【悲報】聖剣を引き抜いたヒキニートのワイ、魔王を討伐するまで家に帰れない   作:ハギワラ

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元メスガキとドラゴン娘と謎のストーカー

 

「テイル様、ヘレティア卿。どうか、ごゆるりと。好きなだけお寛ぎください」

 

 シドと聖女が出かけた後、私とテイルは客室へと案内された。

 王国でも中々食べれない豪勢な食事を提供されたりして、大聖堂の聖職者に接待されていたのだ。

 私も馬鹿じゃないから分かる。

 これは、時間稼ぎ。

 私とテイルの足止めに違いない。

 

「……ミューちゃん」

 

 私と同じく違和感を覚えているテイルが、不安げな表情を浮かべる。

 大聖堂の聖職者達の意図は見え透いていた。

 なんとしても、シドと聖女を二人きりにするために、邪魔者である私達を見張る。

 大聖堂の中に閉じ込めて、行動を制限する。

 その間に、聖女が何をしようとしているのかは分からない。

 だが、単なるデートではないのは確かだ。

 

 聖女の瞳には、狂気が宿っていた。

 シドと再会した時の私と、同じ目をしていた。

 その執着心の強さは、計り知れない。

 シド以外の存在は目に入らず、自分の目的を果たすためなら何でもする。

 そう思っている可能性は、極めて高い。

 

(でも、どうしようかな〜)

 

 客室の中には、私たちの動向を監視する付き人が二名。

 ステータスを見た感じ、彼女らは……聖女お抱えの兵士である『天使』だ。

 神性と呼ばれるレアスキルを有する聖女から、数多のスキルを授けられた人間。

 まともに相手しても負けはしないが、確実に時間は稼がれる。

 奴らの処理に手間取って、聖女の目的が果たされるのは本末転倒だ。

 暴力に頼るのは得策ではない。

 面倒極まりないが、穏便な方法で脱出しなければ。

 

 そして、問題はそれだけではない。

 大聖堂から脱出してシドを助ける時に、私達は聖女と戦わなければならない。

 彼女の強さは全くの未知数。

 ステータスオープンのスキルを用いても、ステータスを見ることすら出来ない。

 要するに、実力を測る指標が存在しないのだ。

 だがしかし。

 魔族であるトロールを始末するために聖女が用いた魔術は、何もかも完璧だった。

 威力、手数、発生の速さ。

 どれをとっても超一流。

 聖女が実力者なのは疑いようもない。

 ……乗り越えるべき問題は山積みだった。

 けれども、この部屋から脱出しなければ、何も始まらない。

 

「少し、外に出てきますね〜」

 

 手始めに、ドアノブに手をかける。

 流れるような所作で、素早く。

 シンプルな手段で、監査役の動向を探る。

 

「何故、外に出る必要があるのですか?」

 

 すると、凄まじい速度で詰め寄ってきた監査役の付き人が、私の手を掴む。

 その力はかなり強く、絶対に部屋の外に出したくないという強い意志を感じた。

 もうこれ、隠す気もないな。

 本気で、私とテイルを軟禁するつもりだ。

 

「この部屋、トイレがないですよね。恥ずかしながら、お手洗いに行きたいんですよ」

 

「そうですか。なら、此処にどうぞ」

 

 そう言って、監視役の天使が私の前に出したのはバケツだった。

 水色の何の変哲もないポリバケツ。

 

「ふ、ふざけてんの? 冗談も大概にしてよね。ココにするのは、人として無理だから!」

 

「そうなのですか? 我が聖国民はみな、ポリバケツにするのがスタンダードです」

 

 そんな訳ないだろうが……!

 ポリバケツにするのが聖国民のスタンダードだなんて、真っ赤な嘘。

 大聖堂にはちゃんと普通のトイレが備え付けられていた。

 聖国民も、トイレで用を出すのだ。

 この付き人は、私達を外に出したくないあまり、しょうもない嘘をついている。

 嘘が許されない聖国の天使にも関わらず。

 大体、そんなに外に出したくないなら、トイレがある部屋に案内しなさいよ。

 と、突っ込みたい気持ちを抑え込む。

 怒りに身を任せて、ボロを出すのは得策ではない。

 最悪の場合、身体が拘束されるリスクがあるため、慎重に行動しなければ。

 だが、これからどうする。

 悠長に構えている暇はない。

 聖女がシドに何かする前に、助けに行かなければならないのに……。

 

「ごめん、ミューちゃん。もう我慢できない」

 

 トイレが?

 なんて、しょうもないことを考えた刹那。

 ゆっくりと動き出したテイルが、私達を監視する天使を……瞬時にぶん殴る。

 まず、一人目の天使の腹に一発入れて、間髪入れずに二人目の天使をアッパーカット。

 思わず見惚れてしまうくらい、見事なコンボ。

 テイルの不意打ちを喰らった二人は、抵抗すらできずにノックダウン。

 一発KOの完全勝利だった。

 

「行こう、ミューちゃん。シドを助けに」

 

 テイルは、唖然とする私に手を伸ばす。

 その姿は、堂々としていた。

 ……何も知らなかった私は、彼女を守るべき対象と思っていたけれど、それは傲慢な考えだったかもしれない。

 意識が芽生えたばかりで、まだ世界に目を向けたばかり。

 それでも、テイルの中には確固たる意思がある。

 残酷な世界と直面した幼い頃の私が、他を圧倒する力を求めたように。

 テイルにも揺るがない自我があったのだ。

 

「……うん。行こっか、テイル」

 

 とっくにテイルも普通じゃない。

 マトモな少女が送るような平穏な生活じゃ満足できない体になっている。

 私と同じように……頭のおかしいシドに毒されてしまっているのだ。

 それならば、守るべき対象として扱うのは金輪際やめる。

 これからは、対等な立場で。

 仲間として、一緒に戦おう。

 そう、心に決めた。

 

「聖女様の邪魔をするものは、排除する」

 

「降伏は意味をなさない。存分に抵抗しろ」

 

「この任務が終わったら、聖女様を穢したニート勇者を殺します」

 

 シドのスマホの位置情報を頼りに、祭祀場に向かうと、三人の天使が待ち構えていた。

 彼らはローブのフードを深く被って顔を隠しているが、ステータスは問題なく見える。

 どいつもこいつも、並の魔族以上のステータスと豊富なスキル。

 さっき、テイルが倒した天使とはくらべものにならないほどの実力がある。

 大聖堂を脱出してから、不思議なくらい追跡がなかった理由はコレか。

 私達の行き先は分かりきっている。

 それなら、無駄な事はせずに待ち構えて始末してしまおう、という事か。

 随分と、舐められたものである。

 ぶっちゃけ、イラつく。

 

 そんな余裕はない事はわかっている。

 けれども、湧き上がる情動には逆らえない。

 私は、今までずっと我慢してきた。

 シドに振り回されるテイルを守るために、本心を封じ込めてきた。

 魔物の大群と戦った時も、魔族のトロールの気を引いた時も、自分を律していた。

 けれど、もう限界。

 

 驕りきってる天使どもの鼻をへし折るのは……さいっこうに楽しそうだ。

 どうしても、ワクワクが抑えられない。

 やっぱり、私の心はメスガキのまま。

 いくつになっても、調子に乗ってる相手を叩き潰すのが、楽しくて楽しくて仕方がない。

 偉ぶってる奴の無様な顔を見る瞬間を、愛していると言っても過言ではない。

 磨き上げてきた武術や魔術やその他のスキルをぶつけ合い、相手を打ち倒す。

 戦場に立てば、権力や血統は関係ない。

 力こそ全ての真剣勝負。

 お互いの尊厳と命を賭けた「分からせ」が、たまらなく大好きなのである。

 

「悪いけど、助けてあげられないから」

 

「平気だよ。自分の身は自分で守る」

 

 軽口を叩き合い、私とテイルは臨戦体制をとる。

 遠慮せず、背中を預けて戦う。

 

「愚かな」

 

「それで良い。私を楽しませろ」

 

「ニート勇者殺す、ニート勇者殺す、ニート勇者を絶対にぶっ殺す!」

 

 戦意をむき出しにする私達の姿を見た天使達が動き出そうとした、その時。

 

「な、なんだ……これは!?」

 

 あっという間に、天使達の体が凍てつく。

 三人揃って手足が固まり、身動きすら取れないようだ。

 当然、私やテイルの仕業ではない。

 ……デジャヴだろうか。

 窮地を誰かに助けて貰う。

 似た場面に、つい最近出くわしたような。

 

「お初にお目にかかります」

 

 周囲に響き渡る声を聞いた私は、思考を止める。

 私も、テイルも、天使達も。

 祭祀場の屋根の上に立つ、声の主を仰ぎ見る。

 

「私は、愛を信じ、愛に狂い、愛に殉ずる……愛を体現した求道者」

 

 その振る舞いは、演技じみていた。

 仮面を被っており、素顔はわからない。

 銀髪ポニーテールに、すらっとした体躯。

 極め付けは、身に纏う派手な衣装。

 ふざけた物言いも相まって、一見すると芝居役者にしか見えないけれど。

 こいつは、間違いなく強い。

 今にも溢れ出しそうな魔力、強者しか持ち得ない威圧感、何よりも膨大なスキルの数。

 それら全てが、彼女の実力を物語っていた。

 

「正体不明のミステリアスな仮面の騎士。ミス・キシドー、ここに推参しました」

 

 祭祀場の屋根から飛び立ち、スマートな着地を披露した少女は、済ました態度で偽名を名乗る。

 彼女の声には聞き覚えがあった。

 手足が凍る魔法にも見覚えがあった。

 というよりも、ステータスを見たら、正体がすぐに分かってしまった。

 

「もしかしなくても、副団長だよね……?」

 

「ぜ、ぜぜぜぜ、全然っ、違いますが!?」

 

 即座に私が指摘すると、謎の人物とやらは目に見えて動揺した。

 やはり、彼女は副団長本人だったのだ。





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