各務に想う 〜いったいいつになったらみんな財務会計ってもんを覚えてくれるんだ〜   作:ふぃーあ

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藻掻き足掻くための手段

 申谷カイ。彼女を止めなければならない。しかし、どのように。

 

 僕の頭には、この言葉だけが巡っていた。神仙に至る手段。あぁ知っている、知っているとも。僕はその言葉を知っている。

 

 仙薬。天峰チハヤの、いいや違う。異界人の肉体を読み解いた天才の生み出した、新理論。辿り着いてしまった、極地。

 

 ミレニアムに戻ってきた僕は、考察を重ねていた。

 

 申谷カイの脅しは、厳密に言えば脅しではない。

 

「この話を漏らせば、即座に実行する」とは、すなわち「僕にスタートのタイミングは委ねる」という意味だ。あれは脅しじゃなく、許し。申谷カイの傲慢だ。

 

 そして、恐らく……この一件において、「天峰チハヤ」という人物に含まれている者がいる。他ならぬ、申谷カイがそれを認めた者がいる。

 

「……チヒロは、他者に含まれない」

 

 各務チヒロその人もまた、申谷カイがそれから奪うと決めた……「睨まれた」人物だ。故にこそ、「抵抗を認める」相手であると言える。

 

 だが、天峰チハヤが各務チヒロを巻き込む、ということを、申谷カイは当然想定していない。それができると思っていない。そして、事実として僕はその選択を取らない。

 

「これは、僕の過去。僕の精算すべきことなんだ。チヒロは、巻き込めない。事情は伝える。けれど……参戦は認められない」

 

 だから、天峰チハヤは単独戦力……というか、他の人には本番までなにも伝えない状態で、申谷カイの来降を止める必要がある。

 

 無論、山海経の戦力に保険をかけてもらう必要はある。というか、恐らく申谷カイ的に想定されたスタートは「僕が全ての用意を終えて、山海経に申谷カイの襲撃がやってくる、その対策作戦を伝えきったその刹那」だろう。

 

 天峰チハヤの全てを否定し、己がどれほど強大なのかを示すために、申谷カイは、僕個人ができることを全て容認するはずだ。

 

 ここまでが、簡単に考えられる制約。

 

 ここからは、さらに実戦にあたって考えられること。

 

 まず、大前提として僕は申谷カイに勝てない。これは、彼女の辿り着いたと言うところの「神仙」なる概念がおそらく人体の強化に由来するところにある。

 

 どれ程の強化幅があるのかはわからないが、「天才たちの領域に踏み込む」、そしてなにより「申谷カイが傲慢になるほどの余裕を与えている」という点において、その能力はミレニアムにおける美甘ネルのそれほどに高いのではないか、と考えるべきだ。

 

 学園の頂点に位置することを許される程の単純な力と、狡猾な策の数々をもって、カイは山海経の制覇を狙うに違いない。

 

 だが、申谷カイに勝つための方法自体はいくつか存在する。厳密に言えば、「山海経が申谷カイを止める」方法がある。

 

 例えのひとつとしては、キサキを一時的に完全な力を振るえるように戻す、というもの。薬をカイに盛られる前のキサキは、驚異的な武力も有する、史上最強の門主であった過去を有する。そのキサキがまた君臨することになれば、あるいは、ということもあろう。

 

 だが、今回において重要なのはそこじゃない。

 

 山海経のみんなにも、ミレニアムのみんなにも悪いと思っている。だが、こればかりは僕のエゴで、そしてどうしようもないところだが。

 

 僕は、申谷カイに勝たなければならない。でなければ、納得できない。誰の力でもなく、ただ、「天峰チハヤが申谷カイを否定する」ことでしか、僕の過去は終わらない。

 

 というわけで、カイという絶対的強者に、弱者が勝つためにはどうすればいいかを僕は考えなければならない。そして、都合のいいことに、このミレニアムにはかつて、絶対的な立場にありながら弱者の思考を持ち、それ故に崩し得ない女がいたのである。

 

「久しぶりね、チハヤ。車のこと、トキのこと。色々と話したいことは山積みだけれど」

「突然の来訪にも関わらず受け入れてくれてありがとう、リオ」

「構わないわ。あなたに関わってきた他の人風に言うなら……借りを返すのだと思ってちょうだい」

 

 ミレニアムから少し。砂漠に少し車で走れば着くような、営みの残るアビドスの校区近くの小さな街。

 

 その街のさらに隅に、リオは新たな拠点を構えていた。

 

「細かい詮索はしないけれど。あなたは、何らかの理由でネルや、ゲヘナにおける空崎ヒナのような人物クラスの、強者と戦うことになったから、どうにかしたいと。そう言ったわ」

 

 リオは相変わらず黒いスーツを着て、青い光を背に、こちらを赤い瞳で貫いていた。

 

「ひとりで戦いたいと。そういうことであっているの?」

「あぁ。手は借りられない。僕が、決着をつけたい」

「チヒロが後で文句を言いそうね」

「そっちの言い訳を考えるのも手伝って欲しいが、そういうのは君の得意じゃないだろう。さっさと本題に移る」

 

 僕はリオに頼み事があってきたのだ。本質的には「弱者」でありながら、頭脳だけで「絶対的強者」になった女、調月リオに。

 

「僕には思いつかない。最強格によーいドンで勝てるプランが」

「私にはある。このキヴォトスのどんなに強い生徒だろうと、確実に一度だけ勝つプランが」

「……流石だな、リオ」

 

 リオはその言葉に僅かに口角を緩めた。

 

「悪い気はしないわね。あなた、脳の演算能力に自信は?」

「無いわけじゃない。エリドゥの時は多少無理をさせられた」

「あぁ、そういえばそうね。勾玉、だったかしら?あれが使えるなら十分かもしれないわ。試してみましょうか」

 

 リオが指先で示すもの。アレは……ゴーグルと、ヘッドセット? 

 

「試作型未来予測演算システム『サムス・イルナ』。過去、あなたと、チヒロと、ヒマリ。そのすべてをエリドゥで相手した時に、私が使った装置よ」

「……これが?」

「そう。私では、その全ての能力を使いこなすことはできなかった。だから、リミテッドモードを設けて、私の演算補助として運用した。トキでも無理だったから、『アビ・エシュフ』には別口の未来予測補助のプログラムを組み込んだ。けれど……あなたはどうかしら?」

 

 僕はそれを手に取って、眺める。小さい。一体、どこに未来予測なんてするリソースがある? 

 

「気になっているようね。それには、私が『無名の司祭の遺産』から得た技術ではなく、初めて手に入れた『無名の司祭の遺産』をそのまま組み込んでいる。つまるところ、現代に適応させただけのオーパーツに過ぎないの」

「……使えるようにしたオーパーツ、か」

「えぇ。それは、ありとあらゆる未来を見せてくれる。『見えすぎる』ほどにね」

 

 なるほど。……そういうものなのか。

 

「あくまで、未来は選ぶものだと。そういうことか」

「えぇ。果たして使いこなせるか……試験用に、AMASを出しましょう。演習場は地下よ」

 

 そして、演習場に入り、『サムス・イルナ』を身につけた僕は。

 

 流れる時と運命を見た。未来が濁流となって襲いかかるようなイメージの負担を、一身に受けた。

 

「これで、終わり!」

 

 辺りに散らばる破片。すべて、AMASのものだ。

 

「っはぁっ……ぁあ、はぁっ! 開発理念から、破綻してるだろう……なんだこれは!?」

「お疲れ様。想像以上の適合ね。ほぼ完全に適合しているに等しい。私もトキもそうはいかなかったのだけれど」

 

 見えた。ありとあらゆる、AMASの動きが。次の瞬間、どれほどの挙動をして、どれほどの大きさの銃弾を撃ち、どれ程の速度で到達して、どれだけ首を傾ければそれが当たらないか。

 

 その全ての情報が、僕に一度に流れ込んだのだ。

 

「これは……これは凄まじいが、負担がデカすぎる……! 脳が割れそうだ!」

「ノーリスクだと思っていたの? ただ、現状あなたがそれに慣れることが、ありとあらゆる艱難辛苦を合理的に越えていく方法としては最も優れているわ」

「……違いない、違いないが……」

 

 たった3分の戦闘で疲弊した僕へ、無理を言うわ、と。リオは前置きをして口を開く。

 

「示す未来を上回りなさい。常に、サムス・イルナの想定を超えなさい。私も、トキも、それを演算補助以上には使えなかった。だから、作ったはいいけれど誰にも扱えなかった、隠し札がある。もし、チハヤ。あなたがすべてを扱い切れるのなら……その隠し札こそが、あなたの目的に届く札になるはず」

「なるほどね。できなきゃ僕では勝てない……それだけのことか」

 

 リオはそうね、と呟いてから続ける。

 

「そもそも、おかしいと思ったことはあるかしら?」

「サムス・イルナについてか? あるはあるが……」

「例えば?」

 

 僕は、たった一度の実戦の前に聞かされて、ふと気になっていたことを口にしていく。

 

「アビ・エシュフという機体が、このシステムの後継機として設計されているのはさっきからの話でふんわり分かった。あのパワードスーツ全部で『アビ・エシュフ』なんだということもね。なのに、このシステムはシステム単体で『サムス・イルナ』と名乗っているのか?」

「まさしく、そこが私の隠し札。本来『サムス・イルナ』は一機のドローンと同時に運用することを前提にデザインしていた。そのドローンも、ここに既に持ってきてある。もし、使いこなせるならあるいは……ええ、期待させてもらうわ、チハヤ」

 

 リオはそう言い放つと珍しくふふ、と笑う。天才からの挑戦、というべきか。あるいは、僕にしかできないことへの高揚か。

 

 なんにせよ、僕のモチベーションは至って高いわけで。

 

「へぇ? 面白そうなもん隠してるってことか。やってやろう、コツは……まあ、やれば掴むだろう。存分にやろうか」

 

 この後、リオの認める最低限のラインに到達するまで四日ほど通い詰めることになった。やっぱ設計の段階が既に破綻してるんだと思うんだよな……。

 

 




次回もまたよろしくお願いします。最近また思いついたら書くができるようになってきたので多少更新ができるかもしれません。

なんか結構書きそうなので、2.5部として閑話から分離しました。よろしくお願いします。

モチベに繋がるので、評価とか感想もよろしくお願いします。
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