることが、その敵のプランなんだ」

 

 チヒロの想像と頭の回転の速さには舌を巻くものがある。僕はアイツから説明されなければわからなかったというのに、並び立つという自称もこれでは形無しかもしれないな。

 

「それをどうしてあなたなら倒せると断言出来るわけ? そんな存在、論外すぎるわけだけど。基本の対処は顕現する前に倒すしかないんじゃないの」

「その通りだが、ここで少しだけ例外が挟まる。それは、あの観測者気取りは本当の観測者では無いってことだ」

「……騙って立場を得てるだけ、ってことでいい?」

 

 そうだ。奴は、騙って観測者の立場を得ているだけの役者なのだ。であれば、その立場からこちらに引きずり戻せば、割とそれで済む。これはここまでの僕の解釈でも一度わかっていた部分にして、対話でそうだと明言されたことでもある。

 

 あえて結論として言葉にしないでいたのは、ただひとつ、Xというものの、正体。

 

「理論は全てある。正体を暴けば奴の存在も天から地に落ちるだろうという理屈は揃ってる。正体についても、確信がある」

「……それは、私が聞いていいことなの」

「逆だ。チヒロにしか、聞かせられない」

 

 僕は、結論を述べる。

 

「観測者Xと僕が呼ぶもの。世界の敵としてこの世界に必ず訪れるソイツの正体は……」

 

 当然の結論だ。思えば最初から。なぜ、アイツはチヒロを騙ったのか。なぜ、チヒロの次に騙るのがリオだったのか。僕の心を読めるような様子はなかった。つまるところ、それはアイツにとっての大切なものを順に写し取っただけ。きっと、次に騙られたのはヒマリだったろう。

 

 だから、僕は告げる。この解答を、ただひとりと共有するという目的と、なぜ僕でなければならないのかの説明を果たすために。

 

「天峰チハヤ」

「……は?」

「並行世界、あるいは時系列の異なる世界から来た、天峰チハヤ。それが敵の正体だ」

 

 看破する。チヒロが固まる。無理もない、僕だって無茶な仮説だと思ってる。だが、それでも、それしか考えようがない。

 

「厳密に言えば敵かも怪しい。アレが僕ならね」

「……待って、少し待って。考えさせて……!」

「ごめん。……情報としては、大きすぎるよな」

 

 チヒロが怯えるような、恐れるような顔をしている。なぜ、そんな顔をしているのだろう? ……いいや、わかってるだろチハヤ、目を逸らすなよ。

 

「それは……チハヤが、チハヤを殺す方法を知ってるってことじゃないの? 未来の、あるいは別の自分を殺すって……そう言ってるの?」

「……そういうことでは、ある」

「……それはっ!」

 

 あぁ、チヒロ。君はどこまでも優しいんだな。天峰チハヤと天峰チハヤが戦って、天峰チハヤが一人だけ残る。その当然のことを、君は受け入れたくないんだ。

 

「どうして、私にそれを教えたの……?」

「誰かに伝えることが重要なんだ。観測者の正体は『天峰チハヤ』だと、知っている存在が二つ以上あることが重要だったんだ。その上で……誰かに伝えるなら、チヒロしかいなかった」

「……そっか。信じてくれてる、と考えた方がいいかな」

 

 あぁ、と僕はそう頷いた。信じているのだ。チヒロならば、この答えを伝えるべき時に伝えるべき人へ伝える。そして、伝えるべきでない場と人には決して伝えることはないと。

 

「それでも……チハヤが、チハヤを倒しに行く、なんて」

「未来のために、とかかっこつけるのは簡単だけどさ。……僕だって、別の僕を殺せるほど覚悟が決まっちゃいない。だからさ、頼らせてくれ、チヒロ」

「……何を頼りたいのさ」

 

 ここまで来て、僕を想ってくれる君に、頼りたいこと。決まってるだろう、そんなの。

 

「別の僕を倒す理由だよ。これだけは僕はかっこつけなんかできない……君が居るから、この世界を守りたいんだ。君が居るから、僕は別の僕に勝とうとするんだと。そう、理由を君に頼らせて欲しいんだ」

 

 その言葉を聞いたチヒロは、そっと僕の身体に縋るように抱きついてきた。

 

「ねぇ……同一存在は、出会ったら消えるとか。そういうの、ないよね?」

「わからない。多分、平気としか言えないんだ。理屈上は平気、って言葉は……慰めにもならないだろ?」

「うん。……あなたが帰ってこなかったら、私、一生かけてあなたを探すよ。あなたがいたって証拠を集めて晒しあげながら」

 

 チヒロの心が不安に揺れているのがわかる。僕の身体に回された腕の力は、より強くなった。

 

「……僕はさ、できない約束はしない。そのうえで、聞いてくれるかい?」

「……なに」

「必ず、帰るよ」

 

 あぁそうさ、負ける要素はない。これはイベント戦だ、だからチヒロが想像しているような悪夢は起きない。でも、それは僕と『僕』が理解していることに過ぎない。

 

 だから、約束しよう。必ず果たせる、簡単な約束を。

 

「一分の負けもなく、完全勝利して帰ってくる。だから、こっちは任せろ」

 

 チヒロは、小さく僕の顔を上目遣いに見上げた。

 

「……私も信じてるから」

 

 そう呟くチヒロに、僕はひとつだけ頼み事をする。チヒロは、その頼み事に不思議そうにしながらも、それでも快諾してくれた。

 

「……そんなことでいいの? もっと、私ができることはないの?」

「いいや、これでいい。これがあれば、負けない。それに……本望だろうしね」

「……そっか。ね、ぎゅっ、ってして……?」

 

 僕は、言葉に応えてチヒロのことを一度強く抱き締め返す。あたたかく、やわらかい。身体に触れる感触が、これでもかとばかり僕の脳に焼き付けられる。

 

「どうか、無事で帰ってきて」

「……約束する。大丈夫だよ、チヒロ」

 

 アビドス砂漠に吹き抜ける冷たい風が、ヘリに腰掛けて話す僕らをすり抜けていく。それでも、寒いとは不思議と感じない。

 

「ね、ここまで私を不安にさせてさ。言葉だけなの、安心させる方法のひとつも、思いつかない?」

「そうしたいって、言ってくれなきゃ気づかないバカなの分かってるだろ? ……目、閉じてよ」

「うん……」

 

 甘く、優しい口付けの感覚。あの日とは違って、次は僕から。もう大丈夫、君を残して行きはしない。そう伝えるように、二人で融けあう。

 

 改めて、負ける気はしない。僕の手には真実がある。勇気は今、彼女がくれた。戦う理由も、揃った。だから、あとは理由と勇気で勢いをつけて、この真実を突きつけてやればいい。

 

 大丈夫。あぁ、きっと大丈夫だ。君が、僕のそばにいるから。





今回もありがとうございました。また次回もよろしくお願いします。

我慢できなくなってちょっとイチャつかせてるのは……歯止めが効かなかったということで!!

感想と評価、ここすきとかもモチベになってるので是非宜しくお願いいたします。それではまた。
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