クインテットの日常   作:戦竜

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子どもと遊ぶれな子

今日は、朝から機嫌がいい。

理由は単純で――紫陽花さんの家に、久しぶりに遊びに行くからだ。

 

鏡の前でくるっと一回転する。

ワンピース、ちょっとだけ気合い入れた。いつもより色も明るめ。

別にデートじゃないし、気合い入れすぎるのも変だけど、

でも「どうでもいい格好」で行くのは違う気がして。

 

「……よし」

 

小さく拳を握って、家を出た。

 

前にお邪魔した時は、正直ちょっと緊張していた。

でも今日は違う。

紫陽花さんの弟さん二人とも、一緒に遊ぶ予定だって聞いてるし、

なんならゲームもやるらしい。

 

――ゲーム。

 

そこは、ちょっとだけ、いやかなり、自信がある。

 

 

インターホンを押すと、すぐにドアが開いた。

 

「れなちゃん!」

 

っと花が咲いたみたいな笑顔で、紫陽花さんが出迎えてくれる。

 

「いらっしゃい。うちに来るの久しぶりだね」

「うん!今日はお邪魔します!」

 

靴を脱いで上がると、家の中は相変わらず落ち着いた雰囲気だった。

生活感はあるのに、どこか整っていて、紫陽花さんらしい。

 

「おちびたち、もうリビングで待ってるよ」

「待ってる……?」

 

その言葉に首を傾げつつ、リビングに入る。

 

そこには――

 

「よっしゃー!今のドリフト完璧!」

「ずるいって!それ反則!」

 

テレビの前、ソファに二人。

コントローラーを握りしめ、画面ではカラフルなコースをカートが疾走していた。

 

「あ、れな子お姉ちゃん!」

「こんにちはー」

 

きーくんが素直に挨拶してくれる横で、

こーくんは一瞬だけこちらを見て、ふん、と鼻を鳴らす。

 

「……また来たんだ」

 

その態度に、ちょっと笑ってしまった。

思春期だなあ、って。

 

「マリオカートやってたの?」

「うん。れな子お姉ちゃんもやる?」

「もちろん!」

 

わたしは即答した。

 

四人で並んで、マリオカート。

コースはおなじみのものから、ちょっと癖のあるやつまで。

 

正直に言うと――

わたしは、FPSをやることが多い。

反射神経には自信があるし、視野も広い。

だから、最初は「まあ、いけるでしょ」くらいに思っていた。

 

……甘かった。

 

「うわっ、赤甲羅!」

「はい残念ー」

「今のショートカット見た?」

 

弟二人、普通にうまい。

紫陽花さんも、さりげなく安定感がある。

 

「え、ちょ、ちょっと待って!?」

「れな子お姉ちゃん、そこ減速しすぎ」

「アイテムの使いどころ雑」

 

容赦ない。

 

結果――わたし、最下位。

 

「……」

「れな子お姉ちゃんよえーなー」

「ゲーマーって聞いてたのに」

 

こーくんが、にやにやしながら言ってくる。

 

むっ。

 

正直、むちゃくちゃムッとした。

でも、ここでムキになるのは大人気ない。

 

「まあまあ、ジャンル違うしね。FPSとレースは別物だよ。

今日は肩慣らしってことで」

 

胸を張って言ったけど――内心は、めちゃくちゃ悔しい。

 

虚勢です。完全に。

 

何戦かして、だんだん盛り上がってきた。

リビングの空気も、わいわいしてきて。

 

そのうち、わたしとこーくんの勝負が、妙に拮抗し始めた。

 

「……っ、負けないから!」

「こっちこそ!」

 

最終ラップ。

コースは急カーブの連続。

 

その時だった。

 

「うわっ――!」

 

こーくんが、画面に集中しすぎて、体ごとバランスを崩した。

ソファの縁から、ずりっと滑る。

 

「危な――!」

 

考えるより先に、体が動いた。

横から手を伸ばして、ぎゅっと抱きしめる。

 

柔らかい感触。

子どもだけど、確かに「人」を抱きとめた感覚。

 

「だ、大丈夫!?」

 

わたしが声をかけると――

 

「……っ!」

 

こーくんの顔が、一気に真っ赤になった。

 

「へ、平気だし!触んな!放せよ!」

 

乱暴に突き飛ばされて、わたしは一歩よろける。

 

「え……」

 

何が起きたのか、分からなかった。

 

「こら!助けてくれたんでしょ!」

 

紫陽花さんが注意するけど、こーくんは聞く耳を持たない。

 

「う、うるさい!」

 

そう言い残して、リビングから走って出ていってしまった。

 

残されたわたしたちは、ただ唖然とするしかなかった。

 

その日は、なんとなく気まずいままお開きになった。

帰り道、わたしはずっと首を傾げていた。

 

「……思春期、難しい」

 

それしか言葉が見つからなかった。

 

 

数日後。

教室で、紫陽花さんと並んでお弁当を食べている時。

 

「……実はね」

「うん?」

 

紫陽花さんが、少し困ったように切り出した。

 

「こーくんの様子が、ちょっとおかしくて」

「おかしい?」

 

唐揚げを一個、箸で持ち上げながら聞く。

 

「れなちゃんの話ばっかりするの」

「……わたしの?」

 

「『今度は俺がれな子お姉ちゃんを守るんだ』とか、

『彼氏とかいるのかな』とか、顔真っ赤にして言っててね」

 

わたしは、唐揚げを口に運ぶ手を止めた。

 

「……はあ」

「それだけならまだしも、『あいつ、やわらかくていい匂いしたな……』って」

 

ぶふっ。

 

危うく、唐揚げを吹き出すところだった。

 

「ちょ、ちょっと待って。わたし、何もしてないよ!?」

「うん、分かってる。完全に一人で暴走してる」

 

紫陽花さんは、苦笑いだった。

 

わたしは、よく分からないまま、残りの唐揚げをかじる。

 

……子どもって、よく分からない。

というか、人間って、よく分からない。

 

「……まあ、元気なら、いいか」

 

自分でも驚くくらい、どうでもよさそうに言っていた。

 

紫陽花さんが、ふふっと笑う。

 

「れなちゃんは、そういうとこだよね」

 

何が「そういうとこ」なのかは、最後まで分からなかった。

 

わたしは、ただもう一個、唐揚げを口に入れた。

 

もぐもぐ。

 

――うん、やっぱり、唐揚げは美味しい。




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