各務に想う 〜いったいいつになったらみんな財務会計ってもんを覚えてくれるんだ〜 作:ふぃーあ
二人の策士がそれぞれの手札を使い切る決戦が、山海経の外れで行われることになる、何日か前。
「……意外な、客人ね」
「お願いがあるんだ」
「どうしてここがわかったの? ……いえ、チハヤかしら」
不意を打たれたようなリオの顔。
「チハヤは関係ないよ。色々調べただけだから」
「隠蔽が杜撰だったと言うべきかしら?」
「そうかもね。まあ、みんなには普通の手じゃたどり着けないのは確かだよ。それと、リオを探し出すのが私の目的じゃないのは先に言っておく」
私は……各務チヒロは、今、調月リオの拠点にいた。
飛鳥馬トキに絞って様々な手を尽くし、若干手段を選ばないグレーな部分もフル活用して辿り着いたその拠点へ、私はリオに懇願するためにやってきたんだ。
「それじゃあ、なんの用かしら」
「力を貸して欲しい」
「なんのための?」
そんなこと、言われずとも決まってる。
「過去から大切な人を解放するための力だよ。私には……戦闘とか、そういう能力が足りないのはわかってる」
「そうね。私たちにはおよそそう言った能力は期待できないわ。その上で、私にそれを求めると言うのね?」
「リオが備えてないわけないでしょ。なんでもいい。……なんだって出来る。不可能をねじ伏せろって言われたってやる。だから」
はぁ、と。リオは静かにため息をついた。
「二人揃ってなんて不器用なのかしら」
「何の話……?」
「わかっているでしょう。チハヤが最近なにかにお熱なことくらい」
正直、思い当たる節はあったんだ。チハヤがエンジニア部と弄り回してた、あの人型パワードスーツ。リオの発案、あるいは提供物。そう考えれば、辻褄は十分に合うから。
その上で、チハヤの言葉を思い出しながら言葉を紡いでいく。
「……私を巻き込みたくないのは、伝わってきた。チハヤは優しいから」
「やろうとしていることはその対極ではなくて?」
「そうだね。でも、やる。私は私の意志で、私のエゴで、大切な人の意志を踏み躙ることになるとしても、大切な人の隣で、大切な人の背中を押してあげたい。後ろに立つのは、もう嫌だから」
リオは、呆れ果てたように、そしてどこか納得したように口角を上げた。
「天峰チハヤが挑もうとしているのは学園最強格相当らしいの。そんなものにいくらモノありきといえど単独で挑戦なんて、非効率で非合理的だと思っていたところ。私だって、過去の朋友を心配する気持ちくらいは持ち合わせているつもりよ」
「意外でもないよ。リオは不器用だから」
「あなたに言われてはお終いね。いいわ、ついて来なさい」
その言葉に従って、私は一歩、前に踏み出す。
前に踏み出さなければ、始まらない。前に踏み出せないほどに、敵は強い。
「ははっ! どうした先程までの威勢は!」
さすがに、一機と一人で四人のカイを相手するのは無理。僕の演算領域がそう結論を出すのを、棄却する。
「劣勢なのは認めるよ。その上で、まだ負けてないとは言えるけどね」
「無駄だ。神仙の力の前に膝を着き、頭を垂れるといい。神が……私が赦してやる」
一応は、見つけた。身外身の術とやらの、弱点。
何度か加えた反撃は傷のひとつも残せなかった……ように見えているが、カイの纏った羽衣の装飾や、丈、袖口が反撃の度少しずつ剥がれ落ちているのが分かる。その損傷は、四人のカイ、その全てが共有しているものだった。
つまり、カイのあの術は、巨大なリソースを分身の数だけ等分して行う、全てが本体とでも言うべきもので。それ故に、対処法もシンプルな力押ししか存在しないことが、今の僕にとっては絶望的だった。
「……四対二。この盤面で、どれかひとつにでも致命傷を入れろ、とか無茶言うよ」
「数は正義なんだろ? チハヤぁ……」
「否定はしない。超越した個人より、超越した集団の方が嫌なのはそうだし」
頭を回せ。考えろ。どうにかなる方法を。詰む二手前くらいにいる認識はある。なんだっていい……そう考えを回しながら、空と地上の二面攻撃を仕掛けるカイから逃れようとした、その瞬間。
「んな……っ!?」
一筋の極光が、中空のカイを貫く。追って、更に幾度幾十度と光が空中に走り、中空のカイを中心に全方位からの攻撃が放たれる。
「ぐぅぅあぁぁぁぁぁっ!?」
「なんだ……? 何が、起きて……違う!」
「制御を、放棄する……クソッ!」
状況に混乱する間はない。僕は地上から迫撃するカイに回し蹴りを叩き込み、銃撃を浴びせて後退させた。
戦場からカイが一人消失し、羽衣の装飾が修繕される。……分割したリソースは取り戻して使い直すとか出来るんだな……なんて器用な術なことで。
「まさか、増援? 馬鹿な、誰がそんな真似を……」
『はじめまして、かな。申谷カイさん』
「……チヒロ?」
そんなことを考えるほど余裕ができた戦場に、外部通信が開く。
ゆったりと空に現れた『それ』が、よく見ないと気づかないほどに夜闇に溶け込む……あるいは、本来の使用者のパーソナルカラーだったのだろう、赤黒の小さなビットパーツの帰還を受け入れる。
それは球体だった。十六の子機を従えた、青い光を駆動する度に放つ黒い、目測で直径2メートルほどの球体。その球体が、装甲をズラし、砲口を露出させ。
『一旦は私からの挨拶だよ。受け取って欲しいかな』
「危ないなぁっ……!」
カイが、その身を捻り、避ける。その僅かに後を、電磁の力で加速された弾丸が貫き抜けた。
「チヒロ……どうして!?」
『私、言ったよ。勝手にあなたが私を守るなら、私は勝手にあなたの隣に並ぶ。頼れなくても、頼ってもらう!』
「でも、その機体は一体」
チヒロが通信越しに紡ぐ言葉は、人生初のすれ違いの解消の時にチヒロが謳ったチヒロなりの愛の在り方から変わることはなく。
『借りてきた。持ち主のリオ曰く、AMASマザーズ・ケセドカスタム……とか言ってたけど、なんのことかわからないしとりあえずこっちで名前をつけてみた』
「聞かせてもらおうか、なんて?」
『……こう聞かれると恥ずかしいな。サテライト。こっちの機体の名前は、サテライトだよ』
チヒロは、微かに笑みを浮かべ、そして表情が見えないことに感謝を捧げた。その顔は少しだけ戦場の熱に依らない上気で赤く染まっている。
「いい名前だな。衛星、か。そいつにはピッタリだ」
……実の所、チヒロがこの機体にサテライトという名前を与えた理由は二つ。
ひとつは、チハヤが見て取った通り。
巨大な球体の周囲に子機を浮かべる起動形態そのものが巨大な星とその周りの衛星を彷彿とさせるから。
そしてもうひとつは……。
『それだけじゃないよ。私は、チハヤとずっと一緒にいたい。願いが、沢山こもってる』
心からの欲望、愛情の具現。
「……僕の因縁は、ひとりで精算するつもりだった」
『ひとりでなんて、そんな必要はないよ。少なくとも、今後の人生全部あなたと一緒のつもりだったわけだし、私にも背負わせて欲しい。……パートナー、って、そういうものでしょ?』
さて、と前置きしたチヒロは、そこで通信に微かな笑い声を漏らす。
『これで3対3。同じ面3つ並べるよりは、個性の塊が3つ並ぶ方が強いんじゃないかな?』
「なに、ポーカーのルール的にはそっちがブタだ。一概に言えたものじゃあないさ」
『今は遊びに興じる場じゃないんだよね。真剣勝負でも賭けるのはお金じゃなくて因縁と信念、
地上では僕とヴィンクルムが背を庇い合い、その上空にチヒロのサテライト。
「……だが、これで分かりやすくなった。各務チヒロ……君さえ排除出来ればいいと思っていた」
『奇遇だね。チハヤの敵は私の敵。たまたま、敵同士じゃない?』
「全く……頼りがいのある彼女だ。背中は任せても?」
チヒロは少しも声を揺るがすことなく、一言。
『当然。行ってきなよ、チハヤ』
「最高だね……カイ、ファイナルラウンドだ。決着と行こう」
僕とヴィンクルムが静かに構え直す。カイが笑う。
「そうだねぇ。私にも、決着は早く付けない理由がない。やってやろうじゃないか……ニューチャレンジャー、歓迎するよ。始めようか! 各務チヒロォ……ッ!!」
『システム起動、サムス・イルナとのリンク完了……戦闘支援AI「アテナ」、正常にブート。サテライト、全システム正常に駆動をチェック……行けるよ』
「お前の相手はこの僕だ、勘違いするなよカイ。……ぶっ飛ばしてやる」
月はもう宙天に至っていた。激情と共に、三度目の激突の幕が上がる。
決着は、近い。
豆知識:困ったことに、チヒロが出てくる予定はなかったのでサテライトの設定などは全て無から出現している
お待たせしました。感想評価お待ちしております。それでは、また次回に。