各務に想う 〜いったいいつになったらみんな財務会計ってもんを覚えてくれるんだ〜   作:ふぃーあ

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なお蒼き鋼絆/神仙の正名

 

 おおよそ、やることは終えた。

 

 リオから「隠し札」を受け取り、その扱いを学び、こちらで改造を加えた。申谷カイの示したタイムリミットまで、あと3日のことだった。

 

 過去に訣別を告げるために、ひとりで立ち向かうことを、チヒロにはまだ話していない。けれど。

 

「チハヤ、また作業?」

 

 エンジニア部の作業場に現れたチヒロは、その辺のことなどお見通しとばかりに笑っている。

 

「あぁ。ごめん。もうこんな時間か」

「ご飯はちゃんと食べてね。……なにか作ろうか」

「いいのか? 助かるけど……任せても?」

 

 チヒロはふふ、とそう微笑んで頷く。

 

「もちろん。私に任せて」

 

 チヒロには勝てない。体から静かに力を抜く。改造中のリオの「隠し札」から視線を外す。

 

「なあ」

「なに?」

「……何も、言わないんだな」

 

 チヒロは答えに少しも迷わなかった。

 

「私はチハヤを信じてる。私に隠し事をしていることくらいはわかる。それをあなたが知らせたくない理由がちゃんとあることもわかる。だから、私は信じて待つだけ」

「……ごめん。それでも、ありがとう」

「うん。……チハヤ、頑張って」

 

 その言葉ひとつ。そう、「頑張れ」という言葉ひとつだ。それだけで僕の身体にあった、申谷カイと出会って想起された僅かな過去の残滓がもう一度蓋をされる。

 

「あぁ。全力を尽くすさ」

 

 だから、僕ももう迷わない。忌むべき過去を、愛すべき未来で上書きするために。

 

 チヒロが料理を作りに行った、その背を見送って、呟く。

 

「この世界で、なんの憂いもなく幸せになるために」

 

 

 

 2日後。カイの示したタイムリミット、ピッタリ24時間前。

 

 山海経に、申谷カイはやってきていた。あの日、宣戦布告をして、返した、その公園に、足を運んでいた。

 

 そして。

 

 僕は、それを読んでいた。

 

「来たね」

「……天峰、チハヤ。どうして、ここに」

 

 驚いた様子のカイに、僕は振り向く。奇しくも、あの日とは逆の構図。築山の上に立つ僕、山を見上げるカイ。

 

「お前の監視の目は、電子的なものじゃなく人間的なコミュニティだ。山海経の中でなら、君の息がかかったものに話が伝わるようになっている、とかそういう話なんだろう。そして、玄武商会にも玄龍門にもその手の者がいると」

 

 カイはただ、佇む姿と無言だけをもって話の続きを促し、それに応えて、言葉を続ける。

 

「だから、飛んできた」

「急行してきたとしても……」

「いや、飛んできたんだよ。物理的に」

「……は?」

 

 僕が、カイに気づかれず山海経入りするためのプランとして選んだもの。それは、空を飛ぶことだった。

 

『うおおおおさすがに自分が作ったとはいえこっっっっわっ!!!? 無理無理無理これ進行方向あってるリオ!?』

『ええ。残り二分半程ね』

『誰だこのバカみてぇな速度のブースター使い捨てで作ったヤツ……! 僕か! クッソ過去の僕をぶち殺したい!』

『割と余裕そうね』

『どこがだどこがぁぁぁぁぁぁっ!!?』

 

 改造を施したサムス・イルナの「隠し札」に、追加の使い切り飛行用ブースターを搭載し、それでもってぶっ飛んできたのだ、僕は。

 

「死ぬほど怖かったが、まあ背に腹はかえられない。君の手のものにバレるのは癪だしね」

「23時半の定時報告では、まだミレニアムにいたはずだ。超音速で空を飛んだとでも……?」

「まあ、うん。めちゃくちゃ頑張った。人間が耐えちゃいけないGのキワッキワを攻めるのは大変だったんだよ?」

 

 カイは呆れたような、あるいは呆けたような顔をした。

 

「……頑張ったで済まされては困るんだけどねぇ。人体の限界って知ってるかい?」

「その辺の防護装備は作った。1回でガタが来たから捨てただけだ」

「全部使い切りだねぇ……贅沢なことだ。ま、そういうことなら良かったよとはならないが」

 

 完全に向き直って、僕はカイに言葉を続ける。

 

「まあ、そんなことをするくらいには、そっちに主導権を握らせたくはないんだ。事前準備はたくさんしてきたし、お前の打つ手は九割読んだと思う。その上で、読み合いするのは僕にとって分が悪いと思った。だから、そうだな。全部、押し付けることにした」

「……へぇ?」

 

 初手、カイが準備するよりも先に。行動を起こすよりも先に。僕が、カイを叩き落とす。今回のプランは、つまるところ。

 

「頭脳派が嫌がること全部やってみようってやつさ。頭抱えて仰け反らせてやるよ」

「……もうだいぶ嫌だけどねぇ。君、後ろ手のスマホでなにしてる?」

「あぁ、気付くか。グループトークって奴さ、若者の趣味だよ」

 

 カイは僕の言葉に笑みを浮かべた。

 

「門主と会長に渡りをつけるグループトークとは随分贅沢なトークだねぇ」

「そこ二人だけじゃないが、まあとにかくそういうことだな。……頭脳派が嫌いなことはよく分かってるつもりだ。例えば、戦略もクソもない盤面にされること。例えば、今更言葉の通じなさそうなやつと1v1させられること。そして……」

 

 地面に落ちていた残骸のようなそれに、青い光が走る。カイは、その光景を楽しそうに見ていた。

 

「知ってる相手に知らない強化形態が生えてることも、僕らは嫌いなんだよな」

 

 リンク、確立。僕は取り出したバイザーにスイッチを入れた。

 

「……どこまで行くつもりなんだ、君は」

「どこまでも。さて、これこそはサムス・イルナ……改め」

 

 残骸……いや、分散させたパワードアーマーとひとつになった僕は、改造されたそれの名を呼んだ。

 

「改修型パワードアーマー、《ミレニアム・ヴィンクルム》!」

「はは……いやはや、実に青い。いや、色合いももちろんだけどね……君の比翼の色合いか。憎たらしいな」

「なんにも説明してないのに協力してくれた人達がいてね。やっぱ理解とかいらないんだな、ってつくづく思ったよ」

 

 バカばっかりだな、と思う。この改造は僕一人で施すつもりだったのだが。

 

『はははっ、チハヤくん?! 私たちに隠れて面白そうなものを弄っているじゃあないか!? どうして呼んでくれないんだい!!?』

『理由とかは聞かない。ので、どうか弄らせて……!』

『エンジニア部の工房を借りておいてこのような素敵なものを説明もせずに弄り倒すなんて協定違反ですよええ全く本当にいくら先輩と言えども今回限りは許容できませんということで私たちにその機体の改造の方向性などを事細かに説明して下さればお役に立てるかと思いますよすごくすごく多分役に立ちますよ専門ですよ私たちに任せてもらってもいいほどには』

 

 憤怒し、興奮し、呼吸なく捲し立てるエンジニア部たちは、サムス・イルナをすっかりコンセプトだけを引き継ぎバージョンアップさせてしまったし。

 

『チハヤさん。もしよろしければ、なのですが』

『……ヒマリ。これは?』

『試験的ですが、アップデートパッチです。あの女から、なにか貰ってきていたでしょう。そのまま使うよりは、この私手製のサポートAIが入っていた方が使いやすいと思いますし』

 

 ヒマリはいつから覗いていたのか、そう言いながらSDカードを手渡してきた。

 

 そんなわけで、この機体は余計なお節介に塗れて魔改造されてしまったのだが。

 

「ヴィンクルム……確か、古い言葉で『絆』って意味だったかな? 君らしくもないネーミングだ」

「ま、否定はしないさ。とはいえ、こういう名前をつけないのは間違ってるような気がしてね」

「王道って奴かい? 君が忌み嫌うものだと思っていたけれど」

 

 僕はふっ、と笑う。

 

「嫌いなわけじゃない。ハナからそこに居なかっただけで、憧れはしてたさ」

「……しかしまあ、酷い話だ。君の作戦は全てここで君が私に勝つこと前提で構築されている」

 

 それには否定ができない。そりゃそうだ、負けるつもりで策を練る奴はそういない……いや、ちょっと前の僕はそんなんばっかだったけども。

 

「私をそう簡単に越えられると思っていることが、酷いと言っているんだよ。さて……こちらも、研究の成果を見せてやろうかね」

 

 カイはひとつの薬を煽る。止める間もなく、一瞬で試験管が空になる。

 

 そのまま、カイは試験管を落とし、踏み砕き。

 

「……ぷはぁ……やぁっと、この時が来たんだねぇ、チハヤ」

 

 漏れ出しているのは……これは、なんだ? 

 

「仙薬。神仙へ至ると言ったが、アレは厳密に言うとあんまり正しくない。正しく言うなら……『立ち返る』のさ」

「……立ち返る?」

「そうさ。我らは元々神だった。古代の山海経の文献にはそう記されている。御伽噺の戯言と思っていたが、そう嘘でもないらしい……私が潜伏中に得た情報の範囲では少なくともね」

 

 カイのヘイローが廻る。白と黒の粒子がカイを彩る。

 

「始めようか、天峰チハヤ。まあなんだ、やられたらやり返せるだけの土台が私にあって本当に良かった……知らない強化形態があるのは君だけではない、という意味で」

 

 カイの身体に纏わりついた白黒は、羽衣を成して。ヘイローが生き物のように曲がりくねり、カイの頭部を締め付ける。

 

「さて……今ここに、我が正名を告げる」

 

 目覚めたソレが、口角を吊り上げる。存在するだけで発される気配が、僕を圧す。……

 

「我が正名、《五塵斉天真君》……どうだい? チハヤ。似合うかな、コレ?」

 

 白黒の羽衣に身を包み、手にした拳銃は白黒の粒子を纏い、ヘイローは頭上から消失し、冠かなにかのように頭にまとわりついている。

 

 正しく、それは神の似姿。人の身でありながらにして、神秘を理解し、超越した、今の申谷カイは、紛うことなき超越者であり、あるいは僕の知る「勝利の象徴」よりも……強い存在。

 

 とはいえ。聞かれたなら、答えてやろう。

 

「いいや、似合わない。お前に似合うのは白衣とグラサンだよ。そこは変わってない」

「……驚いた。この状況で女を口説くか? 普通」

「彼女連れなんだ、本心の褒め言葉以上の意味は無いと思って欲しいね」

 

 初手から開帳された、カイの「真の力」に内心畏れながら、それでも僕は気勢を張る。

 

「まあいい。来るがいい、天峰チハヤ。この私が……神に等しい存在が相手をしてやる」

「神気取りの人間に負ける道理などない。満ち足りることを知らない欲望の塊が悟りを開いて現人神?笑い話にもならないな。これからの、僕の未来のために……消え失せろ! 申谷カイ!!」

 

 僕の叫びを号砲に。ヴィンクルムの『主砲』と、神仙の『愛銃』が持ち上げられ。

 

放たれた蒼い極光と白黒の流星が、空を交錯した。

 

 

 




一話で改修されるサムス・イルナくんに合掌

今回もありがとうございました。また次回もよろしくお願いします。評価とかここ好きとか感想とか貰えると助かります。

それではまた。
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