各務に想う 〜いったいいつになったらみんな財務会計ってもんを覚えてくれるんだ〜 作:ふぃーあ
月夜の下に相対して、砲撃を号砲に。僕が《ヴィンクルム》に火を入れ、カイが足に力を込める。
初手で使った砲撃もまあまあ威力が乗っていたはずだが、カイの拳銃一発で無力化された。ふざけろ、アレが拳銃の範囲に収まるものか。どれだけの強化が施されているのやら見当もつかない!
「まずは、小手調べ」
そう、カイが深く笑みを浮かべながら拳銃を持ち上げ……白黒の砲撃にも似た、光が走る。それは未来の予告、視界に映る可能性。ならば。
「要らん。クーリングオフだ、受け取れ!」
「……ッ!」
意趣返し。更なる砲撃がカイの光を打ち消して、消える。
「やはりか。君がそんな戦い方を出来るわけがない、私を見くびるなよ。このイカサマ師め……さて、どんなタネなのやら」
「初手で見抜くなよ……これだから頭のキレる奴は嫌いだ。ここまで煽って冷静に立ち回ってくるとか鬼か?」
「神だよ、私は」
うるせぇ、と口でぼやく代わりに砲撃。右手側のサブマシンガンを追撃で解き放ち、もう一度煙の中に砲撃。
「冗句は最後まで聞いてくれるかい?」
そう嘯くカイがゆらりと煙の中から姿を現し、拳銃を3連射。極光が三度空を駆け……その一切を予知していた僕は完全に回避する。
足元に仕込んだホバー、そして姿勢制御ブーストを吹かし、滑るように地を駆ける僕に対して、しかしカイは笑みを崩さない。
「戦場の主導権が君にあるのは癪だねぇ。……少し、展開を変えようか」
そう、頬を吊り上げたカイの手には、大きなフラスコ。それを地に叩きつけたカイは、嘲るように笑う。
「バイザーはなにをしているにしても視界依存ですと言ってるようなものだよ、チハヤくぅん?」
「……煙幕か!」
「せぇいかぁい……近接戦、楽しもうじゃあないか!」
実際のところ、《サムス・イルナ》の未来予知は視界依存が半分、情報からの思考演算が半分。つまるところ、完全に予知が封じられたわけでは、ない。
だが、それは十全な予知のためには演算を倍にする必要があることを示していて、そのために必要な思考リソースを維持しながらカイと近接戦をするだけの力は僕にはない。
それは事実だ。つまり、半分に性能の落ちた予知を信じざるを得ないということか? いや、それは違う。
「システム《ゲニウス》、起動ッ!」
視界に走るGENIUSの6文字。こういう時こそ、ヒマリのお手製、サポートAIの出番だろう。
ゲニウスともサムス・イルナのリンクを通して脳内で指示を飛ばせるようにしてある今、言葉は起動時以外は不要。
下す命令は、リソースの限定分配。《1秒先だけ寄越せ》と脳内で怒鳴れば、思考がクリアになっていく。フルに演算しきるのが難しい盤面ならば、先を見る量を限定する。1秒。1秒先が分かれば、今の僕なら追いつける。
分割した思考のうち、使わなくなったものをセントラルの思考と結合。取り戻した脳内のリソースで、たった1秒の時間を引き延ばす。
見えた、そこにいる、振りかぶる、振りかぶる? 棒だ、なんだそれ? 考えている暇があるか、ない、来る、受ける、いやたぶん折れる、銃身が逝く、なら。
抜け。左手、ダガーだ。棒と沿わせて、流せ。
「そこ、だ!」
「反応するとはねぇっ! 読み違いだったかなぁっ!?」
「さぁ、ねっ!!」
続けてダガーを振るう。引き伸ばした一秒の対価は思考リソースの消耗、だがその一秒は値千金の無傷を僕にもたらす。
申谷カイという女の、天峰チハヤという男への攻略法を否定し続ける戦いになった時、僕が勝つことはそうないはずだ。打開は必要だろうが……どこで打開できる?
考えろ、思考を回せ、アイツに僕が明確に勝っている部分を押し付ける!
「こういうの、如意棒って言うんだよチハヤくん?」
「説明どうも……山海経の伝説には鈍くてさぁ!」
「ま、簡単に言うと……」
未来予知。カイの手にしたそれが、伸びる。伸びる? ……マズい!
「こういうことができるってわけさぁ!」
脇腹を微かに掠めて、如意棒とやらが突き抜ける。掠めただけだが、重い。十全にカイの強化された力が乗っている。
「っくぅっ……だがッ!」
「甘いよ」
掠めたそれを掴もうとした途端、如意棒が縮んだ。空を切った手、それは今カイの前で晒すには大きすぎる隙。
「貰ったッ!」
大上段、振りかぶったカイが如意棒を伸ばし、叩きつけの体勢に入り。
「まだだッ!」
そこで叩きつけで助かった、カイだって戦闘が主体って訳じゃあない。今思い出したことだが、神になろうが人を辞めようが、申谷カイが薬師であり戦闘に特化していない事実は揺らがない。
確実に仕留めようとしたカイの思考はわからなくもないが、しかしその判断はカイの戦闘へのブランク、あるいは不慣れの証明だった。
大振りの攻撃故に間に合った、ブースターとホバーを吹かせた急速離脱。斜め前へ飛び出して、姿勢制御。カイを目指して、前に!
「こちらの番だッ、カイ!」
「……チッ!」
引き抜かれた拳銃、銃口に白黒が明滅する。
もう見た。未来予知はいらない。
「ヴィンクルム、モード:ヴィータ!」
そう叫んだ次の瞬間、僕の身体は勢いよく前へ。そして、遺された蒼へ、白黒が迫り……
「……は?」
蒼が、白黒の光を回避する。《サムス・イルナ》から引き継がれ、残された本来のコンセプト……《ひとりによるツーマンセル》。
パワードスーツ自身が独立駆動する人型のドローンとなり、共に戦場をかける……ヴィンクルムに込めた「絆」の意味はなにも「みんなと仲良しこよしで作り上げたから」だけじゃあない。
ミレニアム・ヴィンクルム モード:ヴィータ。身に纏う
「まさか独立してッ……いや、リンクがそう簡単に切れるわけがない、繋ぎっぱなし!? バカが、そんなことしたら脳が焼き切れたっておかしくはない!」
「完全適性は今のところ僕だけらしいぞ、ビッグシスター曰く!」
「見逃した才能……私はそういうのが嫌いなんだよ……ッ!」
カイが憎々しげに呟いた頃には、もう間に合わない。
吹かされたブースター、人がいないことによって制約を外したそれが地を駆け、僕を抜かして、カイの背面へと走り込む。
僕もまた、走る。パワードスーツを着るために必要な専用のスキンスーツに残っているのは、ダガーと拳銃、それから……彼女と交わした、約束と愛の具現。
「……ッ! 君にはこれでいいッ、アイツを……!」
「護れ! アイギスッ!!」
『命令を受諾』
完全なる盾。チヒロとの約定が、交わした想いが僕を守る。
散った白黒、見開かれる瞳。驚きと憤怒の視線がカイと僕で交錯する。
「まずは、一発っ!!」
咄嗟に構えた防御の腕、顎がガラ空きだ。
そうして、僕は突き抜けるようなアッパーを、カイに叩き込んだ。
初の有効打にカイの身体が揺らぎ、しかし倒れない。倒れるわけもない。鈍い感触、打ち抜いた感触のそれじゃあない。
「ぐぁ……離れろっ!!」
放たれる黒の波動に、ぐるんと振り抜かれる如意棒。ヴィンクルムと僕から同時に距離を取る一手。
「あぁもう、保険を効かせておいてよかったよ! ノータイムで女の顎をぶち抜きに来るなんて非紳士的な!」
「想定はしてたんじゃないかバッチリッ!」
「そのくらいのことをされる自信があるからねぇ……っ!」
軽口を叩く、笑みは既に顔にない。カイとて余裕ぶってはいられなくなったということは、ここからはなりふり構わず僕を叩き潰しに来るということ。
「これで終わるとか思ってないよねぇ? あと、それで終わりな訳でもないよねぇ?」
「もちろんだ」
「全く嫌になるね……あと、ひとつ言っておこうか。その手の戦術、自分が増えないと1+1とはならないと思うんだ」
まあ、その通りだ。黙って言葉の続きを聞く前に拳銃を撃ち込む。避けられた。
「まあ、つまるところ。私ならできる。本物の1+1も、その上もね……!」
言うなり、カイは耳の前にかかっている、自身の髪に手をかけた。白が夜空に舞い上がり、そして……カイがふぅ、っと息を吐きつける。
「ふふ……試すのは初めてだよ。身外身の術、って言うらしいけど……どう?」
そう笑うカイが、増えた。同じ格好、同じ構えで、同じ笑みで。
しかも、四人に。
今の私に不可能などない。お前を超えるのも容易い。そう、嘲り笑うように。
「意趣返しだ。分身ごっこには本当の分身でお相手しなきゃあ、無礼だと思わない?」
「……いらない気ばかり効かせるね、本当に!」
舌打ちしたくなる。だが、あの手のことには何かしらデメリットがあって然るべきだ……完全ノーデメリットで無限分身するようならもう知らない。それは別に誰が相手しようが詰んでるため無視する。
デメリットがなきゃ、あんな無法通らないと思わなきゃやってられない。
「それじゃあ……第2ラウンドと行こうか?」
「好きにしろ。僕は第1ラウンドを終えた記憶はないがな」
その言葉を最後に、僕とヴィンクルムが背と背を合わせる。四方をカイが囲む。胸の高さまで持ち上げられた拳銃。光る四方の白黒の光が、戦闘の続行を告げたのだった。
カイには全体的に孫悟空(西遊記)のモチーフが取り入れられているので、元ネタのひとつくらいにはあるのかな?みたいな読みをしています。
元々修行によって下界に降りる時に必要な知識として医療に精通しているという話が孫悟空にもありますので、自分は少なくともそう考えている、程度の話ですが。
今回もありがとうございました、また次回まで。
よければ感想とか評価貰えると書くモチベになりますのでよろしくお願いします。