各務に想う 〜いったいいつになったらみんな財務会計ってもんを覚えてくれるんだ〜 作:ふぃーあ
リオの要求する能力を僕自身が獲得したことによって、リオが僕に譲渡した「隠し玉」。
地下の演習場で、それを譲渡する運びとなり、現物を僕の前に用意したリオは、どこか感慨深げに呟いた。
「……不思議ね。これは、トキと私にしか扱えない前提でロールアウトされた。そして、トキにも、私にも扱えなかったから抱えざるを得なかった。そんな産物」
隠し玉をダウングレードして、幾つもの制約をかけて、やっと世に生まれ落ちたのがあの狂気のパワードスーツことアビ・エシュフなのだと、改めてリオは最初の自分の失態について語った。
「先にも話したと思うのだけれど、アビ・エシュフは妥協品。……もちろん、私たちの全霊は尽くしたし、その力、技術、全てにおいて妥協はないわ。ただ、コンセプトの時点ですでに妥協されているだけで」
「本来運用したかったものに対する、妥協か」
「そうね。あなた達にはそうは見えなかったかしら」
全く見えなかった、というのがあの時の僕が見た素直なところだ。だから僕はそのまま続ける。
「全く見えなかった。アレはあの場においてそういうものとして完成されていて、完全な最大の大敵であるようにしか見えなかった」
「なら良かった。全てをかけた戦いに、妥協を持ち込んだと思われていないか。少しだけ気になっていたから」
「まさか。調月リオはひとつの目的のために全力を投じ、全霊で僕らを撃滅しようとした。そこの認識は永遠に変わらない」
ふふ、と僕の言葉にリオは珍しく笑った。
「そうね。さて、本題に戻りましょう」
そう言って、リオは目の前の「機体」を見た。
それは間違いなくパワードスーツであるように見え、そしてパワードスーツとして最も大切なものを欠損していた……つまり、奇妙なものだった。
「……乗り込む場所が、無い?」
「当然ね。この機体はパワードスーツではなく、パワードアーマー。そして、この機体はパワードアーマーであるだけではなく、自立駆動型のドローンでもある」
リオは、その機体を前に朗々と語る。どこか誇らしげに、自らの過去の失敗を、今成功に変えることができる喜び……エンジニアの至高の瞬間を楽しむように。
「本来、この機体を操るならば、常に身体をふたつ動かすのと変わらない負担がかかるわ」
「なんだって?」
思わずそう呟いた僕に、リオは機体をじっと見つめたまま続けた。
「無理を言っている自覚はあるわ。
リオはそう言って、やっとこちらに振り返った。
「これこそが、私の理想。私の解答。ひとりで戦うために、未来を垣間見る。それでも埋めきれない戦力差がそこにあるとしたら、どうすればいいのか。解答はひとつに決まっている」
リオは彼女らしくもなく、紅い瞳を夢を語る少女のように光に照らした。
「ひとりでふたりになればいい。単騎で行うツーマンセルこそが、理論上最適効率の連携。それこそが、この機体及びシステム《サムス・イルナ》の、真の姿」
とち狂ったコンセプトだ。だが、論理的破綻は当然どこにもない。出来るなら、それは確かに理論上の最適解になり得る。調月リオに理論の破綻を求めるのは、電卓に計算を間違えることを期待するのとそう変わらないことなど、とうに知っている。
「1VS1では崩せない壁も、ふたりなら話は変わるでしょう?」
その言葉を締めに、リオは僕をじっと見つめ。
「……あぁ。これなら、やれる」
「ええ。あなたが何を相手にしようとも、サムス・イルナはあなたに勝利を約束する。チハヤ、貸し借りはこれの譲渡を以てなしにしてもらう」
「もちろん。車は今後とも使ってくれ。こいつは貰っていく」
システムと、機体にリンクが確立する。僕の脳に新たな情報が流れ、そして、リオの操作で演習場に数機のAMASが現れる。
「慣らしと行きましょう。存分に動かしなさい」
そして僕は……
「ぐぁ!?」
「チ、チハヤ!? いったいなにを……!?」
弾を避けられず被弾した。脳内に展開された、膨大な未来予想図。
動きの幅が「アサルトライフルを装備した人体ひとつ」から「アサルトライフルを装備した人体一つと複数の武装を搭載したパワードアーマーを同時に運用するもしくは分離運用する」に広がったことにより、動きの選択肢が数倍……いや、数十倍にも膨れ上がっていた。
「……適切な未来を、選び取れない……もっとだ、もっと適応する必要がある」
「……なるほど。動きの幅が増えて、選択肢の量が単純に増加したのね」
「そうだ。けど……これは、もしかすると……」
僕の頭の中には、ひとつ手立てがあった。それは、僕の数年に渡る事務作業によって身についたスキル。
並列思考処理。複数のタスクを並列に処理する僕の得意技であり、モニター3つで5つの仕事を同時進行しなきゃ終わらないデスマーチを切り抜けた荒業でもあるのだが……まさか、ここで活きるとは。
思考を分割する。二つ、四つ、八つ……今はここが限界だ、それはそれでいい。うちひとつをセントラルとし、ここに意識の基礎を置く。
「……これで、ひとつ試したい」
「分かったわ。……AMAS投下」
分割した中の、第一の思考領域で降りてきたAMASの、動きを演算する。
第二思考領域はその情報を前提に反撃を自身の体で行う場合の未来を観測。第三思考領域は、サムス・イルナとの分離による反撃を。第四思考領域は、武装を使用した反撃をそれぞれ演算。
第五思考領域は反撃をしないパターンの観測に集中、第六思考領域は回避の方向についてを演算。第七思考領域は緊急用に予備温存、思考リソースを無駄使いしないことを意識。
第八思考領域……セントラルで各領域から「最適解」と判断された情報たちを統括して、選び抜かれた専門領域の「最適解たち」から「解答」を導出する。
「……ここ」
一歩横へ。半身になって、頭を少しだけ傾けると、ペイント弾が瞬間的に空間を翔けていく。
それを見ることすらせずサムス・イルナと分離。僕が深くしゃがみこめば、サムス・イルナは僕の命令に応えて腕部ユニットから弾丸を1発だけ放つ。
その一発は、一瞬の刹那に計算され尽くした挙動、その通りにAMASを地に堕とす。
「さすがね。……もうモノに?」
「いいや。まだきっかけだ。リオ、今日中にこの感覚を完璧に引き出し切りたい。悪いが、もう少し頼む」
「わかっているわ。無理をしていると思えば止めるけれど……今少し、やってみましょう」
入口だ。確かに、見えた。無理筋だと思っていたことだが、自分の中に解決の手がかりはあった。
「……嫌になるが、悪くない。仕事漬けの毎日もそう捨てたものではなかったということか」
そんな僕の呟きに、リオは珍しく小さく笑ったのだった。
今回もありがとうございました。また次回も宜しくお願いします。
サムス・イルナの一番わかりやすい挙動の例はセラヴィーガンダムとセラフィムガンダムの関係性です。サムス・イルナがこれでいいのかを考えるのにめちゃくちゃ時間をかけた形です。
初期案は単なるファンネルみたいな感じだったんですけどどうしてこうなったんですか……?
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