【第二部完結】各務に想う 〜いつになったら財務会計ってもんをみんな覚えてくれるんだろうか〜   作:ふぃーあ

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明日更新無理です。ごめんなさい。作者の体調が完全に死にました。


未来との直交

 先生たちは旅立った。ウトナピシュティムの本船に乗り、遥か高空の彼方にあるアトラ・ハシースの箱舟に辿り着くために。

 

 それが朝方のことだった。昨晩の僕らは、ヘリを出してミレニアムに戻り、機材を十全に整備して、ヴェリタスが万全の支援をする環境を整え次第、全員が休憩室で泥のように眠った。

 

 先生が世界を救うための船を出す頃には、僕らは全員目覚めていて、チヒロやマキ、ハレ、コタマはみんな機器の前に座っていた。

 

 そして、僕は。

 

「それじゃあ、チヒロ。僕は、行く」

「……うん。グッドラック、だよ」

 

 別れを告げ、ヘリに乗り込んだ。決戦の地がどこにあるか、分かっているのかって? あぁ、分かってるとも。僕のことだから、きっとそこしか有り得ない。僕は、ただ確信だけを抱いて、ヘリをミレニアムの山間寄りに向けて飛ばした。

 

 そこは、緑の草原と、山々の広がった、誰もいない平地だった。南アルプス第二キャンプ場。いつか、チヒロと訪れたそのキャンプ場は、無人の草原と化していた。

 

 本来は、そこに色とりどりのテントが広がっていたはずだが、もう今日この日ともなれば皆避難して、遊びに来る者などいるはずもないわけで。

 

 ただひとつ、近くにせせらぎの流れる木陰に設営された、大きな……とても一人用とは思えないテントを除いては、今日そこに来客を示す要素はなかった。

 

『来たわね。天峰チハヤ……もう、答えには辿り着いたのかしら。世界線の確定が、できない』

 

 静かに立ち上がる。リオを騙ったままのそれが。

 

「あぁ、そうだ。……君の正体を知っているのは、僕と、チヒロだよ」

『えぇ。だろうとは思っていたわ……既に私はこの世界に息づく正当な存在から認識されてしまった。あなただけが知っているようなら、手はあったのだけれど』

 

 何となく、そんな気はしていた。僕が、僕の正体を僕だと断じることに意味は無いのでは、と。それは、僕が気付いて当然のことであるのだから。

 

 だから、チヒロに伝えた。別の僕が、『相手』だと。チヒロの中のXの認識は、今『異なる世界の、天峰チハヤに敵対する天峰チハヤ』だ。そうなるように話したつもりだ。だから、アイツはそう観測された時点で、もう観測者には戻れない。

 

『このガワももう無駄になってしまったわね』

「あぁ。さっさと姿を見せろよ『天峰チハヤ』。大根役者が演技を続けてもいいことはない。お前の正体は、初手から分かりきったことだったな」

『……参るね、全く。僕を相手にするのは骨が折れる』

 

 さらけ出された姿は、僕と正反対。白く長い髪、黒いコート。実になんというか、こう。

 

「香ばしいな、お前。……ほんとに僕なのか?」

『望んでこうなった訳じゃない、許してもらいたいな』

「だろうな。あぁ、あと許すも許さないもないだろ。ここで僕らの関係は終わる」

 

 違いない、と。そう笑う『天峰チハヤ』は諦めきった笑みを浮かべていた。やっと終われると。

 

「所詮は勝ち戦だと認識はしてた。だが、こうもあっさりと終わると興醒めだな」

『ふ。そんなもんだろ、と言いたいがな』

「僕のことは全て分かるよ。諦めきれないんだろ、『天峰チハヤ』」

 

 あぁ、と。そう呟いた『天峰チハヤ』の目に生気が宿る。それは、目的を見つけた、あるいはそうするつもりだったヤツの目だ。

 

『悪いが、そうだ。生き足掻くのが、僕の領分なんでな』

「だろうと思った。タイムリミットは?」

『ない。どっちかが終わるまでの無制限未設定だ』

 

 なら、と。僕はひとつ、問を投げる。

 

「僕らの世界は全く違う。それは、お前も薄ら察してるだろう?」

『……そうだな。彼女がいるって言ったっけ。おめでとう』

「お前はどうなんだよ、そのあたり」

 

『天峰チハヤ』は小さく肩を竦め、僕はそれに対して少しだけ咎めるように言葉を繋いだ。

 

『僕はどうにもヘタレでな』

「知ってる。僕もそうだったからな。……ここで、僕は本心を漏らした。きっとお前は、違ったんだろうな」

『あぁ。……リオの話をした。共に背負うことを約束して、それきりだったよ。チヒロとは良き友人だった』

 

 それでも、その語り口はただの友を語るものとは思えなかった。

 

『ちょっとずつ距離を詰めて、あとひとつのきっかけがあれば、って所まで来てはいたんだ。けれど、そこで僕らの世界は滅んだ』

「ヘタレすぎるとそうなるんだな、驚くよりも先に感心が来る」

『未だにチヒロのことを夢に見るよ。世界の終わりまでと一緒に。僕の中身は塗りつぶされてしまって、彼女の面影はないから、声だけなんだけど』

「君には同情する、と言えばいいか?」

『あぁ。ありがとう。けれど同情は不要だ。形見を使わせてもらう訳だしな』

 

『天峰チハヤ』はそう言うなり、空間を引き裂く。それは、亜空間への接続。繋がった先へ、手を伸ばし。

 

『これはあの空の彼方の要塞ありきの能力でね。僕も恩恵に与っているだけなんだが、おかげで力をもう振るえなくてもこれを引き出すくらいはできる』

「……考えることは、一緒というわけか? 面白みのない男だな、僕は」

 

 傍に随行していたドローンへ、僕もまた手を伸ばす。懸架されていたケースの中に収められているのは、一丁のアサルトライフル。

 

 それは僕の愛銃ではない。それは僕が使うはずのものではない。

 

 手をかけた銃の名は、同じ。それはただ一人の少女が持ち、異なる理由でそこにあるもの。

 

 バックドア。各務チヒロの、愛銃だった。

 

『……チヒロの遺品を使って、負けられるものかよ』

「バカが。僕の大切な彼女から託された愛銃を使うんだ、僕こそ負けられるわけがないだろ?」

 

 アサルトライフルの銃口を向け合う。同じ託されたもの、けれど離別と親愛と、異なる二つを込められたもの。

 

『……ふふっ』

「……ははっ」

 

 面白い。徹頭徹尾、僕はひとりではいられない。最後の最後、こうして殴り合う段階になっても。僕らはチヒロを頼った。

 

『敗北が確定している段階で見苦しいかもしれないが、ここから先は、僕の意地だ。付き合ってくれるか? 天峰チハヤ』

「最後まで付き合うよ。大バカに言いたいことがあるしね」

『……ありがとう』

 

 それじゃあ、と。『天峰チハヤ』は、静かにひとつ呼吸した。そして、指をかけてトリガーを引き、銃声が、キャンプ場に響き渡る。

 

『……アイギス』

 

 弾丸は、僕の前で力場に阻まれ停止していた。

 

「そうだ。その口振りじゃ、お前もよく知っているみたいだな」

『僕にはその理論を実証できなかった。何が違って、そうなっているのか……僕には分からないな』

「わかってるのに目を背けるのは僕の悪癖だぞ」

 

『天峰チハヤ』が、その言葉に小さく息を吸う。

 

『そうかもな。だが……愛なんて不確実な理由で、その時の能力そのものが変化してたまるか……!』

「いいや、不確実なんかじゃないさ! 護りたいと願う気持ちが、なにかと共にありたいという気持ちが、僕のレゾンデートルを満たしている!」

『そんな、曖昧な言葉一つ、想いひとつ伝えただけで世界の終わりが遠のいてたまるか!』

 

 それは本当にそうだ。だが、事実としてそうなっている。教えてやる、『天峰チハヤ』。お前が間違えたことは、たったひとつだけ。

 

「素直になればよかったんだよ、僕は! 隠して、取り繕って! だからお前はここに来るまでも全てを隠して取り繕うことしかできない『観測者モドキ』に成り下がった!」

『見守りたいと思った僕の想いだって、間違ってないはずだ! 何が違った! これも、これだって愛だろ!?』

「カッコつけてる場合かよ天峰チハヤ! お前は、ひとつだっていい! 本当の言葉をチヒロに向けたことがあるのかよ!」

 

 言葉を受けた『天峰チハヤ』がその目を見開く。

 

 その一瞬を見逃さず、僕は一気に肉薄する! 

 

「この、大バカ野郎がッ!!」

 

 全力の右ストレートを解き放った僕は、その拳を頬にめり込ませ、そうして『天峰チハヤ』が地面を転がる。

 

「かっ……は。ふ、ふふ……ははは……」

 

 転がった先で天峰チハヤは、笑う。ふらつきながら、立ち上がる。

 

 天峰チハヤは、カッコつけることをやめることにしたのだろう。それは、服についた草や、土を払わない仕草ひとつで見て取れた。

 

「あぁ……そうだ。クソが、僕はどこまでやっても素直になれなかったんだよ。だが、そうだとしても!」

 

 そうして、包み隠した本音と、激情を発露させる。

 

「チヒロを守りたい想いに嘘も間違いも、ひとつとしてない! これが僕の愛だ! 否定はさせない! 例え、結果として間違っていたとしても! 僕の愛の在り方を、他ならぬ僕が否定することは許さない!!」

 

 その言葉に、僕は頷いた。ふたたび銃を構え直す。口元に、僅かな笑みを浮かべながら。

 

「これで、やっとわかりやすくなった。これは、信念の殴り合いだ。やっと諦める気も失せたらしい」

「ここまでお膳立てされておいてどの口でと思うかもしれないけどな、僕には負けられない理由がある」

「悪いが、僕にも譲れないものがある。答えが出ることはない。これは平行線を直交させようとする試みなんだ。どうしようもない……喧嘩は人生で初めてだよ」

「戦いじゃなく、喧嘩か。それなら初めてかもな」

 

 再び、二丁のバックドアの銃口が互いを向く。アイギスは一旦消し込んだ、恐らくバッテリーの残量をかき集めれば使えるが……使い所は考えなくてはならないだろう。

 

「「さあ勝負といこうか、天峰チハヤ!!」」

 

 銃火が走る。未来の僕と、現在の僕。あるいは、見守る愛と、寄り添う愛。そのいずれが正しかったかを決めることなんて、誰にもさせはしないけれど。

 

 けれど、それをあえて決める。愚かな選択だとしても、いずれかひとつに定まらないとわかっているとしても。全てをかけた、信念と信念の結集で殴りあった先には、より強い意思だけが残ると分かっていても、ここで決めたいという思いが、僕らを突き動かす。

 

 だから、僕は絶対に勝つ。この想いが、どの時空のどの僕よりも強いと、僕は信じているから。

 

 

 





カッコつけるのは終わりにしよう。

ということで今回もありがとうございました。次回もまたよろしくお願いします。

感想評価ありがたく頂戴しております。モチベになってますので投稿どんどんできます、ありがとうございます。

ここすきもね、是非ね。よろしくお願いします……確認してますので!!
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