【悲報】聖剣を引き抜いたヒキニートのワイ、魔王を討伐するまで家に帰れない   作:ハギワラ

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ヒキニート、魔族と戦う。

 

 シドと決闘してから一週間。

 紆余曲折あり、彼の仲間になった私は、波瀾万丈な日々を過ごしていた。

 人質にされて追っ手の騎士と追いかけっこしたり、特に意味もなく魔物の大群と戦闘したり。

 シドが引き起こすトラブルを乗り越えながらも歩みを進め、今は国境に差し掛かっている。

 

「……これで、いいかな」

 

 起床した後に身支度を整える私は、長めの金髪を結ってツインテールにする。

 少し子供っぽいとは思うが、昔の髪型にしたいという思いの方が強い。

 理由は、改めて言うと気恥ずかしいけれど。

 シドと一緒にいる時は、騎士として振る舞うのではなく、ありのままの自分を曝け出したいから。

 

「おはよう」

 

 手鏡で確認しながら前髪を整えていると、後方から声をかけられる。

 ゆっくりと振り返ると、そこには寝ぼけ眼を擦る竜の魔人の少女がいた。

 

「おはよう、テイル」

 

 朝の挨拶を返すと、テイルはにこりと微笑む。

 彼女は、極めて温厚な性格だ。

 国王が招待した魔族の実験によって生み出された、人でも魔物でも魔族でもない存在。

 人間と魔族を掛け合わせた、魔人。

 シドと出会うまで培養液で満たされたポッドの中にいたテイルは、生まれたばかりも同然。

 言葉は話せるものの、情緒はまだ未発達。

 例えるなら、純粋無垢な赤子そのものである。

 因みに、テイルという名はシドがつけたものらしい。

 名前の由来は、立派なぶっとい尻尾が生えているから、なんてふざけたモノだが、名前をつけられた本人は喜んでいるようだから幸いだ。

 当然ながら、個人的には思うところがあるけれど。

 

「ミューちゃんの髪型、今日もかわいいね」

 

「ふふ、ありがとっ。テイルも結ってみる?」

 

「……いいの?」

 

「もちろん。ほら、おいで〜」

 

 嬉しそうな表情を浮かべたテイルが、私に背中を向ける形で座る。

 そんな彼女の髪を手に取り、手慣れた手つきで結っていく。

 まるで、一回り年下の妹が出来たようで、不覚にも胸が暖かくなる。

 ……本当に、懐かしい。

 幼い頃、私も母親に髪を結って貰っていた。

 力に囚われず、安らかな時間を享受していた。

 忘れかけていた記憶を、たぐるように思い出す。

 

 初対面の時に躊躇なく切りかかった私が言えるセリフではないが、テイルには幸せになって貰いたい。

 特殊な身の上ではあるが、戦いとは無縁の場所で平穏な日々を送って欲しい。

 幼い頃から、殺伐とした世界に身を置いていると、大なり小なり人格が歪む。

 力が全てだと考える私のように、極端な思想に傾倒してしまうリスクがある。

 そうなれば、普通の生活には戻れない。

 なので、手遅れになる前に、安全な場所に送り届けてあげたいのだが……。

 

「おはよう諸君! 今日も良い朝だな!」

 

 この馬鹿が、テイルの未来をしっかり考えているとは思えない。

 和やかな時間を過ごしていた私達の前に、夜間の見張りを行っていたシドが現れた。

 にやけ顔を隠しきれていない彼を見ていると、無性に嫌な予感がしてくる。

 

「髪型をお揃いにしてるじゃん。二人とも、似合ってるぜ。姉妹みたいでめちゃ可愛い!」

 

「嬉しい。ありがとう、シド」

 

「……ありがと」

 

 やはり、怪しい。

 丹念に整えた身なりを褒められて喜びたい気持ちを抑えて、現状を把握する。

 面白そうなモノを見つけたとでも言いたげな表情、こちらの機嫌を取るような言葉、片手に握られたスマートフォン。

 この三つの条件が揃っている時は……大抵の場合、面倒事が起きる。

 

「髪型を変えて心機一転って事で、今日の予定を発表するぜ。オレを導く天の声が言っている。これから、魔族討伐に向かえば幸福が訪れると!」

 

 ……ほら、言わんこっちゃない。

 

 

 

 

【萌えよ】魔物に関するアブノーマルな性癖を語るスレ Part261【ドラゴン娘】

 

1:名無しの勇者

 

○注意書き

・基本的に荒らしとフィレモア教徒の書き込みはスルーしてください。

・次スレは>>950が建てて下さい。踏み逃げされた場合は>>970が建てて下さい。

・魔物に関する話題は取扱いが難しいので、スレ内の書き込みを外部に流出しないで下さい。

・ほんわかレス推奨です。

・他人の性癖を馬鹿にするのも禁止です。

 

前スレ:【明日のオカズは】魔物に関するアブノーマルな性癖を語るスレ Part260【まだ未定】

 

 

462:ニート勇者

よし!

なんとか、説得に成功したわ!

レスバトルの経験が生きたなw

 

463:名無しの勇者

よかおめ

 

464:名無しの勇者

良くはないだろ

 

465:名無しの勇者

マジかよ、絶対無理だと思ってたわ

 

466:名無しの勇者

元メスガキちゃん、意外とチョロい説

 

467:名無しの勇者

普通に危険だからやめた方がいいと思うがな

 

468:ニート勇者

騎士団が管理する関所を強引に突破するか、魔族をぶっ飛ばして住処を通り抜けるか。

危険なのはどっちも変わらんからセーフ。

 

469:名無しの勇者

だからって、安価で決めていい理由にはならんやろがい!

 

470:名無しの勇者

仲間と相談しろやw

 

471:名無しの勇者

勇者くんのはらわた見たい

 

472:名無しの転生者

まぁ、本当にヤバかったら、経験豊富な元メスガキちゃんが止めるでしょ

 

473:名無しの騎士

良い選択だと思いますけどね。

関所を突破してしまうと、騎士団に逃走ルートが露呈するリスクがありますが、魔族が徘徊している場所を突破すれば足はつかないので。

 

474:名無しの魔族

だからといって、そこらの騎士より強いであろう魔族に負けたら元も子も無いわよ。

 

475:名無しの勇者

どっちにしろ、ワイはごめんやな

 

476:名無しの勇者

一長一短やね

 

477:ニート勇者

魔族の住処についたで。

静かな森って感じで、落ち着くわ。

ワイの自室を思い出す。

ヤバい、思い出したら帰りたくなってきた。

 

478:名無しの勇者

ホームシック発動してて草

 

479:名無しの勇者

帰れないの、かわいそうやね

 

480:名無しの勇者

魔王を討伐したら、いくらでも引き篭れるで

 

481:名無しの勇者

ツンデレそうな美少女とさいかわドラゴン娘ちゃんがそばにいるくせに、ごちゃごちゃぬかすな

文句あるなら、オッサン三人とパーティ組んでるワイと変われ!

 

482:名無しの勇者

嫉妬民も見てます

 

483:名無しの勇者

そもそもニートニキはイケメンやからな

クソが

 

484:ニート勇者

標的の魔族を見つけたわ。

なんか思ってたのとちゃう。

一つ目のクソデカトロールなんやけど。

全裸のオスの巨人が、ドスドス歩いとるわ。

こいつ、本当に魔族なんか?

人間並の知能があるとは思えんのやけど。

あとなんか、ち○こがデカい。

 

485:名無しの勇者

>あとなんか、ち○こがデカい。

世界一無駄な情報を提供するな

 

486:名無しの勇者

魔物と魔族の違いが分からんから、何とも言えん

 

487:名無しの勇者

抜ける姿の魔物が魔族で、それ以外が魔物や

 

488:名無しの勇者

>>487

その理論だとスライムも魔族になるんだが

 

489:名無しの転生者

>>487

触手単体でもイケるから、触手が生えた魔物全てが魔族になるね。

 

490:名無しの勇者

>>487

ワイはオールジャンルカバーしてるから、この世界に生きとし生きる魔物全てが魔族や!

 

491:名無しの魔族

>>486

人間の定義によれば、自分の意思でスキルを行使できる魔物が魔族とされているわね。

知能とか、見た目とか、種族は関係ない。

スライムやゴブリンでも、上記の条件を満たしていれば魔族として扱われるわ。

そして、スキルを習得していない魔物は下級で、スキルを習得しているけれども本能で扱う魔物は上級……といった具合で、区分分けされていた筈よ。

 

492:名無しの勇者

丁寧な解説、ありがとねー

 

493:名無しの勇者

先生って呼ばせてください

 

494:名無しの勇者

ワイにも先生呼びさせてください

 

495:名無しの勇者

パンツの色を教えてください

 

496:名無しの魔族

>>495

4ね

 

497:ニート勇者

元メスガキが、ステータスオープンのスキルで見てくれたんやけど、トロールのスペックはこんな感じな。

 

レベル30

力:450

魔力:260

防御:500

魔防:500

素早さ:100

運の良さ:340

 

スキル

認識攻撃耐性 : 金等級

剛力 : 金等級

隠密看破 : 金等級

 

498:名無しの勇者

ふーん、なるほど

戦えないワイには、強いのか弱いのかすら判断できん

 

499:名無しの勇者

持ってるスキル全てが金等級か

流石は魔族やね

 

500:名無しの勇者

ステータスだけ見ると、そこそこ強そう

 

501:名無しの勇者

俺が相手したら、速攻で殺されるわ

 

502:名無しの勇者

少なくとも、ニートニキは絶対に勝てんな

 

503:名無しの勇者

何気にスキルがヤバい

 

504:ニート勇者

スキルの詳細は、こんな感じらしい。

認識攻撃耐性

自分が認識している攻撃を受けた時、ダメージを80%カットする。

 

剛力

物理攻撃を行った場合、相手の防御のステータスを無効化した上でダメージを与える。

 

隠密看破

姿を隠すスキルを使用している者を発見できる。

 

505:名無しの勇者

強い

 

506:名無しの勇者

クソゲーのボスかな?

 

507:名無しの勇者

認識攻撃耐性と隠密看破がシナジー良すぎる

 

508:名無しの勇者

無駄に耐久もありそうやな

 

509:名無しの勇者

魔族って、どいつもこいつもスキルがこんな感じよな

普通の人間じゃ逆立ちしても倒せん

 

510:名無しの魔族

>>509

そうね。

理不尽なスキル構成をしている個体が大半ね。

もちろん、私も強いわ。

何と言ったって、四天王だもの!

 

511:名無しの勇者

ポンコツな魔族はいないのか!

 

512:名無しの勇者

それ以前に、スキルの詳細まで分かるステータスオープンのスキルも強すぎる

レアスキルは大概、性能がバグっとるわ

 

513:ニート勇者

ちな、このトロールが住処にしている森は、エストワール家の領地なんやって。

魔族が住み着いた事を知り、エストワール家の当主が討伐に向かったんやけど、ボコボコにされて帰ってきたそうや。

元メスガキ曰く、エストワール家は防御を得意とするスキル構成だったから、トロールとは死ぬほど相性が悪かったらしい。

苦肉の策で、結界を張って出られんようにした後は、ずっと放置されてるとの事や。

 

514:名無しの勇者

御三家の当主ですら負けんのかよ

 

515:名無しの勇者

普通の冒険者じゃ手も足も出なさそう

 

516:名無しの勇者

エストワールの当主が貧弱なだけだがな。

あいつ、態度は一丁前やが、実力が伴っとらん。

 

517:名無しの勇者

>>516

お前は何様なんやw

 

518:名無しの勇者

こいつの発言は正しいわよ。

継承するレアスキルが防御に特化している事から、かつては王国の盾とも呼ばれて、御三家の頂点に君臨していたエストワール家の名声は地の底。

先祖代々受け継いでいた副団長の座はリーヴェル家に取られて、誉とされる一番槍の座はヘレティア家が死守している。

当代の当主が、同世代の当主に歯が立たなかったせいで、エストワール家の影響力は無いに等しいわ。

 

519:名無しの勇者

悲しい現実やな

 

520:名無しの勇者

頭おかしくなるで

 

521:名無しの勇者

身内から死ぬほど責められてそう

 

522:名無しの勇者

それで焦った結果、国王と一緒になって魔王軍と手を組んだんかな

だとしたら、アホすぎるけど

 

523:名無しの転生者

普段気丈なエストワール家の当主のメンタルがズタボロなのを考えるだけで、ご飯三杯いけます

 

524:名無しの騎士

少し、可哀想です。

同情を禁じ得ません。

 

525:名無しの勇者

>>523

>>524

精神が真逆

 

526:名無しの勇者

ストーカーの癖に心根がまっすぐすぎる

 

527:ニート勇者

これで、お前らにもトロールの強さが十分すぎるほど伝わったやろ?

でも、ワイからしたらただのカモや。

なんせ、白銀級の気配遮断スキルを持っとるからな。

金等級の隠密看破スキル程度じゃバレたりせん。

認識している攻撃に耐性があっても、意識外から攻撃すれば楽に倒せる。

仲間が気を引いている間に近づいて、背後から聖剣でズバッと切り裂けばゲームセットや。

 

528:名無しの勇者

勇者とは思えないほど卑怯な戦法

 

529:名無しの転生者

トロールくんが哀れ

 

530:名無しの勇者

どんな方法であっても、勝者が正義や

 

531:名無しの騎士

私の伴侶は天才ですね。

賢い、強い、カッコいい。

三拍子揃った完璧超人です。

因みに、トロールの場所は私も把握しているので、猛ダッシュで向かっていますよ。

あと少しで会えるので、楽しみです。

 

532:名無しの勇者

ネトストかよ

 

533:名無しの勇者

ホラーかな?

 

534:名無しの勇者

さっさとトロールを倒して、さっさと逃げなあかん

 

535:ニート勇者

>>534

それもそうやな。

というわけで、ワイの仲間がどうやってトロールの気を引くか、安価で決めるでw

>>545

 

536:名無しの勇者

お前は悪魔か

 

537:名無しの勇者

自分ならともかく、他人の行動も安価で決めるの!?

 

538:名無しの勇者

お前ら分かっとるな、ドラゴン娘ちゃんに危ない真似はさせんなよ

 

539:名無しの勇者

言われなくても分かっとる

 

540:名無しの勇者

がんばれ、元メスガキちゃん

 

541:名無しの勇者

元メスガキちゃんにダンスを踊らせる

 

542:名無しの勇者

元メスガキちゃんがトロールを誘惑する

 

543:名無しの勇者

元メスガキちゃんにお歌を歌わせる。

 

544:名無しの勇者

元メスガキちゃんが即興で一発ギャグをする

 

545:名無しの騎士

ヘレティア家の当主が、幼い頃のようなメスガキ仕草でトロールを煽る。

 

546:名無しの転生者

元メスガキちゃんが触手でめちゃくちゃにされる。

 

547:名無しの勇者

まともな案が一つも存在しなくてワロタ

 

548:名無しの勇者

ハズレの中のハズレを引いたな

 

549:名無しの騎士

やったー!

幼馴染を守護する騎士という私のポジションを奪った、憎きヘレティア家の当主よ。

封印していた黒歴史を思い出して、悶絶するがいいのです!

 

550:名無しの勇者

完全な逆恨みやんけ!

 

551:名無しの勇者

>>526

この発言を撤回します

いい性格しとるわ、こいつ

 

552:名無しの勇者

やっぱ、例外なくスレ民はカスやね

 

553:名無しの勇者

典型的な性格の悪い負けヒロインムーブすぎん?

 

554:名無しの騎士

メスガキ属性を持つ彼女よりも、幼馴染属性を持つ私の方が相応しいです。

8年の積み重ねがある私こそ、彼の隣に立つべき存在。

俗に言う、正ヒロインなのですよ!

 

555:ニート勇者

>>554

君が誰なのか分からんが、その理論で言うと10年前に会った元メスガキの方が幼馴染パワーが高いのでは?

 

ともかく、安価は絶対。

ワイにできることは全部やって、元メスガキを説き伏せてくるわw

 

556:名無しの騎士

そんな、馬鹿なぁぁぁあ!!!!

 

557:名無しの勇者

 

558:名無しの勇者

唯一の長所だった付き合いの長さで負けとるやん

 

559:名無しの勇者

哀れ

 

560:名無しの勇者

化け物の末路

 

561:名無しの転生者

正ヒロインは元メスガキちゃんだった……!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は、絶句していた。

 心の底から、呆れ果てていたのだ。

 

「頼む! 昔、オレにやってたメスガキムーブで、トロールの気を引いてくれ!」

 

 目の前で土下座するシドの発言に対して。

 

「な、なな、何言ってんの。嫌に決まってるでしょ! 無理、絶対に無理!」

 

 もちろん、私は拒絶する。

 絶対にやらないという意思を示す。

 ……彼の言う、メスガキムーブ。

 赤の他人を煽って貶して貶める発言や行動は、私にとって思い出したくない記憶。

 言うなれば、黒歴史。

 あの時の私は、自分は世界の中心に立っていると信じて疑わない傲慢な人間だった。

 だからこそ、あのような振る舞いが出来たのだ。

 恥ずかしい行為を恥だと認識していなかったから。

 

 でも、今は違う。

 力への渇望は消えていないものの、自分の身の程は弁えているし。

 御三家の当主としての責任を背負って、相応しい振る舞いを身につけたし。

 何よりも、心も体も成長した。

 今の私は18歳。

 あのような……ざーこ、ざーこと口にする年齢では無くなったのだ。

 そんな私が、当時と同じメスガキムーブをしたら、痛々しいにも程がある。

 それこそ、ふとした瞬間に思い出して悶絶するタイプの思い出になってしまう。

 

「そんなこと言わずに頼むよ。オレを導く天の声が言ったんだよ。お前をメスガキにしろってな」

 

「だから、一体何なの、その天の声は。あんたが生み出した空想の産物なんじゃないの」

 

「空想でも妄想でもないっ! 勇者にしか聞こえない天の声は、いつだってオレを導いてきたんだ」

 

 シドの目はガンギマっている。

 天の声を信じていると言わんばかりに。

 彼曰く、天の声の導きに従ったお陰で、フィレモア教に生み出されたテイルを救う事に成功し、国王の汚職を暴けたらしいが、どうにも信じ難い。

 というか、信じたくない。

 ここで受け入れてしまったら、メスガキムーブをする流れになってしまうから。

 

「天の声に従わなければ死ぬ訳でもないでしょ。トロールの気を引く方法はいくらでもあるんだから、そこまで拘らなくてもいいじゃん!」

 

「お前は全然、分かってないな。あのトロールも馬鹿じゃない。認識外からの攻撃という自分の弱点は分かってる。よって、常に気を張り詰めている筈だ。そんな奴の気を引くには、生半可な行動じゃ足らないんだよ。意識の全てを向けさせるような、インパクトが必要なんだ!」

 

「くっ……」

 

 悔しいが、正論だった。

 早口で捲し立てるシドの言い分に対して、私は言葉が詰まってしまう。

 強力なスキルを保有している魔族は、人間並みの知能がある可能性が高い。

 私が討伐してきた魔族も、自分の弱点を理解し、何らかの対策を講じている個体が大半だった。

 あのトロールは、賢くなさそうではあるが、外見から判断するのは愚の骨頂。

 幼い頃の私が、ステータスが低いシドに負けたように、本質を見なければ足元を掬われる。

 でも、だからといって。

 メスガキはないでしょ、メスガキは!

 

「ミューちゃん、大丈夫?」

 

「……テイル」

 

「辛いなら、私がめすがき?を、代わりにやるよ」

 

 頑なに拒絶する私を見かねたテイルが、心配するような表情を浮かべる。

 更に、意味もわかっていないであろうメスガキを、自分がやると口にする。

 本心から私を気遣ってくれる彼女の姿を前にして、ぐらりと心が揺れる。

 ここで、私がやらなければ。

 テイルが危険な目に遭うかもしれない。

 

「ケッケッケ。それじゃ、テイルにやってもらおうかなー? 強力なスキルを持つトロールの前で、無防備な姿を晒しながらメスガキの演技をよォ」

 

 更に、シドが追い打ちをかけてくる。

 同じ人間とは思えない魔族じみた言葉を、こちらに投げかけてくる。

 きっと、本気でやらせるつもりはない。

 だが、こう言えば、私は断れないと分かってて発言しているのだろう。

 謂わば、テイルを人質に取ることで、自らの提案を受け入れさせようとしているのだ。

 このクズは。

 

「……分かった」

 

「ん? 何だって?」

 

「トロールの前でやればいいんでしょ! あの頃の……メスガキムーブを!」

 

「よく言った! それでこそ、元メスガキだ! オレは配置につくから、後は頼むぜ!」

 

「クソ野郎! 後で絶対にぶっ殺すからっ!」

 

 私の恐喝をものともしないシドは、ケケケと笑いながら森の中へと消えていく。

 本当に、あいつは勇者なのだろうか。

 人間とは違う基準のステータスを持ってるし、魔王の血を引く者の間違いなのではないだろうか。

 

「いいの? ミューちゃん」

 

「大丈夫。危ないから、テイルは隠れてて」

 

「うん。応援しているから、頑張ってね」

 

「応援しちゃダメ。私の事を思うのなら、私の姿を見ないでね」

 

「……? よく分からないけど、分かった」

 

 こてんと首を傾げながらも、テイルは木の影に身を潜める。

 あの子は心優しいから、言いつけを守ってくれるだろう。

 成人している私が、幼いメスガキのように振る舞う様を見ることはない。

 奇襲を仕掛けるシドには見られてしまうが、甘んじて受け入れるとしよう。

 宣言した通り、後で殺せばいい。

 命を奪ったりはしないが、殺す勢いで叩きのめして、記憶を消せば問題ない。

 

「……ふぅ」

 

 大きく深呼吸して、気持ちをリセットする。

 湧き上がる殺意を振り解いて、意識を集中させる。

 相手は魔族。

 雑念を胸に、立ち回っていい相手ではない。

 そうして、意識を切り替えた私が周囲を警戒しながら探索すると、すぐに標的を視界に捉えた。

 3mを超える巨躯に、大きい一つ目、青白い図体、右手に持つ大槌。

 言うまでもなく、奴がトロールである。

 偵察をした時に発見した個体と全く同じステータスをしているので、見間違えたりはしない。

 恐らく、シドも近くに潜んでいるのだろう。

 消音機能を働かせている私のスマートフォンに、しっかりと通知が届いている。

 

『心配しなくても、写真は撮ったりしない。オレの目に焼き付けるから、思いっきり行け!』

 

 との事だ。

 割と本気で殺したくなる。

 けども、シドを殺さずに感情を殺した私は、トロールの前に躍り出る。

 次いで、恥も外聞もかなぐり捨てて、幼い頃の自分の演技を始めた。

 

「あれれ? こんなところに気持ち悪いトロールがいる。全裸に大槌とか、ただの変質者じゃん」

 

「………!?」

 

「しかも、匂いもくっさーい。ちゃんとお風呂入ってる? 何もかも、終わってるね。そんなんじゃ、誰にも相手されないよ〜?」

 

 かつて、私はメスガキの高みに立っていた。

 言葉巧みに相手のコンプレックスを刺激し、舐め腐った仕草で相手を苛立たせて、嘲るような笑みで相手のプライドを傷つける。

 その技術は、今も尚、健在だった。

 羞恥心で顔を赤らめることもなく、動揺して吃る事もなく、メスガキとして振る舞えている。

 けれども、私のメンタルはボロボロだった。

 有り体に言うと、穴があるなら入りたい。

 

「グ、グオオオ!! オデノ、オトナノコワサヲ、ワガラゼデヤルヴ!!」

 

 怒り狂ったトロールは、勢い良く突進してくる。

 何故、分からせるという概念を知っているのか気になるが、そんな事を気にしている余裕はない。

 一心不乱に暴れ回るトロールの攻撃を、風の魔法を活かした身のこなしで回避する。

 その刹那。

 

「これにて、サラダバー!」

 

 気配遮断スキルで姿を消していたシドによって、トロールの首が切断される。

 こちらの策は、大成功。

 天の声とやらが提案したメスガキ作戦は、びっくりするほど上手くいったのだ。

 幼い頃の黒歴史を掘り起こされた、私のメンタルを引き換えにして。

 

「なぁ、ミュルフ」

 

「……なに?」

 

「久しぶりのメスガキ、最高だったぜ。もし良ければ、今度オレの事も煽ってくれよ」

 

 ガッツポーズをしながら、シドはそう告げる。

 驚くほど、爽やかに。

 

「もう二度とやるわけ、ないでしょ!」

 

 そんなシドに、私は蹴りをお見舞いする。

 ばたりと倒れた後も、手心は加えない。

 ゲシゲシと踏みつけて、立場をわからせる。

 

「このアホ! 間抜け! おたんこなす!」

 

「ちょっ、痛い! でも、少し気持ちいい!」

 

「キモいんだよ。ド変態がッ!」

 

 もう二度と、あのような要求をしないよう、痛みという痛みを体に刻み込む。

 もう、恥ずかしくて頭がおかしくなりそうだ。

 定期的に思い返して、ベットの上でゴロゴロする未来が、容易に想像できる。

 こうなった以上、辱めを受けた責任を取ってもらわないと、気が済まない。

 

「あ、待て! トロールが起き上がった!」

 

「逃げたいからって、下らない嘘をつかないで!」

 

「嘘じゃない! 首が無い状態で立ってるんだって! 後ろ見ろ、後ろ!」

 

 心底、下らない。

 どうせ、私が目を離した瞬間に、気配遮断スキルを用いて逃走するつもりなのだろう。

 シドの魂胆は分かっている。

 けれど、念の為に後ろを振り返る。

 すると、そこには……首が無い状態で、こちらに向かってくるトロールの姿があった。

 

「え、なに、なんなの、アレ?」

 

「知らねーよ! オレが聞きたいっつーの! ステータスオープンのスキルを持ってるお前が分からないのに、オレが分かるわけねーだろ!」

 

 それは、そうだ。

 そうなのだけれど、あまりにも不自然だ。

 この世に存在するスキルの中で、死者が生き返るスキルなんて存在しない。

 どんなに高名な僧侶であろうと、人を逸脱した魔族であろうと、神の使いであろうと、死を覆す事は出来ない。

 なのに、今。

 命が失われたトロールが、息を吹き返して動き出していたのだ。

 

 非現実な光景を前にして、言葉を失っていると……トロールに光の矢が打ち込まれる。

 何度も、何度も。

 まるで、降り注ぐ雨のように。

 私でも、シドでも、テイルでもない何者かが、トロールにトドメを刺したのだ。

 

「ふふ、間に合ってよかったです」

 

 絶え間ない魔術を受けて跡形もなく消え去ったトロールの後方から、一人の少女が現れる。

 飾り気のない真っ白なローブ。

 月の光を映し出したブロンドの長髪。

 全てを見透かすような蒼色の瞳。

 神が作り出した至高の芸術と評される事もあるくらいに、整った目鼻立ち。

 決して、見間違えたりはしない。

 私達に救いの手を差し伸べた彼女は……。

 

「勇者様。こうして逢える日を心待ちにしておりました。貴方の存在を知った時から、ずっと」

 

 私たちの目的地である聖国において、神と同列に扱われている……聖女、その人だった。

 





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