【第二部完結】各務に想う 〜いつになったら財務会計ってもんをみんな覚えてくれるんだろうか〜   作:ふぃーあ

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昨日は申し訳ない……発熱が酷く、お休みをいただきました。今日からまた頑張りますのでよろしくお願いします。


それでも、君の傍に

 

 天峰チハヤと天峰チハヤの戦いなのだから、至極当然の話として戦いは膠着する。そうあるべきだろう。だが、それは全く同じならという前提だ。

 

「……厄介だな、アイギス!」

「そうだろう。これもまた、そばに居たいと願ったから手に入れることのできた力だ」

「見せつけてくるな。勘弁して欲しいところだ」

 

 飛んできた手榴弾を、バックドアのストックで殴り飛ばす。遠くで爆ぜる音、ジャミングの類はなし。

 

「この距離ならば……」

「なるほど、アイギスは使えない。とはいえ」

 

 バックドアの銃身同士がぶつかる。全く同じアサルトライフルのコンバット、ここからは銃口の逸らしあい、向けあいだ。 

 

「くっ!」

「はっ……!」

 

 ここの経験値じゃさすがに僕は勝てないな! 僕が傍にいる時間を、コイツは別の経験に使っているわけで、ちょっと不利。だから、次善手として僕から離れて欲しい訳だが……! 

 

「離れ、ろっ!」

「そうはさせないッ!」

 

 前蹴りを流し、そのまま詰め切らんとする「チハヤ」に、僕はノータイムで次の手を打つ。それは、思い切りの一手。

 

 だが、それを打つ理由は確かにある。見えた、森の中から走る『黒に蒼の光』! アレを待っていた! そのためには、今ここで覚悟を決める! 

 

「歯を、食いしばれッ!!」

「んぐっ……!!」

 

 全力の、頭突き。痺れるほどの痛みと脳を揺らされた感覚が互いを襲う、僅かに生まれる硬直。しかし、覚悟を決めて仕掛けた側がこの手の賭けは有利だ! 

 

「バカが……!」

 

 それでも、先に動いたのは「チハヤ」……違う! 

 

『アイギス、ブート』

 

 そうさ、先に動くのは僕でもお前でもなく、先に用意しておいた僕の奥の手の技術そのもの! 

 

 割り込んだ蒼が、黒の光を放ち、力場を生み出す。ひとつ輝く蒼が、銃口を向けるという行為を無意味にすることで一手を稼ぐ! 

 

「……これは、力場! だが……!」

『アイギス、ブート』

「……悪いが、借りてきたのはひとつだけじゃないんだよ」

 

 稼いだ時間で、もうひとつの光が、そこにたどり着く。蒼の横で、黒が蒼の光を放つ。共鳴するように、より強く。

 

「まさか……お前! アイギスを、二つも……!!」

「チヒロと、僕の分だ。さっき使ったのは僕の分だが……チヒロの分は、初手からヘリの中に隠しておいたんだよ」

「んな、バカな……!」

 

 チヒロへの頼み事。ひとつだけ、とは言ったが……チヒロから押し付けられたものがないとは言ってない。

 

『……私の銃を貸してほしい? ……確かに、使う予定はないけど……使うの?』

『あぁ。必ず返す。……相手が僕なら、君が近くにいるという実感は、武器になるだろう。まあ、相手も同じことを考えているだろうけど』

『ふふ……バックドアのミラーマッチになったらちょっと面白いね。私のこと、好きすぎかも』

 

 そうからかい気味に言うチヒロは、それでも真剣な顔に戻って、僕に一つだけ条件を出した。

 

『うん、いいよ。貸してあげるけど……なら、私のアイギスも持って行って。いざという時、あなたを助ける一手になるように』

『……それは、けど』

『今更地上には不安要素はないでしょ? チハヤの方が余程不安なんだから、黙って持っていくように』

『……すまない。そして、ありがとう』

 

 かくして、二台目のアイギス……チヒロ専用にカスタムされたそれは僕の手に戻り、ヘリの中で僕のアイギスとデータをリンクして、静かに時を待っていた。

 

 そして、今。戦闘開始と同時に使用されたアイギスの信号を検知して、ヘリから飛び立ち、大きくキャンプ場の森の中を迂回して現れるよう、事前にプログラムされたチヒロのアイギスは、僕のアイギスと子機同士を連携させ、凄まじく強力な力場を作り出す。

 

 弾を弾くほどの力場を集中させて、二機分の子機を使って作り出すということが何を意味するか。そう、それは単純なる出力強化。

 

「……ぐっ……! 身体が、動かんッ……!!」

 

 重力となった力場が僕と「チハヤ」を押さえつける。そして。

 

「長々とやるつもりはない! ラストバトルだ!!」

 

 天空へ、指向性を持った力場が収束。僕と「チハヤ」は同時に天へと打ち上げられた。それと同時、光を失うアイギスたちが、上を取って見下ろす僕の瞳に映る。

 

「うぉおおぉっ……!?」

「さすがに、これは……!!」

 

 上昇する。勢いよく打ち上げられた身体が、みるみるうちに高度を上げ、上げ、上げ……そして、止まる。目視するに高度は二十数メートルと言ったところか? 

 

「っ、天峰、チハヤぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 僅かに遅れて、今辿り着ける高度に達した「チハヤ」が、僕を撃とうとする、その刹那。

 

「チェックメイト、だ!」

 

 迷いなく、僕は手に持った銃そのものを投げつける。咄嗟に払ったその判断は素晴らしいが、その時点で僕の勝ちだ。

 

 槍のように姿勢を作り……僕は「チハヤ」に向かって、落ちていく。

 

 同じように放たれ、同じように落ちる。ならば、より放たれるのが早い方が、当然先に落ちるのは摂理だ、当然だ。

 

 望んで、先に落ちようと姿勢を整えて、僕は正面から「チハヤ」を掴み、空中で向きを回転させる。

 

「う、ぉあぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 初めて、「チハヤ」は狼狽えた声を上げる。当然だ、まさか天から着地の姿勢を取ることすら許されない超高高度のプロレス技を食らうことになるとは思うまいよ! 

 

 あぁそうさ、二十メートル強の高度から叩きつけられれば、いくらキヴォトス人と言えども確実に命が危ぶまれるってことくらい、誰だってわかる! 

 

「どうだろう、これが僕とチヒロの愛ってやつなんだが!」

「絶対行き当たりばったりだろこんなの!?」

「それの何が悪い! 愛ってのは想定外で出来てるんだよバーカ!! 我流で悪いが、存分に喰らってくたばれ! スカイハイブレーンバスターだ!!」

 

 理論派の僕でも、たまには脳筋になった方がいい時もある。そうだな、行き当たりばったり……上等だ。理論で押し通せないものこそが、寄り添う愛の形なのだと教えてやる。

 

 思えば、チヒロとの恋愛において今まで僕の思いどおりに行ったことなど一度だってないのだ。すべて、行き当たりばったりに欲望を出して、想いあって、傷つけあって、慰めあってきた。

 

 だから、この愛と愛の勝負の決着は予想外であるべきだ。そう考えれば、僕は納得できるんだ。……お前が納得できるかは、知ったことじゃない!! 

 

「ぐ、お、ぁあああああっ!!」

 

 地面に、インパクト。凄絶な着弾音が響き渡り、「チハヤ」の身体から力が抜ける。

 

「かっ……は……」

「……動けん。痺れるね、足腰が」

 

 地面に力なく腕を広げる「チハヤ」の横で、僕もまた彼を叩きつけた姿勢……つまり、尻と腰からの落下を受けたまま天を見上げる。

 

「あぁもう、負けだ。一歩も動けない……というか、動かない」

「だろうな。……問題は、僕も大概動けないことだが……」

 

「チハヤ」は僕の言葉に苦笑いした。

 

「レベルが違うぞおい。……どこの骨折れてんのかもわからんレベルでぐちゃぐちゃだろうしな」

「まあお前はリタイアで、僕は一時ダウン、くらいか?」

「だろうなぁ……そうか、負けたか……なんでだろうなあ」

 

「チハヤ」は改めて、空を見上げ直す。少しも動かないのだろう、腕を小さく震わせて、そして諦めたようにもう一度力を抜く。

 

「悔しい気はしないんだ。こんなに悔しいことはないはずなのにな。あぁ、なんというか……満足してるんだ。不思議なことに」

「……僕はその感情の由来を知らない。それは君にしかないものだ」

「そうだろうね。……あぁ、なんでだろうなぁ。また、知りたいことができたのに……ここまでらしい」

 

 ゆっくりと、「チハヤ」は心底残念そうにそう言う。そこで初めて、僕はそいつが「僕」なのだと認識できたような気がした。

 

「最後の最後まで欲を隠さない……僕らしいな」

「なあ、僕」

「なんだよ、僕」

 

 まだやり残したことがあるらしい「僕」は、僕になにか伝えようとしていた。

 

「最後にさ、なにかこの目で『観て』やる。それで、僕の役目は終わりだ」

「……お前が選べよ。というか、まだ『観る』ことができるのかよ」

「……はは。まあ、横紙破りだからこれをやったらホントにいないことになっちゃう、奥の手だけどね。舞台上の役者が急に観客席に座るんだ、役者としてクビになっても文句は言えない」

 

 それで、何を観て欲しい? そう問うように、「僕」は僕を見つめ。それでも僕は、好きにしろ、とだけ目線で返した。

 

 そして、「僕」はその左眼を蒼く輝かせる。一度だけ、強く光った眼は、何かを捉え、そして「僕」は小さくふっ、と笑った。

 

「その光景を見れただけでも……価値のある『観測』だった。ありがとう、僕」

「何を見たのか、は聞かないけど察しはつく感想をどうもありがとう。……礼は言わないよ」

「当然だ。これは最後に、チヒロを一目見たかった僕の欲張りだからな」

 

 その言葉の素直じゃなさに僕も静かに微笑む。「僕」は今、僕を見て未来を『観測』した。つまり、見たのは僕の未来のはず。それなのに、「チヒロを一目見たかった」なんて。

 

 信じてくれていたのだ、なんだかんだ。「僕」は、僕を。

 

 僕はチヒロを幸せにしているだろう、チヒロのそばに居るだろう、と。そう信じて、僕を見たのだ。

 

「ふ……バックドアでも見ておけばよかったのに」

「バカが……笑顔が、チヒロには良く似合う」

「解釈一致だな。……初めての」

 

 僕らはそう、初めて笑い合い。そして、「僕」にしか見えていないのであろうそれに、「僕」は同じ笑みを浮かべる。

 

「もうお迎えか。チハヤ、僕の胸ポケからメモを抜け。なんかの役には立つだろう」

 

 取り出した小さなメモ帳は、最後のページまでギッシリと文字が埋め込まれている。僕も同じものを持っているからわかる、これは。

 

「……お前の、成果か」

「あぁ。もうお前も知ってるだろうこと、お前には出来ないかもしれないこと、混ざってはいるが。僕が知ってることは全部書いてある。後は託す」

「託された。一人の、研究者兼技術者としてな」

 

 その言葉に、最後の荷が降りたような笑みを浮かべた「僕」は、ゆっくりと目の前にあるのであろう何かを見据えて笑う。

 

「チヒロとよろしくやっとけバーカ……じゃあな」

「あぁ。ゆっくり休めよ、僕」

「今行くよ、チヒロ。僕は、君と同じところに、行けるかな?」

 

 その言葉を最後に、「僕」の身体が端からなかったことにされるように侵食されていく。赤に、紫。それに黒。踊る色彩が「僕」を侵食し、そして最後に、蒼がそれらを祓うように覆い尽くす。

 

 その色彩の放つ光が収まった時、もう「僕」の姿はどこにもなく。

 

 けれど、僕の手元には確かに「僕」の全てが詰まったメモ帳が残されていた。

 

「行けるさ。最後、迎えに来てたろ?」

 

 誰も聞いていないと分かっていても、誰かに聞いて欲しかった僕は、再び誰もいなくなったキャンプ場で、そう呟いた。

 

 川のせせらぎと、森の木のそよぐ音だけが、一人になった僕を慰めているようだった。

 

 

 




決着。

今回もどうもありがとうございました。感想評価、ここすき、それと、頑張った彼への言葉も、今回はお待ちしています。

また次回。それでは。
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