【第二部完結】各務に想う 〜いつになったら財務会計ってもんをみんな覚えてくれるんだろうか〜   作:ふぃーあ

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熱がぶり返して苦しむなどしています。またちょっとしばらく不定期になりそうですが、2日に1回は投稿できるよう努力します。


ソー・オーバーパワー

 誰もいなくなったキャンプ場の、チヒロと共にすごしたその区画。

 

 僕の前で消え失せた「僕」の、今や唯一の存在の証明となったメモ帳を、僕はそっとポケットにしまう。

 

「……足腰も少しはマシになったな」

 

 震えの収まった足で再び立ち上がる。

 

 冥福は祈ってやったが渡し賃は足りるだろうかなど、思うことが無いわけじゃないが、しかしまあ「僕」のことだ。なんとかするだろう。たぶん。

 

「……ここにいると、無駄に考え込んでしまうな」

 

 そう微かに思いながら、停めたヘリの運転席に再び滑り込む。置きっぱなしにした携帯に、いくつかの通知……いや、いくつもの通知。

 

 通知から履歴を確認してかけ直そうとするが、またもかかってきた電話に、折り返そうとした出鼻をくじかれる。相手は……ノアだ。

 

『っ! 繋がった……ご無事ですか!?』

「こちら天峰チハヤ。何事もない……」

『ヘリを至急、こちらに回していただきたいのですが!』

 

 ノアの焦り声。珍しい声だ、真剣な対応が必要と判断する。僕はそのまま話を続けさせた。

 

「なぜ、ヘリがいる?」

『トリニティの百合園セイアさんから、「予感がする」と。トリニティの皆さんいわく、百合園さんの予感は信頼に値するとの事で……火急の事態と見て良いそうです』

 

 ……百合園セイア。確か、ティーパーティーの今年のホストだったか。病弱がちと聞いていた以外に情報がなかったが、曖昧な未来予知のようなことができたのか。

 

「わかった。誰を運ぶつもりだ」

『当然、C&Cを!』

「どこまで!」

『データを送ります!』

 

 座標確認。……燃料も十分だ。いける。ということはあとは、どれだけ効率的に拾うか、だろうな。

 

「C&Cの連中、第二サンクトゥムということはエリドゥじゃない方のミレニアム近郊……この辺にいるな?」

『データを確認。えぇ、確かにその近くに!』

「なら、近くのビルの屋上まで登らせろ。そこに縄梯子を下ろして拾う」

『C&Cへ連絡しておきます!』

「あぁ、頼む」

 

 僕の戦いは終わったと思っていたが、まだ参加できるものがあるようだ。忙しいね、全く! 

 

 かくしてしばらくの後、ビルの上でぶんぶんと手を振るアスナを目撃した僕は、そこへ向かって備え付けの縄梯子を下ろしてやる。さすがに凄腕の特務部隊、するすると登って一人二人三人四人と全員が乗り込む。

 

「おうチハヤ、世話になるぜ」

「あ、チハヤくーん! よろしくねーっ!」

「天峰先輩。ヘリの操縦、よろしくお願いいたします」

「外部機銃操作は任せてくれ。外さない」

「……いるかなあ、外部機銃操作? まあいい、君らを運ぶのが僕の役目だ。それ以上は期待するなよ?」

 

 その言葉に、美甘ネル……C&C最強の女はいつものように例のよって例のごとく不敵に笑う。

 

「任せろ。お前はヘリにだけ集中しとけ」

「頼もしいね……任せるよ!」

 

 ならばとばかりに僕はヘリをかっ飛ばす。すっかり赤い空だ、嫌になるな。あの青空はどこへ行ったんだ。

 

「それで今どういう状況なんだ? ちっとも把握してなくってな」

「クソッタレなことにサンクトゥムが復活しやがったんだよ。空の上にいる頭の良い奴ら曰く、演算能力がサンクトゥム依存で上がるんだと。んで、こっちは片付けた。ほかのとこも順々に折れてってる」

「待てよ、それならエリドゥの方面の第五サンクトゥムは……!」

 

 あぁ、とネルはそれに関しては知っている様子で指を弾いた。

 

「なんでも、守護者が唯一再起動しなかったらしいぜ? 中身がもう隔離されきってるだのなんだので」

「……ある意味、妙手だったのか。撃破ではなく、無力化したのは」

「あぁ。最初にぶっ壊されたのが第五サンクトゥムだ。まあ、守護者を倒す必要がねぇしな。そりゃそうだ」

 

 チヒロがこの間とった、無力化という判断に舌を巻く。……偶然かもしれないが、だとしても望外の成果だ。それならいい。

 

 結構なスピードで飛ぶヘリの中でも一切ぶれない体幹を披露しながら、運転席の真後ろにやってきたネルは、運転手のシートの真後ろに掴まって僕が動かすヘリの手元を眺めている。

 

「目標まで残りわずか。到着予想、カウント180」

「聞いたかお前ら?」

「えぇ、もちろんです。準備は完了しております」

 

 C&Cの面々はとうに装備を整えきって、備えられるもの全てを備えていた。銃を清掃し、弾の残数を確認し、爆薬がどれほど使えるかを調べ直す。その姿は正しくエージェントとしてのプロ意識を感じさせるものだった。

 

「投下までカウント60。投下法の指定はあるか?」

「地上スレッスレまで寄せろ。速度は落とすなよ」

「うん、そうしてくれたらあとは飛んじゃう! ぴゅーんっ、てね!」

 

 なんとも恐ろしいことを言う女たちだ、飛行中のヘリから飛び降りるとは。しかし、そういうことなら話が早い。

 

「カウントを修正する。目標地点にビタで飛べるように再計算した、カウント50」

「0で飛べばいいんだな?」

「あぁ。両側から2人ずつ飛べ。それで完璧だ」

 

 それぞれの出口に既に待機するC&Cたちの集中が高まる。カウントが進み、そしてその時が来る。

 

「高度最低下! カウント5!」

 

 カウントを声に出し読み上げ始める。ラスト5カウントくらいは合図のために読み上げるものだ。

 

「3! 2! 1! 降下!」

「行くぞお前らァ……っ!!」

「「「了解!」」」

 

 4人のエージェントが、地上へ飛ぶ。壊れかけのアビ・エシュフが一瞬見えた、多分、間に合っている。いや、間に合っていないと困る。

 

「任務完了……いや、もうひと仕事くらい付き合ってやるとしよう」

 

 飛び去る、と見せかけて回頭。迫る地上勢力へ、積んでおいた爆弾を投下し、手元から発射できるようになっている機銃を撃ち放す。

 

「こちらヘリ。回線に割り込んだ、聞こえてるな?」

『天峰、先輩……』

「随分萎れているようだが、無事なようだな」

 

 アビ・エシュフの回線コードは一度見た記憶がある、そのまま割り込みをかければトキはそれに応答した。

 

『……あなたが、先輩方を』

「あぁ。だが、僕は何も聞かされていない。お前がここにいるということも、全ては君を助けなければならないが故だったということもな。だから、これはお前が勝手に助かったということだ。僕に感謝はいらない」

『そんな理屈は……通りません』

 

 そう思うだろう、トキ。だが、これに関しては本当に助かるべくして助かっているのだ。そして、勝手に助かっているのだ。

 

「だってお前。そうだろう」

『……なにがですか?』

「お前はC&Cだ。お前たちの頂点の名は『約束された勝利』。仲間を失うことが、『勝利』と呼べるわけがない」

 

 そう、飛鳥馬トキがC&Cのエージェントである限り、ミレニアム最強の女はそばに居る。そして、その最強は。

 

「3年生に至るまで、任務の失敗は一度としてなし。その言葉の意味が分からない君じゃないだろ?」

『……そう、ですね』

「アイツこそが、僕らの誇り。君臨する最強。……アイツにも言われたろうが、よく目に焼き付けておくといい」

 

 機銃で寄る敵を薙ぎ払い、機体高度を上げて敵から離れる。生み出された空白は、既に作られた別の空白と繋がる。その空白の主は、もう僕ではない。

 

『ナイス援護だ、褒めてやるぜ腹黒メガネ! 執事服でも着るかァ!?』

「悪いがそういう趣味はない。それと誰が腹黒だって?」

『んだよ、褒めてやってんのによ!』

 

 ネルが飛び込む。ネルが双銃を撃ち放つ。弾丸の雨嵐を振りまき、ネルが意図して処理しなかったものをその背に追随するアスナが、僅かに距離を取って走るアカネが、そして最後方から狙うカリンが。それぞれに処理していく。

 

 ネルが処理を漏らしているのではない。アレは信頼の証明。それを倒さないことが、ネルの動きの効率を引き上げ、仲間に「頼られている」という実感を与えることで仲間の士気をも高めてしまう。

 

 最強とは、孤独たりえない。最強とは、仲間を得れば止められないということでもある。

 

 個の強さをエリドゥで証明したネルは、今奇しくも個の強さを証明した相手のその眼前で、集団としての強さを証明していく。

 

「羨ましいな。……僕にはあれは出来ない」

『強い……!』

「よく見て学べよ。アレは百年に一度の才能と、不断の努力の完成形だ」

 

 僕はそう苦虫を噛み潰したようにトキへ語る。僕にあれはできない。純然たる事実だ。それは、戦闘力の問題じゃあない。なにかに頼ること、仕事を振り分けること。その判断の速さ。そういった部分だ。僕は本質的にはひとりで戦えるところまで戦う人間だ。ネルは違う。

 

 情に厚く、不必要な情を出さず、ミレニアムの平均に追いつく程度の頭脳を保有し、他の追随を許さない戦闘力を持つ。人間性のできた戦闘マシーン。およそ存在しているはずがないものという評価がネルには相応しい。

 

『百年に一度の才能……不断の、努力』

「そうさ。あれは僕にはなれないモノ。その上で、恐らくは、君ならなれるものだ。だから何度でも言うがよく見とけ」

 

 僕は色々な言葉を、憧れを、苦しみを飲み込んで、先輩としてトキに言う。

 

「アイツこそが、僕らにとっての『勝利』の象徴だ」

 

 ネルの背を、上空から眺めやる。その背に背負ったスカジャンの、黄金の龍。ヤンキーやスケバン共でもなかなかないぞ、と思っていたそのセンスが、この場では絶対の正解に見えた。

 

 最強は揺るがず、今なおそこにある。

 

 

 




ネルの強さをいくらでも盛るペコシリーズ……あの、ネルの強さを本当に無限に盛ってしまうんだけど多分いくら盛ってもいいんですよね、これ。

ということでありがとうございました。次回もまたお願いします。それでは。
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